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◆第3話 晩餐◆

「…お肉焼けたよ〜…」

「は、はいっ!!い、いただきますっ…」

パチンッと手を合わせいただきますをしたルナは恐る恐る、焼かれた肉にフォークを刺し、口に運ぶ。

ジュワァっっ!!!!!!

口の中に入れた瞬間、肉の旨みをこれでもかと含んだ肉汁が口いっぱいに広がった。少し歯ごたえはあるが、スルメみたいに硬くて噛みきれない程でもなく、むしろ丁度いい噛みごたえだ。それだけではない。肉を噛めば噛むほど旨みが口に広がり、舌が喜び、口の中がパラダイス状態だった。

「おおおお、お、美味しいですぅうう!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

「…でしょ〜」

アルベルトとルナが食べているのは、先程、アルベルトが吹き飛ばしたジュシードラゴンの肉だ。ジュシードラゴンの体の一部を解体し、一口サイズに切り分けた後、塩、コショウで下味を付け、少し赤くなるまで火に当てた焼石の上に肉を乗せ焼いていく。焼き上がる前に、周辺で調達した、ライムを絞り、完成。冒険者流、ワイルドBBQの完成である。

ルナはその味に少し興奮気味でパクパクと肉を口に運ぶ。その間、アルベルトはのんびーり、ゆっくーりとむしゃむしゃ口を動かす。


夕食を終えた後、アルベルトとルナは焚き木に当たりながら、話をした。

「…そう言えば〜…僕って君のことなんて呼べばいいの〜…?」

「え、ええっと〜…お、お好きにどうぞ!!」

「…うーん…じゃあ、“ルーちゃん”って呼ぶね〜」

「あ、はい。はい?」

「じゃあ〜…ルーちゃん…質mo「え?本当にそれでいくんですか!?」」

「…うーん…うん。」

「は〜、まぁいいですけど…」

「?」

何か問題でもあったのだろうか…?

「それで〜…質問なんだけど〜…魔法って何が使えるの〜?」

「ええっとー…非常に言い難いのですが…」

少し俯いた様子で、言いづらそうに少しもじもじしている。もしかして…

「…?使えないの…?」

「…ええっと…そのー…はい。まだ一つも覚えてません…」

なるほど…納得。

そもそも、魔法とは、誰でも、どの魔法でも使えるものであり、その人自身が元々持っている魔力の量のみで制限される。しかし、希に使えない魔法が存在するといった感じで、基本的には適性などはない。ただ、魔法は使える他の人から伝授してもらう必要性があり、伝授されない限り、“絶対に使えない”。そこが少しだけ面倒だが、覚えればいいだけの話で、伝授されて損は無い。

しかし、アルベルトとルナのようなタンカーは伝授されることが少ない。なぜなら、覚えてたってしょうがないと思われているから。守り専門に魔法など必要ないと“思い込まれているからである”。

そう、あくまでも思い込んでいるだけだ。

実際、タンカーにだって魔法は必要だ。

「…うーん…じゃあ、僕が教えてあげようか〜…?」

「ええ!?いいんですか!!」

「…うーん…一応、僕はルーちゃんの師匠だからね〜…」

「あ、自覚あったんですか。」

「…まぁね〜」


アルベルトはノロノロと立ち上がりながら、足元に落ちていた小石を一つ拾う。そして、それをルナに手渡した。キョトンとしているルナの顔を見ながら、「よっこいしょ」と言いながら再び座る。

「…その石を〜…僕に向かって思いっきり投げてみて〜…」

「え?あ、はい?」

「…良いから〜良いから〜…」

戸惑いながらもルナはやはり気が引けた様子で、「えいっ!!」と石を投げた。投げられた石の速度はそれ程早くない。

その石がアルベルトの半径10センチ以内に侵入した瞬間…


「…“シールド”〜」


アルベルトがそう呟いた瞬間、ハニカム構造をした半透明な薄い板がアルベルトと小石の間に出現し、小石の衝突を防いだ。

ぱちぱちと瞬きをするルナは、ぽけ〜っとしていた。

「…触ってみる…?」とアルベルトが言うと、「は、はいっ!!」とルナが元気よく返事をした。

アルベルトはシールドを少し強く見つめるようすると、シールドがゆっくりと動き、ルナの目の前に移動し停止した。

恐る恐る、ルナがシールドに触れると目を見開いた。

シールド自体は少し冷えた金属のようだが、大きさは人の顔程の大きさで宙に浮き、押しても引いても動くことは無い。

「…これが“シールド”っていう魔法だよ〜…使い方は簡単…自分の頭の中で何処にシールドを設置するか…大きさはどのくらいか…イメージして、シールドって言うだけ〜…タンカーの基本魔法だから誰でも簡単に出来るよ〜」

