ミニィの動き
第三章の「7」スタートです。
カティアがドアをノックしている。
「ミニィ、大丈夫なの?」
心底不安そうに聞いているが、ミニィは部屋から出て来られない。もう三日間こんな感じだ。
「咳止めの薬と食事、ここに置いておくからね」
カティアは、今、ミニィと同室ではない。ミニィが『ひどい病気にかかっている』ので一時的に部屋を変えている。
「ご、ごめんなさい。ありがとうございます」
ミニィは大きな咳とともにそう答える。
カティアが遠ざかるのを音で確認すると、エルミニアはそっと扉を開き、きょろきょろと辺りを見る。そして誰もいないのを確認してほっと息をつき、食事のお盆をとる。きちんと食事はとらなければみんなが心配するので仕方がない。王妃がいれば、中に何が入っているか心配になるが、今、あの女はいない。
だったら一体これはどういう事なのだろう。
マルティネスからもらっている魔石のストックが切れてしまったのだ。計算して使っていたはずなのにいつの間にか全部使ってしまったようだ。これではマルティネスへの手紙も送れない。そして『ミニィ』にもなれない。これからずっとこの姿なのだ。それは困る。
あの王妃が何かしたのだろうか、と考える。でも、今は彼女は旅行中だ。国王を連れて行かれたことは本当に痛かった。本来なら、この間に強い毒を使って彼を殺すつもりだったのだ。その毒も事前にマルティネスに送ってもらっている。王妃には知られていないはずだ。なのに、どんな甘え方をしたのか、国王はいつのまにか王妃の旅行について行くことになってしまった。
『一人で旅行なんて寂しいですわ。ついて来てくださいませ、ビバル様』と潤んだ瞳で国王にすがる王妃の姿を想像して眉をひそめる。おまけにあの国王はうぶに見えた。あの晩酌の時のように王妃の甘い誘惑にさっさと乗っかってしまったのだろう。
悔しさを噛み締めながら薄味のお粥をすする。病人なのでこういう食事が出てくるのだ。配慮されているのだろうが物足りない。まあ、燻製肉や香味野菜などの具はきちんと入っているが。
あの王妃をどうしてやろうか、と考える。大体、彼女はエルミニアの邪魔ばかりするのだ。もしかしたら魔石も王妃が勝手に旅行に持って行って何かに使っているのかもしれない。あれはエルミニアのものなのに、と悔しくなる。
あっという間に食事を終え、ため息をつく。このままでは王妃が帰って来てしまう。なんとかあの女を苦しめる方法を考えなければいけない。もう王妃の高笑いがここまで聞こえてくるようだ。
あの女が貫通でもして国王に愛想でもつかされればいいのにと思う。だが、彼女はそんなそぶりは見せない。
だったら自分がきっかけを作ってやればいい。ふとそう思いつく。
どうして今までこんなことを思いつかなかったのだろう。おまけにこの国では、エルミニアは『ミニィ』としての姿は知られているが、『エルミニア』の姿は知られていないのだ。もしかしたらモニカ・アランバリが知っているかもしれないが、彼女は王妃の旅行の間は裏方に回されてしまっている。きっと動けないだろう。知られることはない。
そうと決まったら下男にでも王妃を襲ってもらおう。
エルミニアは再び扉を開け、誰もいないのを確かめてから外に出た。
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モニカの報告を聞いて王太后はため息をついた。
「王妃を襲わせようなど、なんて野蛮な……」
「まったくです」
モニカは彼女に同意する。本当に腹が立つ。彼女は『一国の王の貫通相手』なのにどうしてここまで偉そうに出来るのだろう。
「それで? その使用人はどう反応したの?」
「最初は嫌だと言っていたのですが、エルミニアが王妃の命令だと言うと、顔色を変えて、了承の返事をしておりました」
「なんてこと……」
王太后がふらりとよろめいた。
「王太后殿下、『ふり』です! 『ふり』!」
王太后を支えながら慌てて訂正する。イライアをあんなに大事にしてくれるこの女性を苦しめる気はない。
使用人達は本当に了承をしていないことは、『王妃の命令』だと聞いた時に一瞬だけ眉をひそめたこと、その後の三人での緊急会議からもわかった。彼らは信じたふりをしてこっそりと王妃に忠告する、と言っていた。
きちんと説明をすると、王太后はやっと落ち着いたようだ。
「ごめんなさいね、モニカ。こんな隠密のようなことをやらせてしまって」
「イライア様のご命令ですから」
わざと『王妃陛下』ではなく『イライア様』と言う。それは王妃という身分ではなく、イライアという人間に仕えていることをきちんと示すためだ。王太后もそれが分かったようで微笑みで返してくれる。
「王妃陛下にはすぐに早馬で知らせます」
「待って、モニカ」
すぐにでも駆け出さんばかりのモニカを王太后が止める。モニカは訝しげに眉をひそめた。
「私にいい提案があるのよ。味方は多い方がいいでしょう?」
王太后はそう言って茶目っ気たっぷりに笑った。




