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ヒトナー

デリアが自警団に拘留されてから数日

庁舎の職員は事実の公表やあのビラが嘘であることをネフロイト領民達に説明して周り、事態はほぼ沈静化した


だが、クラウスが懸念していた通り

元々ディオの存在をよく思っていなかった人達が、あのビラによって顕著化してしまい

一部の領民から3人は心無い言葉をかけられるようになってしまい

更にクラウスの変な噂も広まってしまっていた

「ここの領主様…女性に興味がないって本当だったのね…」

「元奥様と離婚した後、再婚しないのはそういう事…!?」

「イェルク様が産まれた後、別居していたのも…!?」

主婦達の間では毎日クラウスの噂で持ちきりである

「…宜しいのですか?」

隣を歩くエドアルドが、道の端でコソコソ話す井戸端会議の横を何回か通り過ぎた時にクラウスに聞いた

「オカマだゲイだは、別に今に始まったじゃないよ

君こそ、ボクと歩いてると噂されちゃうけど?」

「そんな無茶な…!」

護衛も兼ねている執事のエドアルドは一緒に居ないわけにはいかない

「ははは、こんなおじさんと不倫報道とか笑えないな

君には生まれたばかりの可愛い子供と、キレイなお嫁さんがいるのにね」

「“こんなおじさん”だなんて謙遜はやめてください!旦那様は素敵です!」

「…いや何で自爆するの?」

2人の会話に井戸端会議が…ヒソヒソヒソヒソ!!とヒートアップする


外回りを終えた2人が庁舎に戻って来ると、その門扉の前でエマがソワソワと落ち着かない様子で待っていた

「あれ?どうしたの外は寒いよ?」

「あなたにお客様よぉ…」

彼女の様子から普通の来客ではないのは聞くまでもない

「えぇ、どなた?

今日は特に約束は無かったと思ったけど」

チラッとクラウスが視線をエドアルドに向けると、彼は手帳を取り出し確認する

「…スケジュールに来客はありませんね」

そんなエドアルドの手帳をそっと閉じて、エマは深刻な表情でその名前を呟いた

「パイロクロア様よぉ…」

「おかえり、私のクラウス」

一見して性別の分からない

中性的でスラリと細長い美人がクラウスの執務室で待っていた

色素の薄い金の髪と金の目を持つその人は

クラウスの姿を見留めると

微笑みながら両手を広げて歩み寄り彼を抱きしめる

「パイロクロア様…いらっしゃるのなら

事前にご連絡下さい

そうすればお待たせすることもありません」

抱きしめられたクラウスは振り解こうとはしないものの、抱きしめ返すこともなく

視線を逸らしやんわりと拒絶を伝えている

しかし、パイロクロアと呼ばれたその人は構わず彼の両肩に手を置き顔を覗き込んでくる

「それで、今日はどの様な御用で?」

「…君達は使徒がレプレイスでしか降臨してはいけないと思っているのかい?

自分の可愛いヒトを愛でに来ることだってあるのだよ」

「はぁ…」

愛想の欠片もない気のない返事を返す

そんな彼の態度にパイロクロアは怒るどころか喜んだ

「ふふふ、私に擦り寄らない君のそういう所が実に好ましい

先代も先先代も皆、私の前ではお腹を見せて腰を振ったのに」

「尻尾の間違いではなく?

貴方、気持ち悪いって言われませんか?」

更に辛辣な言葉を投げられると、余計に顔を綻ばせるパイロクロアに

クラウスは目を細くして顎を引いた


「ああいけない、君が可愛いあまりに要件を忘れてしまうところだった

今日私が来た事に本当に全く身に覚えがないのか…?」

黄金の瞳が鬱陶しいほど目を合わせてくる

「はて、今日は何かの記念日でしたか?」

「馬鹿なふりをする君も素敵だ…が

目の前の私が“使徒”だということを忘れてはいけないよ?」

「忘れませんよ」

「君は最近“離婚”したな

それはいい、それで新しい“腹”はまだ決まらないのか?

