チートでぼっちな異世界ライフ
「私の世界、魔物が増えすぎてピンチです。貴方には魔物退治をしてもらいますが、『勇者コース』と『ぼっちコース』のどちらがいいですか?」
「『ぼっちコース』でお願いします」
女神さまとこんなやり取りをして、俺は異世界に来た。
拒否権?
無かったよ、そんなもん。
『≪属性魔法(初級)≫のレベルが上がりました』
『≪魔法剣(中級)≫のレベルが上がりました』
この異世界はスキルシステムを採用しているらしい。ゲームみたいな話だけど、俺の境遇も十分ゲームみたいな話だ。そんなもんだろう。
異世界人補正ってやつが貰えたようで、成長速度は正にチート。「俺TUEEE」を楽しんでいる。
俺の家は人里から200㎞ほど離れた、モンスターの住む森の中。
っても俺の家の周りには結界が張ってあり、モンスターは入ってこれないんだけどな。
『「牡丹鍋(極上)ができました』
『≪料理(上級)≫のレベルが上がりました』
基本的にイージーモードだから、毎日がレベルアップ日和で楽しい。
最初は苦労して倒していた近場のモンスターも今では楽勝になったし、最近は食生活が充実しているから幸せの度合いは天井知らずだ。
『≪農業(熟練)≫のレベルが上がりました』
『≪農業(熟練)≫のレベルが上限に達しました。≪農業(神業)≫に進化します』
食材は近くにある野草を交配して、自力で作った。
普通にやったら時間がかかるし安定しないんだろうけど、スキルがあるから何とでもなる。
穀物から香辛料まで、思いつくのは大体作った。特に頑張ったのは小麦。うどん用、ラーメン用、パスタ用、パン用、てんぷら用とかなり拘った。米? ああ、そっちは適当かなー? 俺、朝はパン派だし。
畑の土を確認する作業、楽しいです。鍬を振るう手にも力がこもるね。
『≪革細工(神業)≫のレベルが上がりました』
困っている事と言えば、倒したモンスターの素材が溜まりすぎた事かな?
勿体無いからって捨てずにいたら、倉庫をいくら増築しても追い付かないし。そもそもほとんど消費しないし。
だって俺、独り暮らしだよ? 毛皮300枚とか、なんに使うんだよって話。
『≪悪路走破(神業)≫のレベルが上がりました』
『≪気配察知(上級)≫のレベルが上がりました』
そんなわけで、異世界生活5年目にして街に行くことにした。
『≪交渉(初級)≫のレベルが上がりました』
『≪威圧(中級)≫のレベルが上がりました』
「どうじょ、お通り下ひゃひ」
「……初めから、素直にそう言えばいいのに」
数年ぶりの人里は、はっきり言って、ウザい。
会う人間すべてがそうとは言わないけど、こちらを騙して物を奪おうとする馬鹿が多すぎる。
無一文な俺は毛皮30枚を持ってきて、それを売ってお金にするつもりだ。
で、街に入ろうとしたら入街料を請求されたので、物納で入れるかと聞いてみた。そしたら「その毛皮なら、5枚だな」と言われたので脅してみたら、1枚でお釣りが出るとのこと。小銭欲しさに俺を騙そうとしたようだ。非物理的交渉術でなんとかした。しかもタダで通してくれた。ありがたやー。
「毛皮の買い取りなら、冒険者ギルドですね」
「そうですか、ありがとうございます。あ、これ、お礼です」
「これはご丁寧に……って、えぇ!?」
街の中で毛皮の取り扱いをしているところを親切な人に聞いて、冒険者ギルドで売ればいいと教わる。
感謝の言葉とともに、宝石の原石(親指大)を進呈。研磨前の原石なんだし、そこまで大騒ぎにはならないだろ。
俺はトテトテと冒険者ギルドを目指し、歩く。
「毛皮の引き取りですね。申し訳ありませんが、先に冒険者ギルドに登録をしていただけますか? 規則で、ギルド員以外からの買い取りは出来ないのです」
「そうですか。じゃあ、いいです」
「え? 手続きに時間はかかりませんし、その毛皮でしたら銀貨20枚で買い取りますよ!? 他で売ったら半値未満で買い叩かれますよ!」
「いえ。物の価値の分かる商人を探しますので。それでは、失礼します」
毛皮は売れなかった。
冒険者ギルドに所属すれば売れるのだろうが、アホらしいのでそんなことはしない。
よくあるテンプレに「自由人でいるため、冒険者ギルドに所属する」なんてのがあるけど、自由の為というなら所属しない方が良い。
