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◆第2話 クエスト◆

始まりの街 ギルド:『 Oneワン Stepステップ

クエスト掲示板前


アルベルトに弟子入りしたてホヤホヤのルナは待ち合わせ場所であるクエスト掲示板前で、死んだ…いや、死を通り越して、“腐った魚の目”をしながら項垂れていた。

背中に背負っていた盾も、ずっと同じポーズをしているのも辛くなってきたので、顎乗せ変わりに使い、長く、長く、どこまでも長い溜息をしていた。

因みに、そのルナの姿を見た、他の冒険者達は軽く引き気味で、クエストを受けに来た冒険者も、見て見ぬ振りをする、と言うよりも、“そこにルナが存在していない”風に完全にルナを視界からシャットアウトしていた。理由は簡単である。腐った魚の目をしているというのも一つの理由だが、第一はルナが現在進行形で超絶機嫌が悪く、今にもその怒りが爆発寸前で、爆発したら誰に矛先が向くか分からない、その全てが一目瞭然であったからだ。


彼女がこの状態に至ったのは、かれこれ1時間前の事である。

他の冒険者達の証言はこうだ。

「最初は超ルンルンで、何かいいことがあったのかい?と言った状態だったんです」byフェイサーの冒険者

「五分くらい経ったら冷や汗が額から滝のように流れていました」byギルドの係員

「30分経ったら、あの可愛らしい顔に血管が浮き上がっていたわ」byバーのおばちゃん

「今から15分前くらいには既に目は死んでいました」byランサーの冒険者

「気づいたら腐ってました」byマジシャンの冒険者


冒険者達はタンカーは嫌っている。

だが、今現在のルナを除く冒険者達の考えている事は万全一致していた。

“ マ ジ で 何 が あ っ た !? ”


すると、ギルドの入口から扉やら壁やら、柱やら、冒険者やらに頭や肩をぶつけながら、独りの冒険者が入ってきた。クエスト掲示板前まで来ると、力尽きたかのようにバタりとうつ伏せに倒れ、「うーん…」と眠たそうな声を上げる。その冒険者はなにかに気づいた、というか、威圧感がパナいルナに気づいたのか、首だけを持ち上げ、ルナを見て、目を擦りながら「おはよー…」と一言言った。

プツンッ!!とリアルに音が聞こえたような気がした。


「貴方の“1時間後”は“2時間後”なのですかぁぁああ!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?」


「うーん…?…あー、ごめんごめん…二度寝してた…」と気のない声を寝起きのアルベルトが床と接吻しながら言った。

「うーん〜…っ!」と背伸びをしながら、ノロノロと立ち上がると。

「うーん…“寝足りない”…」

「何時間寝れば気が済むんですか!?」

「…うーん…?うーん…2400時間…?」

「それ一日超えてますよね!?100日間眠らないと満足しないんですかぁ!?」

「うん」

「うん!?何でそこだけ即答なんですか!!」

「…うーん…事実だから…?」

「疑問形…はぁーもういいですぅ…」

怒る気が失せたように、ルナはガックリと項垂れる。

ふと、ルナは気づいた。

「あれ…?リーンさんは、何処に行ったんですか?」

アルベルトは掲示板を見ながら「うーん…“帰った”。」

「へ?」とルナはずっとんキョンな声を上げる。

「うーん…これかな〜…報酬もそこそこだし…」

ルナは冷や汗を流しながら恐る恐る、アルベルトに尋ねる

「ち、因みに…“どんなクエスト”を受けるんですか…?」

「うーん…ん。」と剥がしたクエストの紙をルナに見せた。

そこに書いてあったのは…



◆レッドコング、ブルーコング、グリーンコングの3頭の討伐 ◆

ランク: D

※依頼者からのメッセージ※

最近出没し始めた三匹のコングが私の村の民家まで侵入し騒ぎ起こした。この三匹を討伐して欲しい。

手に入れた素材は全て自由に持っていってくれ。

但し、討伐した証拠として、手に入れた三匹のコングの素材をそれぞれ私の所へ持ってきてくれ。

依頼者:カルビ村の村長



明らかに“討伐クエスト”であった。

ランクはDと、なかなか低めのクエストだが、問題はそこではない。

“非戦闘員であるルナ達がどうやってコング三匹を討伐しろというのだ”。


「し、ししししし、師匠!?!?これ本当にやるんですか!?って師匠…?」

「ご婦人行ってくる〜…」

「はい、行ってらっしゃい」


「師っ匠ぉおおおおおおおおお!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?」




◆ ◆ ◆




「…そう言えば…師匠って誰…?」

カルビ村に向けて歩いている途中、アルベルトが惚けたことを言うので、ルナは何も無いところでずっこけた。ルナの頭の上で「…どうかしたの…?」とアルベルトが声をかける。

