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夜を照らす光

“ポロニア”と名乗った得体の知れないソレは

王を追いかけ遠ざかっていった

領主達は暫く呆気に取られていたが

音に引き寄せられて来たアンデット化した使用人達の姿を見てヘルロフはハッと我に返る

「ぼーっとしてる暇ねぇぞ!」

わざと大きめの声を出して他の領主達を現実に引き戻す

「その通りだ、早く小屋に入って

魔素を防がないといけない」

クラウスは先陣を切って小屋の扉を開け、中へと入った

「ヘルロフ…!」

バベットが小屋の前で仁王立ちする彼の背に声を掛ける

「俺はこっちに向かって来てる

ゾンビを殺ってから入る

扉を壊されたら困るからな」


小屋の広さは、始めに逃げ込んだ物置部屋とそれ程変わらないくらいの狭さで

スコップや枝切り鋏のような道具が置かれていて、先の地震で中はぐちゃぐちゃになっていた

とはいえ、建物自体に目立った損傷はなさそうで

4人で協力してそれらの道具を片付け

目に見える隙間を塞ぎ終えた辺りで、ヘルロフが入って来た

「外から扉をノックされる心配は、取り敢えずなくなったはずだ」

いつも不真面目で何となく頼りない感じの男であった彼だが

ここにきて彼も民を導く身分なのだと他の者は感心した


「…ポロニアって“神様”ですよね」

木の箱に座ったアンセルモが小さな声で呟く

「主神ポロニア様は偉大な使徒様ですわ」

手を組み祈るバベットは静かに言う

クレリックである彼女は敬虔な使徒信者である

「ポロニア様は使徒様の頂点に君臨し

この人間の世界をお救い下さる唯一神よ」

「あの化け物が神だというのか?」

エイベルは言葉を選ばず率直な意見を口にした

「違うわ!ポロニア様はあんな化け物ではない!!

聖書に記されるポロニア様は逞しい男性の使徒様です!!

アレはポロニア様の名を騙る魔族に違いありません!!」

バベットは怒りを露わにし怒鳴った

(…神様…ねぇ)

