人の減った街
人の手の行き届かない畑は雑草に占拠され
野生動物に荒らされた跡がそこら中にあった
長い時間を掛けてようやく辿り着いたネフロイトは、最後に見た時とは比べ物にならないくらいに荒れていた
パッと見ただけでも建物の3分の2は全壊しているようで、クラウスは顔を顰める
街の入り口から歩いて来た、クラウスとディオを見つけた領民は
ハッとした後、大声で2人の帰還を叫んだ
「領主様だ!!領主様がお戻りになられた!!」
瞬く間に近くにいた領民達が集まり、2人は囲まれてしまった
領民は皆口々に助けを請うが、クラウスは神様ではない
そんな状況に困っていると街の奥から道を開けろと声が聞こえて
領民達は慌てて二手に分かれた
「ご苦労だったな、クラウス
このジリアン、貴方の留守をしっかりと守ったぞ」
男性顔負けの戦士の装備に身を包み
剣を携えた後妻のジリアンが力強く言った
ホルツマン邸もネフロイト庁舎も多少の被害はあったものの無事であり
メルガルトがそうであったように
その他にも複数の建物が大震災を乗り越えていた
「死者の亡骸は既に二度と蘇らないように処置を施した
私は作物のことは分からないので
そっちは庁舎のエマに、領民への対応はエドアルドに任せてある」
エイベルの姉というだけあり
魔物に対する知識に明るいジリアンのお陰で
ニゲラが明けた後の死者や魔物への対応は迅速に行われ
二次災害は避けられていた
「ありがと、助かったよ
長い間留守にしてしまってすまなかった」
「構わん気にするな」
何だか仲良さげな2人にディオは少しヤキモチを焼きながら
黙ったまま2人の少し後ろを歩いていた
庁舎に到着すると
直ぐにエマが走って来てクラウスを抱きしめた
「よかったわぁ…!!
本当に心配してたのよぉ!!」
「遅くなってごめんね」
「生きて帰って来てくれたからいいのよぉ!
…ディオちゃん、ホルホルを守ってくれてありがとうねぇ!」
エマは泣きながらディオも抱きしめた
まさか自分まで抱きしめられると思っていなかったディオは慌てふためく
「あっ!あの…えっと…え、エマさん…!?」
「ははは、ディオが困ってるよ」
「旦那様!ご無事で何よりです!」
そこへ騒ぎを聞きつけエドアルドも駆けつけ
庁舎から職員がワラワラと集まって来た
職員達は皆疲れ果てていたが、クラウスの無事な姿を見て安心したのか
何人かの職員は泣き出してしまった
ディオとはここで一度別れ、彼は自宅とギルドに向かう
数週間ぶりの庁舎の執務室
クラウスは間に合わせに使っていた剣から自分の剣に取り替え会議室へ向かう
そこにはエマを始めとした庁舎の職員と
エドアルド、ジリアンが来ていた
そこで被害状況と現状報告を受け、今後の方針を考えることになる
「菜園や果樹園を管理する人手が圧倒的に足りないわぁ…」
沢山の領民が犠牲になった事で放置状態となったこれらの畑に
野生動物が集まってしまったが、追い払う人達も少なかったため
今では野生動物が我が物顔で闊歩している
「時期的に菜園で何種類かの野菜が収穫期を迎えてるので食料には困りませんが
このまま野生動物を放置すれば、貴重な食べ物は無くなってしまいますし
畑を放置したままだと次の作付けも出来ず、矢張り食糧難に陥ります」
職員達もこの状況を何とかしようと、交代で野生動物を追い立てたり
手の空いている職員で収穫等もしたが
職員のいない隙を狙ったり、そもそも人間を怖がらない個体が出たりと、かなり手を焼いていた
「建物の倒壊で自宅を失った人向けに、避難所の開放していますが
ストレスから不満や問題が増えています
有志を募って仮設住宅の建設や、倒壊した建物の撤去を進めようとしましたが
資材不足や矢張り人手の面でなかなか進みません…」
疲れた顔をしたエドアルドの報告
領民の多くは身内や親しい者達を亡くし、家や財産を失い
茫然自失となった者が非常に多く
エドアルド等の復興に向け前を向いて行こうとする者達についていけない人達に溢れていた
そういう人達は不満を周りにぶち撒け
避難所で問題行動を起こす者も少なくないという
そういうエドアルドも
今回の事で愛妻を亡くしており
小さな我が子をホルツマン邸のメイドに託し、一生懸命に働いていた
