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◆第1話 嫌われ者◆

魔王討伐から約100年。

あっという間に世界中に冒険者ギルドが設立され、まさに世は冒険者時代と言ったところだ。

近年では道を歩けば冒険者がゴロゴロ見つかる。過去には、刃物などの武器を持った危険人物が町中をうろついている、と考える人もいたが、今ではもう見慣れた景色に変わりつつある。

更には、町に冒険者専用の武器や防具を取り扱う店ができたり、冒険者達が狩ったり、収穫した、手に入りづらい品物まで、店に並んだ。

冒険者が増えたことにより、国々の文明は新たに開花し、様々な特色を得ていった。

例えば、食文化だ。今まで質素な食事を主流としていた国々が、冒険者に似合うよう、ワイルドな骨付き肉などにかぶりつくようになったり、珍しいものだと、冒険者が狩った獲物を飯屋に提供すると、少しの金でシェフの気まぐれに料理をモテなされるサービスを取り扱う店も出てきた。


そう言えば、冒険者、冒険者と一括りに冒険者と言っても、その中にも色々種類がある。


種類としては、剣を使い、最前線を主なポジションとしている、“フェンサー”

銃や弓矢を使い、主に援護を行う、“アーチャー”

巨大な槌を武器とし、無魔法最高火力の“ウォーリア”

縦と剣の両方を持ち合わせた、“ナイト”

魔法を使い、状態異常などの回復を果たす、“ヒーラー”

ヒーラーとは違い、魔法を使い、回復や攻撃、防御などの幅広い役割を果たし、攻撃では、特大火力を放つことも出来る、“マジシャン”

ランスを使い、突撃や、投擲、棒術を主な攻撃方法とする、“ランサー”

ガントレット、または、素手で攻撃を行う、“ファイター”

暗器や、特殊な武術を使い、隠れながら攻撃することの多い、“アサシン”


そして…


◆始まりの街◆


『ギルド:OneワンStepステップ


駆け出し冒険者が集う、割と大規模なギルドに含まれる。ここで成果を上げた冒険者は、他の上級ギルドからスカウトが来たりして、自ら他のギルドへ旅立つ冒険者もいる。いわゆる、冒険者見習訓練所のようなものだ。

クエストは普通に受けられるが、危険度はそこそこなものまでしか受けることは出来ない。危険度が高いものは、入会時に貰えるギルドカードのランクが満たしていれば、係員に提示することで、受けることが可能である。

因みに、ランクはF・E・D・C・B・A・AA・AAA・S・SS・SSSの順に高くなっていく。SSSランクは、現在、魔王討伐を果たした英雄達のみが所有する、最高ランクである。


始まりの街、とは言っても、長く冒険者をしている者達も、未だここに滞在し、生活している者も多くいるので、割と高いランクを持つものも多く、また、自分のランクの高さを武器に、低ランクの冒険者との暴動も少なくはなかった。

中でも、その高ランクの冒険者がターゲットにされやすい職業は…


「おい、アレ見ろよ…」

「んぁ?どこだよ?」

「あの、バーのカウンターにいる奴だよ」

「んぁ?ブハッ!!え?マジかよww」

「だろ?あんな役割、誰も欲しがらねぇって!!」

「しかも、男なんか需要無っ!!捨駒まっしぐらじゃん!!」

「糞ワロタww」

「マジウケるw」


最も必要無いと笑われ、嫌悪され、捨駒、魔物の囮役として使われがちの“タンカー”…つまり、武器が盾のみの盾騎士。


「はぁー…」とコップを拭きながら、バーの店員のご婦人がため息を一つ。

「あのまま馬鹿にされてていいの?あんた、武器変えたら?」

「…あぁ?あー、あんなのほっとけ、ほっとけ…」とコップを咥えながら、やる気のなさそうにぐでーとテーブルに突っ伏しながら、答える。怠そうにしているのには理由がある。昨晩、徹夜していたため、今現在進行形で、超絶眠たいのだ。

