表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
77/102

シュチュエーションホラー

クラウスが再婚して数日

前妻のレティシアのように、ジリアンもクラウスを避けて生活するのかと思いきや

予想に反して仲睦まじく過ごしている二人に対し、エドアルドは驚きを隠せなかった

「それじゃ、行ってくるよ

家のことは任せるね」

「ああ任せろ、気を付けて」

玄関で挨拶を交わすクラウスとジリアン

ホルツマン邸の門を越えたところで

エドアルドはそれについて聞かずにはいられなかった


「旦那様…奥様と随分仲が宜しいようで…」

「はは!…何それ」

腑に落ちないといった顔のエドアルドに、思わずクラウスは笑った

「誤解を生まないように先に言わせて貰うが

ボクは浮気なんてしてないからね?」

「ええ、はい…」

ディオ一筋だと彼は言う

では何故かと問うと、その訳を教えてくれた

「彼女、剣士としてかなりの手だれだぞ」

初夜の日に部屋の中でステッキを剣に見立て、手合わせをしたところ

油断出来ないくらいには強かったのだとクラウスは言った

「ノルウォギガスでは母から“女”だからと

ダンスにお茶とまぁ…不本意な花嫁修行をさせられて

人目を盗んでは剣技を磨いていたらしい」

クラウスも母と同じように剣を取り上げるのかとジリアンは始め訝しんだが

彼女の剣技を褒め、むしろ毎日の修練に付き合って欲しいと頼んだところ

彼女は驚いた後、嬉しそうに提案に乗ってくれたのだという

「それで色々話しているうちに仲良くなったんだよね

ボクらすっかり“友達”だよ」

クラウスの2人の娘も、ジリアンと上手くやれているらしく

イェルクも初めは否定的な態度を取っていたが、弱いと挑発された折に

ムキになって戦ってコテンパンに負けてからというもの

ジリアンを師と仰ぎ、剣の技を磨いてもらっているのだという


「良かったですね」

「それはどうかなぁ…」

ジリアンがホルツマン家で受け入れられる程

ディオは少しずつ荒んでいた

いつもどこか機嫌が悪く、クラウスに対してネガティブな発言を繰り返すようになってしまったのだ

「愛を伝えてもあまり響かないのよ…

こんなに愛してるのに…」

「あぁ…それは困りましたね」


そんな風に話していると庁舎に到着した

通り過がりの職員に挨拶をしながら、執務室に入りコートを脱ぐと

エマがいつものように丁度いいタイミングでコーヒーを持って来てくれた

「おはよぉ〜新婚生活は順調みたいねぇ」

「君までそんなこと言うの?

