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はじめの一歩

まだ出勤前の早朝

部屋で眼鏡を掛けたクラウスは新聞を難しい顔をして読んでいる

その横にはきちんと座ったディオが不安げにそれを覗き込んでいた

「…なるほどね…」

机に新聞を置き、顎に手を添え背もたれに身体を預ける

「あの、なんて書いてあったんですか?」

「“主神ポロニアは堕ち、夜の巨人が暁をもたらした”って見出しでね

使徒“アルファウラ”が人類解放を宣言したそうだ

…まあ茶番だよ」

アルファウラ、もといアルバートと名乗った使徒によく似た男は

使徒でありながら人間であり、唯一使徒ととして生き残った男だ

熱心な使徒崇拝者であるバベットは彼をポロニアの位に押し上げ

主神として祀り上げたいと熱心に語ったが

アルバートは自分がポロニアのように人類を支配することなど考えてもいないとこれを拒否

何なら、今まで通り気ままに放浪しながら旅したいので放っておいてほしいとまで言っていた

エドリック王としては、世界の混乱を避けるためにアルバートに形だけでも

ポロニアの後を継いで欲しかったが

それが叶わないのならと、彼に“使徒として”使徒崇拝の廃止と

人類は真の自由を手に入れたのだと宣言させたという訳だ


とはいえ“人類解放”については、そもそも洗脳され支配されていると思っていない人間ばかり

この言葉の意味が分からない人間の方が圧倒的多数を占めており

その為か、使徒の“召し上げ”について

それの本来の目的がここに言及されていた

「使徒は人間を養殖して特別美味しそうな個体を食べてたって書いてあるけど

どれくらいの人が信じるかなぁ…」

「えっ!?そうなんですか!?」

ディオですからこの反応だ

クラウスはおかしくて笑ってしまった

「んふふ、まあそうだよね

考えてもごらんよ…貴族って何で特別なのかとか

とにかく子供を産めと言われたり、その割に認知されている子供の少なさとか

後ほら…貴族の見た目とかも…色々不思議じゃない?」

クラウスはクリスタルレイの仮設住宅に滞在中にアルバートに使徒の目的について聞いていた

使徒は人間の優種を使い、時の魔王を倒した後

人間を独占、さらにこの地位を守るために自分達を強化し続けるしかなかった

その為に作られたのが“貴族”

貴族は品種改良の末にギフトを持ちやすくなった血統

いわゆる、家畜でいうブランド品種であり

容姿端麗なのも使徒が捕食し“自分の物”にする為

貴族に高身長が多いのも歩留まりを良くするためと…聞いていて顔を顰めてしまうような理由が多かった

「ボクら人間は完全に使徒の家畜だったんだよねぇ」

「…っ…」

ディオはクラウスを横から抱きしめ彼の髪に顔を埋めた

「使徒を…殺したと聞いた時…

すごく恐ろしくて…でも、あの時俺が殺したから貴方が自分の生を自分の物にできた」

「…そうだね、もう期限付きの人生じゃないってことだ

ボクが70を越えてヨボヨボのお爺ちゃんになっても誰も迎えに来てくれない

君はそんなジジイの側に居なくちゃいけなくなっちゃったんだね

うーん、なんかごめん」

クラウスはハハハと乾いた笑いを漏らす

「安心してよ、君に迷惑は掛からないように介護は使用人にしてもらうし

ボクが役に立たなくなったら、番いとはいえ見捨てて新しい人を見つけて構わない」

そんな事を言うと、ディオは抱き締めていた手を離し

鋭い眼光で真っ直ぐに彼を見据えた

「前にも言いましたよ

俺はクラウスさんの介護をするつもりで番ったって

貴方はもう完全に俺のものなんだから

他の誰にも触れさせませんし

排泄物一つだって渡しません」

ディオは至って真剣な顔でクラウスを見つめた

その余りに真面目な彼の重たい覚悟に、クラウスの方が耐えられず

つい茶化してしまった

「…えぇ食べるのぉ?うんこは捨ててよぉ」

「す、捨てますよ…!?

そういう意味じゃなくてっ!

使用人の方でも貴方の下の世話をさせたくないんです!!

クラウスさんの恥ずかしいの全部俺だけが独占したいんです!!」

「分かってる、ありがと…愛してるよ」


エドアルドの代わりにディオを伴ったクラウスが庁舎に出勤すると

思った通り領民達が詰め掛けて大変な事になっていた

クラウス達もあっと言う間に囲まれてしまったが

覚悟の決まったディオが殺気を振り撒きそそれ以上人々を寄せ付けない

「ちょっとやり過ぎじゃない?」

「何かあってからでは遅いです

やり過ぎくらいで丁度いいんです」

そのまま何とか建物に入った彼らだが

庁舎の職員とて領民達と変わらない

クラウスに対してこれはどういう事なのかと説明を求めた

仕方ないので全員を集めてクラウスは職員達の質問に答えることに…

職員の質問の殆どが矢張り使徒の行っていた“悪事”についてだったが

クラウス自体もこれを全て把握している訳ではない上に

何処まで正直に話していいものか悩む

なので無難な範囲で回答していたところ

1人別の記事について言及した者がいた

「このぉ、ニュクテリスってぇ何かしらぁ…?」

使徒の支配の終わりに隠されるように書かれた小さな記事は

島国ニュクテリスの建国についての記事だった

エマは元々、使徒の行いを禁書の類で知っていたので

それよりもこっちの記事に目が行ったのだろう

「ああ…これは…

書いてある通りだよ、としかボクも…」

ニュクテリスの話はクラウスも王からサラッと聞いただけである

あのニゲラの夜に王を捕食しようとしたポロニアを殺したのは

王ではなく“夜の巨人”

そして、夜の巨人を制御していた人間の青年が

新しく生まれた島の所有権を求めてきた

エドリック王はそれに賛同したが、使徒がいなくなった今

王を定める者がいない

…と、ここまでがクラウスの知っていたこと


後は新聞に書かれている通り

世界中の王が話し合い、島国ニュクテリスと新王ルッツの就任が決まった

反対の声もかなり多かったらしいが

家畜(人間)の管理者であった使徒が居なくなった事で

それに成り替わろうとした魔族が居た

しかし、夜の巨人を目の前にした魔族達は皆しっぽを巻いて魔族領に逃げ帰った事から

魔族達を牽制するという条件で王を名乗り国を持つ事を認められたという事だった

「ニュクテリスは誰でも歓迎なんだってね

人間は勿論、魔族も獣人も…

ボクが知ってるのはそれだけだよ」

「あらぁ…随分と先鋭的ねぇ

私も引っ越そうかしらぁ?」

「ええ?君が居なくなったらボクが困るよぉ…」

エマは冗談で言ったのだろうが

クラウス的には絶対にあって欲しく無い話である

「そぉねぇ、使徒の支配が無くなったのならぁ

私たち亜人の待遇もぉ、もう少し良くなると期待してるわぁ領主様ぁ?」

クスクス笑うエマは、エルフの血を引くからといって酷い差別は受けていない

このワピチに来たばかりの頃はともかくとして、今では彼女を完全な人間だと思っている者も少なくはないのだ

彼女の言葉はほぼ間違いなくディオへの言葉だろう

「そうだね、人手不足も深刻だし

我々はもう少し歩み寄るべきかも知れないね」

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