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黄金の血液

直ぐにネフロイトへ戻ったクラウスは、ディオを連れてグレシャムの家を訪れた

「いらっしゃい、今日はどういった依頼かな」

通された妙に生活感のないリビングで

彼女は白い茶器に青紫色のお茶を注いで2人に出した

「…これは?」

見たことのない色の飲み物に困った様子のディオに、お茶だよとクラウスが一口啜ってみせた

「ふ…ホルツマン卿、貴方くらいだ

私の出したお茶を疑いもせずに飲むのは」

「ボクに毒を盛って困るのは君でしょう?

そんな事しないって信じてるからね」

グレシャムはふふっと笑い声を漏らしながら向かい側に腰を下ろした

「…それで、なんだったかな?

まさかその子をくれるとかじゃないだろう?」

「ディオは頼まれても誰にも渡さないよ」

ムッと顔を顰めたクラウスを、冗談だとクスクス笑う彼女に

クラウスは“バイン”のこと、寄生型の魔物にまで堕ちたパラフェトイの事を伝え

その上で、ディオの血液が特効薬として作用した話をした

「…となると、貴方のパートナーの血液を全て搾り取らないと人類は使徒の脅威に立ち向かえないな

1人の命と大勢の命…天秤に掛けるまでもない、だろう?」

「そ、そんな事…!」

ディオを見ると彼は怯えたような表情で、しかし何処か諦めたように笑顔を作った

「クラウスさんの役に立てるなら…」

「やめてくれ!!君を犠牲にするくらいなら死んだ方がマシだ!!」


「冗談だ」

グレシャムは冷ややかな笑いを浮かべたまま言い捨て

普段は此方側の貴方が取り乱すのが面白かったと話を続けた

「残念だが貴方のパートナーが世界を救う特別なヒーローという訳ではない

貴方が私にくれる、モルモットの殆どが獣人だろう?

彼らを使ううちに色々と分かった事がある」


獣人は魔術が扱えない

これは大きく3種類に分類される全ての獣人に言える事で例外はない

それは常識でありみんな知っている事だ

「彼らが魔術を使えないのは内包魔力を持たないから…まあ間違いではないが

追求の結果、彼ら獣人は体内に魔力を生成する代わりにエーテルを生成している事が分かった」

獣人の血中、その他全身に含まれるエーテルの含有量には個体差こそあれ

体積に対して、少なくても30%のエーテルを含有している事が分かったという

「人間から抽出出来たエーテルはどんなに多くてもスプーン一杯程度

対して体重20Kgの小型のフルール1人からは最低でも6kgのエーテルが抽出できる」

それは一度に抽出できるエーテルの量としてはかなり多く

しかも、獣人から取れる物は純度も高い

「エーテルは魔力くだしの必須素材

その効果については説明しなくても貴方は身に染みているはず」

そしてこのエーテル、純度が高ければ魔物や魔獣、果ては魔族に対して激毒となりうるとグレシャムは言った

「使徒は魔族の一種だったのだろう?

魔物であるパラフェトイにも有効だろう」

「ならフルールの盗賊団を生捕りにして

血液をとれば我々は安泰という訳だ?」

これをグレシャムは鼻で笑う

「別の病を患って死にたくないなら

止めた方がいい

特に血液の直飲みは推奨しない」

ディオとグレシャムの目が合い、彼は気まずさに目を伏せた

「ならエーテルを抽出すればどうだね」

「感染症も怖いが、問題はそれだけではない

純度の高いエーテルを体内に取り入れるとどうなると思う?」

微量のエーテルを含む“魔力下し”ですら、その副作用がキツイのをクラウスは知っている

「…死ぬ?」

「恐らく、まだ試した事はないけど…

治験に使っていい人間がいれば斡旋を頼みたい」

「ボクはピンピンしてるよ」

ディオの血液でパラフェトイ達を下したエドアルドや他2人も、特に変わりはなく

それどころか少し調子が良くなった気がするとまで感じている

そう話すクラウスの隣で、チラチラとグレシャムを見ていたディオを彼女は見つめた

「“レプトホーン”“エリクサー”“アンカラシア”」

幾つかの単語を口にした彼女

その全てに共通する物に気付いたディオは小さくソレを口にした

「…リグマンの素材…」

「御名答、流石に知っていたか」

グレシャムが言った単語は全て世界中にある霊薬と呼ばれる類の薬であり

錬金術師でも最高位の者しか作ることを許されていない秘薬である

そして、これらの薬には必ずリグマンの身体の一部が必要になる

「…知ってます…俺は尻尾を取られてたから…」

彼らリグマンは高い再生能力を持ち、彼らの体組織はその効能を薬に付与する事ができる

奴隷だったディオは定期的に尻尾を切られ、彼の尻尾は闇市に流されていた

角、牙や爪…尻尾

ディオは希少なS型なので生かされたまま搾取され続けたが

C型であったら、バラされ骨まで売られていた可能性がないとは言えない

そのくらいリグマンという獣人種は錬金素材としての価値が高かった


「これは私の予想に過ぎないが」


獣人の特性である高濃度のエーテルを含む血液は、確かに体内に侵入したパラフェトイに作用しこれを排除した

本来ならエーテルを飲み込んだ人体も健康被害を起こす筈だが

リグマンの血液は回復に関する効能がある

そのお陰でエーテルからのダメージを受けるどころか

体調が改善されたのではないかとグレシャムは持論を語った

「ねえ、リグマンのキミ

研究の為に血液を提供してくれないか」

彼女の言葉にディオは身体を強張らせる

「ディオは君の実験台にはしない」

「ホルツマン卿、冷静になれ

パラフェトイの脅威に立ち向かうには必要なこと…違うかな?

200mlでいいのだよ」

「…なんか今日意地悪だね…

ディオ少しだけ協力してもらえないだろうか

大丈夫、200ml以上は採らせないから」

ディオは多少抵抗はあったものの

最終的にはクラウスの為に協力することにした


「スケイルメイトに血液を売ってくれる人は居ると思うかい?」

グレシャムの家からの帰り道

難しい顔をしたままのクラウスはディオにそんなことを聞いた

「えっ…どうでしょう…

難しいかも知れません」

そもそもほんの一年前まで、リグマンの国と人間達の関係は断交状態であった

そうなったのも大昔に人間達が爬虫類の外観と得意な能力を持つ彼らを“人”として認めず

魔物の類として錬金素材の為だけに殺し回ったからである

捕らわれ、バラバラに解体され骨まで薬の材料にされたリグマン達は、逆に人間を魔族の仲間だとして忌み嫌い恐れ

殺される前に人間を襲うようになったのだ


プルーデンがスケイルメイトの使者として訪れる前から

彼らの国に属さないリグマン達は、少数だが確かに存在しており

クリスタルレイの城下街などでは姿を見掛けることもあったが

総じて人間を強く警戒しており、友好的とは言い難かった

人間側も彼らを利用しようとする者くらいしか近付かなかったので

お互いの溝は埋まることなくここまで来ていた

「体を…一部を要求されるのは

リグマンにとって強い抵抗感があります」

「そりゃそうだ、ごめん」

「いえ、大丈夫です

俺はクラウスさんの為になら命だって差し出せます

ラビッシュやミーティアに尻尾を食べさせるのも嫌じゃなかったです」

「君に愛されるのは嬉しいけど、自分を大切にして欲しいな

老い先短いジジイの為に命はかけないで?

…グレシャムは、あの人はちょっとアレだけど優秀な魔術師だ

君たちが血を流さなくても済むように

別のアプローチを見つけてくれると信じよう」

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