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眠れる森のオジ

「これは一体…」

ベッドに横になり、一見死んでいる様にも見える主人を目の前に

エドアルドは困惑した様子で他の使用人に聞いた

「わ、分かりません…

時間になっても部屋からお出でにならないので失礼を承知の上で入ったら…」

「エド…!こっちに来て!

お嬢様達も目覚めないの!!」

コリーン、そしてテレーゼまでもが

クラウスと同じく揺すっても声をかけても目を覚まさない

そしてそれは住み込みの使用人達も同じであった

「ダメです…引っ叩いても起きません」

昨晩ホルツマン邸に居た全ての人が、深い眠りについて誰1人として目を覚さない


朝早く出勤して来た使用人達はその様子にどうして良いか分からず

只々狼狽えるばかりである

エドアルドはクラウスに一通りの気付けを試した後、埒があかないとエマを呼んできた

「まぁほんとねぇ…じゃあ診せてねぇ」

ベッドに横にされた眠るクラウスに両手をかざし呪文を詠唱する

エマの手が数秒淡く発光した後

彼女はふう…と溜息を吐いた

「それで旦那様は…!?」

「とても強力な眠りの魔法が掛かってるわぁ

当分起きそうにないわねぇ」

「と、当分!?どのくらい!?」

「死ぬまで眠っているかもぉ…?

そうねぇ、少し時間を頂戴ぃ?

ポーションを作るからぁ」


エマは解呪用のポーションを作ると言い出て行った

その間何もしない訳にもいかないので

エドアルドはこうなった原因を探る事にした

昨日の主人のスケジュールを確認する

「…いつもの休日とそう変わらないな」

特別なことと言えば、朝早くからキッチンを使って新人を驚かせたこと

いつから居たのか朝ディオが帰って行ったこと

後で叱責されるのを覚悟でクラウスの部屋の中を調べる

「ミレイユ、この食器は?」

クラウスの私室の机の上に、小さなパンプレートが置いてあった

綺麗好きなクラウスの部屋に、このタイプの食器が片付けられずに置いてあることは珍しい

「はて、何でしょうか…身に覚えがありません」

メイド長であるミレイユに訊ねるが

彼女も不可解そうに眉を顰めるだけだった

夕方になりホルツマン邸を襲った謎の昏睡事件の話を聞いた庁舎の職員のうち

この件に協力出来そうな人材が何人か邸宅を訪れる

「ホルツマンさん眠り姫になっちゃったって本当ですか?」

分厚い魔術書を大量に持ったベルタが駆けつけ

庁舎の魔術職員であるレオも、彼女と一緒にやって来た

「エマさんがポーションを製造しているのは聞いたのですが

魔法的な症状なら私たちにも何か手伝える事はないかと思いまして…」

「いえ、助かります」

流石に領主であるクラウスを実験台にする訳にはいかないと

眠り込んだ住み込みメイド達が検体にされた

本の虫であるベルタが、使えそうな術式を幾つも付箋でマークしており

それをレオが応用し、試すという

「私、ゴーレム生成は得意なんですけど

人に作用させる系の魔術はどうしても苦手で…

だから今日の私はレオさんの魔力補填係です」

幾つかの術式の応用を試したが

結局、メイド達を起こすことは出来ずに2人が魔力切れを起こして試みは終わった

今日はもう出来ることは無いとレオは帰り

ベルタはエドアルドに頼み、眠るクラウスの顔を見る為に部屋へ入れてもらう


初めて入ったクラウスの私室をキョロキョロ見回した後、ベッドに静かに横になる彼の元まで行きその顔を覗き込んだ

目を瞑り横になった彼は、とても穏やかな表情でピクリとも動かない

「ホルツマンさん、お腹空いてませんか?

私とご飯食べに行きましょうよ

…本当に生きてるんですよね?

