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愛国妃  作者: ちかえ
第三章 新しい侍女編
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手紙は誰の手に

第三章の「4」スタートです。

 ミニィ・ラストラは、いや、エルミニア・エチェバリアは、侍女の部屋の机に向かっていた。


 カティアは、今、お湯を使っている。自分より優遇されているカティアは憎たらしいが、手紙を書けるのでよしとする。なにせ四六時中一緒なのだ。もしかしたら見張っているのかもしれない。おかげであまり報告の手紙が書けなかった。マルティネスもさぞかしやきもきしているだろう。


 とりあえず今はいないのでさっさと用事を済ませようと決める。


 もちろん宛先は愛する恋人だ。不倫は宗教に反するかもしれないが、そんな事はミニィには関係がなかった。便せんと封筒はレトゥアナでもらったものを使う事にした。何故かこの国の侍女にはそういう物が給付されている。侍女の中には庶民もたくさんいるのに不思議だ。


 まずは長い恋文を書いた。思っている事を書けばいいので問題はない。本当ならこれの倍は書きたいくらいだ。力強く、立派な王の事をエルミニアは本気で好きだった。あの邪魔なアルチュレタの女がいなければ、自分が妃になっているだろうに悔しい。同時に彼女の血を引く三人の子供達も嫌いだ。病弱のくせに偉そうにしている王太子(セドレイ)エルナン、何も知らない無邪気で愚かなフローラ王女、そして高慢ちきなイライア王女。


 三人の顔を思い浮かべると腹がたつ。おまけに、今、イライアはレトゥアナ王国の王妃として『ミニィ』に厳しい事ばかり言ってくるのだ。


 そんな事を考えていたら筆が止まってしまった。急いで書かなければカティアが戻って来てしまう。


 つい、『こんな寒い日はマルティネス様の温もりが恋しいです』と書いてしまった。マルティネスは引いてしまうだろうか、と心配になる。だが、本当の気持ちなのでそのままにしておいた。


 恋文を書き終え、用件に入る。マルティネスに命じられた、ビバルに毒を盛る話だ。


 エルミニアは焦っていた。どれだけ飲ませても、ビバルに毒の効果が出て来ないのだ。そろそろめまいくらいの症状が出てもいい頃なのに不思議だ。一緒に飲ませているイライアも同じ。今日も毒入りの飲み物を二人に給仕したのに、どちらも平然としてそれを飲んでいた。


 本来なら、イライアから『陛下の体調が良くないの』と相談され、薬と称して彼女の手で毒をもらせる予定だったのだ。そうしてイライアも一緒にそれを飲み、二人で朽ちていく。そういう作戦だったのだ。


 もしかしたら二人とも毒に耐性を持っているのだろうか、と考え、あり得ないと思い返す。ビバルもイライアも第二子だったのだ。そこまで気をつけられてはいないだろう。とりあえず、もっと強い毒薬を送ってくれるように頼む。


 イライアを毒殺しようとしている事はエルミニアは書かなかった。それは命令されていない事だし、エルミニアが個人的に王妃を嫌ってやっている事だからだ。


 本当はビバルだけを殺すつもりだった。なのにあの王妃は『ミニィが心配なのよ』などと言って、お酒も飲めないくせに晩酌に加わったのだ。おまけに初日に給仕をさせてくれなかった。そして晩酌の時はよく目が合うのだ。


 王妃は気づいているかもしれない。そう思ったら毒を入れざるをえないのだ。まあ、マルティネスもあの少女を嫌っているからあまりお咎めはないだろうと思っている。


 とりあえず、王妃には注意しなければいけない事は記しておいた。


 国王夫妻の仲も壊した方がいいだろうか、と考える。とりあえずこの城にイライアの悪口を吹き込んでいる。それを知ったら、あの憎たらしい少女はどうするだろうと考えるとワクワクして来る。


 そういえばあの王妃は数日後に孤児院巡りの旅へ行く事になっている。これも書いた方がいいだろう。ビバルをどうにかするためにはこの好機を逃すわけにはいかないのだ。


 それから何を書こうかと考え、そういえば変化の術や手紙送信に使っている魔石が後わずかだった事を思い出す。送ってもらわなければいけない。『エルミニア』の姿はビバルも知っているのだ。忘れてるかもしれないが、元の姿に戻るわけにはいかない。アイハにいた頃、侍女としてビバルとは接している。


 きちんと送ってもらうために城の簡単な地図を書き、部屋の位置を教える。とりあえず養父という事になってる貴族の名前を表には記して欲しいとも書いた。


 最後に『あなたを心から愛する エルミニア』と書き、ペンを置く。いいタイミングでカティアが戻って来た。そろそろ就寝時間だから急ぎなさい、と言われ、うなずく。


 お湯を使う前にどこかに隠れて手紙を送らなければいけない。エルミニアはこっそりと懐に魔石と手紙を入れて部屋を出た。


 中庭の隅にいい場所がある事をエルミニアは知っている。そこに行く廊下を歩く。


 どこかで笑い声が聞こえたような気がして、驚いてあたりを見る。誰もいなかった。どうやら気のせいらしい。


 廊下を進む。ずいぶん歩かされているのにエルミニアは気づかない。どこか甘い香りがする。


 ゆっくりと、ゆっくりと、エルミニアの意識は途切れていった。



****


 優しい声が聞こえて来る。


「いい子ね、ミニィちゃん。目を開けてくれる?」


 その声に導かれるように目を開いた。美しい紫色の光が見える。


「いいこと? あなたは手紙を送ったのよ。任務は完了したの」


 そうだ。自分はきちんと手紙を送ったのだ。きっとマルティネス様も喜んで下さる。


「さあ、朝までおやすみなさい」


 そうしてエルミニアの意識はまた途切れる。


 目の前に憎たらしい『王妃』が不敵な笑みを浮かべて立っていることも知らずに。


 そして、今は彼女の手に手紙が渡ってしまっている事も知らずに。

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