理由を知らないご婦人はブツブツと愚痴を零す。

「そんなんだからバカにされんだよ。全く…アンタも此奴のどこに惚れたんだい…。」

「全部だよ全部。アタイは“アル”の全てを愛してんだよ」と歩み寄ってきた女が、ぐでーとしている俺の直ぐ隣に座る、「よっ!久しぶり」と女が声をかけてきた。

面倒くさそうに「あ?」と首をそちらに向けると、二本の大剣と二つのスイカを腰と胸にぶら下げたGALギャルチックな赤髪の女が視界に入る。

「…あー、リーンか。」

「なんだ、愛しの私が来てやったんだぞ?もっと喜べ。」

「…んー、めんどいからいいわ。」

「ったく、つれないというか、相変わらずやる気無さそうだな。」

「…ご婦人、お茶おかわりー…」

「聞けよっ!!」

「あいよ。」と言って婦人は空になったコップに冷たいお茶を注ぐ。


俺はアルベルトと言う名だ。職業、冒険者。役割、タンカー。現在進行形で超気だるい。

そして、このやたらナイスバディな女はリーン。職業、冒険者。役割、フェンサー。

俺とは古い中で、現在進行形で俺のことを恋愛対象として見ている“らしい”。だけど、恋愛とか面倒臭そうだから正直言ってどうでもいい。今欲しいのは安眠枕とふかふか布団様々が貰えればそれで満足…


コンっと冷たいお茶が注がれたコップを俺の目の前に置かれる。

「はぁー、アンタ、普段クエストに行ってるところ見たことないけど、お金はどうしてんの?まさかだとは思うけどその子に貢いでもらってんじゃないでしょうね?」

「…あー、大丈夫大丈夫。金なら大分前に稼いだから…でも、近々稼ぎに行かないとなぁ…あー、めんどい」ゴローンゴローンと奇怪な動きをしながら器用にコップを口にくわえ「ングッングッ」と飲む。

「はぁー…あんたにせめてやる気さえ有ればねぇ…」

「…やる気ZERO、それが俺のモットーだー。」

「要らないやる気無い宣言どうも。」

「はぁー」たため息をつきながら婦人 は皿を洗い始める。


盾騎士…盾騎士が嫌われているのには理由がある。

理由その1、攻撃できない。防御専門などクエストには正直言って要らない。

理由その2、守るだけの役割なのにやたら盾がデカくて重装備。だから動きが鈍い。

理由その3、理由その2により、敵多数に不向き。盾が重いから。

理由その4、他のメンバーが傷ついても、タンカーは傷つきづらい。守りが専門だから。攻撃しないくせに無傷だから目の敵にされる。

理由その5、臆病者に見える。守り専門だから。

etc..etc..etc……

どれもこれも、もっともな意見だ。守り専門なら冒険者になるなよって話だもんな。

正直言って俺もそう思う。やる気の無いタンカーなんか尚更いらんだろ。

そう言えば、言い忘れていた。

俺は、現在進行形でソロだ。理由、誰もパーティに入れてくれないから。パーティに入ったとしてもコミュニケーションがめんどいから。

パーティに入るより、あったかお布団様を俺は要求したい。あのぬくぬく感は病みつきになる。中毒せいでもあるのだろうか?近々あったかお布団中毒っていう名前の中毒が発見されるのではないだろうか?嫌だよ?渡さないよ?あのぬくぬく感は奪わせないよ?はぁー、布団の事考えてたら眠たくなってきた…


「よし、久しぶりにアタイとパーティ組むか?」

「…んぁ?んー、別にいい。一人の方が楽だし…」

答えながら、アルベルトの頭がうつらうつらと傾く。

「イイじゃん、組もうぜ〜。」

「…んー、めんどいからいい…ぐー…」

「って寝るな!」リーンの軽いチョップがアルベルトに炸裂する

「…んー…ぐー…」

一瞬起きたものの、直ぐに眠ってしまう。

「あー、こりゃ当分起きないな…オバチャンお金ここに置いとくよ。」

「結局、あんたが払うんだね…」

「いいんだよ。その代わり、アタイは今からアルを宿にお持ち帰りして添い寝さしていただくから」ペロっと唇を舐める。

「はぁー…全く、本当にコイツの何処がそんなにいいんだい?」

ニコッとリーンは微笑んでオバチャンに言った。


「“全部だよ”。最初に言ったろ?」


「よいしょっ」と重装備であるはずの眠るアルベルトを軽々と持ち上げ、腕に抱えると、アルベルトを起こさないように、宿に戻ろうとすると、ポムっと何かがぶつかった。


「あっ、す、すいません!!」


ぺこりとお辞儀をする。

リーンにぶつかったのは、栗色の髪の少女だった。

リーンは彼女をじっと見つめた。別に、ぶつかられたのが不服ではないのが。リーンが注目したのは彼女の装備だ。背中に背負われたその体躯に見合わない“大きな盾”。

何も言わないリーンが不思議、と言うか、怖かったのか、ビクビクしながら、おずおずと頭をあげると。彼女はハッと目を見開いた。彼女の目線の先は、リーンではなく…リーンの腕に抱えられたアルベルトだった。


