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代替わりへの旅路

2頭の馬が寒さの落ち着いて来たワピチの草原を走る

「今日が晴れてよかったよ」

先頭の馬の手綱を握るクラウスに追従するディオは、微かに春の香りの漂う

まだ冷たい空気を吸い込み、一年前の今日を思い出していた

「…あの…!…今年も俺で本当に…」

「いいんだよ!君がいいんだ!」

クラウスは手綱を引いて速度を落とし、ディオの横に並んだ

「来年も一緒に行こうって言ったじゃぁないの」

ね?とクラウスは優しく微笑む

本当のところは、このレプレイスの遠征で

人間の女性を娶る許可を、ディオに取ってくるようにと

エマとエドアルドに言われて出て来ていた為、心中は穏やかではなかった


今年は出発の遅れもなく、昨年の旅での反省点も補えるように装備も整え

かなり万全の状態で出発していたので

特に何事もなく、いつもの宿に到着する


宿の主人にも事前に、従者が前回と同じくディオである事は伝えてあったので

特に何か言及される事もなく、2人は部屋に通された

「…去年なんですよね

なんだか昨日のことみたいに思い出せます」

ディオはそんな風に笑いながら

背負っていた荷物を下ろし、上着を脱いだ

「そういえば、宿のご主人

エドアルドさんとロベルトさんにお大事にって言ってましたけど…」

「ああ、あれね

2人とも食中毒ってことにしてあるから」

実際には2人とも元気にネフロイトのレプレイスの準備をしているのだが

去年の最後にクラウスが「盛るか…」なんて呟いたのを思い出してディオはハッとなった

そんな彼に、装備を外して身軽になったクラウスはニコッと笑いかけ

一瞬の間を置いてから彼に抱きついた

「わっ…!クラウスさんっ!

だ、駄目ですよ!」

「えぇ…どうして?嫌だった…?」

「ち…違います…嫌な訳ないです!

だ、だってレプレイスですよ…?」

そんな風にいい、慌てる彼に抱きついたまま

その胸に顔を埋めてクラウスは上目遣いに見上げた

「鍵は掛けたし音も遮った

ここには君とボクだけ…レプレイス?

そんなの関係あるのかい?」

ペロッと唇を舐められ、ディオはもう我慢の限界だった


クラウスの身体を持ち上げると

そのままベッドに運び、その上に寝かせ彼を組み敷く

「ふふ、それで…次はどうするの?」

挑発的に笑うクラウス

ディオは彼に甘えるように喉を甘噛みし

シャツのボタンをあっという間に外してしまった

「あ…あれから…一回も…そういうことにならなかったから…

俺との、本当は悦くなかったんじゃないかって…む、無理してない…ですか…?」

「え?嫌じゃないよ?

あー…ボクは元々そんなガツガツしたタイプじゃないのよね

それに純粋に疲れちゃってたり、タイミングが合わなかったり、それだけで…」

それを聞くと、ディオの緊張が少し解け

表情が若干柔らかくなった

「散々誘惑しといてアレだけど

むしろ、あんな事があったから

君の方が拒絶するかなと思ってた」

「それは…それこそ…俺とするの嫌じゃ無いですか…?

分かったでしょう、俺が昔何をしてきたか…俺、汚いですよ…」

「こ、この状況でそうなるの…んっふ!」

クラウスは思わず笑い声を上げた

ディオが真剣に悩んでいるのは分かっているのだが、クラウスはなんだか可笑しくて堪らなくなってしまったのだ

笑われた彼の方は、何故クラウスが笑っているのかよく分からずオロオロとしている

「ごめん、ごめんね…君は本当に可愛いな

今日は君のしたいようにしてごらん

ボクも君の要望を全て受け入れるし、途中で止めたっていいからね」


燃え上がるような熱い夜を終え

出発の準備をクラウスは渋い顔をしながら行う

(…これやっぱり難しくないか?)