エルフの図書館で恐らく禁書の類とされる本を読んでしまったクラウスには

ポロニアと名乗った怪物こそがポロニアなのだと思えて仕方なかった

「…何でもいい、それより俺たちが生き残る事を考えねぇと」

もう頼りになる王は居ない

今手元にある物資で、このニゲラをやり過ごさなければならないのだ


出来るだけ体力を使わなくていい様に

皆黙って座り時間をやり過ごそうとする

相変わらず余震は続き

揺れるたびに不安に襲われたが、取り敢えずこの小さな木製の小屋は崩れずに保っていた

小屋に入ってからどれだけ経ったか分からないが、不意に小屋の扉がコンコンと叩かれ

全員がその扉を注視した


「…王では?」

「ゾンビかもよ」

「ノックするなんて、随分と礼儀正しいアンデットが居るもんだ」

後衛職の2人は小屋の奥へ下がり

前衛職の3人が王が拾ってきた兵士の剣を構えた


「…私のクラウス…ここに居るのかい?」


外から聞こえた声は王では無かったが

聞き覚えがありクラウスは困惑した

「パイロクロア様…?」

それは確かにネフロイトを統治する使徒パイロクロアの声であった

「ああ!私のクラウス!探したよ

君を助けに来た、ここを開けておくれ」

この彼の言葉にクラウスは眉を顰める

「…ホルツマン卿、どうなさったの

使徒様が助けに来て下さったのでしょう

扉を開けなくては」

バベットが扉に近付くのをクラウスは遮った

「いや、よく考えてみてよ

彼ら扉を開けてもらう必要なんてあったかい?」

使徒はいつでも何処でも空間の割れ目から姿を現す存在だ

こんな木の扉一枚を開けてくれと請うだろうか

「まさか…また魔族が騙っている!?」

バベットは胸の前で祈りのポーズを取り祈り始めた

クラウスは扉の前に居るのは

本物のパイロクロアだと思っていながら

色々と思うところがあった


「クラウス…クラウス…私の可愛いクラウス

君は私のモノだ…他の誰にも渡さない…

開けて…開けてくれ…君も私と一緒に行こう…」

パイロクロアの悲鳴にも似た叫びを聞き

彼が“捕食”に来たのだと確信した

どういう訳か中に自力で入って来ないとはいえ、どうしたものかと思案し始めた時

この世のものとは思えないような、けたたましい絶叫が上がった


「おのれぇ!獣人の分際で!!」

木の扉に張り付いていた

白い触手に目玉を散りばめた化け物の背中はパックリと割れ大きな傷跡からドス黒い血を噴き出しながら

人間のような顔をぬるっと触手の中から出し

黒く濁った血液を吐き散らしながら吠えた

パイロクロアの吠えた先には

全身を傷だらけにしたディオが、オレンジ色の目をギラつかせて立っていた

「殺す!殺してやる!!」

喚きながら尖った蠢く触手を伸ばし、突進してくるパイロクロアに対し

ディオは一言も発さず、斧を構えグッと握り、太ももに力を入れた

目にも止まらぬ速さで打ち出された触手を彼は正確に斬り落とし跳んだ

そしてパイロクロアに渾身の一撃を見舞ったのだ

ーズド!!っと鈍い音と共に真っ二つになったパイロクロア

ディオは腰のポーチから火の魔素を集めた火薬を取り出し、魔女の遺体を燃やす時と同じように火を放った


「ぎゃあああああああ!!」


パイロクロアの断末魔は、外で何が起きているか知らない小屋の中の全員にも届いていた

全員がいつでも戦える準備をしたが

絶叫の後、外は嫌なほど静まり返っていた

「…静かに…なりましたね…」

アンセルモが剣を持つ手を震わせ、蚊の鳴くような声で言う

「魔物同士で殺し合ったのか?」

ヘルロフは剣を下ろし顔を顰めた


ードンドン!


扉がさっきより大きく叩かれ、皆再び身体を強張らせた

「俺です!ディオです!

クラウスさん無事ですか!?」

聞き間違う訳がない、愛しい相手の声にクラウスは剣を取り落とした

「…ディオ?君なのか?どうして…!?」

「クラウスさん…!

