収穫祭
あちこちの畑ではイネ科の作物が黄金色に輝き、ぷっくりと膨らんだ穂を揺らし
果物の収穫は最盛期を迎え、様々な野菜が豊富に採れ、収穫が終わった頃に
ネフロイトでは秋の収穫祭が行われる
収穫祭を明日に控えた街の中では
人々がレプレイスの次に大きなこの祭りの為に準備を進めていた
「なかなかに明けない夜や、二度目の夜が来た時は絶望しましたが
いやはや…今年は大豊作でしたな!!」
ネフロイトの農業組合長は満面の笑みで、広場の会場設営に来ていたクラウスに話しかけてきた
ニゲラは甚大な被害を出していたものの
ディオや冒険者、スケイルメイトの兵士達が戦ってくれたお陰で
菜園や果樹園の作物は稀に見る豊作となっていたのだ
「魔女狩り公務員を採用してここまで成果が出るとは、私も当初は思ってもいませんでしたよ」
「獣人っていうんで正直初めは疑ってまして!
まあ、フルールの方は相変わらず腹立たしいことはありますが
リグマンの彼はただの優しい好青年じゃないですか!
彼が人間だったら是非うちの娘の婿に迎えたかったぐらいだ」
ガッハッハと笑う組合長
ディオの評判が良いのは嬉しい話だが
クラウスは少しだけ気分がモヤっとした
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そして収穫祭当日
素晴らしい秋晴れの空の下、家々を渡るガーランドが風に揺れ
大通りには幾つもの屋台が連なり、領民や他領、他国の観光客が行き交う
クラウスはメイン会場の広場に設置した本部で本日の進行にもう一度目を通していた
「ホルツマンさん、おはようございます!」
本部へやって来たベルタの両手には、既に幾つもの屋台で買ったであろう食べ物が…
彼女はそれらを机の上に並べた
「それ君の朝ごはん…?」
「え?朝ごはんは食べて来ましたよ?」
「いつも思うんだけど、その小さな身体のどこにそんなに入るんだい」
「ホルツマンさんこそ、その身長一体どうやって維持してるんですか」
「おはよぉ〜あらぁ〜すごぉ〜い」
そこへやって来たエマも、机に並んだ屋台料理の数に感嘆の声を漏らす
ベルタがその大量の料理を食べ終わる頃に、庁舎の職員が続々と集まり
広場で収穫祭の開会式が行われた
開会式が終わると、広場はイベントブースになる
有名な吟遊詩人の歌や、奏者による楽器の演奏、踊り子のダンスショー等が行われる
この後の会場進行は交代制で庁舎の職員達で運営していく手筈となっている
一先ずの役目を終えたクラウスが本部を後にしようとすると
テントの横でディオが待っていた
「クラウスさん…もし…その…」
「おはようディオ
良かった帰ってこられたんだね
君も一緒にお祭りを回るかい?」
「…は、はい!」
「いいよね?」
喜んだディオだが、クラウスの“も”に引っかかり首を捻ると
「どうぞ?」
と、クラウスの後ろからベルタが出て来た
収穫祭の日程は1ヶ月前から分かっていた事なのだが
ディオの魔女狩りとの兼ね合いで、当日来れるか分からなかった為に
2人は一緒に回る約束は取り付けていなかったのである
「じゃあまず屋台エリア行きますか?」
お祭りマップを広げてベルタが興奮気味に指を刺す
「君さっき食べてたじゃないの
ボクはお腹減ってないし
先にこっちから行こうよ」
クラウスが指定したのは、体験やゲーム、食品以外のお店が並ぶエリアだ
幾つも並ぶお店の一つに近づくと、整った顔立ちの女性が振り返りクラウスに微笑んだ
「やあ、ホルツマン卿」
「おはようグレシャム、今年はどんな出し物をしてるんだい?」
グレシャムと呼ばれた女性は、クラウスに近付きその肩に手を置くと彼の目を覗き込む
「今年も無料健康相談、診察だよ
受けていかないか?連れの2人も是非」
妖しく微笑む美女はクラウスに問う
ベルタとディオに視線を向けると、2人ともなんだか目が怒っていた
「…あ、いや、まず紹介しよう
この人はグレシャム
魔法では解決しない、病を研究している魔術師だ」
「初めまして」
グレシャムは2人に微笑み自分の後ろに立っているテントの入り口を捲り上げた
「誰が最初に診せてくれる?
私としてはそっちのリグマンの彼に興味がある」
「うーん、またの機会にお願いするよ
ボクは君に会いに行ける訳だし
普段関わりのない一般の領民達を診てあげてくれ」
「そう、残念」
あまり残念そうではないが、彼女はそう言ってテントの入り口を閉めた
グレシャムの臨時診療所を離れる
「で、次はどんな女性に挨拶に行きますか?」
明らかに怒った口調のベルタ
「また何か勘違いしてない?