まあ君も年齢が年齢だ、もう一度結婚しなくてもいい

子供は結婚しなくても作れるからね」

パイロクロアの言葉にクラウスは顔を顰める

「私は既に男女1人ずつ子を儲けています」

「それは必ず最低限作らなければならない数だ

他の貴族は今この瞬間にもせっせと種を撒いているよ」

はぁーとわざとらしく大きく長い溜息を吐いてパイロクロアはクラウスの頬を撫でる

「君のお父さんは実に優秀だった

彼は君のような“ギフト”は持っていなかったが、貴族の男性としての振る舞いはそれはそれは素晴らしかったよ

…私の可愛いクラウス

私は君の優秀で可愛い子供達がもっと沢山見たいんだ」

ねっとりと絡みつく視線が増えていく

よく見ればパイロクロアの腕や指の皮膚が所々裂け、目玉が覗いていた

「…そう思うなら、私が孕ませたいと思うような優秀な女性が見つかるまで待って下さいよ

貴方だって“才能に溢れる子供”の方が好きでしょう」

クラウスを見ていた目がゆっくりと閉じていき、パイロクロアは微笑む

「君は私のお気に入りで私のモノだが

あまり驕ってはいけないよ

私だって可愛い君のワガママは全部聞いてあげたいが、周りを止めるのにも限度がある

噂のように男を好んでも構わないが

今のままで居たいのなら女も抱きなさい」

そこまで言うとパイロクロアはクラウスの唇を強引に奪い

「また会おう」と執務室の窓から飛び去った


パイロクロアが居なくなると、部屋の外で様子を伺っていたエマとエドアルドが恐る恐る部屋に入ってくる

そして窓の外を睨むクラウスの口に、僅かに赤い色を見つけたエドアルドはそれを指摘した

「旦那様…血が…」

「ああ、うん…舌を噛まれた」

「いよいよ、逃げる準備でもした方が良さそうだな」

エマの自宅に場所を変え、突然の使徒の来訪について話す事になった

「逃げるって何処にぃ?」

「当主の座は、かなり早いけどイェルクに譲ってさ…

ディオと何処まで逃げれば使徒から逃れられると思う?」

「この世界で使徒から逃げ続けるなんて可能なのですか?

逃げるよりも女性を何人か囲った方が…」

エドアルドの提案は尤もだとエマもいうが

クラウスはそれは出来ればしたくないと首を振る

「ヤだよぉ…ボクが好きでもない人に反応しないの知ってるでしょぉ…」

「その度に薬を服用してたらぁ、ホルホルが死んじゃうものねぇ」

それにとクラウスは真面目な顔で続けた

「パイロクロアの見た目が以前とは変わっていたのに君たちも気付いただろう

目の色、鼻の形…他にも変わっているかも知れないが

ともかく、“使徒の為”にはもう子供を作りたくはない」

優秀だと言うクラウスの父ヴィリバルトの子供で正式に認知されているのは

クラウスを含めて3人

性豪と称されるエドリック王ですら、公表されている子は王子1人である

自分も血を引くと名乗りをあげる者が居てもよさそうなのに誰もそれをしない

それは何故なのか、子供達は何処へ消えたのか

クラウスは暗い顔をして使徒への“違和感”を2人に伝えた


エドアルドは驚いていたが、エルフの書庫で本を読んでいるエマはそうね…と悲しそうな顔をした

「だ、だとしても…相手は圧倒的に強い

従った方が長生きできます…

毎度思いますが、旦那様のパイロクロア様への対応は見ているこっちがヒヤヒヤしてもう…心臓が壊れそうでした」

「ああ?あの態度は大丈夫だよ

あの人、変態だから

ボクにキツく当たられるのが本当に好きでたまらないだってさ

流石は家畜とヤれちゃう使徒だよな…」

「えっ…変態…?家畜??」

「姿形が似てるから変に思いにくいのよねぇ…

エドはぁ、豚や牛を見てエッチな気分になれるかしらぁ?

パイロクロアの“可愛い”はそういうアレなのよぉ」

「は、はぁ…?」

エドアルドは分かったような分からないような顔をする

「ねぇ、ホルホルぅ

取り敢えず形だけでいいからお嫁さん迎えたらぁ?

貴方がその人と夜の営みをしてるかなんてところまで流石に見てないわよぉ

子供にしたってぇ、年齢的な事を考えれば出来にくいんだしぃ

時間稼ぎにはなるんじゃないかしらぁ?」

「それ、ディオに言える?

彼はどちらかが死ぬまで消えない、ボクの番の証を身体に刻んでる

だけど、世間では認められないからって

まるでその事実がないみたいに振舞わなければいけないんだよ?

それで、ボクが人間の女性を連れてきて結婚してごらん」


「…修羅場ですね」


3人ともが長い溜息を吐いた

「しかしこのままでは、いずれ悲劇が起きます

旦那様、ディオさんとまず話しましょう」

「うーん…」

「ホルホルぅ!!このままだとぉ

ディオちゃんも狙われるのよぉ!」

「…もう…分かったよ…」

二回り老け込んだようなクラウスが渋々返事をした

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