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収穫祭のワイン

午後1時から収穫祭のメインイベントが広場の会場で始まる

少し前まで歌やダンス、音楽に溢れていたステージの前には幾つもの大きな樽と

台車に乗せられた搾汁機が運ばれてくる

そして、最後にリヤカーいっぱいのブドウを果樹園の人間が運んできた

その中にはあのラビッシュの姿もある

「これから何が始まるんですか?」

「今年収穫したブドウでワインを作るんだよ」

収穫祭用のブドウの木を各果樹園が何本か管理していて

それを広場でワインに加工していくのだという

商業用に作る時は機械などを使って大量に加工するのだが

収穫祭では伝統を重んじ、後世に伝えるという意味で原始的なワイン作りを行う

これがなかなかの重労働なのだ

「誰でも参加可能で、参加した人には

去年作ったワインが振る舞われるんだよ」

やってみるかい?と聞かれてディオは少し悩んだ

「…獣人が作ったワインなんて、みんな嫌じゃ…」

「んもぉ、またそうやって…

君はワピチの領民でしょう!

そんな事ないから安心しなさい!

仮に嫌なんて言う奴がいたらボクが黙らせるから!」

「だ、黙らせるんですか…」


クラウスに背中を押され

戸惑いながらも参加者の列に並ぶディオ

そこへラビッシュがやって来た

「おうディオ!!

俺ぁよく分からねぇけど、今年はかなり良いっておやっさんが言ってたぞ!」

このブドウは途中からだが、ラビッシュも木の管理を手伝い収穫もした物だ

それがこうして日の目に出るのが嬉しいのだろうラビッシュはご機嫌に言う

「おい!ラビッシュ!まだ終わってないぞ!!」

「っと、おやっさんが呼んでら!

じゃもう一働きしてくるわ!!」

ラビッシュがブドウなどを用意している人達の輪に戻り、大きなワイン搾汁機にブドウを移し替え始めた時だった

イベントを見に来ていた人だかりの中からフードを目深に被った者が

規制線を越えて中に入って来たのは


皆が何だ?と疑問に思うが、誰かが止める間もなくその人物は

ブドウのカゴを持ち上げたラビッシュに襲いかかったのだ


民衆から悲鳴が上がる

地面に押し倒されたラビッシュは、衝撃で頭を打ったらしく

目の前がチカチカと明滅していた

「よぉ…ゴミパンダ…久しぶりだなぁ?」

「お、お前…その声っ!」

彼に馬乗りになっていたのは、盗賊団の長キングだった

「お前のせいで片目と群れを失った!!

今ここで八つ裂きにして、テメェらの楽しい時間を血生臭く変えてやるよぉオ!!」

キングがラビッシュの首を噛もうとした瞬間

キングの身体は横に吹き飛んだ

「ラビッシュてめぇ大丈夫か!

おいお前ら!今のうちにソイツを押さえろ!」

見ればおやっさんと彼が呼ぶ男が、大きなシャベルをキングの頭目掛けてフルスイングした様だった

周りにいた作業員達が、脳震盪を起こし倒れているキングを取り押さえる

見物客の中から自警団員達も駆けつけ、キングは速やかに連れて行かれた


「ラビッシュ!大丈夫!?」

列から飛び出して来たディオは、地面に座ったままのラビッシュに駆け寄りその安否を気遣った

「お、おう…頭打ったけど、まあ大丈夫だぜ…」

一時、辺りは騒然とし収穫祭を続けるべきかと本部は検討したが

見物客の中にそれ以上怪しい者も見つからず

本来の予定を1時間ずらして、伝統のワイン作りが無事に行われた


その後、参加者達にはクラウスから聞いていた通り

去年作った収穫祭のワインが振る舞われた

受け取ったワインの匂いを嗅いで、ディオは何とも言えない顔になる

「お疲れ様、どうだった?」

「あ、クラウスさん

想像よりもずっと大変でした…

ワイン作るのってこんなに大変だったんですね」

そう言いながら、グラスの赤ワインを口入れたディオは咄嗟に目をギュッと瞑り

舌を出したまま口をグラスから離した

「だ、大丈夫?」

「…わっ…ずっと前に飲ませてもらったのと違う…!

