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陰に蠢く

ルクソンポールから北に進む

港町は確かに復興していたが、街から一歩外に出ると

そこは今だに瓦礫の山で覆われていた

街に程近い瓦礫の中で明らかに困窮した浮浪者風の人間が、何人も瓦礫の中を漁っている

彼らはここで価値のある物を探したり

肉親を探し続けているのだ


「もう流石に臭わなくなったが、この辺一体は本当に酷い臭いでさぁ

ほら、サモーズはかなり温暖な地域だろ?

お陰で疫病も流行るし、ゾンビも腐乱しまくって最悪だったぜ」

ヘルロフはこともなげに言ってのける

腐り切ったゾンビ達はやがてスケルトンに成り果て、街の周りこそ討伐済みらしいが

主要都市を離れれば、アンデットがまだそこら中を彷徨っているという


海から数キロ離れ、津波が押し寄せた境界線を越えると

徐々に木が増え辺りが鬱蒼とし始めた

草も伸び放題に、割れたままの地面は放置され

道路を嫌々歩く馬を操りながら無理やり進む

主要道路ではない場所の整備まで手が回らないのはワピチも同じなのだが

こういう道路を見るたびに早く直さねばとクラウスは気持ちだけが焦る


そして、事前情報通り

沿岸部から離れ見通しが悪くなるほど

魔物や獣人が潜んでいた

スケルトン等のアンデットや、何処からともなく現れるフルールを何人も切り伏せながら進む

そのあまりの数の多さに、一行はやむなく一度休憩を挟むことになる


「…たくよ、魔王討伐が騒がれた時に

かなりの数を駆除した筈なのに

獣人ってやつは一体どこから湧いてくるんだか」

切り伏せたネズミベースのフルールの頭を踏みつけ、忌々しそうに睨むヘルロフが唾を吐く

「なあ、お前らって何処から来んの」

そんな言葉を投げかけられ

リスベースのフルールの頭部に刺さった手斧を抜こうとしていたディオは驚いた表情で顔を上げた

「獣人のガキ見たことあるか?

ガキはてんで見ないのに、殺しても殺しても成体ばっかり…

俺達の知らない場所でアリみたいに繁殖してんのか?

それともゴキブリみたいに子供産んですぐ大人になるわけ?」

狼狽えるディオとヘルロフの間に、クラウスが立つ

「私の従者に変な因縁をつけるの、やめて貰える?」

そう言うクラウスに対して、ヘルロフはハッと鼻で笑い、更に軽口を叩いた

「…前から思ってたが

ヤケに大事にしてるよな

そのS型、いくらしたんだ?

俺にも贔屓の奴隷商を紹介してくれよ」

「彼は奴隷じゃない

これ以上彼を貶めるような発言を続けるのなら、私もそれ相応の対応をせざるを得ないな」

クラウスの表情が真剣なのと、エルンストに睨まれ、ヘルロフは両手を上げた

「おいおい、そんな怒るなよ…

ちょっとしたジョークじゃんか

こんなの良くある事だろう?」

実際、彼の言うとおり

一般的に獣人の扱いというのはそういう物だ

むしろ、手が出てないだけマシな扱いをしているとも言えるが

クラウスにしてみれば、ディオは獣人である前に大切なパートナーであり

更にヘルロフへの好感度が低いので、余計に腹が立ってしまっていた

「旦那様…!」

クラウスの次の行動を案じたエドアルドが、小さく彼に呼び掛ける

するとクラウスは怖いぐらいの笑顔を作り

「ははは、私のも領主ジョークだよ!