所属してしまえば、ギルドの規則に縛られる。能力と所在を把握され、いいように使われるだろう。
だから俺は冒険者ギルドの建物から出て、商人たちが露店を並べるエリアを目指した。
『≪交渉(初級)≫のレベルが上がりました』
『≪嘘発見(初級)≫のレベルが上がりました』
「へぇ。これなら銀貨50枚は堅いね。でも、数が多いから40枚じゃないと買い取れないな。悪いね、こっちも手持ちが足りないんだ」
「冒険者ギルドだと銀貨20枚って言ってたのに……」
「それ、受付の嬢ちゃんだろ。あの子らは本職じゃないからね、何の毛皮か間違えたんだろ」
「そうなんですか。じゃ、30枚全部買い取ってください」
「毎度。銀貨1200枚分、大銀貨12枚な」
「ありがとうございます」
「いんや、俺もいい商売をさせてもらったよ」
商人何人かと交渉をしてみたけど、最初の数人は嫌な感じがしたので商談をあっさり打ち切って転々とした。≪嘘発見≫のレベルが上がる結果を考えれば、彼らの言葉の内容はお察しであった。
8人目で当たりを引き、迷わずそこで全部売却。数の多さを理由に値引きされたけど、大口取引なら多少の値引きは当たり前だ。まともな商人を探す手間を考えれば安い出費だろう。
そんなわけで俺は小金持ちになった。大銀貨がどれほどの価値を持つか知らないけど。
ここに来るまでにいくつか食堂を覗いてみたけど、自分で作った方が絶対に美味い。異世界で買い食いは止めておこう。
そうやって小銭を稼いだけど、使い道は無い。
そんなわけで、特に買い物もせず、俺は家に帰った。
『≪交渉(中級)≫のレベルが上がりました』
「≪目利き(初級)≫のレベルが上がりました」
「またよろしくお願いします」
「おー、よろしくなー」
あれから数ヶ月。
俺は何度も同じ商人の所に足を運んだ。
俺が街に顔を出すのは月に1回か2回。そのたびにモンスター素材の中でも数が多いものを換金している。
『≪初撃決殺(上級)≫のレベルが上がりました』
『≪無音攻撃(神業)≫のレベルが上がりました』
最近は俺の事を知った奴が増えて「おっさん、痛い目見たくなければ――」「おっさん、いい装備持ってるじゃ――」などと言う馬鹿が湧いているので即時駆除している。
中には貴族っぽいのもいたけど、俺の気にする事じゃないよな。
強盗死すべし。
容赦など要らないのだ。「いる」「いらない」なら逝ってしまえ。
それが正義なのです。
「モンスターの大軍が、大軍がこっちに向かって来てるぞー!!」
「冒険者はギルドに向かえーー!!」
いつものように交渉を終え、馬鹿の相手をし、そろそろ帰ろうかという所でモンスター襲撃イベントが発生した。
「そこの兄さん、冒険者だろ? 早くギルドに向かえよ」
「残念。冒険者登録していない、一般人だよー」
冒険者をやっていれば、こういう事に巻き込まれるのだ。
俺には関係ないので無視するけど。
「そんなこと言ってる場合か! あんた戦えるんだろ! だったら行けよ!!」
「はぁ。そう言われるのが嫌で、冒険者登録してないんだよ」
「おい! ちょっと待――」
「待たない。ばいばーい」
目立ちたくない。
人の柵に囚われたくない。
だったら、見捨てるしかないのだ。
中途半端にヒューマニズムを掲げるから、面倒な事になる。
クレバーというより冷血な判断だけど、ここで人命を守るために命を賭けるような奴ならそもそもぼっちライフなど選ばないのだ。
そういうのは、勇者コースを選んだ奴に任せてしまおう。
……行きがけの駄賃に、遠くから多少削るけどな。
襲撃イベントから約30日。
いつもの周期、いつものように街に入ろうとすると、門より少し離れたところで兵士に囲まれた。
リーダーっぽい、囲んでいる奴らの中ではちょっとだけ強そうな奴が俺に指さし、騒ぐ。
「先のモンスター襲撃の折、ギルドに来なかった罪で貴様を拘束する!」
「ナニそのいちゃもん。冒険者ならともかく、旅のパンピーがわざわざ行く訳無いし」
「嘘を吐くな! 貴様が戦える事は分かっているのだぞ! 商人に売っている毛皮、あれは自分で狩った獲物の物だと言っているのを周囲の者が聞いている!」
「戦えて、旅をしてれば冒険者? 馬鹿じゃね?