「あっ、あの!!わ、私を“弟子”にしてくださいっ!!!!」


再びぺこりとお辞儀をした。今度は90度くらいの角度で真剣にお辞儀をしていた、が、背中に背負われた縦が重いのか、「あ、あわわわっ!?」とふらつき尻餅をつく。


「あ、あれ?寝ちゃってる?」

尻餅をついた彼女は、ようやくアルベルトが眠っていることに気がつく。

リーンは眉を顰める。

アルベルトの弟子になりたい、だと?

リーンがまじまじと見つめると、その視線に気づいた少女は「あ、あうぅ…」と涙ぐみながら少し怯えるのであった。




* * *




気がつくと、そこは天国だった。

いつの間にか、自分はあったかお布団様の中にいるではないか。あー、マジでこのヌクヌク感は病みつきになる。なぜ世界中の人々はこのヌクヌク感から出ようとするのか全くわからん。

そう思いながら、アルベルトは少し目を覚ましたものの秒で二度寝を試みようとする、が…


「おはよう、アル。」


何やらすぐ近く、と言うか耳元で声が聞こえたような気がする。正直言って耳障りだ。せっかく二度寝を味わおうと思っているのに。この自分の体温で温められたお布団の温もりが最高なんだよ。いつまででもここに居たいと思うよ。全く愛しい奴めっ!!

と、先程の声など忘れて再び二度寝を試みる。


「何回寝れば気が済むんじゃアホォー!!!!!?」


突然、今まで体を包んでいた温もりが、愛しの掛け布団とともに剥ぎ取られた。そして、お布団様に粘着テープのようにくっついていたアルベルトは剥ぎ取られたと同時に、グルグルと軽く宙を舞い、少し高い位置(おそらくベットの上だろう)から木製の床に落下した。

ゴッツーン!!とデコを盛大にぶつけ、剥ぎ取った本人も、「あ、」とほうけていた。

結論から言うと、それほど痛くない。理由はアルベルトがタンカーだからだ。タンカーの特性として、異常なほどの防御力がある。盾を使えば、殆どの攻撃を無傷で耐えることも可能だ。


「ご、ご、ごごごごご、ごめんなさい!!!!」


今の声…先程のなんちゃらかんちゃらアホー(?)みたいな声もそうだったが、リーンでは無い声が聞こえたような気がする。

「うーん」と少し寝ぼけながら顔を起こし、ふらふらと立ち上がる。

目を少し擦り、ぼーっと死ながらあたりを見ると、いつの間にか、宿にいた。部屋の中には、元々整備されていたベットや少量のシンプルな木製の家具、ベットの上では、リーンが起き上がり「おはよう」と声をかけてくる。そして、先程被っていたであろう掛け布団様を持ちながら、カタカタと小さく震えながら、半泣きの栗色の髪の少女がベットの隣に立っていた。ついでに言うと、膝はガクガクと笑っていた。彼女の足元だけ地震でも起きているのだろうか?

「あ、ああ、あのっ!!!ほ、本当にごめんなさい!!」

「…それは別にいいけど、君は誰?」

「る、“ルナ”とい、いいます!!」

「うーん…分かった。それで、何でルナはここに居るの?そしてここは何処?」

「それはなー」とリーンが体を伸ばしながら言った。

「ここは、見ての通り、アルが借りてる宿。んでもって、ルナはアルに伝えたいことがあるんだとよ。」

リーンがアルの方を向いてクイッとほれっと顔で会話した。それに対して、ルナは頷くと。フンっと小さく気合を入れながら「あ、あの…!!」


「わ、私を!!弟子にしてくださいっ…!!」


「……何で、僕?」

「あ、あ、私は実のところを言うと、一週間前にギルド登録したばかりで、右も左も分からなくて!!そ、それで、あ、アルベルトさんの弟子になれば私も、り、立派な冒険者になれると思って…!!」

