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愛国妃  作者: ちかえ
第四章 家族編
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結界魔術2

第四章の「3」スタートです。

 マルティネスにはイライアをどうする気もなかった。


 エルミニアが処刑されたのは想定の範囲内だったからだ。別にマルティネスの心は痛まない。エルミニアなど愛してはいないからだ。利用出来たから使った。それだけだ。


 レトゥアナ王国の些細な情報をアイハに渡し、ついでに国王夫妻に軽い亀裂を入れればそれでよかったのだ。


 前者は彼女から送られてくる手紙である程度成功しているのが分かったが——とは言ってもそこまで重要な情報はなかったが——、後者はうまくいかなかったようだ。その証拠にイライアからレトゥアナでは幸せだという手紙が送られてくる。


 保存してある手紙の束から一枚の手紙を取り出す。珍しくイライアが社交辞令以外の事を書いて来た手紙だった。


 外国から送り込まれて来た間者兼暗殺者を処刑したという分かりきった手紙だ。ただ、『お父様の方もくれぐれもお気をつけ下さいませ』という一言からエルミニアの正体をイライアが知っているという事は分かった。


「報復するから気をつけろという事か。馬鹿が」


 冷たい調子で一人ごちる。そんな脅しをされてもマルティネスは怖くはない。大体、イライアはまだ二十一歳。マルティネスから見ればまだまだ幼いのだ。まあ、年齢差というものは縮まる事がないのでずっと恐れる事はないだろう。

 おまけに魔力のなくなった女を恐れるなどあり得ない事だ。そう考えると『魔力消しの儀式』というものは素晴らしい。


 ただ、イライアには怖がってもらわなければならない。あの生意気な小娘には。


 殺す気はない。ただ、剣を突きつけて脅した上で、マルティネスに、そしてアイハ王国に逆らわないように釘を刺さなければと考える。あの手紙が来てから数年が経っているが問題はないだろう。


 幸いレトゥアナの王城には何度か侵入した事ある。一番魔力があるのがノエリア王太后なのだから実力はしれている。


 精霊はとても厄介だったが、魔法でぼろぼろに傷つければ問題はない。大体、まだ傷は全然癒えてないだろう。ビバルを攫うとき、そしてエドゥアルド前王とセルジ王子を殺した時の二回苦しめたのだから。


 執務室の床に魔法陣を描く。短距離移動なら一瞬で行けるが、長距離となると魔法陣を使わないと行けないのだ。不便だと思う。


 もし、エルナンが自分の味方なら彼に連れて行ってもらうという手もあると考える。だが、すぐにその考えは捨てた。父親が息子に頼るなんて情けないことはしたくはない。それは王としてのプライドが許さない。


 魔法陣を描き終わりミスがないか確認する。数カ所誤字を発見して嫌な気持ちになる。自分はこんな術も簡単に出来ないのだろうか。舌打ちをして描き直す。


 二度目はうまくいった。よし、と小さくガッツポーズをする。そして陣を発動させた。


 しかし、マルティネスは転移する事が出来なかった。信じられないくらい強い力で弾き返されたのだ。


 しばらく呆然とする。こんな事は今までになかった。精霊の邪魔があった時でも、部屋に押し戻されるという事はなかった。


 気を取り直してもう一度陣を張る。そうしてもう一度発動させた。


 それでも同じだった。いや、同じではない。さらに強い力で押し返される。その勢いでマルティネスは壁に叩き付けられた。


 打ち付けられた背中が痛い。マルティネスは顔をしかめた。


 そんな最悪な時に、人払いしておいた侍僕がドアをノックしてくる。


「どうかいたしましたか、国王陛下!」

「何でもない! さっさとどっかに行け!」


 心配してくれる声が鬱陶しい。なので怒鳴りちらして追い返す。どこか無性に苛立つ。


 背中の痛みをこらえながら何が起こったのだろうと考える。


 可能性があるとすればノエリア王太后、そして精霊だ。


 だが、そんな事はあり得るのだろうか。ノエリア王太后、昔のノエリア・ウィレッツ公爵令嬢は魔力が少ないという事で冷遇され、魔力のないレトゥアナ王国に押し付けられるように嫁がされたのだという。そんな女がマルティネスの魔術を退けられるだろうか。


 精霊は傷つけたのであり得ない。ではこれは何なのだろう。


 あと魔力のある者はいないはずだ。ビバルがほんの少しだけ魔力を持っているが、それは外に出るものではない。魔石でも使わない限り、一生魔術は使えないだろう。大体、ビバルが微量の魔力持ちだという事をマルティネス以外の人間が気づいているはずがない。ノエリア王太后が気づいていたとしても、彼女が作る魔石でそんな大掛かりな魔術は使えない。大体、ノエリア自体があまり魔術を知らないだろう。


 イライアだって魔力を消されているのだから何も問題はない。イライアの魔力消しの儀式はきちんとエルナンが執り行ったはずだ。報告もきちんと受けている。


 そこまで考えて疑問に思う。普通、『魔力消しの儀式』というものは国王が執り行うものだ。よほどの事がない限り王太子(セドレイ)が執り行う事はない。


 ならば何故エルナンが儀式に関わってくるのだろう。


 ふと、とんでもない考えが浮かぶ。エルナンはイライアに甘い。そして今回の件もイライアにねだられたのではないか、と。


 だとしたらとんでもない事だ。


 こうしてはいられない。マルティネスは初級の治療魔術で申し訳程度に痛みを抑えると立ち上がった。そして床に魔法陣を描き始めた。魔法の準備もしておく。


「覚悟してろ、二人とも。ただではすまさないぞ」


 心の中にどす黒いものがもやもやと沸いてくる。そんな事はいつもの事なので気にしない。これは闇属性特有の感覚だ。今はそのままにしておいた方がいい。


 すべての魔術と魔法の用意を整えエルナンを呼ぶ。エルナンは疑いもせずのこのことやって来た。


 とはいえ、きちんと魔術に対して対策は施しているようだ。


「何のつもりですか、父上」


 厳しい声で聞いてくる。魔術と得体の知れない魔法の準備が万端のこの部屋が不気味に見えるのは当然の事だ。


「お前に聞きたい事がある」

「何でしょうか」

「一の……、いや、イライアの『魔力消しの儀式』について」


 エルナンが怯んだ。つまりそういう事なのだろう。マルティネスはすぐに魔術と魔法を発動させた。


 エルナンが『しまった!』という顔をするがもう遅い。闇の魔法が彼が纏っている結界を破り、魔術の蔦があっという間に彼の体を拘束し、体に魔法が流れ込んで行く。相当苦しいらしくエルナンは悲鳴を上げた。


 悲鳴がやむとエルナンの瞳の奥の奥がうつろになったように見える。尋問用の魔法だ。王家はアルチュレタ家と違ってこれの『魔術』に対しての知識はないが、『魔法』は代々の王に伝わっているのだ。


 この魔法を使うのは初めてだ。でもきちんと発動しているようだ。マルティネスは満足げに嗤った。


「エルナン・セドレイ・デ・アイハ。私の質問に全て答えてもらおうか」

「……はい」


 エルナンが静かに返事する。それとは逆に目は悔しさと怒りを滲ませている。


 いい気味だ。心の中でそうつぶやくと、マルティネスは質問を始めた。

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