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都市メルガルト

夜明けと共に出発しイブラントに着いた

昨日行った村と同じで、この農村も壊滅しており

クラウス達はアンデット達を沈黙させていく

「ワピチには集落も含めると142もの小さなコミュニティーが存在する」

弓をつがえ、狙いを定めたクラウスが放った矢は綺麗にゾンビの額を貫き

同時にディオは目の前のゾンビの頭を斬り飛ばす

「その全ての村がこの状態だとしよう

このアンデット達をそのままにしていたらどうなるだろうか」

矢筒に手を伸ばし、クラウスは再びゾンビの頭を矢で貫いた

「…ゾンビはやがてスケルトンになります」

「スケルトンは村に止まるかな?」

「いえ、恐らく獲物を探す為に徘徊すると思います

アンデットなので食べる必要は無いはずですが、彼らはいつも生きている獲物を探していますから」

最後の一体を斬りつけディオはその体を踏んだ

「全ては流石に無理だが

早い段階で各地の村に人を派遣して

ゾンビを片付けないと酷いことになるな」

弓を体に斜めがけにしてクラウスがディオの元に歩いてくる

「というか、クラウスさん

初心者だなんて嘘ですよね…」

折れてないまだ使えそうな矢を拾うクラウスにディオがいう

「え?何が?」

「弓ですよ、いえ、心強いですけど…」

「んや、ボクは初心者だよ」

確かに若い頃、アカデミーで使い方程度は習ったものだがその程度だと彼はとぼけたように笑う

「それにしては、命中率が…」

「ボクのジョブ忘れた?“魔剣士”だよ」

“魔剣士”とは

剣士と魔術師の両面を併せ持つジョブだ

単純に魔法攻撃も扱えるだけの戦士をいう場合もあるが

クラウスの場合は魔術による“バフ”で身体能力を上げたり、斬撃に属性を加えるという戦い方を得意としていた

「矢に風の属性を付与して放つんだよ

ただただ当たるようにってね」

攻撃魔法よりも命令の少ない付呪は唱える呪文も短く、リソースも少ない

「爆発力…攻撃魔法の攻撃力には注ぎ込む魔力量がかなり影響するんだけど

魔素の操作は訓練で何とかなる

戦士としての筋力も、魔術師としての魔力値も不十分なボクが唯一伸ばせた良いところがそこなんだよ」

曲がりなりにも“戦士”でもあるので

その筋力を弓を引くのに使い攻撃力に変え

命中率を魔術でカバーしたのだと彼は種明かしした


イブラントでアンデットの排除

村の探索を終え、少し休んでから都市メルガルトへ移動した

メルガルトはフォルガウという川とエムロンという広い森の側にある大きな街だ

街に近付くにつれ、道路は舗装されていく筈だが

大地震の影響でそれは見る影もなく、ひび割れ壊れてしまっていた

街全体を囲む高さ2m程の壁も一応あるような大きな都市だったが

それもほぼ全てが倒壊し、今では痕跡だけが残っている状態であった

それを見たディオはふと思った事を口にした

「ネフロイトは街と外の境界線に、石の壁じゃなくて木の柵を使ってますよね」

「あーね、アレは昔からそうだよ」

確かに、ある程度の高さのある石壁の方が

街の防衛という面では有用ではあるが

クラウス的には石壁の閉鎖感があまり好きでは無かった

「例えば、クリスタルレイみたいに

何十mもの高さと分厚さのある立派な外壁を作れば

賊や魔物の侵入を制限できるんだけど

うちって農作物が主な収入源でしょう?

その大事な資産はどうしても街の周りにある訳で…」

膨大な面積のある果樹園等の畑まで囲うのは現実的ではない

街と外の境界を示すのに2m程の石壁でも

壊れにくく入りにくさから敵の流入を制限でき防衛面で役立つとは思いつつ

木の柵を採用し続けるのは、その見通しの良さからである

「木は確かに壊そうと思えば簡単に壊されちゃうけど、街の中から外が見えるでしょ?