「へぇー…」

「じゃあ、実践してみよ〜…」

「え?あ、はいっ!!」

アルベルトは小石をひとつ拾い、軽くルナに向かって投げる。

「し、“シールド”っ!!」とルナは目を瞑り少し慌てながら言った、が。

「アタっ!?」

シールドを発動したはずのルナの額にアルベルトの投げた小石が当たる。ルナはよく分からず目を白黒させる。

「うーん…目は閉じちゃダメだよ〜…?変なところに発動しちゃうから〜…座標を正確に定めないとぉ〜」

とアルベルトがルナの頭上の方を指さしながら言った。ルナがアルベルトの指さす方を向くと、それを理解した。

シールドは確かに発動していた。が、座標が定まらなかったため、ルナの頭上に設置され、形もぐにゃぐにゃと変形しており、凸凹している。

「んじゃ、もう一かーい〜…」

「は、はいっ!!」


それから数10回練習を繰り返し、かろうじてシールドを自分の望む場所に設置することが出来た…が…


「うーん…それ以上“小さく”できないの…?」


「…ど、どうやっても小さくなりません…」


油汗を滲ませながら、アルベルトは目の前にはられた“巨大なドーム状のシールド”を眺める。シールドはルナをすっぽりと包み込み、それどころか、後方に生えていた大木五六本をも包み込む、シールド製のドームを形成していた…。


「うーん…魔力の消費が激しいけど…一応は一応成功…?かな…?」


アルベルトはシールドに触れ押したりノックしたりしてみるがびくともしない。

「…もしかして…魔力量がとてつもなく多いのかな…?」

ぴくりとルナが反応した。自覚はあったようだ。

ふむとアルベルトは少し考える。

……………

………………………………

………………………………………………………

…よし、考えるのは止めて寝よう。

カバンの中からゴソゴソとフカフカの毛皮で出来た寝袋を二つ出し、片方をルナにほおり、「…おやすみ〜」と言って寝袋に侵入する。

「え?え!?寝るんですか!?このタイミングで寝ちゃうんですか!?」

「…眠たいから〜ね〜…」

「で、でも!!まだお風呂にも入ってませんし!!」

「…お風呂なんて近くにないよ〜…ぐう…」

「うう…じ、じゃあ近くにあった小川で水浴びくらいしますっ!!それだけは断固譲れません!!」

意外と綺麗好きなご様子で…

クエスト中にお風呂なんてめったに入らないのに…特に野宿ではね?そもそも風呂があるなら宿に泊まってるしね?

「うーん…じゃあ、行ってらっしゃい〜…暗いから気おつけてね〜…」

「いや、何でですか」

「…何が〜…?」

「見張りくらいしてくださいよ」

え?何故当たり前みたいな顔している?

「魔物だって出てくるかもしれないわけですし。」

まぁ、そりゃそうだわな

「他の冒険者だっているかもしれませんし」

よく分かってるじゃないか

少し考える…さて問題です。アルベルトがルナの水浴びの見張りをするメリットは有るでしょうか?

1、有る 2、無い

解答 “2の無い”。よし“寝よう”。

「ん〜…行ってら〜…」

何故かプチッと何かが切れたような音がしたが、気のせいだろう。うつらうつらと眠気に吸い込まれていk…ん?何で上半身が持ち上がった?そして何?このズルズルって何か引きつっている音は?

よくよく見たら、アルベルトの視界が動き、ルナに寝袋ごと引きづられているのがわかる。

こういう時は、そう、アレだ…

「イヤーン、オカサレルー(棒)」

スパッンッッ!!と思いっきり叩かれた。一応、僕は師匠なんだけどな〜…




◆ ◆ ◆




「冷たっ…!!」

背後の方で少し驚いたようなルナの声が聞こえる。

そりゃそうでしょ…もう夜ですよ…?

