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民衆の敵

庁舎の前に集まった領民の前に、すまし顔のクラウスが颯爽と歩いてきた

百人を超える領民達は彼の行手を塞ぐように立ちはだかるが、彼が腰に剣を下げているのを見て

その大半がわななきながら道を譲る

「〜っ!!あんたは俺達を騙してたな!!」

それでも何も言わずに引き下がるのは嫌だったのだろう、領民の1人が声をあげた

構ってる暇はないと、そのまま通り過ぎようとしたが

口々に「卑怯者!」「逃げるってことは認めるんだな!!」「この恥知らず!」

と次々に罵られ、クラウスはピタッと足を止め初めに声を上げた男に向き直った

「はて…騙すとは?」

「…と、惚けんな!!俺達の税金で性奴隷を囲ってたんだろ!!」

ディオに支払われている給料の事を言っているのだろう

「性奴隷なんて雇った覚えはないな」

「嘘つくんじゃねぇ!もう皆んな知ってるんだぞ!!」

男は街中にばら撒かれたというビラを突き出してきた

「先代もそうだった!

俺達から取り上げた金で女を囲って贅沢三昧して…!

貴族だかなんだか知らねぇが…ホルツマン…!もう許さねぇ!!」

そうだ!そうだ!と周りの領民も声を大にして騒ぎ出した


「…ヴィリバルトと一緒にされるのは心外だな」

適当に受け流すつもりだったクラウスだが

父親と同類だと言われた事に少し苛立った

矢張り通り過ぎるべきだったと、深くため息を吐き足を先に進めようとした所へ

領民達の背後から、獣のような跳躍でダイアンが殴りかかってきた

咄嗟に剣を盾にして彼女の打撃を弾く


「オイ、クソ野郎!!説明責任果たせ!!

テメェ、ディオを…ディオを…!!

ーぜってぇぶっ殺す!」

好きな男を慰み者にされていたのだと思い込んだダイアンは本気だった

バフの掛かるポーションをがぶ飲みし、腰の剣を抜いて襲い掛かってきたのだ

「…君が残念なのは知っていたけど、ここまでとはね」

彼女の斬撃をいなし距離を取ったが

バーサーカーと化したダイアンはクラウスの首を狙って更なる斬撃を加えようと剣を振るった

クラウスは仕方なく、次の攻撃をかわすのと同時に剣を抜き、柄頭で彼女の顎を突き上げるように強打した

その衝撃にダイアンは脳震盪を起こしその場に崩れ落ちる

「…やれやれ」

2人の大立ち回りを目前で目の当たりにした領民達は、振り返ったクラウスと目が合うと全員が視線を逸らし俯いた

ダイアンをこのまま庁舎の門の前に転がしておく訳にもいかないので

庁舎の中から見ていた職員を手招きし彼女を任せ、クラウスは歩き出す

ネフロイトのスリーズ通りは街の中でも歴史の古い場所だ

並んでいる建物のどれもが古めかしいく歴史を感じさせるが

そのどれもが建物としての価値は高かった

スリーズ通りの端に建つ一軒の屋敷が、クラウスの目指している場所である


煉瓦造りの塀に囲まれた門扉に辿り着き、呼び鈴を鳴らす

ややあって屋敷から出てきたのは彼の妹デリアだ

彼女はクラウスを見ると不気味に笑う

「一体何の用かしら?」

「待ってたんだろ、お前は昔からそうだ」

デリアは幼い頃から思い通りにならない相手に対し、陰湿な嫌がらせをする悪癖があった

そして相手が困ったり、狼狽える姿を見てニヤニヤと笑うのだ

あら何のこと?と嘯く彼女に、今朝ネフロイトにばら撒かれたビラの事を追求すると

彼女は自分がそのビラを撒いたことをあっさりと認めた

「性奴隷の獣人を公務員として雇ってる方が問題だわ

事実を広めただけの私は何も悪くないもの」

「過去に奴隷だったとは聞いているが

私は彼を性奴隷として雇ってはいない!

