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毒紫の添削者ブランシュ 〜S級パーティーの戦績、全て誤字として削除(デリート)いたします〜

作者: ちいもふ
掲載日:2026/01/25

「――クビ、ですか? カシウス・フォン・ヴォルグリード様」


 それが、エルドラド聖王国第一王子であり、S級パーティー『黄金の獅子』のリーダーである彼へ、私が返した最初の言葉でした。


「ああ、そうだ! ブランシュ、お前のような読み書きしか能のない女が、我ら最強のパーティーに居座るなど、他国の笑いぐさだ。これからは聖女ミリアが『聖なる祈り』で我らをやす。不気味なペンと毒々しいインクしか持たぬ女は、もう見たくもない!」


 ギルドの酒場に、カシウスの傲慢ごうまんな声が響き渡ります。彼は私が夜をてっして修正してきた活動報告書を、ゴミのように床へ投げ捨てました。


「お前の『添削』なんてスキル、銅貨一枚の価値もない。ミリアの回復魔法なら、一回で金貨百枚分の価値を生むんだよ。分かったらさっさと消えろ!」


 周囲の冒険者たちが下卑た笑い声を上げます。ですが、私は悲しむ代わりに、汚れ一つない白手袋をゆっくりと整えました。胸に去来するのは、長年付き合ってきた「酷すぎる下書き」を、ようやく破棄できるという清々しい解放感。


「左様でございますか。……価値、ですか。カシウス様、あなたは私の『添削』が、ただの字を直すだけのものだと思っておいでだったのですね」


 私の足元で、影がどろりとうごめきました。い出たのは、無数の眼球を埋め込んだ黒い羽ペン――守護精霊『原初の修正者』。そのペン先からは、世界そのものを腐食させる毒紫ヴァイオレット・カースのインクが滴り落ちます。


「では、きちんと清算いたしましょう。私がこれまで積み上げてきた、嘘まみれの『戦績ログ』。すべて正しい現実に、書き換え《デリート》させていただきますわ」


 私はペンを横一文字に振るいました。


「――『ログ・エディット』、起動」


 ギギギギギギィッ!! 


 空間が悲鳴を上げ、カシウスの「S級冒険者証」が巨大な黄金の板となって出現します。刹那せつな、邪神のペンがその輝きを毒紫のインクで無慈悲に塗りつぶしました。


世界記録ログを修正します】


●討伐対象:古の火龍 (ファイヤードラゴン)


【修正前】:伝説の火龍を、カシウスが聖剣の一撃で討伐。


【毒紫の添削】:~~古の火龍~~ → 『干からびたトカゲの死骸しがい


【注釈】:ブランシュがログに「ドラゴン」と誤記修正を加え、さらに攻撃ログに「致死量」という注釈を強引に追記することで、無理やり報酬を捏造ねつぞうしていました。


●実績:魔王軍の軍勢を一人で壊滅


【毒紫の添削】:~~独りで壊滅~~ → 『道に迷い、勝手に自爆した魔物の死体を拾っただけ』


【注釈】:ブランシュが彼らの「幸運値」を添削し、奇跡を無理やり発生させていただけです。


「な、なんだこれは……! 俺の伝説が、トカゲだと……!?」


 カシウスが絶叫します。ですが、添削(現実)は止まりません。毒紫のインクを浴びた彼の「伝説の聖剣」は、ただのびた鉄くずへと崩れ落ち、豪華な魔力鎧アーティファクト・メイルは薄汚いボロ布へと書き換えられていきます。


 最後に、板の右下にドロリとしたスタンプが叩きつけられました。


【最終判定:ランクF(無能・詐欺師)】


【処分:全報酬の返還義務、および永久追放】


「うわあああ! 俺の装備が! ステータスがあああ!!」


 カシウスの悲鳴をよそに、私は優雅にギルドの扉へと歩き出します。背後では、今まで彼を「英雄」とあがめていた冒険者たちが、殺気立った表情で彼を囲んでいました。


「お幸せに、カシウス様。……あ、お伝えし忘れていましたわ。あなたの人生、私の添削がなければ――」


 扉に手をかけ、最高に「きちんとした」微笑みで振り返りました。


「『ただの一行の価値もない、空白のページ』でしたのよ?」


 毒紫のインクが、私の去った跡を美しく、そして残酷に染めていく。私は一度も後ろを振り返ることなく、闇の中へと消えていきました。

 ご一読いただきありがとうございました。「白」を汚すような「毒紫」のインクで、嘘まみれの英雄譚を塗りつぶす快感。そんなイメージから生まれた物語です。


 ブランシュにとっては、最強のパーティーも、伝説の武器も、ただの「書き損じ」に過ぎなかったのかもしれません。皆様の中に、少しでも「毒紫の余香」が残れば幸いです。

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