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義母と父と息子と義父と

その朝、時間になっても一向に集合場所に現れないジリアンに

痺れを切らしたイェルクは彼女の部屋の前で、彼女が出て来るのを待っていた

しかし、待てど暮らせど彼女は出てこない

「…どうしたんだ…?」

自他共に厳しいジリアンが遅刻するなんて

可愛いところもあるな、なんて思ってたのも最初の5分まで

今は何かあったのではと不安が押し寄せ、ソワソワと落ち着かない

イェルクは良くないこととは思いつつも扉にそっと耳を当て、中の様子を伺う

……

………


「坊ちゃん何をなさっているのですか?」


急に背後からメイドに声をかけられたイェルクはビクンと身体を跳ねて振り返った

「ジジジリっ義母さんがパトロールに!

約束の時間になっても来ないから!!」

慌てる彼を他所にメイドはキョトン顔でこんな事をいった

「…奥様は昨晩のうちに、メルガルトのお屋敷にお引っ越しなさいましたよ?

あれ?伺っておりませんでしたか?」



花々の咲き乱れるホルツマン邸の庭で

クラウスとディオは互いに武器を片手に睨み合っていた

「…ほ、本当にするんですか…?」

「君の本気をボクに見せてよ」

エルカトルのクリスタルレイから2人で帰って来る時にした約束

有耶無耶になって忘れられたものだとばかり思っていたのに

クラウスはしっかり覚えていて、今こうしてディオを困らせている

「もし勝てたら、丸一日ボクを好きにしていいんだよぉ?」

クラウスの挑発的な笑みに身震いする

戸惑いつつも、しかし雄として番いである相手に挑発されては無視することは難しい

(ズルい…そんなの断れない…)


ディオは渋々、武器の手斧を構えた

とはいえこれは本物の武器ではなく

魔力で作られた本物に似せて作られた物

形も重さも完全にいつも使う武器なのに、実際にこれで攻撃されても

豆腐で殴られたような衝撃しか加わらないという、そういう武器である

「ボクは本気でいくよ…

勝つつもりなら本気でやらないとね?」

クラウスはニッと笑い、短く詠唱した

これは彼自身へのバフ…これがクラウスの本気である

バフを施したクラウスが風のようにディオに迫ってきた

「ーうわぁっ!?」

想像していた何倍も速い彼の動きに

ディオは一撃右の脇腹にもらった


「…な、なんですか!?今の!!

こ、こここれなんか気持ち悪いです!!」

脇腹に走るはずの強い衝撃や痛みはなく

ぬるっとした不快感がディオを襲った

「あはは!これなら君が本気でボクの頭を叩き割ろうとしても怪我しないでしょ」

楽しそうに笑う彼にディオは大きな溜め息を吐き

そして覚悟を決めたように手斧を構え直した

「…もう、知らないですよ!」

ディオの鋭い視線が、クラウスを獲物として捉えた


…そして小一時間、ホルツマン邸の庭に武器と武器がぶつかる金属音と

「ひぇええ!?」「うひゃあ!?」

という拍子抜けするような叫びが響き

今は青々と茂る芝の上に仰向けに転がった2人がはぁはぁと肩で息をしていた

「…これ…勝敗決まらないんじゃ…」

「そうね…」

当たったところで、ぬるっとした不快感が駆け抜けるだけで

ダメージはおろか、一切の怪我もしない武器では

結局体力が尽きるまで殴り合う泥試合になるだけだった

「…でも、何となく分かったよ

君は多分ボクと同じくらいのレベルだよ

じゃなきゃもっと一方的にどちらかが殴られまくると思うし

そう思うとやっぱ君はすごいな」

ディオは特別な訓練を受けたわけでもなく

自己流でここまで強くなった

強いていうなら希少なS型獣人ではあるが

S型獣人が特別強いという情報はない

「俺は強くないと生き残れなかったから

強くならざるを得なかったんですよ」

もし俺がが強くなかったら…とディオは小さく呟く

きっと今頃は奴隷として貴族か、別の見世物小屋で見世物になっていたか

或いは魔物に殺されていたか…

そうで無かったとしても、クラウスと出会ってこうして同じ空を見上げてはいなかっただろう

「俺は珍しいから人間には利用価値があるんですよね?