「貴方以外誰がいるんですか!?貴方以外!!」

ガバッと起き上がり思わず叫ぶ。

「…いや…僕の名前、アルベルトだし…」

「ワ・タ・シは貴方に弟子入りしましたよね!?」

「…うーん…?…うん。」

「悩まないでください!!」

「…うーん…?それがどうかしたの…?」

「だーかーらー!!弟子は師匠に師匠って呼ぶものなんですぅ!!」

「…えー…別にめんどくさいからアルベルトでいいよー…」

「そ、それは駄目ですよ!!」

「…何で…?」とアルベルトが首を傾げる。

「そ、そりゃ、だって弟子は師匠に敬意を払わないとっ!!」

「…僕に敬意もクソもないと思う、けど…?」

「いや、それを自分で言っちゃうんですか…?はぁー、もういいですぅ…」

「…じゃあ、アルって呼んでいいよー…リーンみたいに…」

「うぅ…!!じゃ、じゃあアル師匠っ!!これだけは譲れませんっ!!」むっふーっと鼻から息を出す。

「…うーん…まぁ、良いけど…」


とそこで、ふとルナは気づく。

「あのー、師匠ー。」

「…うーん…?なーにー…?」

「その、師匠が背負っているその盾じゃなくて、リュックって何ですか…?」

アルベルトの背中には巨大な盾と共に、同じく巨大なリュックサックが背負われていた。

「うーん…?あー…クエストに使うものが入ってるんだよぉ〜…」

と気のない返答が返ってくる。

「そうですか」とまた、そこで会話が途切れ、無言で歩き続ける。

歩いている道は、獣道…ということでも無く、普通の馬車や人が通るごく普通の道である。

カルビ村とは、始まりの街から少し離れた場所に位置する、小さな村で、割かし田舎だ。

馬車で向かえば約半日で到着する程度の距離なので、長旅になるという訳でも無い…はずだったのだが…。

ルナが何かがおかしいと、首を傾げ、額の汗を拭う。

始まりの街から歩き始めて“約2時間”、向かっているはずの馬車屋は見当たらず、当たりは、木と草と木と木、木、草、草である。

もしかすると、もしかすると、と思いつつ、それはナイナイ、とルナの中の小さなルナ達が相談をしはじめる。

相談内容はこうだ。

いやー、まさか、このまま、歩いていくっていう馬鹿な真似はしないよねー

でも、この感じだと…

恐る恐る、ルナはアルベルトに尋ねる…

「あのー、アルししょー…」

「…うーん…?なーにー…?」

「もしかして、もしかするとなんですけど…このまま、カルビ村まで歩いていくってことは無いですよね…?」

「…えー…?“歩いていくよ”…?」

「へ?」見事にフラグを回収したルナは、色が完全に抜け落ち、輪郭しか見えなくなっている。

「…だって〜、馬車代勿体無いし…それじゃぁ、修行(?)にもならないでしょ〜…?タンカーは足腰が命だよ〜?」

ぴくり、と反応したルナは色が復活し、目の中に星でいっぱいにした。

「しゅ、修行ですかっ!!これは修行なのですかっ!!」

うぅ、ペカーっと光る謎のオーラと目の中の星がピッカピカッ光って眩しい…

「…う、うーん…タンカーは盾が重たいから、足腰鍛えないと、素早い動きができないよ…?」

「な、なるほどぉっ!!さっすがアルししょーですっ!!」

そんなにも嬉しいのか、心がぴょんぴょんしたかのように、飛び跳ねる。が、背中に重たい盾を背負っていたことを忘れていたのか、バランスを崩し、バタンっと倒れ、地面と盾でサンドイッチ状態になっていた。

「…え、えーっとぉ〜…大丈夫…?」

「うぅ。痛いです、重たいですぅ…」

うーんっ、うーんっ!!と盾をどけようとするが、盾がなかなかホルダー(盾を背中に固定するためにベルトで繋げられた部品)から外れず、じたばたともがいている。

しょうがない、と、面倒くさそうに、アルベルトが、盾の縁を片手で掴み、そのままルナを持ち上げて立たせた。その際、ルナが「うわぁっ!?!?」とビックリしていたが、まぁ、問題はないだろう。

立ち上がった、ルナは目をパチパチと瞬きをする。

どうかしたのだろうか?