重ねて言うけど、冒険者じゃないし。登録しないとギルドに売れないから直接商人に卸しているんだよ、登録しているならギルドに売るっての」
「うるさい! 従わねば、この場で切り捨てるぞ!!」
「……へぇ。やるんだ。なら、俺も全力で殺すぞ? このクソ野郎ども」
ウザい連中が、無茶苦茶な理屈でこちらを害しに来た。
こっちの法律など知らないし、あまり興味も無い。街で生きるわけでもないから。
それでも最低限の礼儀を守るつもりでいたし、喧嘩を売られない限り大人しくやってきた。「話し合いは互いの利の為に」を実践してきた自負もある。
だが、「無法には無法を」も実践してきたんだぜ?
そうそう、ハムラビ法典って知ってるか?
「目には目を、歯には歯を」で有名な奴だ。
これ、何気に立場でレートが変わるんだよな。貴族が平民に対して何かしても、ワンランク罪を軽減するイメージ。逆に平民が貴族に何かしたら倍返し、みたいな?
じゃあさ。
俺にこいつらが喧嘩を売ったらどうなるか?
正解を知るためのお代は、お一人様に付き命一つでいいよー。
『≪殲滅魔法(神業)≫のレベルが上がりました』
『≪心神凍結(中級)≫のレベルが上がりました』
20人ほど、まとめて魔法で薙ぎ払った。
最初に喧嘩を売ってきた、リーダーっぽいのは外して。
リーダー(仮)はズタボロになり、ちびって腰を抜かしている。
俺の≪殲滅魔法≫は某巨神をイメージした、光線の魔法である。圧倒的エネルギーにより着弾点で爆発する。
リーダー(仮)を外しはしたけど、余波だけでも一気に重傷という訳だ。直撃した連中? 蒸発したけど、何か?
「これ、自衛だよね?」
「ひ、ひぃぃっ」
俺としては、近場の街が使えないのは痛い。
別に商売とかしなくても生きていけるんだけど、お金だって使い道が無いんだけど、こんな連中の所為でダメになるというのはなんか嫌だ。
という訳で、平和的に交渉だ。ラブ&ピース。スマイル有料(お代は命)で話し合いスタート。
5秒で交渉成立。
人間、話し合いで解決できることは話し合いで解決した方が良いと思う。
いきなり暴力とか、どこの野蛮人なんだか。
あ、交渉成立後、俺の魔法について話せないように≪精神支配≫しておいたけど何か?
「冒険者に、冒険者になって下さい~~」
「嫌」
街に入れば、今度は冒険者ギルドの職員(女)に泣きつかれた。
冒険者ギルドにはいればメリットもあるって言うけど、デメリットもあるだろうが。場所の報告とか、戦力の把握とか。で、何かあれば呼び出される。誰がなりたがる、そんな職業。一獲千金を夢見る英雄志願の若者ですね、分かります。
というか、俺、この街の住人じゃないし。普段、居ないぞ?
俺が冒険者ギルドに所属したくない理由を説明したら、マジ泣きされた。
そして集まる非難の視線。
知るか、俺には関係ないし。
「うぅ、せめて素材売却だけでもお願いします~」
「いや、買取拒否したのはそっちだろうが」
「特例、特例で! ちゃんと正規の値段で買い取ります!!」
「あと、俺は自分で加工したものを売ってるから、正確には素材じゃなくて商品なんだけどな」
「え゛?」
説明を聞くと、冒険者ギルドのモンスター素材が商人に売れなくなったというのだ。
俺が売っていた素材、この辺りで狩れるモンスターよりも結構強いモンスターから獲れる素材らしい。で、それがコンスタントに商人に売却されるとどうなるか?
答えは、駆け出しの冒険者がギルドに売る素材が、ギルドから商人に売れなくなる。中間業者を挟まない事で、下級素材と同じ値段で中級から上級に相当する商品が手に入る。そりゃあ売れないわけだ。
全く売れなくなったわけではない、売れ行きが悪くなっただけだ。それでも経営状態が悪くなり、上司から市場調査がされて俺に行きついたというカラクリ。
……これ、門の前で兵士に囲まれたの、こいつらの差し金じゃね?
