災害のような女
目覚めたクラウスは10日間放置されていた自分宛に届いた手紙などを見て
ノイマン卿と妹のデリアの件を思い出す事になった
「マズイな…」
次の休みに伺おうと思っていたのに、とっくにその日は過ぎている
そして、ノイマン家の紋章シーリングワックスで閉じられた手紙を見つけたクラウスは
ウンザリした様子でそれを開いた
手紙の内容は妹デリアの悪行について
ノイマン家当主、ニルス・ノイマンからの苦情の数々であった
鬱憤が溜まりに溜まっていたのだろう
便箋にして13枚にも渡り、彼女が如何にノイマン家を蔑ろにし
家の繁栄を脅かしているかが書かれていた
「この量と内容、鳩では飛ばせないな」
妹デリアが嫁いでからした事は
金の使い込み、ノイマン家の生業である事業への過剰な口出し、使用人への度重なる精神的虐待、育児放棄、不倫に乱行…と小さなことまで書き出したらキリがなく滅茶苦茶だ
今回ノロイーストの領主から賜った家宝である聖剣を勝手に売り払った事で
ついにニルスの堪忍袋の尾が切れたという訳だった
ニルスが今日まで、この傍若無人なデリアを許していたのには幾つか理由がある
まず第一にデリアが彼の好みにドンピシャだったこと
そして、先代のワピチ領主ヴィリバルトとノイマン家先代の当主が交わした婚約であることもそうだが
そもそも、当時の貴族階級の女性というのは
我儘で傲慢なものであった
なので、金遣いの荒さや使用人達へのパワハラもある程度は容認されていた
そして、家宝の聖剣を売り払ったこともそうだが、度重なる乱行と不倫も大問題で
貴族は基本的に増えるように使徒に言われている身であるので
愛人を何人も囲うのが当たり前ではあるが
それは貴族階級の男性に与えられた特権であり
実際に子を孕む側の貴族女性は、血統の保持などの観点から
自身の意思で主人の子以外を孕む行為はNGとされていた
それを彼女は夫にバレないように
何度も乱行パーティーに参加し
あまつさえ、夫の種ではない男の子を産んでいたのである
これは家宝の聖剣を売ってしまった今回の件で、詰められたデリアが
逆ギレし癇癪を起こし自分から告白したことで発覚していた
次期当主として大事に育ててきた自分の息子が
実の子では無かったと知ったニルスの怒りは筆舌に尽くしがたい
「ああもう…」
手紙を最後まで読んだクラウスは頭痛に目頭を押さえる
両親の悪いところを合わせて煮詰めた様な妹に嫌悪すら感じた
そして、最悪なのはこの手紙が届いたのは
クラウスが目を覚ますよりも5日も前の事なのである
当然だが眠っていた間、これについて何かしらの返答を返せる訳もなく
完全に無視した形になってしまっているのだ
クラウスは急いでお詫びを一筆したため鳩として飛ばし
明日には飛空艇でノイマン邸宅に向かう事にした
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しかし、次の日の早朝
一台の馬車がホルツマン邸宅の門前に停った
キャビンから降りて来たキツネ顔の婦人は
早朝ということで閉ざされている
ホルツマン邸の門扉のベルを何度もけたたましく鳴らす
あまりに早い時間の来訪者に、住み込みの使用人達が大慌てで扉を開けて対応したが
「ご用件は…「対応が遅い!!
私はこの家の者よ!まったく使用人の教育がなってないんだから…!!
クラウスはどこ!早く出しなさい!!」
「あの、どちら…「はぁあ!?私を知らないの!?」
物凄い剣幕で捲し立てられ、アンニカはもう涙目である
その騒ぎにクラウス自らが表に出て来た
「何事かな?」
「ああっ旦那様…!この方が」
「クラウス!貴方の所の使用人どうなってるのよ!使えなさすぎよ!!」
まだ若干薄暗い朝の時間に外で喚き散らすキツネ顔の女性を見たクラウスは分かりやすく嫌な顔をした
優しくアンニカに部屋に戻るように言うと
彼女の盾になるように立ち、キツネ顔の女性と対峙する
「デリア、こんな時間に来る方が非常識だとは考えないのかい?」
「相変わらず細かい男ね、実家に帰るのに時間など考える必要があって?」
「ここはもうお前の家じゃないよ…」
「私はこの家に生まれてこの家で育った!!
ここは私の家だ!!!」
鬼のような形相で叫ぶ妹にクラウスは両手で耳を塞ぎ目を細くした
「うるさいなぁ…恫喝すれば何でも思い通りになると思うなよ…
あー、あれか、更年期か?
今ホルツマンの当主はボクで、全てを引き継いだのもボク
君はノイマンに嫁いで家を出た身だろうが」
ぎゃあああ!!
という絶叫のような、もう何を言っているかも聞き取れない言葉が彼女から上がる
嫁ぐ前から癇癪持ちではあったものの、もう少し話が出来た筈なのにとクラウスは肩を落とし
騒ぐ彼女の前で爪をいじりながら、はいはいと適当に返事を返した
しかしこれに腹を立てたデリアは遂にクラウスの胸ぐらに掴み掛かった
女性の力で毎日鍛錬を欠かさないクラウスに勝てる訳がないので
さてどうしようか?と冷静に考えていたクラウスの頬を
デリアは振りかぶって叩いたが
クラウスにダメージは1㎜も入らなかった
「旦那様!!」
見れば、今出勤してきたエドアルドが頬を押さえて走ってくるではないか
「ーあっ、待…っ!」
エドアルドは走って来た勢いのまま、不審者と化していたデリアに体当たりを決めた
吹き飛んだデリアは強かに地面に体を打ちつける
「旦那様!ご無事ですか…!?」
「あぁ〜ボクは平気よ?
デリアの方は骨を何本かやったかもだけど」
その名にエドアルドは固まった
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肋骨2本にヒビ、鎖骨を骨折したデリアはやむなく教会の治療を受けることになったが
そこで何故彼女があんな時間にホルツマン邸を訪れたかを知る事になった
なんと彼女はクラウスが眠っていた間に離婚されていたのだ
ノイマン邸を追い出された彼女は、他に行く所がなくここへ戻ったという訳である
「えぇ…あれと一緒に住むの嫌なんだけど」
クラウスはハッキリと拒絶の意を示し
一緒に住むのを回避する為にネフロイトの空き家を手配した
そして、彼女と面識があるメイド長などのベテランを派遣する事にもなり
ノイマン卿へはお詫びの品と慰謝料を使者に持たせ向かわせた
「ああ疲れた…」
執務室の椅子に座ったクラウスの背後の窓をコツコツ叩く鳩が居る事に気付き
ゲンナリとした顔をしたままクラウスは窓を開け鳩を中に入れた
思った通り鳩は紙に変わり彼の目の前に舞い上がる
それを掴み取り文章に目を通した彼は
ふーっと大きく溜息を吐いて頭を掻いた
「ああ…こんな時にイェルクが戻ってくる」
まだアカデミーの卒業には早い筈だが、クリスタルレイの城下街の治安が悪化した事で
生徒の安全を保証できなくなったからという理由だった
あの反乱以降、世間が魔王討伐に沸いているのも知っていたし
エルカトルへは行っていないが
クリスタルレイの悪い噂はクラウスの耳にも届いていた
はぁーと大きな溜息を吐き
気持ちを切り替えるためにクラウスはその場で軽くストレッチをしてから
息子を迎える準備をしなければとデスクに向かうのだった




