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迫られる選択

ーズンッ!

突き上げる様な激しい揺れと爆音

その直ぐ後には地鳴りと、猛烈な横揺れが襲い掛かった

「きゃああああ!!」「しゃがめ!頭を低くしろ!!」「ああっ!!」



実際に揺れていたのは1分程度だったが

その場にいた全員は、もっと長く揺れを感じていた

揺れが治った時は、棚が倒れ積み上げられていた木箱は崩れ

部屋の中は塵が舞い上がり空気は粉っぽくなっていた

地震など殆ど起こらない土地柄、建物は基本的に石造りである

王と領主達が居た物置部屋は、部屋自体が狭かったため崩壊は免れたが

扉は歪み開けられなくなってしまっていた

「…っ…大丈夫か?」

王はのしかかって来た木箱を押し除け、皆に声を掛ける

「怪我した…イテェ…」

ヘルロフは割れた木箱の破片で腕を切ったらしく、流れ出る血を止めようと押さえ

エイベルも棚から落ちて来たガラス瓶の破片が背中に複数刺さっていた

「私は無事です」

アンセルモは比較的出入り口に近い、物の少ない場所にいたため無事だったようだが

「…ホルツマン、デュモン、無事か?」

「…生きては居ます…っ…!

ちょっと自分だけじゃ退けられそうにないんで手伝ってもらえません?」

部屋の奥で倒れて折り重なった棚の下から、クラウスの声が聞こえたので

アンセルモと王が力を合わせてそれを持ち上げると、重い木棚の下にクラウスの頭が見える

「出てこれるか!?」

「ちょっと…待って…バベット、先に出なさい…!」

王達が木棚を持ち上げるのと同時に、クラウスも背中で目一杯棚を押し上げる

するとクラウスの下から、バベットが這い出してきた

彼女が出たのを確認すると、クラウスも王とアンセルモが棚を持ち上げていてくれる間にその下から出た

バベットには特に怪我はなかったが

クラウスは頭をぶつけているらしく、顎先から血液が雫となって床に落ちていた


「ホルツマン卿…私を庇って…」

「君は回復魔法使えるでしょう?

君が無事ならよっぽど大丈夫だよ」

痛む頭を押さえながら、座り込むクラウスから順番に

バベットは回復の奇跡を行った


「…出られなくなったな」

王が扉を押しても引いてもビクともしない扉のノブをガチャガチャ何度か回し

諦めたようにその場に座った

「ニゲラに地震に…踏んだり蹴ったりだな」

倒れた棚の上に腰を下ろしたヘルロフはつまらなさそうに呟いた

「出られない事は無いんでしょう?

ただ、出た先も地獄というだけで」

扉の前に座る王にクラウスはそんな風に言う

「まあな…力尽くでこの扉を吹き飛ばす事はできるが

そんな事をすれば魔素が流れ込む

俺は良くても、特にお前は死ぬだろうな」

「…ハハハ、参りましたね

どうせ死ぬなら大切な人に看取られたかったなぁ」

クラウスはそう力なく笑いながらうなじを摩った

「家族が心配です…」

アンセルモが俯向く

皆、口にはしないが誰もが考えるのは

大事な人の安否である

「そういえば、ホルツマン

お前少し前に再婚しただろう」

「ああ?あーはい、そうですね?」

「どうだ、新しい嫁は」

王は世間話として話を振ったのだが、彼の普段の素行から

真っ当な意味に取れなかったクラウスは顔を顰めつつ答える

「今のところ良いんじゃないですかね

子供達も気に入ってくれてますし

何なら息子は剣術を習っていますよ」

「へぇ!良いなそれなんて親子丼?