「…一応言っておくと、僕はタンka…」「そ、それと!!わ、私も“タンカー”何ですぅっ…!!!!」

アルベルトの言葉を遮って、ルナは叫んだ。

「だ、だから、ぜ、全然パーティに入れてもらえなくて…、職業を変えようかなってお母さんに相談したら、タンカー以外は危ないからダメだって…」

少し、涙袋を膨らませながら、俯くように、ルナは言った。

「…何で僕にそれを頼む…僕はやる気ZEROがモットー。他にもタンカーの奴なんか、沢山いる。他に当たってくれ。それでもダメなら冒険者を辞めろ…僕は君のせいで少し覚めちゃったお布団様にくるまって二度寝に試みるよ。」

ふぁ〜と欠伸を一つしながら、ルナから掛け布団を奪い取る。ノロノロと ベットに寝転がると、布団にくるまって、すぐさま寝息を立てる。


「…やっぱり、ダメでした…。」

「まぁ、アルが言っていることも間違いじゃない。ただ言い方がな〜…たまにキツい事言うからさ。」

「まぁそんな所も…」とリーンが小さな声でいうと、ペロっと舌の先で唇を舐めた。一方、ルナはしょんぼりと今にも泣き出しそうな顔をしていた。

「そう言えば…」とリーンがふと思い立ったように、「何でアルの弟子になろうと思ったんだ?」

「他にも理由はあるんだろ?」とルナを見透かしたように質問する。すると、ルナは素直に答えた。

「…私も、アルベルトさんとリーンさんみたいに仲のいい友達が欲しいんです。皆で楽しくワイワイ遊んで、仕事して、一緒に笑って、助け合う…そんな友達…いえ、仲間が欲しかったんです…。私の家族は両親で料理店を営んでいます。とっても優しい両親です。でも、お母さんと、お父さん、特にお母さんが過保護で、友達も簡単に作らしてくれませんでした。友達が居ないのは寂しいです…。そして、唯一出来た友達がいたんです。その日から毎日が楽しくて。でも、ある日、二人で森に遊びに行ったんです。両親には言いませんでした。言ったら絶対に危険だと止められるからです。しかし、両親が言っていたことは正しかった。私たち二人の目の前に、ワイルドベアー(身体中に石のように硬い棘が生えた大熊)が現れたんです。私達は逃げました。全力で逃げました。ですが、ご存知の通り、ワイルドベアーの走る速さは時速60km。子供が逃げ切れるわけがありません。追い込まれた私たちは、死を覚悟しました。ですが、その時、私たちの目の前にヒーロー達が現れたんです。そのヒーロー達はワイルドベアーを一気に追い詰め、倒し、私たちを助けてくれました。それが、冒険者達だったんです。憧れました。冒険者になりたいって思いました。それは、友達も同じ気持ちだったみたいで、将来、一緒に仲間を作って旅に出ようと約束しました。でも、お互い、弱いままじゃあ戦えませんし、修行をすることにしました。お互い、自分と同じ職業を持つ師匠に弟子入りして、強くなろうって約束したんです…。ですが、タンカーの私は、師匠になってくれる人どころか、パーティを組んでくれる人もいませんでした。そんな時に、アルベルトさんとリーンさんを見かけたんです。いいなーって、私もああなりたいなーって。憧れたんです…。弟子入りするならこの人だ…!!って決めました。ですが、ダメだったみたいです…。」

話を聞いた、リーンは沈黙した。

それに気づいたルナは「あ、あの、長々とすいませんっ…!!!」と、手をワタワタと振りながら、謝罪する。ここまで沢山謝罪するルナを見ると、そういう生き物なのか?と思えてくるのは、リーンだけでは無いだろう。

「いや、構わないよ。それより、これからどうするんだ?」と率直な質問を投げかける。

「そろそろ、お金を稼がなきゃいけないですし…採取クエストでもしながら、また、新しい師匠でも探してみようと思います。」

ルナはニコやかにそう言ったが、無理して笑っていることはひと目でわかる。

「あ、長居したらアルベルトさんに悪いですよね…それでは、またいつか会いましょう。」ビシッと敬礼する。

くるりと体をドアの方へ向け、やや冷たいドアノブを握った。いや、冷たいと感じるのは、自分の気持ちのせいか。ぎゅっとドアノブを握り、扉を開け…


「…1時間後、ギルドのクエスト掲示板前に来い…遅れたら置いて行くからな…」


「え…?」

クルっと振り向くと、アルベルトはすぐに寝息を立てた…

リーンの方を向くと、「良かったな。」と微笑んだ。


「は、はいっ…!!!!」


元気よく返事をしたルナは満面の笑みを浮かべ、瞳から溢れた雫を零した…

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