第一話 我つくす、ゆえに我あり
どうも、JCです。
まず、これを少しでも気になって読もうと思ってくださってありがとうございます。
本当は、短編用に書いていたものなんです。
が、あまりにも長くダラダラと書いてしまい、短編として1ページに載せるのはきついと思い。
こうやって6話完結の短い連載にさせてもらいました。
内容としては、ベッタベタの設定の典型的なラブコメディーです。
きっと、続けて全部読めると思うので、もしよかったらどうぞ!!
彼女の名前は『弥勒地 彩妃』、弥勒地家の長女にして唯一の子だ。
父は、明治初期から代々続く高級洋服店『みろくや』の現社長。
「お前は良家の娘なのだからこそ、清く正しく美しくを心がけなさい」と言われて育てられてきた。
弥勒地家というだけで、彼女には危険が寄って来る事も多々ある。
だが、彼女には『ポチ』が付いているから大丈夫なのだ。
そして彼、名前を『犬成 健太』と言う。
弥勒地家に五歳で来てから十二年、彩妃に仕えて十年になる。
彩妃の父に、彩妃のお目付け役謙お世話係謙護衛の命を受けている。
そして、当の彩妃からは『ポチ』なる銘を授けられている。
「主は絶対服従、害は神速排除」を常に心がけており、毎日の日々を修行と思い、精進している。
「行ってらっしゃいませお嬢様」
「はい。行って参ります」
大勢の使用人に見送られ、少女と青年が広大な敷地内を車の元まで歩く。彩妃と健太だ。
彩妃は赤が入った茶色の髪を、頭の両側で白いリボンでとめており、服はフリフリの制服。どこからどう見てもお嬢様だ。
健太の方は、オールバックの銀髪に黒ぶち眼鏡、白いシャツと赤いネクタイの上に黒のベスト。どこからどう見ても執事だ。
二人は彩妃の通う『皇麗学院高校』に向かうため、黒い高級車へ乗り込んだ。
「ねぇポチ。今日のお弁当は何かしら?」
「今日は、ごはんに玉子焼きにポテトサラダとミートボール、あとタコさんウィンナーです」
「まぁ、タコさんウィンナー! 嬉しい!」
弁当の中身がひどく庶民的なのは、彩妃の母のせいだ。
セレブだからといって、セレブな物を食べなきゃいけない分けではない、という理由らしい。
そんな事を話しているうちに、車は高校へと到着する。
皇麗学院高校は共学の、いわゆるセレブ高校だ。
色々な良家、名家の子供達が通い、敷地内には『執事・使用人待合室』まで設けられている。
登校時になると、生徒達がそれぞれの執事や使用人を連れて登校してくる。
彩妃もまた、いつもの様に健太に見送られ、2年E組のクラスを目指す。
「おーっす! おっはよう彩妃!」
「おはようございます、紀香さん」
一番に挨拶をしてきたのは、『三条 紀香』、彩妃とはかなり仲の良いクラスメイトだ。
綺麗な紺色の長い髪を後ろで束ねていて、大人しそうな外見とは裏腹に勝気で明るい。
世間知らずの彩妃に色々教えようと、よく勝手に連れまわすので、健太からは迷惑がられている。
「あんたさぁ、いい加減その敬語とさん付けやめなさいって」
「すみません。幼い頃からのクセで、どなたに対してもこうなってしまうんです」
「まぁ、もう慣れちゃったからいいけどさぁ!」
彩妃はニコッと笑いかけて窓際の自分の席に着く。
紀香は先ほどから不思議そうに辺りを見回している。
「あれ? 今日、ポチは?」
「きっともう、待合室に行ってると思いますけど?」
「えぇ!? だってあいつ、いっつもウザったく教室の前まで着いてくるじゃん!」
「あら、そうでしたっけ……」
「あんたもあんたで、ほんっとに天然よね! まぁ、あたしはバカ犬がいない方がいいんだけどさ」
すると、彩妃のすぐ後ろから突然声が聞こえてきた。
「誰がバカ犬なんですか」
「うわっっ!!? でたっ!!」
「まぁ、ポチ。どうしたの?」
そこには、いたって真面目な顔の健太が、窓から頭だけヒョコっと出していた。
「お弁当をお忘れになられていたので、お届けにあがりました」
「まぁ、わたくしったら。わざわざありがとうポチ。優しいのね」
「有難きお言葉」
「ちょっとちょっとちょっとぉ!! あんたら普通に会話進行してるけど、ここ三階よ!?」
「あら、そうでしたっけ……」
「はい。お嬢様の教室は三階にございます」
「いや、だからぁ! ございますじゃなくって! あんた、え、なに? どうなってんの?」
「……立っておりますが?」
「何よその、なにか問題でも? みたいな感じ! だいたいそこに立つとこないでしょ??」
健太はなんと、外の壁の少し下に、窓と平行に付いている細い水道管の上に器用に立っていた。
ただ足の幅の三分の一もないので、足を横にし大股を開き、両腕を大きく広げて壁に手をついていた。
それはなんとも異様でマヌケな姿だったので、登校してくる生徒達は驚き惑っていた。
「ではお嬢様、のちほど」
「えぇ、また後で」
「いや、のちほどったって、あんたそれ……」
「さらばっ」
「え…………え、えええええええええええ!!??」
健太は「とうっ」という掛け声と共に跳び、シュタッと着地した。
そして、まるで何事も無かったかのように、平然と歩いていった。
その姿を窓から見下ろしていた紀香が、「あんたのポチはどういう構造してんのよ」と呆れている。