アルベルトはルナが水浴びをしている間、近くの茂みで小川に対して背を向けて見張ることになった。

辺りは真っ暗で、アルベルトの目の前だけに小さく丸い光の球体が浮かぶ。これは、初級魔法の“ランプ”と言って、その名の通りランプの役割を果たす。地下ダンジョンや、洞窟、遺跡などのクエストによく使う魔法なのだが、ここにアルベルトがいるという証明、もしもの時の灯りとなるため発動している。

しかし、ランプの光は暖かく、小さな焚き火のようなものなので、だんだんと眠気が増してくる…うつらうつら…あ、もう無理…ぐう…

背後で水が落ちる音がだんだんと消えた…


「しっしょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


突然、頭をブンブンと振り回され、目が覚める。

「うーん…なーに〜…?」と寝ぼけながら目を開けると、そこには毛むくじゃらの物体がある。ボサボサとした焦げ茶色の毛の塊だ。

一瞬、アルベルトの動きがフリーズする。

しばらく考え、ある一点の答えにたどり着く。

「…あ〜…夢か〜…おやすみ〜…」


「助けてくださいよ!!しっしょー!?!?」


うん?ルナの声…?もう1度、目を擦り、よくよく見ると、確かに目の前にあるのは毛むくじゃらの塊。しかし、下の方を見ると、それは人の腕の形をしていた。どうやら、人がその毛むくじゃらの塊を自分に近づかないように手で持ち上げ、引き離しているらしい。もう少し下を見ると、

「…あ、ルナだ…なにしてるの…?」


「だから助けてください!!師匠!?」

とりあえず、よくわからないが、ルナの持っている毛の塊を掴み持ち上げる。すると、くるりとそれは回転し、青白く光る目がこんにちはする。いや、今の時間帯だったらこんばんはか…

目が合った瞬間、その毛むくじゃらはじたばたと暴れだし、今にもアルベルトに飛びつかんとする。

うーん…どこかで見たような…あ、“ケダルマ”か。

ケダルマとは全身毛で覆われた魔物で、夜行性。体調は最大1m程にもなる肉食系の魔物だ。眠っている他の魔物や人間を襲い、全身の毛の先にある管のような部分を突き刺し、血液を糧として生きているそうだ。但し、管は目のついている方にしか付いておらず、背後は剛毛で盾となるそうだ。

うーん…初めて見たけど…意外とグロテスクだな…

アルベルトはおもむろに立ち上がると、ゆっくりと歩き出し、小川にじゃぶじゃぶと入っていき、膝のあたりまで使った後…バッシャンッッ!!とケダルマを水につける。水につけた瞬間、ケダルマは暴れだし、バチャバチャと水が跳ねる。まぁ、どっかかんかには呼吸器官はついてるだろうと思い、近くにあった小川で“溺死”させることにしたのだ。しばらく経つと、ピクリとも動かなくなり、水面から離すと、完全に動かない。

討伐完了。

うーん…ケダルマの素材って売れるのかな…

再び茂みに戻り、ルナの姿を確認すると、ルナは丸くなるようにして震えていた。よくよく見ると、押さえている両手から血がだーだーと出ていた。

あー、よくよく考えてみれば、表側を掴んで抑えてたからな…管でも刺されたのだろう…ルナに近寄り、ルナの両手を包み込むように軽く握る。

「…“キュア”」

とアルベルトが言うと手の内で若葉色の光が灯る。しばらくすると、アルベルトは両手を離す。ルナが自分の両手を見ると…

「“治ってる”…」

傷跡一つ残らず、完治されていた。両手を下から見ても横から見ても、傷跡は見つからない。痛みも無い。

「…キュアって言うのはね〜…回復系の初級魔法なんだよ〜…簡単な傷なら何でも直せちゃうんだよ〜…」

「へぇー…」

とルナは自分の手のひらを見ながら言った。そのすぐあと、ルナはカチンと凍りついたように固まった。何かあったのだろうか…?