俺、これ…ちょっと無理です…!」

「…あ!アルコールか!ごめん

前はホットワインだったから!」

ディオはその後、口直しに絞りたてのブドウジュースをもらい

去年のワインに舌鼓を打つ他の参加者達を見て、どうしてあれが美味しいのだろうと首を傾げるのだった

キングの襲撃があり、一時は中止も危ぶまれた今年の収穫祭だったが

何とか最後まで行うことができた

広場の片付けをして庁舎の職員が帰路についたのは午後22時頃

まだ大通りには出店が残っているが、主たる収穫祭は終わりである


「片付けの手伝いありがとね」

「いえ、むしろ獣人の俺を収穫祭に参加させていただきありがとうございました」

「またぁ…」

ディオの自虐はなかなか治らないなと

クラウスが肩をすくめて呆れていると

何人かで集まっていた職員の中から声が掛かった

「これからみんなで打ち上げに行こうって話になったのですが領主様も行きませんか?」

クラウスは隣のディオをチラッと見た

「今日は悪いけど遠慮しておくよ

ちょっと疲れちゃったからさ」

楽しんできて、と一番の年長者に打ち上げ用に幾らか握らせ

さあ帰ろうとクラウスはディオの手を引いた


自宅へ向かって歩き出した2人

まだ街に残る、お祭りの熱気と喧騒から

どんどんと遠ざかっていくほどに虫の音が大きく聞こえ始めた

もう少し行くと、ディオの邸宅へ続く分かれ道に差し掛かる

「ねぇ」

「はい?」

隣でクラウスの次の言葉を待つディオの視線に、彼は喉が熱くなり

絞り出すように唇を震わせ言葉を発した

「ボクの部屋に来ない?」


クラウスは自室に入るとバルコニーの窓を開ける

「お、お邪魔します…」

「なんかごめんね」

クラウスは玄関からと言ったのだが、ディオの方がもう夜遅いことなどを理由に

窓からと言って聞かなかったのだ


クラウスはキッチンから持って来ていた水差しから、冷たい水をコップに注ぎ机に置く

肩を並べて座った2人は特に会話をする訳でもなく時間が過ぎた

ディオはそんなクラウスの様子に、どうしたのだろうと彼を見る

いつもはお喋りな彼の横顔

キュッと下唇を噛み、落ち着かないのか膝の上に置かれた手で

小刻みに膝をトントンと叩いていた

「…クラ」

「あのね!プルーデンに聞いたんだけど

君らはその…2本同時には使わないんだってね!?

だから…その…ボクも別に君と考えてない訳ではなくて…!!」

急にそんなことを言われて、ディオは理解するまでに少し時間がかかった

何のことを話されたのか理解した時にはそれはもう驚いた

「…プルーデンにそんなこと聞いたんですか!?

それは、俺がエマさんに

人間はどういう風に交わるのか聞くのと同じですよ!?」

「それは…どうしてエマが引き合いに出るんだい?」

お互いに首を傾げる


「…あの、もしかしてクラウスさんは

プルーデンを男性だと思っていますか?」

「え!違うの?!」

そう、プルーデンは女性なのである

人間であるクラウスには蛇型のリグマンの性別が正確に判断出来なかったのだ

「最悪だどうしよう…普通にセクハラだ

外交問題だよねこれ…」

「多分…大丈夫じゃないですか?

ちょっと…恥ずかしいですけど…」

両手で頭を抱え、本気で落ち込むクラウスを見てディオはクスっと笑った


「ありがとうございます

俺知りませんでした、クラウスさん…

その…俺とのこと考えてくれてたんですね…」

「ごめんね、ボクの自信が無いせいで

君を不安にさせてきた」

クラウス自身の性欲の低さや行為に対する不安

クリスタルレイであった使徒によるシベティの殺害のこと

そういう胸の中にしまい込んでいたものをディオに全て曝け出した

「話してくれてありがとうございます

クラウスさん、大丈夫ですよ

俺はあなたにガッカリなんてしません

どんなに情けなくても、等身大の貴方が大好きです」

ディオはそう微笑んでクラウスを優しく抱きしめた

「ああ、ボクも…

ボクも君を愛してる…!」

ディオを抱きしめ返し

クラウスはそのまま彼と唇を重ねた


遠くに虫の音と、まだ鳴り止まない

祭りの喧騒を聞きながら

2人の夜は更けていく…

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