あの人は誰にでもああだよ
何ならボクより、初めて会う君ら2人に興味があったんじゃないかな」
「どうだか!」
頬を膨らませ腕組みしたベルタはプイッとそっぽを向いた
「おーい!こっち!こっち!!」
そこにダイアンの大きな声が3人に届いた
声の方を見れば、ギルドのテントブースがあり
その前でダイアンが大きく手を振っている
近づいて行くと、ディオには個別に可愛らしく挨拶をしてから
彼女はいつもの調子に戻った
「大将、暇してんだろ?
ギルドの出し物やってってくれよ!」
冒険者を集める目的のあるギルドは、その宣伝に“今日から君も冒険者!”なんて看板を掲げ
魔物の絵の的にボールをぶつける催しを開いていた
「子供は無料!大人は一回1エルク!」
「ボクはいいや、2人ともやってみる?」
苛々していたベルタはダイアンに1エルク払うと、渡された3つのボールを的に向かってぶん投げた
その威力は凄まじく、魔物の的の軸がひん曲がってしまうほど
「おー!合計24点!あんた筋イイじゃねぇか
ちんちくりんだが剣士やれるぜ?」
「私は魔術師です!!」
「へぇ!フィジカル魔術師か!
大きな杖って鈍器にもなるしな!ほらよ景品だ」
渡されたのはアルミラージの角の首飾り
ダイアンの悪気のない賞賛に、余計に臍を曲げたベルタはふん!と首飾りを奪い取ると
ギルドテントブースの近くの木の下に行ってしまった
「俺もやってみようかな…」
「お、ディオもやる?ほらボール」
ディオは狙いを定め無駄のない動きでボールを投げる
全てが一番遠くの小さい的に命中し
ダイアンの目はハートマークになった
「凄いぜディオ!私が認めただけあるよ…///
本当にカッかかかッコ…ぃぃょ…///ゴニョゴニョ」
「カッコー?」
「そ、そういう鳥が居んだよ…!///」
景品だと、ダイアンはディオにオーガの牙のブレスレットを渡した
次に3人が訪れたのはミーティアが居る
学舎が設営したテントブースだった
「あ、ディオ!良かったら問題解いていきなよ」
ここでは生徒達が考えた問題に答えることで景品が貰えるというゲームを催していた
「ディオには一番簡単なのな
領主さんと魔術師のお姉さんは一番難しいのでいい?」
渡された答案用紙を待ってテントを進むと
あちこちに問題が張り出されていた
文字が読めないディオには、ミーティアが着いて問題を読んであげるようだ
「ん、これ結構難しいぞ…」
問題を目の前にクラウスは顎に手を当て目を細くした
「ふふっ!魔術の話なら簡単簡単…」
その横でベルタは答案をどんどん埋めていく
先に進んだ彼女だが、クラウスが魔術の問題を終えたところで
今度はベルタがはじめのクラウスの様に問題と睨めっこをしていた
「合計250エルク…、割引セールのため革の鎧は2割引で兜は3割引になってて、合計が190エルクだから…革の鎧と兜の定価は…」
ずっとぶつぶつと呟いている
そんな彼女の横をクラウスはさっさと通り過ぎる
計算や金勘定は常日頃の業務内容なので、彼にとっては屁でもないのである
最終的な答案用紙をゴールに持って行くと
そこでこの学舎の学長が丸つけをしていた
「はい、頑張りましたね」
答案用紙を返されたディオは、生徒が実習で作った回復ポーションを景品に貰っていた
「先生!ボクのもお願いします!」
「はいはい…って領主様…!?」
驚いた学長が椅子ごと後ろに倒れそうになるのを、ミーティアが咄嗟に止めた
「そ、そんな恐れ多いこと…!」
「ははは、そんなこと言わないでぇ?」
「私のもお願いします!」
結果として、ベルタの方が点数が高かった
「魔術の勉強は中級までしかしてないからなぁ」
「私の勝ちですね!何か奢ってください!」
自分の点が高かったことを理由に、彼女はクラウスに食事を要求した
3人はベルタの要望に応えるために仕方なく屋台エリアまで移動する
「何食べようかなー」
道に並ぶ様々な露店に目移りする彼女は先に歩いていってしまう
少し後ろを歩いていたディオにも、奢るから何か食べようとクラウスは声を掛けた
「クラウスさんは…?」
「ボクはあまり食べられないからな…」
少食なクラウスは飲み物でいいやと
適当な店でコーヒーでもテイクアウトすることにした
これでもかというくらい、クラウスに集り
満足気に本部テントに戻って来たベルタは
朝の様に机にいっぱいの料理を並べる
一方でディオはフルーツカクテルという、様々な果物を乗せたアイスを買ってもらい
買って来たコーヒーを本部テントの椅子に座り飲み始めたクラウスの隣に座った
「クラウスさん」
ディオが徐にスプーンで掬った一口のアイスとフルーツをクラウスに向ける
「…え?」
「あっ溢れます!早く!」
急かされたクラウスは咄嗟にそのスプーンを咥えた
アイスの冷たいさと、よく熟した果物の甘さが口いっぱいに広がる
「ん…ふめはい…んふふ、美味しいね」
頬を朱色に染め、見たことのない顔でデレたクラウスの顔を見てしまったベルタは
頭に稲妻が走り、目の前が真っ暗になったのだった




