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愛国妃  作者: ちかえ
第三章 新しい侍女編
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閑話 甘いおねだり

この間のバレンタインに活動報告に出した番外編です。

いつもと違ってかなり糖分が多いです。ご注意を。

「やけにご機嫌ですね、イライア」


 どうやら書類に混じっていた手紙を読みながら口元がにやけてしまっていたらしい。


 でも、これが興奮せずにいられるだろうか。


「これを見てください、ビバル様!」


 手紙を突きつける。ビバルは呆れた様子で受け取った。そして、中身を読んで納得した表情をする。どことなく子供を見るような微笑ましい目に見えるのは気のせいではないのだろう。


「出来たんですね、『ショコラテリア』が」

「ええ!」


 声が跳ねているのがイライア自身にも分かった。


 ミュコスとレトゥアナ共同で作っている嗜好品用の魔力回復薬、ショコラ。それを提供する喫茶店、『ショコラテリア』が二ヶ月後に王都で開店するというのだ。イライアも事業に参加していたので、大体の様子は知っていたが、もうすぐ開店というのはやはり楽しみだ。


「では予定を開けておかなければいけませんね」


 どうせ開店祝い以外にも個人的に行くのでしょう、と言われ、目をそらす。よくわかっているようだ。


「ビバル様も一緒に行きますか?」

「はい?」


 つい、お誘いの言葉が口をついてしまった。でもそれを撤回する気はイライアにはない。それにこれはいい考えかもしれない。恋愛小説によく書かれている『デート』というものにイライアはずっと憧れて来た。『デート』というのは恋人や夫婦が二人きりで出かけて観劇をしたり、食事をしたり、お買い物をしたりするものらしい。小さい頃から楽しそうだと思っていたのだが、アイハでは実行出来なかった。でもレトゥアナでなら出来るかもしれない。ふいに口をついた言葉でも本心だ。このまま話を続けようと考える。


「ほら、この前、何でも一つ言うことを聞いてくれると言っていましたし」

「あ、あの……」


 ビバルは当惑している。それもそうだ。突然そんな事を言われたら驚く。それでもこの『お願い』は突然考えついたわけではない。ビバルとは個人的に出かけたいと思っていた。きっかけが『ショコラテリア』だっただけだった話だ。


「別に構いませんけど、どうしたんですか? そんな簡単なものでなくてもお願いなら聞きますよ」

「あら、このお願いでは駄目なのかしら」

「駄目ではないですけど……わかりました」


 ビバルは何故か小さく笑った。少しだけ威圧感を出したはずなのにおかしい。おまけに頭までなでられてしまっている。耐性がついてしまったのだろうか。



****


「いらっしゃいませ、国王陛下、王妃陛下」


 馬車の音が聞こえたのだろう。店の主人が出迎えてくれた。店は盛況していて、今もほぼ満席だと教えてくれる。


 予約した人しか入れない個室に案内される。ビバルが個室をとってくれたのだろうか。その気遣いに嬉しくなった。


 今のところ、メニューは一種類しかない。徐々に増やしていくという話だからそれも楽しみだ。


 ほどなくして、店員がショコラの入った広口のカップと、ビスケット、そして何種類かの果物を運んで来た。


 ショコラはどろっとした飲み物だ。だから、そのまま飲むのではなくディップソースとして活用する事にしたのだ。ちなみに、希望者には無料でお茶が一杯もらえる。イライア達もそうしてもらった。


 いつも通りに食前のお祈りをする。これはレトゥアナに来てからしている習慣だ。そういえばこれはビバルに言われて始めたのだ、ということを改めて思い出す。今ではお祈りをしないと落ち着かなくなってしまったのが不思議だ。


 イライアが最初にとったのはファラゴアだった。長いフォークを使って綺麗な赤色の果実をショコラに浸す。口に運ぶとまずほろ苦いショコラの香りが広がり、次いで、ファラゴアの甘酸っぱさが続く。


「美味しい」

「美味しいですね」


 自然と微笑む。それを見たビバルも微笑みを返してくれる。そのビバルはビスケットに浸して食べている。では、とイライアもビスケットを手に取った。ビスケット自体の甘みと、砂糖入りのショコラの甘みがいい感じに調和している。


 お喋りしながらゆっくり夫とお茶をする。それはとても贅沢な時間だ。そういえば、城でのお茶はノエリアと一緒か、寝る前のわずかな時間しかしていない。


「これから時々二人でお茶をしましょうか」


 ビバルも同じ事を思ってくれたようだ。その偶然の一致に心が温かくなる。


 最後のオブメーラには、残りのショコラをたっぷりと浸して食べる。それからお茶の残りを飲んだらお茶の時間は終わりだ。

 分かっていたが、とても名残惜しい。もう少しここにいたいと思ってしまう。


「また来ましょうか」


 ビバルの声に驚いて顔を上げる。彼は声と同じように穏やかな顔をしている。


「あの……」

「今度は私が誘いますからまた『デート』をしましょう」

「え?」


 思いがけない言葉に目をぱちくりさせる。ビバルは真剣な表情でイライアを見ていた。


「今まできつく当たって来て、本当に悪かったと思ってる。許して欲しいとは言わない。でも、これからあなたの事をもっと知っていきたいと思っている」


 その言葉に恥ずかしくなってうつむく。


「はい、ビバル様。わたくしもビバル様の事、もっと知りたいです」


 そっと軽い口づけをかわす。まだ始まったばかりのイライア達にはこれが精一杯だった。


「それにしても気づいていたんですね、これが『デートのお誘い』だったって」

「そりゃあ、あんなに顔を真っ赤にさせていたら分かりますよ」


 とんでもない指摘をされ、イライアの顔はまた赤くなってしまったのだった。

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