「え、えっと…」と、ルナが何故かロボットのようにカタカタと首をこちらに向けてきた。

本当に、どうかしたのだろうか…?

「い、今、私を起こしてくれたのって、師匠ですよね…?」

「…うーん…?うん…」

それがどうかしたのだろうか?

「もしかして…盾を掴んで持ち上げました…?」

「…うーん…うん…」

何かまずい事でもしたのだろうか…?

「わ、私の盾…こう見えても、かなり特殊な盾で、ゴーレム(岩の人形の魔物)の鎧殻で出来ていて…“60kg”くらいあるんですけど…」

「…うーん…?そうなのか…?」

よくわかんないけど、何かまずかったのかな…?

「もしかして…師匠って見かけにに寄らず…力持ちなんですか…?」

「…うーん…?わかんない…?」

そんなこと、考えた事もなかったから、正直、よく分からん…

「ちょ、ちょっと、師匠の盾を持たせてもらってもいいでしょうかっ!」

「…うーん…?良いけど…?」

アルベルトは、背中のホルダーから盾を取り外し、地面に下の縁を付け、立てた。ルナがそれを持ち上げようとする。すると…

「ふんぐぐぐぐっっっっっっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

ルナが、自分の盾を地面に置いて、アルベルトの盾を掴み、持ち上げようとするが、持ち上がるどころか、ピクリとも動かない。

そもそも、ルナは持つ前に気づくべきであった。普通、盾の縁を地面に付けたくらいでは、その薄いフォルムを垂直に立てることなど出来るはずのないことを…

「だ、だめだー…重たすぎて持ち上がらないですぅ…ししょー、この盾、一体全体、何の位の重さなんですかー…?」

へとへとになりながら、ルナはアルベルトに尋ねる…

アルベルトはうーんと、考えた後…


「…“120kg”くらい…?」


“急所にあたった!”ルナが衝撃を受け視界が真っ白になった!!

メドューサの目でも見たように、石化しているように見えるのは気のせいだろうか…?

(もしかして、私…とんでもなく凄い人の弟子になっちゃったノカナ…?)

その後、何故かカタカタとロボットのような動きをしながら歩き続けるルナが少し心配に思うが、まぁ、心配するのも面倒なので放置しておくことにした。そのうち、元に戻るだろう。




◆ ◆ ◆




それから数時間が経ち、陽は沈み、辺りも空も真っ暗。今なら、黒くて丸いボディーで目ん玉がついた拳サイズの謎の生物がいても気づかないのではないかと思えるほど真っ暗だ。

数時間前に森に入ったため、余計にくらいのは恐らく、というか、確実にそのせいだろう。

森に入った、とは言っても、まだ道はそこに顕在しており、足の感覚で、そこが道か草むらなのかは簡単にわかる。

しかし、日が沈んでから暫く時間が経つと、やはり視界は黒、黒、黒、の真っ黒である。流石に、今日は無理かと、諦め。

「…今日は、ここで野宿するよー…。」

「…は、はいですぅ…」

超テンションの高かったはずのルナが、いつの間にか超テンションが下がっていた。

よくよく、目を凝らしてみると、何故か、ルナがブレて見える。なんでだ…?

不思議に思い、掌を少し上に掲げ、「“ライト”」とアルベルトが口にすると、掌の中に占い師の使う、水晶程の大きさの光の球体が生まれた。いわゆる、魔法である。おそらく、簡単な初級魔法なので、冒険者なら誰でも使えるだろう。