「まあ、俺も商売してるわけだし? 相手がいるんだよね。
俺との取引を取り上げられた商人が、ちゃんと納得してくれるなら、ギルドへの売却もするけど」
「ふぇぇ~~ん!!」
俺が未加工の素材を渡しているなら加工賃を取る事もできるが、加工済みの商品を買い取るなら中間マージンは少なくなる。さらに商人への補填が加われば、現状維持と同じどころか赤字覚悟になりかねない。
つまり。
「このままじゃ、このままじゃ、またギルドマスターに怒られますぅ~~」
経営難のまま、何も変わらないという訳だ。
合掌。
なーむー。
あまりに哀れだったので、今度から未加工の素材を卸す事で冒険者ギルドと話を付けた。
数を用意するのが面倒だったので、俺的にもレアな素材を。
大量の加工品ってレベル上げの為に頑張った奴だけど、これって無限にあるわけじゃない。商人との取引を考えればこっちに手を出すわけにはいかない。
それにこれ以上荷物を増やすと面倒なんだよ。アイテムボックス的な魔法やスキルは今のところ手に入っていない。かさばるものを却下すると、この結果に結びつく。
目を付けられる?
うん。
実はそれを狙ってる。
兵士を動かしたのが冒険者ギルドなら、冒険者ギルドは敵だ。
餌を与えたので、こちらを食い殺せると思える戦力を揃えて奪いに来るだろう。
それを逆に食い殺して見せましょう。
相手の出す戦力は、きっと替えのきかない重要な駒。
それを叩き潰して反省を促そう。
冒険者ギルドが何もしないなら、それはそれで。
普通に共存できるだけの利性――じゃなかった、理性が有るのならいいのです。
ねーと思うけどな。けっけっけっ。
それから3か月後。
見事に冒険者(上位)が3PTほど釣れました。
俺と戦う前にモンスターの餌になりました。
で、今度は国が動きました。冒険者ギルドは国が運営していたらしいのだ。大軍で俺の家に攻め入ろうとしました。
やっぱり俺と戦う前にモンスターの餌になりました。
当たり前だ。
俺の家はぼっちコース仕様。
そもそも人間が来れない場所にあるのです。2~3人ほど、隠密能力に長けた人間を送り込むなら何とかなると思うけどね。
俺だって街に出られる実力を付けるために何年も頑張ったのだ。この結果は必定、そして当然なのです。
冒険者ギルドは後ろ暗い事がある為、俺に強く出れない。国も同じです。言いなりにするつもりは無いけど、街は普通に使わせてもらっている。
……つまらん。更に逆切れして自爆して欲しかったのだが。
後で知ったのだけど、他の国と国境が騒がしくなったらしい。で、これ以上俺に戦力を回すと危険なのだとか。
いや、そもそも俺に手を出さなければ問題なかったのだと、欲深な王様らは地方貴族からのバッシングを受けているようで。ざまぁ。
ま、被害は小さいけど酷い目に遭ったのだからこれで留飲を下げるとしましょう。
俺は寛大なのです。うけけ。
あ、勿論、冒険者ギルドへの素材売却などもうしないよ。当たり前じゃん。
「つーか本当にモンスターが多いんだな、この世界は」
俺は自宅でなんちゃってコーヒーを飲みながら、独りでぼやく。
国が俺を不可侵としたので、俺の周りは平和だ。
畑を耕し、モンスターを狩り、必要な物を作って、たまに街に行って素材を売る。そんな生活を繰り返している。
女神さまとの契約はしっかり果たしているので特に文句は言われない。
俺がこの世界に与える影響など、モンスターを狩っている事と、その素材を流通に乗せていることぐらい。いわゆる内政チートの類には一切手を付けていない。
この独り暮らしは気に入っているけど、俺が老人になって、戦えなくなったらどうなるか。
それを考えると、結婚も視野に入れるべきかと思……わない。
俺が死んだ後、ここがどうなるか分からない。それに、子供たちに孤独な生活を強要するようで、それは俺が納得できない。孤独な生活なんて、俺のように自分で選んでするべきだろう。
俺はあと何年、何十年生きていけるのかねぇ?
そんなことを気にしながら、今日もベッドで横になった。
お読みいただき、ありがとうございます。
連載は難しいので、展開早め・説明は最小限で書きました。
そのため描写不足な面が多々ありますが、仕様ですので諦めてください。
展開としては「よくあるスローライフ系を一気に読むとこんな感じ?」という流れにしてみました。
狙いが上手くいっていればいいのですが。
では、また別の作品でお会いできるよう、願っています。