この子を勝手にイジメないでよぉ

安くないんだからね?」

なんて言うので一瞬ホッとしたのも束の間

彼の笑顔と明るい声のトーンとは裏腹に

握りしめた拳に青筋が浮いているのを見て、エドアルドとディオは冷や汗が止まらなかった


そんなこんなで

2時間程進んだ所で、最後尾にいたエルンストが声を上げた

「ホルツマン様、この先10分も歩けば奴らが根城にしているノッデ村になります」

馬で進むのは目立つという事で

ここで馬から降り、魔術を施しこれを隠した

土地勘のあるヘルロフを先頭に、慎重に先に進む


「…見ろ、奴等が“バイン”だ」

下生えや樹木に身体を隠しながら近付いたノッデ村は、殆どの家が倒壊し

とてもまともに生活できるような場所には思えなかったが

それでも彼らはそこに居た

「領民が盗賊化した…という事ですよね」

遠目には廃村を占拠した、ただの領民に見える彼らにエドアルドは困惑するが

クラウスはうーんと唸り声を上げる

「まあ、君の政策や境遇がどうあれ?

彼らは犯罪を犯すという道を選んだ訳だから

等しく裁くべきだとは思うな」

その上で、そういった民が出ないような運営をするのが我々の仕事だと

強い口調でヘルロフを叱る

「俺が悪いのかよ

あんな未曾有の大災害相手に、誰からも文句が出ないような運営なんて出来るわけない

そうだろ?俺は貴族側を優遇したが

そいつらの手を借りてスノームースという国にとって有益な内海の港を素早く整備したんだぜ?

ワピチの交易品だってうちの航路が無きゃ外に出回らない!」

「君は外側ばかり見過ぎだ、外交も確かに大事だが真っ先にやる事ではない

もう少し内側にも目を向けて、先ずは国力を回復する事が…」

「お二人とも、静かに!」

ヘルロフとクラウスの言い合いをエルンストが口に指を当て

その指をスッと前方に指した

「…あれは…」

倒壊を免れた一軒の家屋から、エルンストと同じような白を基調とした装衣を身に纏った年配の男が出てきた

ソレを見たエルンストの顔が強張る

「あの装衣、教会の人間で間違いないですか」

「…はい、如何にもその通りでございます」

エルンストは顔を青くしながら

それがスタニスラフという教会のプリーストだと明言した

彼が村の広場まで来ると、他の人間も続々とその周りに集まりだし

あっという間に広場は人々で一杯になる


「…アイツ…!俺の事を裏切ってあんな…!」

その中にはヘルロフが腹心と信じていた部下の姿もあったらしく

今にも飛び出してしまいそうな彼をなだめ

引き続き様子を伺っているところへ

拘束された若い女性が1人、民衆によって連れてこられた


スタニスラフの目の前に引き摺るように連れてこられた女性は

その場に無理やり跪かされた

尚も抵抗を続ける彼女は数人がかりで抑え込まれ

後ろに立つ男に髪を掴まれ上を向かされる

その両頬に手を添えるようにしたスタニスラフは身体をグッと曲げて

女性の顔にゆっくりと顔を近付けていく


そして


鼻先数センチの所まで近付いた彼の口から、腕くらいの太さの白く長いものがぬるりと這い出し

女性の口からその体内へどんどん入って行く

その様子を隠れて見ていた5人は、その異様な光景に言葉も出ない


ぬるりとしたソレが全て女性の中に納まると

今まで彼女を押さえていた人々は手を離し、全ての拘束を解いて離れた

解放された後、暫く呆けていた女性だが

急に立ち上がったかと思えば

貼り付けたような笑顔で、さっきまで抵抗していた人々の列に加わったのだ


「…嘘だろ…」

「成る程ね、誰も戻らない訳だ…」


教会の者、白いミミズの様なもの、そして女性の急な心変わり…

クラウスの脳裏に嫌な想像が浮かぶ

「ねぇ、ディオ…」

その呼び掛けに、ディオは神妙なお面持ちで頷き

それが使徒の成れの果てであると確信した

「…戻ろう、これは私達だけでどうにか出来る問題ではない」

「おいヘル坊、しっかりしろ」

「そ、そうだな…ズラかるぞ」

予想だにしていなかった事態に、固まってしまった者達の肩を叩き

この場を離れる事を促した

(早急に王へ報告して、ワピチも対策を…)

クラウス達は隠密状態を維持したまま

元来た道を戻ろうと振り返った

その先の木の影に

気持ちの悪い笑顔を顔面に貼り付けた人間が複数人、顔を半分覗かせた状態で立っていた

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