その光で、ルナを照らしてみると。

ルナは、今にでも地面を平にするか如く、ガッタガタガタに震えていた。

よくよく見ると、自分達が歩いてきた道が、やたら平になっているのは、気のせいではないだろう…


ガタガタと震えながら、ルナは言った。

「わ、わ、わ、私、むむむむ、む、昔から暗い場所が苦手で…」

「…あー、うん…見たらわかるよー…」

そりゃ、震えだけで道が綺麗に押し固められるくらい震えられたらわかるわ…

「…うーん…とりあえずー、夕食にしようかー」

「は、はいぃー…と、所で何を食べるんですか…?」

「うーん…“魔物”かなー…?」

「…ワイルドっすね…。」

「うーん…出来れば、ダッシュポークが見つかればいいんだけどねー…?」

ダッシュポークとは、足が早い豚の魔物。気性は荒いが、味はかなり美味しい。特に、独特の肉汁が格別美味い。柑橘系の実を搾ると、これまたさっぱりした味わいで美味い。

すると、ルナの前方、アルベルトの後方にひょっこりと運良く1匹のダッシュポークが現れる。

「あ、師匠」とルナがそれを伝えようとするが…

「…うーん…でも、フライベアーもいいなー…」

フライベアーとは、肉食系の熊魔物で、空は飛べないが翼が生えており、コレも気性が荒い。怒ると、背中に生えた翼の硬い棘を使って攻撃してくる。だが、名前の通り、フライベアーの肉を薄切りにし、フライ、つまり揚げると、ダッシュポークにも劣らず、美味い。塩をかけるも良し、味噌をかけるも良し、何をかけても美味い。

ルナはそんなことを考えてる場合じゃないと、ふるふると頭を振り、まだダッシュポークが逃げていないか確認する。

すると、突然、ダッシュポークの体から血が飛び散る。

よくよく見ると、その後に、フライベアーがダッシュポークを食らっていることに気づく。

(ええっ!?!?!?)

これまた、アルベルトに伝えようとするが…

「…うーん、かなりレアだけど…ジュシードラゴンでもいいな〜…」

ジュシードラゴンとは、レッドドラゴンなどの翼竜とは違い、地竜と呼ばれる翼が無く、地面を二本足で走るドラゴンの1種だが、これはとてつもなく危険なドラゴンで。肉食系の魔物で、冒険者殺しの異名を持つ魔物として有名だ。だが、その肉はものすごくジューシーで美味い。討伐は危険を伴うので、あまり出回らない肉だ。そのため、ルナもその味を知らず、一度でいいから食べてみたいという気持ちはある。

いやいや、そんなことを考えている暇はない、と再び頭をブンブンと振り、少し嫌な予感を覚えながら、フライベアーを確認する。

バクっ!!

『GWAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』

と、無残に食い散らかされたフライベアーの死体の上に片足を乗せ、咆哮するジュシードラゴンの姿がそこにあった。

(ええええええええええええ!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?)

その咆哮にやっとの事でアルベルトが気づき、振り向くと。

「…うーん…?ジュシードラゴンがいる〜…?」

「あわわわわっ!?!?」

ジュシードラゴンはすごぉーく美味いと耳にするが、冒険者殺しという異名を持つドラゴンだ。

ヤバイヤバイとルナが泣きながらアルベルトの裾を掴む。

そんな、ルナの鳴き声に気づいたのか、ジュシードラゴンがこちらに気づき、ゆっくりと足を運び、接近してくる。

しかも、運の悪い事に、ルナ、アルベルトはタンカー。魔物を狩る武器など持ち合わせていない。

(もうダメだぁぁぁぁぁあ!!!!!!!!!!!!!!!!)

とルナが絶叫する。


「うーん…?運が良かったのかなー…?まぁ、いっか…?」


突然、ルナの手に握っていたはずの裾が消える。

え?と気づくと、アルベルトの姿も目の前に無い。

まさか、とジュシードラゴンの方を向くと…


「…ふぁいと〜〜…いっぱぁ〜〜〜つ…」


とやる気のない声とともに、ヒュゴッッッッッ!!!!!!!!!!と鈍い音が鳴り響き、ジュシードラゴンが白目を剥きながら吹っ飛び、付近の木々を数本なぎ倒しながら、その息の根を引き取った。


ルナはその時見たのだ。

戦闘に不向きな、タンカーであるアルベルトがジュシードラゴンを吹き飛ばす瞬間を。


____“盾”を武器としてジュシードラゴンを殴り飛ばす瞬間を…


スタッとアルベルトが地面に降り立つと。



「…夕食…かくほぉ〜〜〜…」



そのやる気のない声が静かな森に小さく響いた。


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