ああ…良かった…生きててくれた

エマさんから貴方がクリスタルレイに行ったと聞いて来たんです」

ネフロイトからここまでの道程を走って来るディオを想像してクラウスは目頭が熱くなる

「そんな、ああ…君は本当に…

待って今開けるよ、彼を中に…」


ヘルロフは首を振り窓の前に立ちはだかり

外からディオも開けないで!と叫んだ

「魔素が異常なくらい濃いです

開けたらクラウスさんに危害が及ぶ

貴方が無事ならそれでいい、俺は外で貴方を護ります」

「…っ…そうだけど…」

クラウスは俯き地面を睨んだ

もう半分諦めかけていたディオが扉の向こうに居るのにと唇を噛む


「魔力下しのポーションが、マジックバッグに何本かありましたよね

…ね?ネバレス卿」

「えっあ、はい、確か5本は…」

エイベルは今ある物資の確認をするとこんな提案をした

「いつ終わるか分からないこのニゲラ

ホルツマン様の従者に物資を集めてきて貰ってはいかがでしょうか

欲しいのは主に魔力下しと飲食物

そうですよね、ルッベルス卿

彼が物資を集めて来てくれれば、1人増えても飢える心配はなくなりますよ」

エイベルに言われ、…まあ、とヘルロフはバツが悪そうにした

「そういう事ですので

どうか物資を集めて来てくれませんか

隣に立つ大きな建物が穀物庫ですし

医療品も少し離れてはいますが兵舎の医局で見つかるでしょう」

これを受けてディオは物資の調達に走る事になった

元々持っているマジックバッグから、今は不要な魔女狩りの戦利品を出し穀物庫へ向かう

石造りであった穀物庫も、城同様にかなり倒壊が進み

探索はかなりの危険が伴うものであった

「…これでいいのかな」

倒壊しかけた棚から幾つもの麻袋を引っ張り出して外へ運びだす

60㎏は袋を持ち出して小屋の前に置いておいた


そのまま向かった兵舎の方には

ニゲラの魔素で死んだ騎士達が、アンデットとして蘇り彷徨いていた

屈強なアンデット達に一瞬身構えたが

魔物としての等級は低く、ディオにとっては赤子の手を捻る程に簡単な相手であった

兵舎も矢張り地震でダメージを受けていて

半分以上倒壊した状態である

細心の注意を払いながら中へ足を踏み入れ、見つけた医局もかなり酷く荒れていた

「潰れてなくてよかった」

棚にあったポーションは殆ど地面に落ちて割れていたが

無事なものが全く無かった訳でもなく、それを全て回収した

「ディオ…大丈夫かな…魔物に襲われてないかな…」

クラウスはさっきから落ち着かない様子でずっと部屋の中を歩き回っている

「獣人なんだろ?その従者

心配しすぎじゃねぇか?」

何だかヘルロフは面白くなさそうである


ードンドン


扉がノックされてクラウスはディオの名を呼んだ

「持ってきました」

外から聞こえた声にエイベルはムッと口をへの字に曲げたヘルロフに扉を開けるように言い

やっとディオは小屋の中に入ることが出来た

「クラウスさん…!」

「ディォ…ゴホゲホッ!うぐっ…」

素早く扉を閉めたのにも関わらず、クラウスはその場にうずくまり、苦しそうに咳をした

そこへエイベルが素早く魔力下しを使った


数分置いてやっと症状が改善したクラウスは

自分の元へ来てくれたディオを見た

彼の装備はボロボロになり、全身傷だらけだ

自己治癒力が高いリグマンがこの状態というのは、それだけ無茶をしたという事になる

「ボクもう君に会えないものだと…」

ディオの傷だらけの手を両手で包み込みクラウスは鼻を啜った

「魔族領にだって迎えに行きますよ」


「感動の再会中に悪いのだが」

ヘルロフが少し不満そうに声をあげた

「ネフロイトから来たなら、外がどうなってるか色々話せるよな」

「えっと…どうと言われましても…

俺はワピチを囲んでる山を突っ切って来たから…」

知っている事は少ないかもと言いながらディオは自分の見たものを話した

「魔素はすごく濃いです、俺が経験した中で一番濃いと思う…

でも不思議と魔物がいません

居てもすごく弱い奴らなんであまり問題にはならないと思います

ただ、やっぱり逃げ遅れた人が多かったみたいで…沢山死んでいました」

「弱いって言うのにお前の怪我は何だ?」

「これは…山を越える時に盗賊に出会って…

それと、この城下町に居る変な奴です」

ディオはエマから聞いた通り、クリスタルレイまで真っ直ぐ来た

ここへ来るのには城下街を通らなければならないのだが、そこで白い触手の塊と何度か戦闘になったと言うのだ

「あっちの攻撃は俺にあまり効かないから、あの武器は魔法攻撃の類かと

…それに魔女と同じ方法で殺せるので、アレは新種の魔女だと思います」

さっき小屋の前でも殺したんですよと真面目な顔でディオは言うので

落ち着きを取り戻していたクラウスは、ふっは!と思わず笑ってしまった

「それとは別に、何かよく分からない黒くて大きいのが城下町の中を歩いています

新種の魔女と戦っていました

あ、そうだエマさんにこれを預かってきました」

ディオはクラウスに魔道具を渡し

首を傾げる彼に“メンダラー”だそうですと付け加えた

「…!これが…!」

クラウスは早速渡されたメンダラーを調べ起動させる

ゥ…ン…と音をたてて動き出したそれの効果はすぐに表れた

その場にいた人間の何ともいえない具合の悪さが改善されたのである

城にあった魔素除去用の魔道具なんかよりも数倍も効力の強い古エルフの技術に感心しながら

これならニゲラをやり過ごせるそんな気がしたのだった

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