菜園に知らない人が入って行くのも丸見えだからね」

「そういう事だったんですね」

ニゲラの時の防衛戦で、ネフロイトの街が堅牢な壁で守られていたら

魔物が街に入ってくる制限が出来るのでは

と思っていたディオは、木の柵のメリットを聞いて納得した


辿り着いた都市メルガルトも殆どの建物が倒壊していた

「…まあ、そりゃそうだよね」

しかし、都市というだけあり

ここには区を預かる貴族の邸宅や、公共的な建物も多く

それらには耐久値を上げるような魔法が付与されている物も多く

さらに個人の持ち家であっても、資産のある人間が住んでいる家は

同じように魔法付与が施されているものも少なくなかった

「クラウスさん、人が居ます!」

遠目にもアンデットではなく、生きた人間と分かる者が瓦礫の山で何か作業をしているのが伺えた


その人に近付くと彼は手を止め2人を見た

「…何の用だ」

ボロボロで土などで汚れた服を着た男は

怪訝そうにクラウス達を睨み

瓦礫の上に立ったまま腰のナイフの柄を握る

「私達に敵意はない

他にも生存者はいるかい?」

クラウスの言葉に、男はナイフの柄から手を離し腕組みをした

「メルガルトは見ての通りだ

ここの住人だって、もうまともな飯を食えちゃいねぇ…

助けを求めてここまで来たんだろうが

自分達で一杯一杯だ、難民を受け入れてる余裕なんか無い、他を当たってくれ」

クラウスとディオは顔を見合わせた

「…ワピチの領主だって言いますか?」

「いや、面倒な事になりそうだ、やめとこ」

適当な挨拶をして2人は男から離れ

都市の中心へ向けて歩き出した

中心に進むほど、重要な建物が多いのか

被害をほとんど受けていない建物があり

その中のメルガルトの学舎には生き残った人々で、家を失った者達が避難生活を送っていた


そこを通り過ぎメルガルトの庁舎に顔を出す

中では何人かの職員達が働いていて

玄関から入ってきたクラウス達を見て声を上げた

「ここは避難所じゃないよ!

看板読めなかったのか?

支援を受けたいなら学舎の方へ行って!」

2人を追い出そうと近付いて来る職員に

クラウスは待ってと言い、そっとホルツマンの紋章を見せた

「クラウス・ホルツマンだ

あ、騒がないでね…混乱は避けたいから」

職員は一瞬驚いた様な顔をし

紋章と顔を交互に見た後、深く頭を下げ非礼を詫びた

「あ…あの…それで…ご用件は…」

「クリスタルレイから戻る途中で、被害状況を実際にこの目で確認しようと思ってね

アウラー卿は居るかな?」

「あぁ…アウラー様は…ニゲラで…」

この区を預かっていた貴族のアウラーはニゲラの際に外に居たため

魔力あたりで命を落としてしまっていた

今メルガルトは庁舎の局長がやむなく運営している状態であるという


クラウスは街の被害状況と、今ある物資と避難民の状況を確認し

庁舎の入り口付近で待機していたディオの所へ戻ってきた

「なかなか厳しい状態だ…」

苦虫を噛み潰したように顔を歪めるクラウス

ここも例外ではなくニゲラで多数の命を失い

更に追い打ちをかけるような大地震で、多くの備蓄まで失っていた

生き残った人々は元の人口の半分より少し多いくらいだが

その人たちを支えるだけの物資がもう数日もしないうちに尽きてしまいそうだった

「その人達は今何をしているんですか?」

「住民の事かな?…取り敢えず今は何個かある避難所で生活をしているよ」

「ニゲラは明けています

世界中がこの状態なので、誰かに助けてもらおうなんてのは虫のいい話だと思います

厳しいことを言いますが、悲嘆に暮れている暇はありません

怪我をしてない人は自分の出来る範囲で何かをするべきかと…」

「君のいう通りだな」

しかし、それを指揮できる立場の人間さえもこの街は失ってしまった

「よし、ちょっと待ってて」

もう一度、職員の元に走って行き

職員達を集め何事かを話し、紙に何かを書いて戻ってきた


「一体何を?」

「局長のヘリング氏をメルガルトの領主代行に任命してきた

これで彼がもう少し踏み込んだ仕事を出来るようになる

あとはまあ…ちょっとしたアドバイスをね」

2人はメルガルトを出てヘルネへ向かう

その道中で日没が迫ったので、今日は何もない場所で野営をする事になった

「人工物があっても、人が居ないとそれはそれで変に落ち着かないし

人が居たとしても襲われないか心配だから

逆にこういう自然の中の方がホッと落ち着けるかもね」

「だから敢えてメルガルトを離れたんですか?

クラウスさんの事は俺が守りますよ」

「気持ちは嬉しいけど、ボクだって君を危険に晒したく無いし

守りたいんだけどなぁ?」

明日はまたゾンビ等と戦うことになり

ネフロイトへ到着する予定でもある

「…急にネフロイトへ帰るのが不安になってきたな」

エマなどが生存しているのは、クリスタルレイに届いていた報告書からも分かっている事だが

一方で助からなかった友人も多くいる

紙の上で漠然と失った彼らを、この目でもう居ないと再認識するのが怖いのだ

苦痛に顔を歪めるクラウスに、ディオは掛ける言葉が見つからず

ただ彼に寄り添うように座り焚き火を見つめた

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