執事エドアルド
あの大災害が起こり
使徒という支配者が居なくなって早半年が経とうとしている
ネフロイトの復興も半分ほど済み
やっと生き残った人々の生活基盤が出来て日常に戻りつつある
人手不足に関してはベルタの造ったゴーレムで放置されていた農園を管理しようとしているが
圧倒的にその数は足りていないのが現状で
仕方なく放棄された農園が幾つも存在してる状況である
それでも人口が激減したので
ワピチだけなら食べる物に困るという事はないのだが…
「ワピチのみんなが食べられるだけあるなら
いいんじゃないですか?」
「備蓄も何もかも失ったから、余分は冬に向けて加工したいし交易にも回したい
それにせっかく開墾して整備して美味しい野菜や果物が採れるようになったのに
あまり長い間放っておくとまたやり直しになるんだよね…」
「すみません…俺知りませんでした」
「怒ってないし、謝らなくていいよ
知らない事があって当然じゃない?」
この頃になると、少しずつだが港や主要道路の整備が終わり交易が再開
主要な港町の復興も終わりワピチの作物も少しずつだが、各領で流通し始めていた
しかしワピチに限らず各地にある小さな村は、今だにあの大災害の後のまま放置されている
廃村と化したそれらは魔物やフルール達の格好の棲家となってしまっていたが
何故か魔女は数を減らし、ディオはクラウスの護衛をする時間が増えていた
「それで、どこに行くんですか?」
「ルクソンポールだ」
そこはサモーズ領の首都である港町
先の大災害による津波で一度更地になった場所だが
半年で港町として機能するまで何とか復興したのである
そして、そこの領主であるルッベルス・ヘルロフと改めてスケイルメイトとの航路について話し合いをしに行くという
「スケイルメイトに作物を送りたいのと
彼らの一部の人が農耕のノウハウを学びたいそうでね
ほら、耕地は今困るほど余ってるでしょう?
何人か受け入れようと思ってるんだよ」
「飛空艇はまだ直らないんですか?」
運搬用の大型飛空艇の事を言っているのだろうが
大災害の時に壊れてしまい、修理するコストが高いために目処が立っていない
動いた所で、大型故にスケイルメイトに直接降りる事は出来ないので
どうしてもラビフィールドの空港を借りることになってしまうのも難点である
飛空艇でのやり取りは視野に入れてないよとクラウスは話した
「ボク個人の小型飛空艇では運べる量なんて雀の涙だし、あの国の構造上
船での運搬が一番現実的かなと思うのよね」
その小型飛空艇の置いてある場所まで来ると、エドアルドが2人を待っていた
「いつでも行けます」
「エド、ごめんね」
「いえ旦那様、私にも仕事をさせてください」
小さな子供をホルツマン邸の使用人の同僚に預け、エドアルドは今回の旅に同行する
2人が席についたのを確認すると、彼は操作盤を触り小型飛空艇を離陸させた
「やっぱり今度ボクにも操縦教えてよ」
「嫌です、というか駄目です
だって旦那様…飛空艇の操縦なんて覚えたら
何処にでも1人で行かれるでしょう?」
飛空艇の操縦は魔力が扱える人間なら誰でも出来るのだが
魔力操作にはコツがいる
そのコツが分からないと離陸時に高速回転したり、真っ直ぐに飛ばなかったりと結構危ない乗り物だ
「でもさぁ…君に大事なお子さん預けさせてって考えるとさぁ…」
「それですが、ここだけの話むしろ有り難かったというか…」
急に妻と実母を亡くし、まだ2歳にもならない子供と2人きりになった彼は
生き残った子供を愛おしく思う一方で、その育児には悪戦苦闘を強いられていた
「夜泣きが酷くて…妻を探すんです
私ではどうにもならなくて疲れてしまって」
育児に疲れたと疲れた顔で笑うエドアルド
「子供を育てるのって大変だよね
ボクもおんぶした上で抱っこして仕事してた頃があるから分かるなぁ」
レティシアが育児放棄したからといって
全て使用人に任せてしまえば、クラウスが育児をする必要ない
