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雪が、降っていた。しんしんと、静かにこの街を染めていく。今年は雪が積もる予報はないから、おそらく雪を見るのもこれで見納め、ということだろう。僕は窓をつ、となぞる。
喉につっかえがあるようで、咳が零れる。病院はひどく退屈で、することは本を読む程度。友人はいないし、仮にいたとしても僕がいる病院は知らない。
本来であればこの時期はもう大学受験で忙しい時期。早ければもう大学が決定している者もいるだろう。そんな時期に病院というのも、別に不思議ではなかった。来るべきものが来た、というだけ。
僕の体は、ついに他人から見ても危ないレベルにまでなっていた。だから、僕の保護者も僕を病院に入れた。憐れむような目で、彼らは泣いて謝った。だが、なぜ謝るのかは、僕にはわからなかった。
僕が入院したのはもう三か月前のことだ。夏と秋のちょうど境目くらいの時、僕は倒れた。そして検査の結果・・・・・・ということだ。
医者から告げられたのは、事実を半分ほど織り交ぜた慰めのような話。けれど、僕は分かっていた。それが気休めであり、僕はすでに治る見込みはないのだと。自分の身体だ、自分でわかっていた。もう、長くはないことも、来年、という言葉がないであろうことも。
死への恐怖や制への執着なんてものはない。淋しいとか、哀しいとかそんな気持ちも微塵もない。
僕はただいつか消えてしまうだろうこの雪のように、ただ静かに消えていきたいと願った。それが、ただ一つ残された僕の希望であった。
一度だけ、入院中養母が来て言ったことがあった。僕を心配して家を訪ねてきた「彼」の話を。
どうやら「彼」は僕の体のことを僕ほどではないが理解しているから、それで訪ねてきたのだろう。事実を話すわけにもいかないから、大丈夫だと説得して帰らせたようだ。
それは残酷だけど、彼のためだろう、と僕が理解を示すと、彼女は申し訳なさそうに目を伏せ、いたたまれない様子で病室を去った。
彼とは、気まぐれで関係を持ったに過ぎない。ただの好奇心だけの関係。彼が僕を好いているようだ、というのは目に見えて分かっていた。彼には申し訳ないことをしたが、やがて僕のことは忘れてくれるだろう。
少し変わった同級生に心ひかれた。なんてよくある話だ。恋に恋して、勘違いなんてこの年ごろにはよくある話で、時間とともにそれは現実に浸食されていく。物語は残酷で、だからこそ美しい。
思い出の中に、ほんの少しだけ、僕という存在の残滓が刻まれる。儚い雪のように、忘れ去られて、けれどときどき思い出す程度。けれど、それで僕は満足だった。
もう一度窓の外を見る。ずっと階下で、退院したのだろう男児が両親と楽しそうに手をつなぎ、はしゃいでいる。
ついぞ僕には見ることのできなかった風景だった。今、父はどうしているのか。母を奪ったこの「穢れた私」をまだ恨んでいるか。それとも認められない愛を未だ貫き、生きているのか、死んだのか。
いや、どうでもいいことだ。僕にとってそんなことは。
両の瞳から流れ出る、熱いものがハラハラと落ちる。
僕は静かに目を閉じて息を吸い、長い眠りに落ちていった。