最愛の人に建前だから嫁を取らせてくれなんて言えるほど

心臓に毛は生えてはいない

しかし、今回の2人旅でこの問題について

話し合ってくるとエマ達と約束してしまってもいる

馬に積み荷を乗せている時に、不意にディオと視線がぶつかり

彼が幸せそうで、何処か恥ずかしそうな笑顔を向けてきて

余計にクラウスは心が折れそうになった



そして結局その話を切り出せないまま

2人はクリスタレイの城下街にある

あのホテルまで辿り着いてしまっていた

「じゃあ、ボク会議に出てくるから

…お祭りを楽しんでおいでと言いたい所だけど、今は1人で外に出るのは止めた方が無難だ

暇だと思うけど、ここで待っててね」

「いえ、どのみちここで待ってるつもりでしたから

気を付けて行ってくださいね」

いってきますと軽く口付けを交わし城へ向かう


会議室の扉を開くと既にソフィが居て

その彼女の隣には意志の強そうな20後半くらいの栗毛の女性が1人居た

「ご機嫌よう、公開処刑以来ね」

「やあソフィ、其方は?」

隣の女性を見ると、彼女は丁寧なお辞儀をしてソフィは彼女を紹介をした

「この娘はうちの次女のバベット

当主の座を彼女に譲ることにしたの」

「バベット・デュモンです

母から貴方の話は伺っていますわ

これから宜しくお願いします、ホルツマン卿」

「おや、ご丁寧にどうも

此方こそ宜しくね

…年寄りはボクだけになっちゃったか」

ワピチを除いた全ての領主が代替わりした事で、50代が自分1人だけになった事を自虐的に笑う

「貴方のところは“遅かった”から仕方ないわ

むしろ、私やコロゴロフ達が居座り過ぎたのよ

ノロイーストもやっと子供の1人が当主に据えても恥ずかしくない所まで成長したの

ようやく安心して隠居できるわ…」

「ボクはてっきり、君の所の長男が引き継ぐんだと思ってたよ」

ソフィの長男といえば、クラウスの娘であるディアナにアプローチをしていた彼だ

「デュモン家は長男崇拝はしない

男も女も関係なく、一番優れた子供が領主になるの」

男女共に同じく領主候補として教育し、子供がある一定の年齢に達すると

小さな区と少しの財産を渡す

数年そこを管理をさせ、財政がどうなるかで後取りを決めるのだという

「この娘がやっと合格基準に達した」

とソフィはバベットに微笑んだ

クラウスの息子イェルクはまだ15歳になったばかりだ

最低でも後3年はクラウスが領主を務めなくてはならないだろう

そんな他愛もない話をしていると、全員集まったので会議が始まった


主な予算の割り当て、ソフィの引退と新しい領主等の話しの後

スケイルメイトとの外交についてが議題に上がった

ヘルロフの報告は港を整備と船の手配が完了し

スケイルメイトとの航路の確保が終わったという事だった

「いつでも始められるぜ」

そこにアンセルモが異を唱えた

「今獣人の国と友好を深めるのは如何なものかと存じますが…」

世界的に魔王討伐を叫ばれる今

その仲間と疑われている獣人と手を組むという行為は

世界を敵に回し、グラウンドベアに付け入る隙を与えることになると

アンセルモは熱弁した

「私個人でならリグマンを問題とは言いません

しかし、国境を守る者として

賛同できる話ではないと言いたい」

「獣人と魔族は似て非なるもの

しかしそれは民衆にはなかなか伝わりません

ノルウォギガスでも獣人に対する迫害が暴動が後を立ちません」

「確かに…」

エドリック王は渋い顔をした

先の反乱で欠いた戦力はまだ回復しておらず

相手のベアも痛手を受けたとはいえ

城を守る外壁はボロボロ、もう一度攻められればとても耐えられないだろう

「まぁ、進めるにしろ進めないにしろ

一度使者を送らないといけませんね

彼らなら話せば分かってくれるでしょ」

「それは貴方の専門よねクラウス

その辺は貴方がやった方が円滑に進むんじゃないかしら?」

「そうだな、手紙を書くので

ホルツマン後は頼めるか」



会議が終わり、ホテルへ戻ろうとするクラウスの肩をヘルロフが馴れ馴れしく抱いてきた

「何かな」

「この後、時間あるだろう?

今日こそ新睦を深めるのには最高な日だと思わないか?」

「ハハハ…しつこい男は嫌われるって聞いたことないのか?」

満面の笑みで返し、肩に乗った彼の腕を払う

「逃げられると男は追いたくなる生き物だ

貴方も男なら分かるだろう」

「いえ?全然分からないな

というか、ボクのことちゃんと男と認識はしているんだ?

悪いけど何度誘おうと、男と寝る趣味はないね」

「剣を交えた事がないからそう思うのだ

俺が手取り足取り、男同士の醍醐味を教えて差し上げますよっと…」

何処までも着いてくるヘルロフに

視線すら合わせず、クラウスは城を出る

城門を通り過ぎようとした時にバベットが立っていた

「ホルツマン卿、待ちくたびれたわ

予約の時間が迫ってる…早く行きましょう」

バベットはクラウスの返事など構わず

急に彼と腕を組み引き摺るように歩き始めた

「ああ、そういう…先を越された訳か!

なら仕方ない、お二人さん良い夜を!」

ヘルロフはそこで諦め城門から手を振った


「…ちょっと待って、ストップ!」

「ルッベルス卿から逃れるなら

これが最善の逃げ方なの」

ある程度城から離れた所でバベットは立ち止まり組んでいた手を解いた

「ああ、助けてくれたの?」

「半分は…ディナーのお誘いは本当よ

ホルツマン卿、如何かしら?」

その昔、ソフィに誘惑された時の事を思い出し

クラウスは少し嫌そうに顔を歪めた

「悪いけど、今日出会った人と夜を共にするような軽率なマネはしたくないし

ボクは君の父親と変わらない年齢だ

それならルッベルス卿の方が誘いに乗ってくれると思うが?」

「あの人の子種は要らない

貰うなら優秀な種が欲しいの」

特殊な体質を持つクラウスの子種が欲しいと言うバベットに対して

クラウスは余計に渋い顔をした

「助けてくれた事に礼は言うが

それに関しては諦めてくれ」

「クラウスさん!おかえりなさい!」

ホテルの一室に戻ると、ディオは入り口で待っていた

「…ずっとここに居た?」

「ご、ごめんなさい、さっきまで寝てました

あ、足音が聞こえたから…

明日はここで待ってます…」

「怒ってないよ!?

というか、ずっと扉の前で待つなんてやめてね!?

…ご飯、まだだよね?

ルームサービス頼もうか」

部屋に運ばれた少し遅めの夕食を囲み

クラウスは目の前のディオに対して

やっと重い口を開くのだ…

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