表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/89

第2話 とまどいの気持ち〔2〕



 お兄ちゃんと初めて一緒に出かけて、今年初めての海を見た。

 夕方の海は空が少し赤っぽくて、光が海に当たってキラキラして、すごくきれいだった。


 今日のこんな景色も、離れてもずっと忘れられない思い出になるんだって、そう考えると嬉しいけど。

 ……同時に少し、さみしくなった。



 ◇ ◇ ◇



 少しだけ、体の調子が悪かった。昨日、濡れて帰ってから、のどが少し痛くなって。


 だけど、昨日お兄ちゃんが誘ってくれたから、今日だけは何があっても元気でいなきゃいけなくて。

 学校ではちょっと辛かったけど、お兄ちゃんが迎えに来てくれて、車に乗ったらすぐに辛さなんて吹っ飛んで行った。

 大丈夫。だって、すごくうれしくて、ほんとに楽しくて。

 

 海に辿り着いたとたんすっかり元気を取り戻した私は、全速力で浜辺を目指す。

 砂の上に靴と靴下を脱ぎ捨てて、波打ち際までまた全速力。

 私はこう見えて、結構足が速い方なんだけど、今日はいつもよりも足が出にくかった。


 でもこんな楽しい時にそんなことは気にしないようにして、私はおそるおそる、海に足をつけた。

 冷たい。でも気持ちいい。


 後ろを振り返って「お兄ちゃん!」って呼んだら、お兄ちゃんが困ったように笑いながら私の所まで来てくれた。

 赤い空、海がきらきら光って。お兄ちゃんはそんな景色に溶け込んでいた。でも、存在感。

 目が離せなくなる。お兄ちゃんって、なんだか――


「芸能人みたい……」

「え?」


 突然の私の呟きに、お兄ちゃんの目が点になり、頭の上にはてなマークが浮かんで見えた。

 いけない。思ったことをそのまま口に出してしまった。


「お兄ちゃんも一緒に海に入ろうよ!」 


 ごまかしついでにお兄ちゃんを誘ってみるんだけど、「僕はいいよ」って断られてしまった。

 面白くない私は、不意打ちでお兄ちゃんの腕をぐいと引いた。


 油断してたらしいお兄ちゃんの足は、引っ張られたことで2、3歩進み、ジーパンごと海の中にざぶんと入った。

 すねの下あたりまで海につかり、みるみるうちに水を吸っていくお兄ちゃんのジーパン。

 してやったりという顔で、私はお兄ちゃんを見上げる。


 すると、ちょっと困った顔。こんな顔もするんだ。新たな発見。


「あんまり無茶しないようにね、美沙」


 そう言ったお兄ちゃんは私のおでこをこつんとしてから、海から上がり片方靴を脱いで、靴の中に溜まった水を流したりしている。

 お兄ちゃんの瞳の色が、数日前、初めて会った時よりも、優しくなっていた気がした。


 どうしてだろう。お兄ちゃんといると、うれしいだけじゃなくて胸が痛くなることがある。

 こうやってお兄ちゃんの存在が大きくなるほどに、辛くなることなんてわかってたのに。わかってるのに。


 とまどいの中、私はもう一度お兄ちゃんを見た。

 すぐに私の視線に気づいてくれるお兄ちゃん。なんだか、心の奥がつんとした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