魔女を狩る真っ当な仕事をしてもらっているんだ

私だけならともかく、よくもあんなデタラメを…」

「デタラメ?本当にそうかしら

街で“青いトカゲ男”と貴方の話を聞かせて貰ったわよ

随分と仲がよろしいじゃないの…ねぇ?」

確かにクラウスはディオに対して優しく、そんな2人が親密そうにしている姿を領民達は知っている

確かに、2人の距離感は近い

“番い”要はパートナーなのでおかしくはない

それ以前にクラウスは一定の仲の良い相手には割とそんな感じなのだが

デリアにとってソレはどうでもいい事である

“元性奴隷の獣人と親密である”

この事実があるだけで構わないからだ

「それは詭弁だ!ご丁寧ににあんな写真まで用意して…許されると思うなよ」

「写真は何も特別用意した物じゃない

あれは昔買ったポストカードだもの

…ほんと、貴方はいつもいつも私の物を奪っていくのね…気に入らないわ」

そうデリアは憎悪に満ちた暗い表情をし叫んだ

「青いトカゲ男は私が飼うはずだったのに…!!」

彼女が青いトカゲ男と出会ったのは8年前の事

夫に我儘を言って連れて行ってもらった旅行先で、彼女は“クリーピー”のショーを観た

若く顔のいい獣人の奴隷を観た彼女は特別料金を払って彼を思い通りにしたかったが

夫がいる手前、その時はそれを諦めざるを得なかった

今度は夫とではなく1人で観に行く、そう心に決めたが

それから一年も経たないうちにクリーピーの悲報が世間を騒がせた

「クリーピーは賊に襲われ芸人達は惨殺されたわ

ショーに出ていた獣人達の死体は一つもなかったから

売りに出されるのを今か今かと待っていたのに…」

盗賊達が攫った人間や捕らえた獣人を、闇オークションに流すのは常識である

死体が無かったのだから“青いトカゲ男”が売り出され、自分の玩具に出来る日を待ち侘びていたのだという

ところが、待てど暮らせど目当ての商品は一向に出品される気配もなく

いつの間にか長い年月が経っていた

「まさか、貴方が買っていたなんてね

アレは私が先に目をつけた!

トカゲ男も、このワピチも、父の財産も全部私の物!!

…貴方は邪魔

領民達はもうあんたを支持しない

早く消えて下さる?」

デリアは高笑いを上げた

「いや、去るのはお前の方だ

こんな事で私を領主の座から下ろせると本当に思っているのか?」

領主になるには、時の領主からの任命か国王からの指名が必要である

更に存命である領主をその座から下ろすことが出来るのは、国王か他全員の領主の意見が揃った場合…そして使徒の異議があった時

「第一、父から受け継いだ財産なんて物は土地と家くらいだ

私が領主の任に就いた時のネフロイトの財政とホルツマン家の財産は目も当てられない悲惨な物だったんだぞ」

領民の男が言った通り、先代領主ヴィリバルトは領民から搾り取った血税を女と自身の贅沢な生活に変えていた

当主となり、領主になって初めて帳簿を見た時の絶望感とクラウスの怒りは計り知れない

そんな家とネフロイトを立て直し、今の状況まで戻したのは彼自身なのである

そうして取り戻した大事な街のお金で、レティシアを買った時は殺してやろうと思ったものだが

クラウスが手を下すこともなく、先代領主は呆気なく事故で亡くなったのだ

「私の財産であって父の財産ではないのだよ」

気は済んだか?と言うクラウスに対し

デリアは怒りのあまりブルブルと体を震わせた

「さて、君は今回の件と嫁ぎ先でいくつか法に触れる事をしている

貴族階級だと軽犯罪はなあなあにされがちだが、私は今回の事に目を瞑る気はない

娘のコリーンへした事も許さない

分かるね?覚悟して行きなさい」

そう言い終えたクラウスの背後に、丁度よく自警団員が数名到着した

顔を真っ赤から真っ青に変えたデリアは、屋敷の中に逃げ帰ろうとしたが

あっという間に取り押さえられ馬車に押し込まれ連れて行かれた


「…さて」

次は領民に広まったこの根も葉もない噂を収めなければならない

ディオが任務に出ている間に何とかしなければと

庁舎に戻ってきたクラウスは

そこで領民に囲まれたディオ達を見て凍りつくのであった

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