水面下ではかなりの修羅場を迎えてるよ」

あらあらなんて言いながらエマが仕事の書類を一揃え机に置いた

「グーベンカンフに視察のお仕事があるのだけどぉ

ディオちゃんを護衛にしてぇ、2人きりでのんびり行ってきたらどうかしらぁ?」

度々エマが提案するディオとの旅行、もといお仕事はかなりグレーな気がしつつも

クラウスはそうしようかな、なんて縋り付いてしまう

「うふふ、正直でいいわねぇ

あの子が魔女狩りから戻ったらぁ

2人でいってらっしゃぁい」


少しだけ気を持ち直したクラウスは、早速今日の業務に取り掛かろうと眼鏡を掛けた

しかし、急に執務室の机の前の空間が歪み

そこがパックリと口を開けたように割れ、1人の使徒が姿を現した

あまりに急な訪問に、クラウスは勿論

エマも呆気に取られて身動き一つ取れなかった


「クラウス・ホルツマン、来てもらおう」


「えっ…あの、どこに…?」

「お前はただ私の言葉に従えば良い」

急に現れ、さらに行き先も訳も言わずに着いてくるようにと言われ

相手が使徒でも、流石にそれはあんまりだとクラウスは異を唱える

「いやそうは言いわれましても

仕事もありますし…ほら、私は少し前に再婚したばかりです

大事な人に行き先も伝えず出掛けるのは“今後”の事を考えるなら

宜しくないんじゃないですかね…」

クラウスの言う“大事な人”は勿論ディオだが

使徒は目を細くし一言「クリスタルレイだ」と言った

「…分かりました」

エマに目配せをし、クラウスは使徒と共に空間の割れ目に足を踏み入れた

全身がぐにゃりと歪むような

気持ちの悪い感覚に襲われ

割れ目を抜けた先で、ひどい頭痛と吐き気に見舞われクラウスは膝をついた

「ちょ…と待って下さい…っ」

使徒はしゃがみ込んだクラウスを冷ややかに見下ろす

「ホルツマン、お前は魔力耐性異常を持っていたか

すまんな、忘れていた」

早く立ち上がれと言わんばかりの謝罪に見せかけた高圧的な威圧

使徒のこういう所も心底好きになれない存在だなと

心の中で悪態を吐きつつ、頭を押さえながら

無理くり立ち上がり使徒の後に続いた


そして謁見の間に連れて来られた彼は

その場の異様な光景に怖気付いた

本来王が座る玉座に使徒プルトンが座り、その周りは何人もの使徒が立っていて

王はその壇上より下に平伏していたのだ

「何をしている、中に入れ」

使徒に促され、恐る恐る

王よりも後ろにクラウスは跪いた

(なんだ…?何が始まるんだ…?)