ここで市民権を得るまでは、ラビッシュとミーティア以外は全部敵だったので」

人も魔物も獣人も

全てが悪意を持って襲いかかってくるので

彼はそれら全てを退け殺して来たと、暗い顔をした

「…君が強くて良かった、ありがとう

本当にここまで良く頑張ったね、偉いよ」

ディオを肯定するクラウスの言葉に

じんわりと彼の目頭が熱くなった

「クラウスさんこそ…爬虫類が苦手なのに

俺を受け入れてくれてありがとうございます」

「ははは…、本当にね!

自分でもビックリするよ

さて、ディオはまだやれそう?」

「えっ?やろうと思えば全然やれますけど…

まだやるんですか?…終わりませんよ?」

ディオは身体を起こして仰向けのままのクラウスを見た


「いやぁ…なら君の勝ちだ

…“時間切れ”だね…」


体内魔力を使い切って魔力切れを起こしたらしいクラウスはもう動けない

「もし…良かったら、ベッドまで運んでもらえると嬉しいなぁ…」

「勿論ですよ、何処までも運びますよ」

ディオは身体についた芝を払い、クラウスを優しく横抱きで抱き上げた

「…抱っこの仕方って他にもあると思うんだけど、何でいつもコレなの?

…おじさん毎回ちょっと恥ずかしいよぉ…?」

いつもは体力が尽きた後、魔力のバフで無理やり動いている節があるので

これに言及出来なかったが

今日はさっきまで少し休んでいたので、喋る余裕があった

「考えたことないですね…

…大切な人だからじゃないでしょうか?」

けして軽くはないクラウスを抱いたまま

邸宅の中へ入ろうと裏口まで来たが

ディオはそこでノブを捻れないことに気付いた

「…大丈夫?」

「ええっと…うーん…待ってください

今…考えてます…」

扉の前で困っていた時、その扉が一人でに開いた

扉を開けたのはイェルクで、彼は2人を見ると顔を憎悪に歪ませた

「このクソ親父…!」

「反抗期って出会い頭にそんな暴言吐くのがスタンダードなのかい?」

「とぼけんな!!

ジリアンを勝手に他所に送ったろ!!」

「“勝手に”って…彼女にはちゃんと了承を得ているし

君には関係ない事だと思うがね…」

イェルクは言い返せなくて顔を真っ赤にして歯を食いしばった

「か、関係なくない…俺の義母さんでもあるんだ…!」

「その前にボクの妻だね」

頭に完全に血が昇ったイェルクは、口では勝てないからか

その怒りを拳に込め、クラウス目掛けで振り下ろした

「ーっ、坊ちゃん…やめて下さい…」

咄嗟にディオは自分が盾になるようにイェルクに背を向けたので

彼の拳はディオの背中を強く叩くことになった

「ーこの!汚い獣人め!!

大体お前何なんだ!!

いっつも父さんと一緒にいて!部屋まで一緒にして!!

父さんも恥ずかしくないのか!?

何でソイツにお姫様抱っこされてんだよ!!キモいんだよ!!」

「仕方ないだろう…魔力切れで動けないんだ

お姫様抱っこは恥ずかしいけど

これはディオの優しさなんだよ?

それに、ボクのこと恥ずかしいとかキモいとか言うけどさぁ

父親の妻に欲情する息子ってのもなかなかキツイと思うんだよねぇ…」

ブチギレたイェルクは扉を壊れそうな勢いで締めて鍵まで掛けてしまった


「ーあっ!?坊ちゃん!?

開けて下さい!!お願いします!!」

扉が少し離れた窓から顔を出したイェルクは

2人に“死ね”のジェスチャーをして走り去っていった

「あぁ〜…もう!クラウスさんが煽るから!」

「えぇーだって生意気なんだもん…

ボクだって親である前に1人の人間なんだから苛つきもするよ」

ディオの事を悪く言われたのが気に障ったのだと、クラウスは少し不貞腐れながらいう

「…と、とにかく

玄関に回って使用人の方に入れてもらいましょう!」

「うわぁっ!いいよそんな急がなくても」

クラウスを横抱きしたまま

玄関へ向かうために歩き回ったので

この後暫くの間、クラウスは“お姫様”という不名誉?なあだ名が付くことになった

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