表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/6

第二話 ムッチムチなんです


ガラガラという教室の戸が開く音がする。

その後に、金髪の髪を立てた、男子にしては少し背の低い生徒が一人入ってきた。

喜多川(きたがわ) 康人(やすと)』、紀香の他に彩妃が仲良しなクラスメイトだった。


「オーッス! ムチムチドジ子と貧乳女!」

「だ、誰がっ、くっ……ひ、貧乳はステータスよ!!」

「おはようございます、康人さん」

「彩妃! あんたもちょっとは否定しなさいよ!!」

「えーっと……わたくし、ドジ子ではありませんっ!」

「「ソッチかよ!?」」


というミニコントの後、席に着こうとした康人が突然硬直する。

そして、この世の終わりの様な顔で彩妃の方を怯えた目で見ている。いや、正確には彩妃の後ろを。

そして紀香もまた、康人の視線の先を確認し、そのドス黒い狂気の正体に気付き後退った。


――――ゴゴゴゴゴゴ


実際にそんな音がしたかは分からないが、この時の康人の頭の中では、はっきりと聞こえていた。


「おい……そこの害蟲(がいちゅう)

「ひっ! え、え? お、おれの、事?」

「そう……そこの下品な金髪の貴様だ」


なんと、健太が先程と同じ位置で、真顔だが明らかに康人へ向けて恐ろしい殺気を放っていた。

その声には、あらゆる負の感情が籠められている。


「ポ、ポチ。あんた、いつからそこに」

「お、おい三条。ポチって、弥勒地……の?」


彩妃が自分の執事にポチと名づけている事は、学校では有名になっている。

そのポチを始めて目にした康人は、名前とのあまりのギャップに凍り付いている。


「あら、本当! いつからそこにいたのポチ?」

「つい……先刻からです、お嬢様ぉおおおい害蟲っ!!!」

「はっ、はひいぃっ!!」

「貴様……お嬢様をドジ呼ばわりしよったな」

「ひいっ!! す、すすすいませんん!!」

「ム、ムチムチの方は認めてるんだ」

「はい。ムッチムチです……が!! だんっっじてドジではありません!!」


どうやら康人は、健太の中での彩妃関連の地雷を踏んでしまったらしい。

健太の少しずれているスイッチに疑問を抱きつつも、紀香は口を出さない事にしておいた。


「もう、ポチ。何をそんなに怒っているの?」


彩妃は彩妃で、まったく空気を読まず、にこやかに話しかけている。

彼女が話しかけるたびに康人と紀香は、健太を怒らせやしないかとヒヤヒヤしている。

これが天性の天然の恐ろしい点でもあり、凄い点でもある。


「いえ、お嬢様。私は怒ってなどおりません。ただ……」


健太はいつの間にか窓枠を越え、教室の中まで入り込んでいた。

そして、ゆっくり一歩、また一歩と康人に近づいていく。


「害蟲は……排除すべえええええっっし!!!!」

「ひいいいいいいいっっ!! たたたたすけてええええ!!!!」

「ポチ!!!! めっっっ!!!」


彩妃の大声で、健太はビクッと止まった。

健太の二本の指は、康人の目の3ミリ手前で固定されている。


「よしっ。いい子ね」


彩妃にそう言われると、「失礼……致したました」と言い康人をキッと一瞬睨み、踵を返す。

そして、やっぱり窓から帰っていった。

「ポチって言うより、ケルベロスね」と紀香は思った。



――――キーンコーンカーンコーン


下校のチャイムが鳴った。

健太は校舎前で、紀香の執事『草薙・J・セバスチャン』、通称『セバッさん』といた。

セバスチャンは、アメリカと日本のハーフで、日本的な顔立ちの黒い短髪だが目だけは青い。

他の執事は、自分達の主人を見つけ早々と帰っていくのを横目に、二人はひたすら待っていた。


「……遅いっ!」

「確かに遅いね。まっ、うちの紀香お嬢様に限っちゃいつもの事なんだけどね」

「いったい何をやっておられるのだ」

「さっき、喜多川様んとこのやつもまだ待合室にいたから、三人で一緒にいるのは間違いないよ」

「まったく…………はっ! まさかあっ!!」


健太は何かを思いつくと、校舎の方へ全速力で駆け出した。


「おいおい! ポチ君! どぉーこいくのー?」


そんなセバスチャンの声も届かず、物凄い勢いで校舎の壁を、まるでゴキブリか何かの様にシャカシャカ登り、2年E組の窓から顔を入れる。

キャアーという女子生徒の悲鳴が聞こえた。


「すすすすみませんっ! う、うちの彩妃お嬢様を知りませんか??」


取り乱しながら窓の外から質問をする健太は、事情を知らない人から見たら、ただの変質者か何かに見えたことだろう。


「み、弥勒地さんなら、三条さんと喜多川君と遊びに行くって、結構前に帰りましたけど……?」

「……ぁんの害蟲めええええええ!!!!」

「ひいいっっ」


セバスチャンは、鬼の様な形相の健太が帰ってくるのを見て、笑っていた。


「ポチ君、どうだった?」

「セバッさん。車を貸してくれっっ!」

「いいけど、僕も乗っけてってよ? 一緒に行くよ」


二人は車に乗り込み、物凄い音で道路を擦りながら中心街へ向けて発車した。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