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愛国妃  作者: ちかえ
第四章 家族編
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ビバルの帰宅

「おかえりなさい! ビバル様」


 イライアはビバルにかけよった。


 最近、イライアはビバルの前で気取った態度を取る事をやめた。ビバルも緊張感なく接してくれるようになったので、これでよかったのだろう。


「ただいま。どうしたんだ? イライア。久しぶりの兄君との再会なのに全然嬉しそうに見えないけど」

「お兄様とモニカに連日からかわれるんです。幼い頃のことで」


 正直に不満を訴えたのに、ビバルは何故か吹き出す。イライアはそんなに変な事を言っただろうか。


「いいではないですか、兄妹仲良くて」

「だからって……」


 イライアは拗ねて横を向く。


「イライア」


 その時、その意地悪な兄が声をかけて来た。ここは堅苦しい場ではない。プライベートな場所なのだ。もちろん、その場に兄がいる事も知っていた。だが、こういうタイミングで話しかけられると、ついびくりとしてしまう。


 イライアが内心びくびくしている間にビバルはエルナンと挨拶を交わしている。ビバルはしばらく留守にしていた事を詫びている。


 ふと、視線を感じる。そちらの方を見ると、ビバルがじっとイライアを見ていた。


「どうかいたしましたか?」

「あ……いや……何でもない」


 何があったのだろうか。よくわからなくてイライアは小首をかしげた。


 その後、サロンに移動し、三人でお茶をする事になった。


「それで、どうでしたか? ミュコスは」


 イライアの疑問に答えるようにビバルはミュコスの話を聞かせてくれる。食べた事のない果物や、アイハにもレトゥアナにもない習慣、そして魔術が使える事が当たり前の国の生活など、興味深い話がたくさん出てくる。


 ミュコスのシンガス家の当主は、今度はイライアにも来て欲しいと言っていたらしい。いろいろ落ち着いたら是非二人で行きたいねとビバルと言い合う。

 そして兄によると、兄や母にも来て欲しいという話があったらしい。ミュコスは最近、外交に力を入れているのだろうかと考える。別に悪い事ではないので問題はない。


 ただ、気になる事があった。


「それから……」

「どうしたんですか、一体?」


 兄もビバルの様子がおかしいと思っていたようだ。眉をひそめてビバルの話を遮る。どうやらご立腹のようだ。


 イライアも疑問に思っていた。普通に話しながらもイライアやエルナンの様子をちらちらと見ているのだ。今までのビバルにはない事だった。


「ビバル様、ミュコスで何かされたんですか?」

「いえ、そう言う事ではないんですが……」


 そういうビバルは歯切れがよくない。やはりどこかおかしい。


 ビバルは一つため息をついた。


「特に何もされてはいないんですが、この間から気になる事がありまして……」

「それをミュコスの旅路で思い出して、それから気になって仕方がないと?」


 兄がさらに眉を潜める。


「そんな言い訳が通じると思っているんですか?」


 エルナンに厳しい口調で言われ、ビバルは困ったようにうつむいた。


「実は……ミュコスで見かけた人の一人と、前にどこかで会ったような気がして……」


 それは変な話だ。それでどうしてイライアとエルナンの顔をじろじろ見なければいけないのだろう。


 そう尋ねると、ビバルは二人の顔を見ながら、思い出を反すうしていたと言った。


 まだ納得がいかないが、兄はそれで攻撃をゆるめた。


「その人がレトゥアナを観光しているところでも見かけたのでしょう」

「そうかもしれませんね」


 それでその話は終わる。そのまま、三人はまたミュコスの思い出話に戻って行った。



****


「本当に何があったんですか? ビバル様」


 イライアはビバルと二人きりで向き合っていた。


 ビバルが帰ってから二日経ったが、様子がおかしいのは変わらない。


 一番おかしいのが、今頃、イライアたち兄妹の事情を聞いた事をエルナンに詫びたという事だ。これは兄が呆れて報告してくれた。別にそんな事は気にしない、という事だったので、勝手に喋った事に対しての心配はなくなった。だが、その席で、やはりビバルはエルナンの顔をじっと見ていたらしい。何かを探るようだった、と厳しい口調で言われた。申し訳ないと思う。


「お兄様、怒っていましたよ」


 本当はそこまで怒っていなかったのだが、怒っていたという事にしておけと言われたのでその通りにする。そちらの方が聞き出しやすいからだ。


 もちろん、今は兄は同席していない。もし、アイハ側にもらしたくない事情があるなら、それは仕方のない事だからだ。兄もそれは分かってくれた。


「セドレイ・エルナンには悪い事をしましたね」


 ビバルはうつむいている。彼自身にも自分の行いが怪しいものだという事は自覚していたようだ。


「ビバル様が怪しげな行動をしなければよかったんです。気になった事があれば、それはそれで後で話せばいいのですから。あんな顔をじろじろ見なくても」


 きっぱりと言う。ビバルはさらにうつむいた。


「おまけに、お兄様にアイハでの事を話した事を教えてしまうなんて……。わたくし、お兄様から打ち明けられたとき、どう反応したらいいのか分かりませんでしたわ」


 ついでなので責める。ビバルはしばらく考え込んでいたが、急に真剣な顔をあげた。その勢いに、ついイライアはたじろいでしまう。


「確かめたい事があったんです。どうしても知りたい事があって……」

「ですからそれは何です? わたくしにも話せない事なのですか?」


 さらに追求すると、ビバルはため息をついた。そうして重い口を開く。


「あなたがあの件について嘘をついているのではないかと思ったんですよ」


 あまりの爆弾発言にイライアは何と言っていいのか分からなかった。

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