「ネフロイトの防衛だが
夜間に他所からゾンビ等のアンデットや魔物が毎日やってくる
それに日に日に治安が悪くなってるな
昨晩も暴漢を数人制圧したし、フルールの盗賊も何人殺したか分からない」
ネフロイトの防衛の要を担っていたロベルトを亡くしてしまったので
その穴をジリアンが埋めていた
彼女なりにクラウスの代わりに、ネフロイトを統制しようと努力しながら
戦える職員や自警団の生き残り、クラウスの長男であるイェルクの手も借りて防衛や治安維持を行っていた
「…とにかく何をとっても人手不足か」
人手を補う為に、ベルタは不眠不休でゴーレム製造をしているが
材料が不十分なせいで性能も耐久も劣るゴーレムしか出来ずなかなか上手くいっていない
「ギルドは生きてるって言ってたよね?」
「えぇ…でもダイアンちゃんは前線にはもう出られないと思うわぁ…」
・
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「おおっディオ…!うわっクッセェ!」
自宅に戻ったディオを出迎えたラビッシュは鼻をつまんで嗚咽した
「えっ…?そんなに?」
一緒にいたクラウスには指摘されなかったのでディオは驚いたが
四六時中一緒にいた事でクラウスも鼻がバカになっていた
「なんていうか…腐った臭いが…
一体どうしたらそんな臭いになる?」
ミーティアまで少し距離を取り顔を顰めるので
ディオは自分の臭いを嗅いでみるがよく分からない
「分かった!アレだ!ゾンビだろその臭い!」
ここへ来るまでの戦闘で腐敗液を浴びまくったディオの服は強烈な悪臭を放っていたのだ
貯めた雨水で身体を拭いて、服を着替え
仲間達がやっと鼻を摘ままなくなった
「まだ少し臭うがしょうがねぇか」
あの後、ミーティアとラビッシュはニゲラと大地震を何とかやり過ごし
無事にネフロイトへ帰還、彼らの邸宅は倒壊を免れていたが
家の中はぐちゃぐちゃになっていたので、それを片付け
今はジリアンが指揮する治安維持隊に加わり、街の防衛に勤めていたという
「ギルドはどうなってる?」
ディオの問いに2人は苦々しい表情をした
「ダイアンさん、生きてはいるけど
地震で足を無くしちゃった…」
「…そんな…!」
「けどまあ、足がねぇったって変わんないぜ
今にもぶっ潰れそうなギルドの前で野郎どもにハッパかけてら」
ダイアンの事が気になったディオは急いでギルドに足を運んだ
ギルドの建物は半壊しており
そんな建物の前に置かれた椅子に、座るダイアンが居た
「ダイアンさん…!」
「よぉディオ、無事でよかった
し、心配してたんだぞ…///」
ラビッシュの言った通り、ダイアンの膝から下が両足とも無くなっていた
そんな姿にディオはショックを隠せず、彼女の前で膝を折る
「おいおい、そんな顔すんなって
私は強い女だからこんなの…へちゃらさ…」
明らかに無理をして笑っているダイアン
これ以上、気を遣わせてはいけないと
ディオは深呼吸をして立ち上がった
「生きててくれて良かったです」
「そっちもな、お前が居るってことは大将も帰ってきたんだろ?」
「あ、はい!クラウスさんも無事です」
おい!とダイアンが声を上げると
崩れ掛けたギルドから冒険者達が何人も出てきた
彼らはどうやらギルドの建物を復旧しようと作業をしていたようで
手には釘やら板やらを持っている
「お前ら、一度庁舎に行ってやれる事が無いか聞いてこい!
大将が帰ってきたらから大きく動くぞ」
冒険者達はおー!と雄叫びをあげて庁舎の方へ走って行く
「…実はギルドの本部と連絡が取れなくてさ
多分、本部はぶっ潰れちまったんだろう
けど、だからってここを畳んで
冒険者達の仕事を奪うわけにゃいかない
アイツらには少しでも街に貢献してもらって居場所を作ってやらないと…」
ギルドに登録している冒険者の中には
マトモな職につけない問題を抱えた者も多い
今後どうなって行くか分からない情勢で
そんな彼らでも受け入れてもらえるようにというダイアンなりの配慮であった
「俺からもクラウスさんに言っておきます
ダイアンさんも、ここも必要だって」
「ははは、ありがとな」
笑う彼女が、何だか急に小さく見えてディオは胸が痛くなった




