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愛国妃  作者: ちかえ
第二章 レトゥアナ嫁入り編
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精霊対策

「精霊? この国に精霊がいるんですか?」


 ビバルがお茶請けのビスケットを食べながら訝しげな声をあげた。


 まあ、魔力を持っていない人間の反応なんてこんなものだ、と分かっているイライアは無言でティーカップを口に運ぶ。


「イライアには見えるのか?」

「ええ」


 即位式で光の粉の祝福を受けていたのに見えなかったのだろうか、と不思議に思う。


「即位式の時に神殿にいましたよ。気がつきませんでした?」

「魔力のない人には姿どころか祝福の光も見えないわよ」

「え!?」


 ノエリアが教えてくれたとんでもない真実に、イライアはつい大声を出してしまった。


「ではあの光は皆様どうやって認識しているのですか?」

「宰相に聞いたんだけど、新国王が皆の前に立つ時は妙に神々しく見えるそうよ。私もそう。エドゥアルドの時もビバルの時も『ああ、この方が今日から私たちの王なのだ』って思ったわ」


 やはりそうか、と納得した。イライアもあの時同じ事を思った。なのでそう伝える。


 ただ、ビバルはそれより前から十分に威厳が見えていた。きっとそれは彼自身の魅力なのだろう。だが、そんなことは恥ずかしくて言えない。


「それで? その精霊に何かあったのですか?」


 何も知らないビバルが疑問に思うのも無理はない。なので今までにあった事を説明する。ただ、この間イライアが倒れた原因が、精霊に魔力をあげすぎて魔力枯渇を起こしたからだというのは隠した。


 ビバルは、何故洞窟の中がいつも明るいのかやっと分かったようだった。鈍いと思う。


 ただ、精霊が傷ついていると聞いたときは悲しそうな顔をしていた。とは言っても、イライアは今の状態しか説明していないが。


「どうして、そんな事に……?」

「侵入者に抵抗して返り討ちにされたんだと思います」


 いつ、とは具体的に言わなかった。でも、ノエリアとビバルは正確に理解したようだった。


「守ろうとしてくれていたんだな」


 ビバルがうつむいている。ノエリアが優しく彼の肩をぽんぽんと叩いている。ここに入り込むのはさすがにまずいので静かにお茶を飲む事にする。


「だから、今度は私たちが苦しんでいる精霊を助ける番だと思うのよ。イライアも同じように思っているみたい」

「本当か? イライア」

「ええ。よく会っている馴染みの子達ですし、わたくしは彼らも立派な『国民』の一部だと思っていますの」


 イライアの返答にビバルは明らかに驚いた表情で返す。あまりにも失礼だ。大体、ビバルだって戴冠式の日に『これからはレトゥアナ王国の王妃として生きろ』と言ったのだ。イライアはその通りに生きているだけなのに、驚かれるのは心外だ。


「魔力回復薬は……無理よね」


 ノエリアの言葉にイライアは頷いた。


「一度差し出してみたのですが、みんな嫌がってしまって……」


 原因は勿論わかっている。味だ。イライアだってよほどの事がなければ、あんなものを好んで摂取したいとは思わない。


「魔力回復薬とは何だ?」


 不思議そうに尋ねて来るビバルにノエリアが無言で回復薬を差し出す。これは魔力がない人間が食べても問題はないものからイライアは止めない。


「ぐ! な、何だこれ!」


 やはり苦かったらしい。ビバルはそこにあったお茶を一気に飲み干す。


「イライアは食べた事があるのか?」


 ビバルが尋ねて来る。結局、口直しにお茶を三杯飲んでやっと落ち着いたようだ。


「ありますよ。アイハにいた頃、お兄様によく摂取させられましたから」


 この間倒れてから、時々ノエリアに摂取させられているのだが、言わないでおく。


「エルナ、セドレイ・エルナンか。そういえば近いうちに来るよな。その時に相談してみるか。マルティネス王は信用出来ないが、彼なら大丈夫だと思う」


 ビバルが提案するが、それは悪手だ。確かにエルナンの治療魔法なら一発で全員が元気になるだろう。それでもそうしたら危険だ。


「精霊は恩を受けた者を絶対に忘れません。最悪の場合、お兄様の治世になったら、レトゥアナはアイハに逆らえなくなりますよ」


 本当に侵略されたくないのだろうか、と心配になる。大体、ビバルこそ、兄に恩を受けた事で、全面的に彼を信用している所がある。


「だからお兄様は最終手段にしましょう!」


 イライアの勢いに若干引き気味でビバルが頷く。


 よかった、と思う。国の事は別にしても、これ以上兄に借りは作りたくない。


「イシアルに相談してみましょうか? 私の母国だし、学園の魔術科なら精霊の研究もしているでしょう。いい魔力回復の方法を知っているかもしれないわ」


 確かに学園都市であるティーズベリーを首都に持つイシアル王国なら何か助けになるかもしれない。そして目の前にいる義母はイシアル学園の卒業生だ。彼女は魔術科出身でないが、それでも相談くらいは出来るそうだ。


 結局イシアルに助言を求めるという事に決まり、休憩は終わりになった。三人は仕事に戻る。と、言っても休憩も結局会議のようになってしまったが。


 イライアが国営の孤児院についての書類に目を通していると、ノエリアが小さく『あ……』とつぶやく声が聞こえた。ビバルにも聞こえたらしく同時に顔を上げている。


「お義母様?」

「母上? どうかしましたか?」


 ノエリアが見ている手紙に何かあったのだろうか。もし、悪い手紙だったら何とかしなければいけない。


「イライア、そうじゃないのよ。ちょっとこれを見て頂戴」


 イライアが手紙に魔力解析の術をかけているのに気づいたらしいノエリアが苦笑する。


 とりあえず渡された手紙に目を通す。そうしてイライアも『あ……』と小さく声をあげた。


「すっかり忘れてたわね」

「盲点でしたね」


 義母と二人でそう言い合う。


「イライア? 一体どうしたんだ?」


 すっかり置いていかれているビバルが話しかけて来る。だからイライアもビバルに手紙を渡した。


 ビバルは静かに手紙を読む。そして何かを考え込み、はっとしたようにまた手紙を見る。その動きについ笑いそうになったがこらえた。


「ミュコス国か」


 ビバルの言葉にイライアは頷く。


 手紙はミュコスのシンガス家の当主から、近々、新しい国王の即位と、国王夫妻の婚姻のお祝いに訪れたいというものだった。


 レトゥアナ王国の東隣にあるミュコス国は魔術国家だ。国民全員が魔力を持つらしく、この世界で一番魔術が発展している国だ。例の魔力回復薬も元々はミュコスからもたらされたものだ。


 そんな国の事をどうして忘れていたのだろう。それでも思い出したのだからいい。それに、近いうちに向こうから来てくれるというのだ。この好機を利用しなくてどうするのだ。


「では、早速返事を書くわね。精霊の事も相談しておくから」

「よろしくお願いします」


 よかった。イライアは素直にそう思った。

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