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愛国妃  作者: ちかえ
第三章 新しい侍女編
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記憶喪失の少女

第三章「新しい侍女編」スタートです。


第三章の「1」です。

 南西の地方の領主であるラストラ卿が養子の少女を連れて謁見に来たのは、兄達がアイハに帰ってから四ヶ月ほど経った秋の半ばだった。


「お初にお目にかかります、国王陛下、王妃陛下。ミニィ・ラストラと申します」


 貴族令嬢らしく、きちんと挨拶は出来るようだ。


 ラストラ卿によると、その少女は、海の側の街で倒れている所を、その土地の住人に助けられたのだという。そしてその少女は、『ミニィ』という名前以外、何も覚えていなかったのだという。医者は、辛い事があったか何かしたせいで記憶を失っているのだろうという診断を下したのだそうだ。


 普通ならそういう子供は孤児院行きなのだが、孤児院は十五歳までしか受け入れていない。十四歳という中途半端な年齢だったので、判断に迷って孤児院長は管理者である領主に相談した。そこで子に恵まれない領主夫妻は、これも何かの縁だと、その少女を自分の娘として引き取る事にしたのだそうだ。


 そして今日、ラストラ卿が彼女を連れて来たのは、そろそろ行儀見習いをさせたいので、王城で侍女として預かって欲しいというお願いだった。


「そういう事でしたの。でも、家族になったばかりなのに、一年も経たないうちに離れるなんて寂しくありませんこと?」


 動揺を隠しながら、イライアはラストラ卿に尋ねる。


「もちろん寂しいですよ。それでも娘が成長して帰って来てくれたら親としてこんなに嬉しい事はありませんからね。陛下も知っての通り、私には跡継ぎがいなかったので……」


 隣でビバルが目頭を押さえている。ミニィとラストラ卿に同情してしまっているのだろう。この様子だとミニィを侍女として雇うのは決まったと言ってもいいだろう。


 それでもイライアは少しくらいはごねたい。


「本当に記憶喪失なんですの?」


 そう尋ねるとミニィが怯えた表情をする。


「ほ、本当です!」


 ぽたぽたとわざとらしい涙を流しながら必死に訴える。泣くのがはやい。悲しくないのに涙が出るのは凄いと思うが、嘘泣きにしてはわざとらしすぎる。この女は愚かなのだろうか。実際に愚かなのだろう。


「信じて下さい、王妃様! 本当に何も分からないんです!」

「でも自分の名前は分かったのよね?」


 さらに追求すると、ミニィはその場にしゃがみこんで大泣きを始めた。


「王妃」


 ビバルが咎めるような声を出す。明らかに嘘泣きなのに解せない。とりあえず戦闘態勢は引っ込める事にする。


「ごめんなさいね。いろいろあったから確かめずにはいられなかったのよ」


 ミニィは顔を覆っていた手を外して不安そうにイライアを見る。


「十四歳の女の子に対する態度ではなかったわね。ごめんなさいね、ミニィさん」


 にっこりと微笑みかけると、ミニィは安心したように涙をハンカチで拭き、イライアを見た。分かっていたが、目の奥に嘲りの光が見える。


 腹が立つ。だが、それを見せないようにしなければいけない。舐められるわけにはいかないのだ。


「これから大変だと思うけれど、頑張って頂戴ね、ミニィ」

「はい、頑張ります、王妃様」

「ミニィ、こういう公式の謁見の時はビバル陛下の事は『国王陛下」、わたくしの事は『王妃陛下』とお呼びなさい」


 イライアはさっそく『厳しい王妃』らしく、ミニィを叱り飛ばした。



****


 初日の仕事が終わり、ミニィはぐったりとした体をベッドに横たえた。


 あの王妃は人使いが荒い。はやく慣れなくては、という言葉と共にさっそく侍女達に紹介され、初仕事までする事になってしまったのだ。


 もしかしたら嘘泣きに気づかれて最初の印象が悪くなっているのかもしれない。


 養父である貴族は、王妃の『ミニィはきちんと立派な貴族令嬢にしますから安心して下さいね』という言葉に満足して帰ってしまった。


 でもそんなに得意そうにしているのも今のうちだ。すぐに王妃は、悲しみ、戸惑い、ミニィに助けてとすがるはずである。そうすればこっちのものだ。


 その為には短期間で任務を終わらせてしまわなければいけない。そうすればミニィが愛するあの人も喜んでくれるだろう。


 とはいえ、今は油断できない。まだ王妃がミニィを疑っているのはよくわかる。見習いと称して下働きに近い仕事をさせている事がその証拠だ。


 それに。


「おつかれさま、ミニィ」


 問題のルームメイトが入って来た。王妃は意地悪にもミニィを『二人部屋』に押し込めたのだ。おまけにそのルームメイトは平民出身の女。信じられない、と思う。


「おつかれさまでした、カティアさん」

「大変だったでしょう?」


 本当に大変だった、と言いたかったがぐっとこらえる。きっとこの女はこれから王妃の命令でミニィを監視してくるのだろう。


「お湯、先に使っていいわよ。さっさとすまして明日に備えなさいね」

「はい」


 当たり前だ。自分は貴族で彼女は平民なのだ。ミニィが先にお湯を使うのは当たり前ではないか。


 どうして自分がこんな平民の女にへこへこしなければいけないのだろう。元いた所では皆が自分に頭を下げていたというのに。


 とにかくこの女は真っ先に懐柔しなければいけない。それでなければミニィは動けない。


 これからはいろいろな仕事が待っている。ミニィはそれに備えなければいけないのだから。

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