ルナ首がガタガタと動きながら、何やら下の方を見る。

それにつられて、アルベルトも同じように下を見る。

「あ、」と声を出したのが間違いだったのか、いや、言っても言わなくても、後にはこうなっていたのだろうか?とりあえず、アルベルトもルナも完全に忘れていたことを思い出す。

そもそも、“何のために小川に来たのかを”、そして、“ルナが今さっきまで何をしていたのかを”…

アルベルトの視界には、未だ乾かず、少し濡れた色白の肌色の塊が、ランプに照らされ映っている。

それに気づいた直後、アルベルトは回転しながら宙を舞い、月と重なった。

アルベルトは思った、今ならここに二つの輪のついた人力の乗り物が無くても空を飛べてしまうのではないかと…

実際、その二つの輪のついた乗り物自体はなんだか分からないが、何となくそう思いながら、小川に落下する。




◆ ◆ ◆




「…寒い…」

「自業自得ですっ!!」

「…理不尽」

アルベルトが小川に落下してから数分が経ち、ルナが体を持ってきていたタオルで拭き、着替え終わったのだが、未だにぷりぷりとお怒り中で、アルベルトは怒りを向けられる。

見ようとして見たわけじゃないのに…

「…“ヒート”。」

アルベルトがヒートと呟いた瞬間、一瞬にして炎に包まれ、炎で髪や服、肌の水気が蒸発させた後、炎が弾け飛んだ。

その後、ランプで照らしながら、アルベルトが荷物や寝床、ルナ、自分を囲むように、付近で拾った木の棒で地面に一つの円を書き…

「…“テリトリー”…」

すると、円を覆うようにドーム型の薄い幕が張られた。

「…あ、フレイムって言うのは、体を炎で包む魔法で…テリトリーは、魔物とか、敵意の有る人、盗賊とか…?から守る魔法ね…?」

と一応、ルナに説明するが、まさかのシカト…

アルベルトなどそこに存在していないかのように、寝袋に潜る。

一応、僕って師匠なんだけどな…

ルナの方を向くが、顔を逸らされる。

「……まぁ、いいや…おやすみ〜…」

もぞもぞと、テリトリーの隅っこの方でアルベルトも寝袋に潜り、ランプを消滅させる。

うとうとしながら、すんなりと眠りについた…。


…………………………

………………………………………………

……………………………………………………………

……………………………………………………………


それから数分が経った後、ルナはチラリとアルベルトの方を向く。

アルベルトは既に寝息を立てており、深く眠っているようだ。

ルナは先程のことを少し思い出した。

…初めて、男の人に体を見られてしまった…

顔を真っ赤に染めながら自分の体を庇うように抱きしめた。

自分が助けを求め、アルベルトの前に出てきてしまったとはいえ、やはり、男性に肌を晒すのは恥ずかしい事だった。

たとえ、自分が憧れていた人でも…

ずっとずっと前から憧れていた人でも…

ギルドでやっとの事で見つけた時もそうだった…

本当はもっと早く、アルベルトに会いたかった…

会って、“お礼を言いたかった”…

父と母に言われた…

どうしても冒険者になりたいのならば、“とある冒険者を探しなさいと”。その冒険者を探したのち、“彼に弟子入りしなさいと”。それならば、冒険者になることを許そうと。

その時、ルナは尋ねた。何故、彼に弟子入りしなければならないのかと。

父と母は答えた…

『彼に私と母さんは“救われた”からだよ、ルナ。彼ならルナを守ってくれる。お前が助けを求めた時、彼ならば絶対にお前を救ってくれる。』

父はそう答えた…懐かしそうに…

母も微笑んでいた…


父と母から伝えられた、冒険者の名は


“アルベルト=ミネルヴァ”


父と母が幼い頃からずっと口癖のように話してくれた冒険者の名だった…

幼子からルナは父と母の話す、アルベルトの人物像にに憧れた。

初めてあった時は落胆した。

実際は父と母が話していた勇ましい人物像とは掛け離れた、やる気ゼロの怠け者だった…

だが、ジュシードラゴンを倒した時にルナは思い出し、確信した。

この目の前にいるアルベルトこそが父と母が話していたアルベルトだと…


「…お父さん、お母さん…ちゃんと会えたよ…ちゃんと見つけたよ…」


そう呟き、ルナは深い眠りについた…



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