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愛国妃  作者: ちかえ
第四章 家族編
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魔力

第四章の「4」スタートです!


前半がビバル視点、後半がエルナン視点です。

「先ほど、王妃陛下が出発されました」


 イライアの侍女のモニカが報告をしてくれる。ビバルは深いため息をついた。


 行かせてしまったという後悔が頭の中を駆け巡っていた。


 出来れば代わってあげたかった。でもビバルは魔力持ちではない。行ったところで、惨殺されて終わりだろう。


『ビバル様、あなたは国王なのですから安全な所にいないといけませんわ』


 イライアの厳しい言葉が蘇ってくる。それなら王妃だって同じだろうと思う。


「陛下、大丈夫ですか?」


 不安そうな顔を見られたのだろう。モニカが心配してくれる。


「イライアは大丈夫だろうか……」


 つい本心が漏れる。


「大丈夫ですよ。大丈夫です」


 モニカの口調がどこか彼女自身にも言い聞かせているようにも聞こえる。きっとモニカも不安なのだろう。無理もない。モニカはイライアの乳姉妹で幼なじみなのだ。心配の度合いもビバルよりも大きいのだろう。


 一人で考えたい、と人払いをしてもらう。みんなが出て行くと、ビバルはまたため息をついた。


 どうしたらいいのだろう。自分には何も出来ないのだろうか。妃にばかり負担をかけて、自分では何もしない情けない王。それが今の自分だ。


 何もなければ義兄に助けを求めていただろう。でも彼は捕らえられているだろうと言われた。


 ただ疑問には思う。あんなに強いエルナンがみすみす敵の罠にはまるだろうか。捕らえられたとしても、そのままの状態でいる事を彼自身が許すだろうか。


 ビバルの出した答えは『否』だった。


 どちらにせよ、他の選択肢はないのだ。


 一つうなずき、エルナンにもらった魔石を取り出す。そしてしっかりと握った。心の中で『セドレイ・エルナン、聞こえますか?』と呼びかける。


——ビバル陛下、ですか?


 通信はすぐに繋がった。何となく警戒している声に聞こえるのは考えすぎだろうか。だが、声が聞こえた事にはほっとする。


「なんともないではないですか……」

——……ん?


 エルナンが怪訝そうな声を出す。どうやら思っていた事を口に出してしまっていたらしい。


 素直にお詫びをしてイライアの言葉を伝える。エルナンの苦笑いする声が聞こえる。


——……まさかイライアに予測されてるとはな。

「え?」

——その通りですよ。僕は先ほどまで囚われの身でした。母が助けてくれなければ今もそのままだったでしょうね。


 思いがけない言葉に息を飲む。なんと言ったらいいのか分からずにビバルは黙り込んでしまった。


——気にしなくていいですよ。油断した僕が愚かだったんです。それよりあなたに聞きたい事があるんですよ、ビバル陛下。


 突然厳しい声になった。ビバルはごくりとつばを飲み込む。


「何でしょうか?」

——今、あなたの側に誰か魔力持ちはいますか?

「私一人ですが」

——本当に?


 本当の事を言っているのに、余計にエルナンの声が尖った。


 ビバルには何が何だか分からなかった。何故、エルナンは突然こんな事を言いだしたのだろう。


 その戸惑いが伝わったのだろうか。向こうの厳しい空気が和らいだ気がした。


——本当に誰もいないようですね。


 そう言って息をつく。そこまで緊張させていたのだと分かる。それでもどうしてあんな疑いをかけられるのか、ビバルにはさっぱり分からなかった。


「何かあったんですか?」


 だからそう問いかけた。そしてエルナンから返って来たのは予想もしなかった言葉だった。


——通信が届くとき、魔石の魔力と一緒に僕の知らない魔力が届いたので。


 ビバルはぽかんとする。それはどういう事だろう。


——今、僕たちは魔石の魔力を使って通信しているのは分かりますね?

「はい」

——相手が魔力持ちの場合、自動的に魔力が吸い取られて通信に使われます。魔石を持っているのが本当にその人物かの確認の意味もあります。そしてあなたの場合は魔力がありませんから届く事もありません。だから、誰か魔力持ちに操られて僕に連絡しているのではないか、魔石もその者が握っているのではないかと疑ったのです。


 確かにそういう事情ならば疑うのも無理はないだろう。そしてビバルの脳裏にとんでもない考えが浮かんだ。


「それって、私が『魔力持ち』なのだという意味なのでしょうか?」

——……は?


 エルナンが呆然とした。無理もない。ビバルだってこれが突拍子もない考えだという事は分かっている。


「ちょ、ちょっと思っただけです。事前にイライアが見つけて細工したという事もあり得ますし……」


 自分でも何を言っているのだと思う。濡れ衣を着せられたイライアには大迷惑だろう。


 そんな間にもエルナンは『まさか……でも……』などとつぶやいている。おまけに母がイシアル人である事までつぶやかれる。あまりいい気はしない。


——分かりました。すぐそちらに行きます。ノエリア王太后殿下にも話がありますので、連絡をお願いします。あと、転移が出来なくなっている可能性がありますので、そちらの精霊に話をしておいていただけますか。『王妃の身内が彼女を助けるためにこちらに転移をしたい』と。