いや穴兄弟ってか?」

ヘルロフが手を叩いて楽しそうに笑うので

クラウスはこれ以上無いくらいの嫌そうな顔をした

「…これ私は殴る権利あるんじゃない?」

「ヘルロフ、状況が状況だから慎め!」

同じく、少し離れたところで

エイベルが口角を釣り上げた殺意のこもった笑顔を浮かべているのを

アンセルモは見てしまった


「…時計があれば良かったのに」

「まさか誰も時計を持ってないとはな」

「待ってますよ…1度目の地震で壊れただけで」

初めの地震があってから、どれほど経ったか分からないが

けっして規模の小さくはない余震が続いており

地面が揺れる度に地鳴りと、天井部分からパラパラと粉が降ってきていた

いつ来るか分からない余震、今にも崩れそうな天井

そこに居る彼らが受けているストレスはかなりのものだろう


うぅ…ゔうぅ…


扉の向こう側から聞こえる複数の唸り声と、足を引き摺る無数の足音

アンデット化した死体の数もバカに出来ない量になっている事が予想でき

全員の気分が更に落ち込む


ーミシッ…ゴゴゴゴ…


地鳴りと共に再び余震が6人を襲う

数秒揺れ、揺れが止まると全員が胸を撫で下ろす

「こんなのいつまで続くんだよ…!」

ストレスからヘルロフは苛立ち、転がっている木箱を蹴る

不意にクラウスは喉のいがらっぽさを感じてんんっと喉を鳴らした

「どうしたホルツマン」

「…あー…残念なお知らせをしないといけない

多分、今の揺れで私が体調をきたす程の空気の流れが出来たと思います」

王は渋い顔をして顎鬚を撫でた

そして、ここから一度出た時にしたように指を先を切ってクラウスの眼前に差し出した

「飲め」

「…私は吸血鬼じゃないんですが」

皮肉を言いながらも、背に腹はかえられないとして

クラウスはその指を口に入れた

「おぉ、エロいなそれ」

「ルッベルス卿」

アンセルモがゴホンと咳き込み牽制した

「それはどのくらい保つんですか」

エイベルの素朴な疑問に、王はこれまでの経験則で話す

「摂取量と魔素の濃さによる

ホルツマン、嫌だろうが死ぬよりマシだろう?

多めに300mlくらい飲んでおけよ」

血液を飲むという行為は自分の物であってもいい気分ではない

まして他人の血液だ、クラウスは吐きそうになるのを必死に堪えていた


そんな時に更なる余震が6人を襲った

「…神様っ!」

バベットの悲鳴があがり、横の壁から天井に向かってヒビが入ったのを目にしたエイベルが咄嗟に防御壁の詠唱をした

それに気付いたヘルロフはバベットとアンセルモの腕を掴みエイベルの、王の近くへと引き寄せた


揺れがおさまった時

扉から向かって右側の壁と天井が崩落し

部屋には土煙が立ち込めていた

「…間一髪って奴か」

エイベルが防御壁を張っていなければ

ヘルロフが2人を引き寄せていなければ

王がクラウスに血液を与えていなければ

誰かが死んでいてもおかしくなかった

「王よ…どうなさいますか

もうここには居られない…」

アンセルモはマジックバックを持ち上げ

無事だった魔素除去用の魔道具を拾い上げる

「魔素が異常に濃いですね

早急に空気の流れを遮断できる部屋を探さねばなりません」

エイベルの言うように、よくあるニゲラよりも空気中の魔素が濃く

王と王の血を飲んだクラウス以外の全員に、不調が現れ始めていた


決断を迫られた王は少し考えた後に

全員に血液を分け与えると

着いてくるように言い、崩れた壁から外へと出た


城の中はそれはもう滅茶苦茶になっていた

石造りのそれは、何処もかしこも崩壊し

1秒でもここに止まるのは危険だと、誰でも分かるほどであった

更に、アンデット化した使用人達が

一斉に6人目掛けて集まり始めたのだ

王を先頭に、殿をヘルロフが務め

敵を倒しながら何とか城から外に出ることに成功した

「アレの中に居たと思うとゾッとするね」

東側は殆ど崩れ去り、もはや元の姿が想像できない状態のクリスタルレイ

過去の荘厳な佇まいは見る影もなく、もはや瓦礫の山といっても過言ではない

「何処へ行くのですか…?」

王の血から護られているとはいえ、ニゲラの夜の中を行くのに不安を感じ

バベットはこのまま王に着いていくことを躊躇った

「下ベイリーの穀物庫だ、あそこの近くに小さな納屋がある」

それは木造の建造物であり

石造りの建物とは違い無事な可能性が高いという

崩れかけたスロープを降り、倒壊していない小さな納屋が見えてきた

皆の表情が安堵に弛んだところにソレはやってきた


6人の行手を阻むように納屋の前に巨大な白い塊が落ちてきたのだ

見たことのない謎の物体に王は戸惑いながらも剣を構える

『…カルネウス…見つけた…ぞ…』

ソレは王の名を呼ぶ

『今こそ我ポロニアに返り…世界を救う礎となるのだ…』


白い塊はザワザワと蠢き、内側から無数の目玉が生まれた

「ポロニア…?…馬鹿な…それは神の名だ

お前が神だと言うのか…!?」

ポロニアと名乗ったソレは、白い触手を足のように動かし

王に向かって進み始めた


真っ直ぐ王だけを狙って来るポロニアに、王は覚悟を決め走り出し叫んだ

「コイツは俺を狙ってる!

お前達は納屋に避難しろ!!」

「そんな!エドリック王!」

「お前達はそこで何とかニゲラをやり過ごせ!!

いいな!?王の命令だ!!

化け物!相手してほしいのならこっちへ来い!」

ポロニアを引き連れ、王はニゲラの夜の中に消えて行った…

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