物々しい雰囲気の中で、王に聞ける筈もなく

そうこうしている内に、他領の領主も同じように謁見の間に連れて来られた


全員が集まると玉座に座るプルトンが口を開いた

「…集まったな

早速だが、同胞ゼノタイムの行方がレプレイス以降分からなくなっている

お前達、心当たりはないか」

心当たりと言われても、クラウスを始めとする領主達は

レプレイスの降臨の後のゼノタイムの行方など知る筈もない

その場の全員がその旨を伝えたが、それはプルトンにとって正しい返答では無かったのだろう


まるで此方側に非があるような物言いの後

採光窓から光を取り入れていた謁見の間は徐々に暗くなり始め

激しい雨が城を打ち鳴らし、雷鳴が轟いた

使徒と共鳴するような突然の豪雨の後

空間を割って現れた使徒がプルトンに耳打ちした

その後、プルトンは

クリスタルレイの城下街に多数確認された

魔術的な迷宮構造について言及する


これに王は、城下街の防衛の為と言ったが

プルトンは納得が出来ない様子である

誰が見ても整った容姿だったプルトンの顔は、今では目が8つの異形と化していた


一体、どうすればこの時間が終わるのか

跪くのにも疲れてきた頃に

使徒達は一斉に空を仰いだ

「コフィンが殺された」

そう口々につぶやいた彼らは、王に本当に何も知らないのかと再度問いかけ

王の返事を聞くや否や、彼らは空間の裂け目から一瞬で謁見の間から消えてしまった

それからずっと王も領主も謁見の間に居た

使徒に「待っていろ」と言われ、誰も動けないのである

そんな中で痺れを切らしたヘルロフが

「いつまでここで待ってりゃいいんだ?」と溢した

それは皆が思っている事だが、使徒の命令となれば従わざるを得ない

ヘルロフの発言に、若いななんて思っていたクラウスは

不意に喉に突き刺さるような痛みを覚えた

「ホルツマン卿、どうかなさった?」

隣に居たバベットがそんな彼の異変にいち早く気が付く

この喉の痛みが何であるか、クラウスは気付いていたが確信が持てず

混乱を招いてもいけないと思い平静を装おうとした

「…いや…ん゛ん゛…喉が…」

少し痛いぐらいなら我慢出来る

そう思ったのも束の間

突然ズシリと身体全体が重くなり、息をするのにも激痛を伴い、床に吐血した

領主達は彼の容態の急変に慌てふためいたが

王だけがクラウスに何が起きているか理解した

「魔力あたりか…!?」

遠のく意識の中で王の叫びを聞いたクラウスは

もう一度吐血し、そのまま意識を手放した


そんなクラウスを担ぎ、領主達を伴って謁見の間を出たエドリック王は

ここから一番近い物置き部屋に全員を誘導し

アンセルモとヘルロフに

木箱からアダマントで作られた魔道具を取り出すように指示すると

エイベルやバベットには部屋の隙間を出来るだけ埋めるようにと棚からタオルを取り放った

王は担いでいたクラウスを床に寝かせ、彼の状態を確認する

「…うぅむ、よくないな」

急性で重度な魔力あたりであると確信した王は

クラウスの着衣のボタンを外し、ベルトを緩めた

そして一言「許せ、ホルツマン」と呟くと

気を失ったクラウスの唇を奪った

「あっ!叔父さん!狡いぞ!!」

それに気付いたヘルロフが的外れな抗議をしたが、王は気にせずそれを続け

数秒の後、目を覚ましたクラウスが眼前の王の左頬に反射的にグーパンチを入れた

「んぐっ…!助けてやったんだぞ

何も殴らんでもいいだろう」

言うほどダメージが入った訳ではないが

頬を摩りながら王は「おお痛い、歯が折れた」なんて言う

「あーすみません、汚いオッサンの顔が目の前にあったからつい」

ポケットからハンカチを取り出し、口元を拭いながらクラウスは起き上がった

「汚いだと?俺だって枯れたおっさんとベロチューしたくないからな!?

するなら若い姉ちゃんがいいに決まってるぞ!?

対象と繋がらねばならんのだ!仕方ないだろう!」

「ああもう、その気持ち悪い言い方やめなさいよ!

まあでも…助かりましたよ、ありがとう」

王が彼の体内に蓄積した魔素を吸い出してくれた事は分かっていたので

面白くはないが礼は述べ、それでと続けた

「今はどういう状況ですか?」

「何の前触れもなくニゲラが来た

お前がいち早く反応したお陰で、他の者に被害は出ていない」

「あのね、私はカナリアじゃないんですよ…」

使徒からの招集や急なニゲラ

数時間、緊迫した状況に置かれていた皆の心が

この2人のやり取りで少しだが解れた


「それで、これからどうします?」

部屋中の隙間をタオルや布で塞ぎ終わったエイベルが王に問う

「どうと言ってもこの部屋から出ることすら出来んだろう」

本来ならニゲラが来る前に、城の至る所に魔素を除くための魔道具を設置し

扉や窓の隙間を埋めるなどの備えをするものだ

現状、ハッキリと安全と言えるのは

今6人が居る、窓もないこの狭い部屋だけだと王は言った

「コモンゲラートや家族が心配です…」

真面目なアンセルモは拳を自らの太ももに叩きつけ、自分の無力さを嘆く

「その気持ち、分からなくはないが

まずは自分の心配をした方がいいぜ

このニゲラが一体どれだけ続くか…」

ヘルロフはそう言いながら、物置部屋の木箱や棚を物色した

「食べ物も飲み物も置いてなさそうだ」

「物置きと言ってもパントリーでは無いからな」

「飢え死にはしたくないわ…」

不安そうに首飾りを両手で握りバベットはお祈りを始めた

「…ホルツマン、何か持ってないのか」

「えぇ…何で?あったかな…」

クラウスがポケットを探ると、のど飴が3個出てきた

「6人で飴3個、何日生きられると思います?」

王は渋い顔をし、少し考えた後に盛大なため息を吐いた

「仕方ない、俺がキッチンで何か手に入れてくる」

「…いけません!危険です!」

アンセルモは慌てて王の提案を否定したが

ヘルロフは「いいじゃん、宜しく」と笑い

「出来れば食料以外の消耗品もお願いします」

エイベルは注文まで付けた

「ホルツマン卿!王を止めてください!」

アンセルモは王と年齢の近いクラウスに、王を止めるように頼んだが

クラウスは半笑いでいってらっしゃいと手を振った

「何故!?誰も止めないのですか!?」

「ネバレス卿、落ち着いて

その人に魔素は効かないのよ」

クラウスに言われて驚いたようにアンセルモは他の領主達を見てから王を見た

「私だけ知らされてなかった…?」

「いや、知ってるのはホルツマンだけだぞ」

他の2人はただ薄情なだけだと王は笑う

「しかし、俺が出るためには扉を開ける必要がある…

扉を開ければ当然だが、魔素が流れ込む」

王は徐に木箱の一部をへし折ると、木片の尖った部分で手首を傷付け

血液の流れ出る手首をクラウスの目の前に差し出した

「一口分でいい、飲んでおけ」

「…いや、普通に嫌なんですけど」

「それは、血を飲むより俺とのベロチューの方が良いってことか?」

クラウスはこれでもかと嫌そうな顔をしながら、仕方なく王の血液を傷口から直接飲んだ

「…うーんマズイ…もう吐きそう…」

「吐くなよ、魔力下しの代わりなのだから

お前達も体調に不安がある者がいるなら

俺の血を飲んでおけ」

「では頂きます」

エイベルは特に抵抗もなく王の血を啜ったが、他の者は遠慮した

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