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1.事実上の流刑

本来こういったジャンルのモノは読んだ事も書いた事もないのですが、気分転換にと始めてみました。したがって、投げ出す日も近い!?

完結まで続くことを祈りましょう(笑

八月十六日。それが全ての始まりだった。

小さな山の、ほぼ頂上にある日本家屋。その門の前に普通乗用車が一台止まり、中から一

人の青年が降り立つ。彼の名は深条 隼佳。現在大学一年生である。

隼佳は運転手と軽く挨拶すると、門に向かって歩き出した。彼の後ろで乗用車が来た道を

引き返していく。

隼佳はしばらくの間、門を凝視した後、おもむろに取っ手に手をかけると外側に戸を押し

た。

開かないし。

「・・・・・ん?」

オイオイおかしいな。隼佳は引っ張っていた小さなスーツケースから手を放すと全体重を

かけて重い門を押しにかかった。

やっとのことで門が僅かに開くと、隼佳はそっと手を放した。

瞬間、慌てて両手で門を抑えた。そういう仕組みなのか、又は壊れているのか、せっかく

開いた門の戸が侵入を許すまいと閉まりだしたのである。

隼佳は片手で戸を支えながら反対の手でスーツケースの持ち手を掴むと開いた戸の隙間に

スーツケースを押し込み、そのまま体を敷地内へと潜り込ませた。

息をつく隼佳の背後で門が音を立てて閉まった。

(まったくなんだよ・・・とんでもないなぁ)

隼佳はがっしりとした門を振り返り、内心溜息をついた。



手紙が来たのは二週間前、大学の夏休みが始まってすぐのことだった。

差出人は北西 翔真。隼佳の叔父にあたる。

封を切ってまず目に飛び込んできたのは新幹線の切符と手書きの文章である。

内容は、今年の夏休み、おばあちゃんの家に泊まりに来ないか、というものだった。

母方の祖母は今年の春に病気で他界した。祖父はまだ母が小さいころに亡くなったらしく、

母の記憶にすら残っていない。祖母は叔父と母を女手ひとつで育てたのだった。

実際、あまり近くなかったためか隼佳と祖母はほとんど面識がなく、最後に会ったのは十

六年前、隼佳が三歳の時だ。

明るく元気な祖母だったらしい。だが晩年から持病が重くなり、入退院を繰り返していた

という。今年の春、今隼佳の目の前の伝統的日本家屋の座敷で親戚一同に見守られながら

静かに息を引き取ったらしい。

この祖母の家は現在空き家である。というのも、叔父は婿養子として嫁ぎ、母も結婚後別

の土地に移ったためである。

そんな家に、泊まりに来てほしい、というのが手紙を送った叔父の目的だった。

大学の夏休みというのは、無駄に長い。隼佳の大学の後期日程が始まるのは十月である。

やることも特にないし、祖母にも挨拶しておきたい。そう思った隼佳は快く叔父の提案を

のんだ。

長期間の滞在らしく、慣れないスーツケースなどに荷物を詰め、新幹線に乗ってここ九州

の大分県にまでやってきた。途中何度も電車を乗り換え、先程最寄の駅で叔父に拾っても

らった。本当は母も一緒に来るはずだったのだが、仕事が忙しく残念ながら一人の旅とな

ってしまった。


隼佳は門から伸びた石畳を進んだ。砂利を踏むスーツケースは恐ろしく重たい。

かつては庭師を雇ってでも整えていたであろう美しい庭は、人の管理と気配がなくなった

ためか荒れ果て始めている。至る所で砂利から伸びた草が目につく。

庭の両サイドには鬱蒼とした木々がアイリを見下ろし、右手に見える池の底は緑色の苔に

覆われている。

大きな玄関にやっとのことで辿り着いた。

黒い木製の表札には、金箔の文字で『深条』と書かれていた。

隼佳の母はかなり昔に父と離婚し、その際姓も元のものへと戻したのだった。

隼佳はあらかじめ叔父から渡されていた鍵を取り出し、鍵穴に差し込んで回した。

ガラガラガラ。横開きに玄関戸が開いた。

それが隼佳にとって忘れることのできない夏休みの始まりだった。



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