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四季は意に  作者: Λlice
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存在の不明瞭性

 目を開くことと、起きたと認識することのどちらを指すのかは分からないが、孰れにしろ私は一般に「起床」と呼ばれる行為を毎朝行う。それは物心ついたときから変わっていないことである。何も朝に起きる必要はないし、夜に起きて朝寝ても良いだろう。私が人間という生命形態をとっている以上は、夜よりも朝起きた方が生活にメリットがあるという理由により、私はこの習慣の継続を承認している。


 脳が覚醒してきたと認識できるほどには頭が回るようになると、私は上半身を繊維の塊から引き起こし、瞼を重力に逆らって上方に移動させる。目の前の光景はいつも見るもの。夜になると寝床に入って目を瞑り、朝になると寝床から出る。それを今まで何回繰り返したか分からない。いつもいつも、同じ繰り返し。


 私の前方約5メートル先にはバルコニーへの入り口がある。毎朝、私が上半身を起こすと必ず外の風景が見える。本によれば気候が一定の期間により変化する場所があるというが、この地域においては、私の認識できる範囲内では気候の明らかな変動は見られない。


 私の住んでいる建築物の一般名称は「城」というらしい。今私がいる部屋の床は大理石であり、この建造物を構成する材料の大半は砂と岩と少量の金属の合成物だろう。私の部屋の壁や天井も、後者の物質と類似している成分に違いない。


 私の部屋は大きさの割に物が少ない。縦3メートル程度の扉を開くと、まず目の前には大きな窓、そしてその下にはベッドが配置されている。右手にはバルコニーがあってそこからも風景が眺められ、その対面には小さな机と椅子がある。私は普段はそこで紅茶を飲み、記録を残している。今は卓上誌は閉じられており、黒い表紙が見える。その奥にはペンとインクがあり、その横には数冊の本と、ティーポットがある。机の右手にはクローゼットがあり、私の普段着や夜着が入っている。とはいえ、合計で上下それぞれ10着ぐらいしか入っていない。逆に机の左側には引き出しのついた収納具があり、以上三点は全て木製である。


 床に使われている大理石は白を帯びた茶色であり、白い線模様が至る所に見られる。天井や壁は落ち着いた茶色で、触れば岩の冷たさが伝わってくる。当然ながら壁はざらざらしており、手足をぶつけると怪我をするので注意しなければならない。私はこの大理石の冷たさを感じるのが好きで、この部屋ではいつも素足でいる。靴箱は入り口のすぐ横に置いてあるが、まだ三足しか空間を占めていない。


 どうやらこの城には確認できる範囲内では私を含め二人しか住んでおらず、また、私が今までこの世界で出会ったことのある人間は一人だけである。そして、私は今まで何度も数日かけて遠くまで出かけたことがあるが、人間に出会ったことはない。


 つまり、どうやらこの世界にはこの二人しかいないようなのだ。



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