 話が急に飛んだ。でもそれについては何も問題はない。全てが終わったらまた通信をつなぐと約束して、ビバルは魔石から手を離した。



****


 ビバルは本当に魔力持ちだった。とはいえ、魔石の補助がなければ魔術は使えないくらいの少ないものだったが。


「本当にいいのですか? あなたは国王でしょう」


 隣を歩くビバルについ呆れた声が出てしまう。自分が魔力持ちだと知ったビバルは、『自分にも何か出来ないだろうか』とエルナンに詰め寄った。あの真剣な顔を思い出すと、苦笑いしか出て来ない。


 二人はイライアとマルティネスの決闘の場となっているはずの地域に来ていた。アイハとレトゥアナの国境の街だ。とはいえ、領のどこで戦うのかはわからない。


 まあどこで戦うにせよ、エルナンは計画を実行するだけだ。


「ビバル陛下、どこか広い場所を知りませんか? 公園とか、空き地とか」

「中央公園なら広いですが、どうするんですか?」


 ビバルの質問にエルナンは答えなかった。かわりに悪戯っぽい笑みを見せる。どこかで父が聞いていると困るからだ。


 だが、これはビバルの警戒心も強めてしまったようだ。当たり前だ。自分が治めている国で他国の王太子が悪巧みをするような表情をしていたら誰だって警戒する。


「ちょっと準備をするだけです。誰に聞かれているか分からないので詳しくは言えませんが」


 その説明でビバルは納得してくれたらしい。それでも警戒心を緩めるのが『少しだけ』というのがおかしい。それと同時に安心した。この義弟なら大丈夫、という気がする。


「セドレイ・エルナン」


 ビバルが声を潜める。それで内緒話だと分かった。そっと防音を張ってやる。歩きながら防音をするのはその分魔力を消費するのだが仕方がない。この男なら変な事は言わないだろう。

 結界を張った事はきちんとビバルに話す。ビバルはどこか恐縮したような態度になった。


「それでどうしました?」

「少し思ったんですけど、私がマルティネス陛下に攫われた理由って……」


 その言葉だけでエルナンにはビバルが何を言いたいか分かってしまった。


「だったら父上は愚かですね」


 きっぱりと言う。ビバルがぽかんとした。どうやら意味が分からなかったらしい。


「そうだったら魔力持ちとしてアイハで教育すればいい。虐待なんかしなくても。僕ならそうします。もちろん攫いはしませんよ」

「……それではそちらのメリットがないではないですか」


 ビバルが呆れた声を出す。エルナンは苦笑した。『レトゥアナ王国に恩を売る』という最大のメリットには気づいていないらしい。そういう考えに思い至らないからこそ、今回ビバルはエルナンに助けを求めに来たのだろう。


 だが、答えを言うつもりはない。だから『どうでしょうね』と返す。どうせ後で妹が喋ってしまうだろう。それでこの話は終わりにした。


「公園に着いたら準備をしつつ、簡単な魔術を一つ教えましょう。それも後で使いますから」

「簡単に出来るんですか?」

「それはビバル陛下次第です。まあ、出来なければ術を練り込んだ魔石を用意するので問題はないですよ」


 エルナンの意地悪なその発言に、ビバルは気分を害したようだった。『絶対に覚える』とつぶやいているところがおかしい。


「では頑張って覚えてください」


 そう発破をかけてやる。この様子なら大丈夫だろう。


 魔石を一つ渡す。そうしてその中にある魔力を感じる方法を教える。魔力持ちが魔術の練習をするにあたってこの事は重要だ。人の魔力を感じられなければ、自分の魔力も感じられないだろう。


 この魔石はただの魔力の結晶だ。何の魔術も入れていない。主に魔力補助に使われるものだからだ。


 魔力の感じ方を教えつつ、自分も同じように魔力を感じてみる。もちろん魔石の魔力ではなく周囲の魔力だ。イライアの居場所を調べようと思ったというのもある。


 だが、イライアの魔力を感じる前に、エルナンは見知らぬ魔力を拾った。ビバルのものではない。父のものでもない。もちろん精霊のものでもなかった。


 この魔力は誰のものなのだろうと不思議に思う。しかもその者は、現在進行形で術を発動しているのだ。それも信じられないくらい大きな魔術を。建物でも囲っているのだろうか。

 唯一の救いはそれが『守りの結界』である事くらいだ。


 急いでそちらに方向転換する。思いがけないエルナンの行動にビバルが驚いて立ち止まる。

 何があったのか、と聞いてくるのでそのまま話した。


 それを聞いて、ビバルの顔色が変わった。何かまずい事を知られてしまったというような表情だ。エルナンの眉が自然と潜まる。この王はとても大事な事を隠しているのだ、という事は分かった。


「何か知っているんですか?」


 厳しく尋ねると、ビバルはしぶしぶというように口を開いた。


「……実はこの領にいる孤児の一人が魔力持ちなんです。多分、彼のものでしょう。心配はいりませんよ」


 それは見逃せない。もし、その子供の存在がマルティネスに知れたら、彼が何をされるか分からない。

 急いで駆け出す。だが、何故かきつく腕を掴まれた。


「離してください、ビバル陛下」

「嫌です」


 何故かビバルは頑なにエルナンをそこに行かせたくないようだ。仕方がないので、その子が今は危険だという事を話す。マルティネスに狙われるかもしれないと言うと、ビバルは息を飲んだ。そして観念したようにため息をつく。


「分かりました。そのかわり何を見たとしても絶対に驚かないでくださいね」


 静かにそう言われる。その目は真剣で、思わずエルナンはたじろいでしまう。


 何か大きな事が起こるような気がした。

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