しかし彼は、それは親としてどうなのかと思ったのと
エマがクラウスを我が子のように可愛がり
彼がエマを母と慕っているように
可愛い我が子に手間をかけない理由がない
というのがクラウスの自論である
お陰で、彼の子供が幼い頃の庁舎の執務室には
ベビーベッドと子供用のスペースが設けられていたし
何なら女性の多い職場なので、預け先のない人達は子供を連れて出社する
「エド、話してくれてありがと
ボクも手伝えるから1人で抱え込まないでくれ
今も昔も子供は宝物だ、君さえ良ければみんなで育てようよ」
「…っ…旦那様は…そうやって」
エドアルドは押さえ込んでいた物が迫り上がって来るような感覚に襲われ唇を噛んだ
「あの…ずっと気になっていたんですが
お二人は…主人と執事ですよね…?」
ディオはそれにしては2人の関係性が近いと言いたいのだろう
リグマンは非常に嫉妬深い
今や番いとして自分のパートナーであるクラウスに馴れ馴れしくする者は
誰であってもディオの嫉妬の的になってしまう
「あ、そうね、ディオにはエドの事
ボクの執事って事くらいしか伝えてなかったからね」
クラウスは懐かしむようエドアルドとの出会いを話す
それはまだクラウスが30歳の頃
その時、既にワピチの領主としてホルツマン家の当主を勤めていた彼の執事は
エドアルドではなく、その祖父アミントレであった
彼の家系であるファリーニ家は代々ホルツマンの執事を務める家系で
アミントレの後任にはその子、エドアルドの父が担う予定であったが、彼は病で若くして亡くなってしまっていた
「旦那様、孫のエドアルドです」
初老のアミントレがそんなエドアルドとクラウスを引き合わせたのは
彼がまだ4歳の頃
幼いエドアルドを可愛い可愛いと撫でまわし
遊びに付き合い、お菓子を与えて帰したのを今でもクラウスは覚えている
そして、祖父による執事としての教育を受けて育った彼は
祖父が引退した年に18歳の若さでクラウスの右腕となったのだ
「執事としての最高の教育を受けてたから、振る舞いは完璧だったけど
今よりもずっと融通がきかなくてねぇ
ほんと色々あったよね」
「やめて下さいよ…誰だって初めは出来なくて当然だと、いつも仰ってるのはどうなったんですか?」
ハハハと2人は笑う
「こんな事言っちゃアレだけど
エドもボクの子供みたいなもんだ!」
「旦那様のご子息なんて私には荷が重いのでお断りですがね」
主従関係ではあるが、それを超えた冗談を言い合える親友なのだ
「クラウスさんの子供…つまり俺の子供?」
「ディオさん、待って冗談ですよ…?」
ディオの嫉妬心が消えた代わりに、エドアルドに対する彼への分類が“家族”に変わってしまったが
クラウスは訂正する事もなく、いいじゃない大家族なんて笑ってエドアルドを困らせた
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事前に聞いていた場所に小型飛空艇を着陸させ、ルクソンポールにあるルッベルス邸を訪れる
「ようこそ!待ってたぜ」
上機嫌にクラウス達を出迎えたヘルロフは彼らを館に招き入れた
「更地からここまで復興するのは中々骨が折れたが、どうだ?
それなり街らしくなってきただろ?」
領主の住まいであるこの邸宅も、少ない資源と人手で建てたにしては
周りの建物よりもずっと建物らしく、豪華とは言えないまでも広めの洋館ではあった
「一応、街の中にも宿屋はあるが
要人を止めるようなクオリティじゃない
今日はここに泊まって行ってくれよな」
そう笑うヘルロフはクラウスの肩を抱こうと手を伸ばしたので
クラウスはさりげなく避ける
「そこまで長居する気はないですよ
今日はスワンプコープまでの航路について話に来ただけだし」
「そうか?それこそ、泊まりで話すことになると思うけどな…」
ニヤッと不敵な笑みを浮かべる彼に
クラウスは本当に嫌そうな表情をしたのだった




