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愛国妃  作者: ちかえ
第三章 新しい侍女編
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侍女の怒り

「何なの、あの子!」


 セリナは侍女の控え室で、親友で同僚のルシアに怒鳴った。


「何? それはミニィの事?」


 名前を聞いてセリナの機嫌がさらに悪くなっていく。


「落ち着きなよ、セリナ。私に当たったってどうしようもないじゃない」

「だって……」


 怒らずにはいられないのだ。でも、今、一番苦しんでいるであろう王妃には聞かれるわけにはいかない。だとしたらここでルシアに言うしかないのだ。


「ミニィが何かしたの?」


 対するルシアは不思議そうな顔をしている。ルシアは晩酌に参加していないのだから当然かもしれない。ミニィが主にセリナ達を苛立たせるのは晩酌の場が多いのだから。


「あの子、陛下と王妃様の仲を壊そうとしているみたい」

「……は?」


 突拍子もない言葉にルシアがぽかんと口を開ける。


「時々、陛下と王妃様がお仕事の事とかで言い合いをされる事があるでしょ? 実はこの間もそういう事があったんだけど、その夜、あの子が陛下になんて言ったと思う? 『陛下、王妃様と喧嘩でもされたんですか? 大変ですね。王妃様は気の強い方ですものね。大変でしょう?』って。悲しそうな顔をしてるように見せてたけど、口がどこか意地悪そうに上がってた。あれ絶対わざとよ!」

「王妃様、よく怒らなかったわね」

「というか悪くなった雰囲気をおさめていたわ」


 ただ、椅子の上に乗った拳が震えている事で王妃が怒っているのはよくわかった。幸い国王が人の悪口を言うのはいけないとミニィを叱ったので爆発はしなかったが。


 おまけに最近、ミニィの王に対する態度が誘惑をする娼婦のようなのも気になる。やたらボディータッチをするのだ。子供とはいえ、もうすぐ成人の女性がする事ではない。

 ルシアもこれを聞くと眉をひそめた。


「わざとなのよね?」

「わざとに決まっているでしょう? おまけに影で貴族ではない侍女に嫌みを言ってるみたい。こないだクララが泣いていたわ。カティアも困ってるみたい。注意しても『庶民が』って馬鹿にされて聞いてくれないって」

「それは……」


 ルシアが唖然としている。当然だろう。きっとクララやカティアから話を聞いた時のセリナも同じような顔をしていたのだろう。


「大体、王妃様の悪口を言うなんてあり得ないでしょ。確かに厳しい所はあるけど、それはしっかりしているって事でしょう。お茶目な所もあるし。それをあの子供は……」

「だから落ち着きなよ、セリナ。私に言うより、本人に注意すればいいじゃない」


 それもそうかもしれない。だが、セリナも貴族出身ではないのだ。全く聞かないかもしれない。


「ていうか知ってるの? あの子が王妃様の事を影で……」

「あらあら。こっちも怒っているの? 仕方のないこと」


 突然聞こえて来た第三者の声に二人は慌てて振り向いた。そしてそこにいる人物にまた驚く事になった。


「お、王妃様!」

「噂話をする時は周りも確認なさいね。それか施錠するか」

「ご、ごめんなさい」

「ごめんなさいじゃないわ。探したのよ。休憩中に悪いとは思ったのだけど、緊急の仕事があって、わたくしが直接お願いした方がいいと思ったの」


 どうやら、二日後に迫っている孤児院巡りの旅に国王がついて行くとごねたらしい。それでルシアかセリナに準備を手伝ってもらいたいのだと王妃は言った。


「このあいだ少しだけ信用を失ってしまったから監視のためかもしれないけど……こんな急に言われても困るわよね。もう少しはやく言ってくれないと。いろいろやる事もあるのに。あーあ。お仕事が増えちゃったじゃない」


 そう言っている割には王妃の口元が緩んでいる。仕事とはいえ、夫と旅行出来るのが嬉しいのだろう。

 これはセリナ達も嬉しかった。監視と言っているとはいえ、この旅で国王夫妻の距離が近づいてくれるといい、と願っているからだろう。


「でもエステル様はどうなさるのですか? セルロールス領まではご一緒するんですよね」

「ちょうどエステルと話している時にビバル様が話をしに来たからエステルも知ってるわよ。『チャンスよ。頑張って!』ってなんて言われちゃったわ」


 どうやらエステルも、セリナ達と同じ考えらしい。いい傾向だ。


「そういえばセリナ、さっき話していたのは『アイハの女狐』とかいうあだ名の事?」


 さらりと言われ、セリナの顔が引きつる。ルシアも息を飲んでいる。


「王妃様、知っていらしたのですか?」

「だってそこら中で聞こえて来るじゃない。むしろわたくしが知らないと思っている方が不思議だわ」


 平然という王妃に唖然とする。そんなあだ名などまったく気にしていないように見える。セリナだったら影で泣いてしまいそうなあだ名なのに。


「やっぱり出所はミニィ・ラストラなのね。分かってよかったわ。ありがとう、セリナ」

「怒ってないんですか?」

「変なあだ名をつけられた事? いいえ。だってわたくしだってアイハでは気に食わない侍女の事をこっそりあだ名で呼んでいたもの」


 ルシアが珍しくぽかんと口を開けている。確かにしっかりしているように見える王妃がそんな子供っぽい事をするなんて信じられない。

 そんな侍女の様子を王妃は楽しそうに見ている。


「まあ、その事は旅の途中でゆっくり教えてあげるわ。それより出発まで時間がないの。準備を手伝って頂戴」

「はい!」


 国王夫妻の旅の支度なら喜んでする。セリナは元気に返事をした。

これで第三章の「4」は終了です。

次から第三章の「5」がはじまります。

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