死んだりしてないですよね…?」

声を掛けてみるが、当然返答は返らない

「止まってるのではと錯覚する程ゆっくりですが、呼吸も脈もあります

しかも体温も非常に低いので、私も初めは亡くなってしまったのではと泡を食いました」

「…エドアルドさん、このまま何日も目を覚まさなかったら

ご飯とか、トイレとか、お風呂とか…

ホルツマンさんどうなっちゃうんですか?」

「衛生的な面は、我々使用人が体を拭いたりなど交代でお世話します

しかし、人間は食べねばなりません…」

エドアルドは暗い顔をした

何も口にしない状態で何日保つか

それまでにエマが解呪のポーションを作れなければ…

「私が旦那様と代わってあげられたら…」

その先は考えたくもないのだろう彼は首を横に振った

そんな重い空気のクラウスの私室の扉が勢いよく開かれる


「ホルツマン卿はここかな?」

収穫祭の時に怪しい診療所を構えていた女性、グレシャムがツカツカと歩み寄り

退きたまえ、と一言いうと

ベルタをぐいっと押し退けた

「ーちょっと!!」

怒るベルタに、人差し指を口に当て静かにとジェスチャーをすると

グレシャムは眠るクラウスの瞼を開き、ライトを当てた

「生体反射はある」

更に彼女はクラウスのワイシャツのボタンを外し急に胸と腹部を露出させた

ベルタはギャっ!と猫を踏み潰したような悲鳴をあげて目を覆う

「グ、グレシャム様…!乱暴は…!」

「乱暴?診察だよ」

クラウスの胸に直接耳を当てる彼女にエドアルドは止めるように言うが、彼女は聞かない

そこに間の悪い事に、報せを聞いて来たディオが入って来た

「ークラウスさん!!」


顔を覆うベルタ、慌てふためくエドアルド

上半身を露出したクラウスの胸に耳を当てるグレシャム


それを見たディオは襲い掛かる勢いでグレシャムを彼から引き剥がした

「この人は俺のモノだ!!触るな!!」

「…何のことかな?

診察の邪魔をしないでくれ」

「はぁ!?ちょっと気に入られてるからって

勝手にホルツマンさんを私物化しないでくれますか!?」


完全に修羅場である


3人が睨み合い、はわはわと何も出来ずにエドアルドが狼狽えていると

パン、パンと手を叩く音がして

全員の視線が部屋の扉の方へと集まった

「はぁ〜い、そこまでぇ〜」

いつの間にかエマがいて、いつもの笑顔のまま入って来た

「エマさん!もしかしてポーションが…!?」

「ごめんなさぁい、まだよぉ

でもぉ2日後にはちゃ〜んと完成するから安心してねぇ?

グレちゃん、あなたは何か出来そぉ?」

どうやら彼女を呼んだのはエマだったようで

グレシャムはチラッとクラウスを一瞥してから

薄っすらと微笑みを浮かべた

「今の彼らの状態は“冬眠”に似ているね

私のモルモット達はその状態で何ヶ月も耐えていたから

たった2日なら健康被害も無いだろう

サラッと診ただけだが体調も良好そうだ」

「まぁ!なら良かったわぁ

良かったら明日も様子を見に来てねぇ」

次にエマはベルタに向き直り、こんなお願いをした

「ポーションを作るのに幾つかの工程を踏む必要があるのだけどぉ

魔術を扱える人の補助が欲しいのぉ

協力してもらえないかしらぁ?」

「え?私でいいんですか?」

「あなた程の魔術師が手伝ってくれたら百人力よぉ!」

エマの言葉に、気を良くしたベルタはフフンと鼻を高くし

仕方ないですね!なんて調子に乗る

「エドぉ、ホルホルが目覚めるまでの間

あなたが使用人達をまとめてねぇ」

「はい…!」

そして、最後にエマはディオを見た

「ディオちゃん、可能ならホルホルの側に出来るだけ居てあげてぇ」

「お、俺…い、いいんですか?」

ニコッと微笑むエマの奥で

ベルタはムッと顔を顰めたが、それはディオには見えなかったのだった

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