アンバーバニラ
ネフロイトヘ戻ってきたディオ達は街で解散し、ディオは成果を報告する為に庁舎を訪れた
「あ、エマさん、ただいま戻りました」
「あらぁ、ディオちゃんお帰りぃ
ホルホルならぁ執務室よぉ
飲み物を持って行くわねぇ」
「俺、持って行きます」
給湯室に向かうエマにディオはついて行く
「ホルホルはぁ、基本ブラックコーヒーねぇ
あまり酸味のない豆が好みなのぉ
冬場はここにミルクを少し入れてあげると喜ぶわよぉ」
なんて、ちょっとしたクラウスの話しが聞ける
それを熱心に聞く彼にエマは笑いかけた
「ディオちゃん、ホルホルとぉ良い関係になったんでしょぉ?
大丈夫ぅ?あの人の事で困ってることは無いかしらぁ?」
「えっ、あのっ…俺っ…えっと…」
クラウスに2人の仲は秘密だと言われていたので、エマの言葉にディオは狼狽えた
その狼狽えっぷりはもう、そうですと白状しているようなものである
「うふふ、可愛いわねぇ
大丈夫よぉ?ホルホルから聞いたようなものだからぁ」
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エマが教えてくれた通りに淹れたコーヒーをお盆に乗せて
ディオは執務室の扉を叩いた
「ああ!ディオおかえり
通常業務じゃない仕事を頼んで悪かったね
…あれ、コーヒー?」
「あ、はい、エマさんに教えてもらいました」
「君が淹れてくれたの?
わぁ、嬉しいな…ありがとう」
そう言いながらクラウスは珍しく執務室の扉を閉め切り鍵を掛け
更に何か詠唱をし部屋に付呪を施した
「…今のは?」
「ああ、ごめん、聞かれたくないからさ」
さっきの魔術は防音効果があるという
「それで、どう?黄金の林檎は…」
向かいに座ったクラウスに、ディオは申し訳なさそうに項垂れた
「すません…せっかく頼ってもらったのに
それらしい物を見つけられなくて…」
「まあそうだと思うよ
ああ、そんなに落ち込まないで?」
ディオの頭をワサワサ撫でると、彼がクラウスの手のひらに頭を擦り付けた
しばらくクラウスの温かい手のひらを堪能していたディオだが
ハッと我に返り持ち物を漁り始める
「…あ!これ、何も持って帰らないのは良くないと思って…土を…」
ドス黒い土の入った袋を机に置き、結んでいた口を開いてディオはえっ!と声をあげる
クラウスも何事かと袋の中を覗いてみると
袋の中には何か植物の芽が芽吹いていた
「土と一緒に種が紛れ込んでいたのかな
…せっかくだから育ててみるよ」
「あ、あの…あの洞窟って何なんですか?
黄金の林檎って…」
ディオはクラウスに洞窟で見たもの全てを話し、その答えを求めた
「植物に溢れた洞窟が本当に存在するとは…
いや、すまない、ボクも実のところ疑っていたんだよ
黄金の林檎は、ボクらが生き残る為に必要なピースの一つなんだ」
誰にも言ってはいけないとディオに言い含めてから、この先訪れるかも知れない
ニゲラによる世界の黄昏を彼に話した
そして、それを聞いたディオは
黄金の林檎を見つけられなかったことに更に深く落ち込んでしまう
「すごく重要な任務だったのに…俺…」
「えぇ…責めてないよ?
今ベルタに他の候補地も洗い出してもらってる所だし
もー、そんな顔やめてよぉ」
あまりにもしょんぼりするので、クラウスはディオの隣に腰を下ろし肩を抱いて覗き込み
そして彼の頬に軽くキスをした
「…!」
「ね?」
ディオは胸が痛くなるくらい心臓が強く拍動する
優しく頭や背中を撫でられ、堪らなくなって震えている彼にクラウスは
そうだとこんな事を聞いてきた
「今回の件は通常業務外だったろう?
だから何かキミの欲しいものを教えてよ
ボクから特別手当ってことで」
ディオの高揚した気分が一気に冷めた
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自宅に戻ってきたディオが自室に戻ろうと階段をあがっている時に
リビングの方からラビッシュが走り出てきて辺りを忙しく見回した
「…どうしたの?」
「ディオ!モジャモジャどこ行った!?
あの野郎、隠れたか!?」
「クラウスさん?来てないけど…?」
「気のせいか…?いやでもアイツのクソ甘ったるい匂いがするよな…」
「き、気のせいじゃない?」
おかしいなと首を捻るラビッシュを尻目にディオは足早に自分の部屋に戻って行った
◆
「ねぇねぇ、何か羽織るものなかったっけ?」
給湯室にコーヒーカップを戻しに来たクラウスは、そこに居たエマにそんな事を聞いた
「あらぁ、どうしてぇ?」
「いやちょっと肌寒くって」
「…体調が悪いのぉ?」
ワピチの秋の始まりは少し肌寒い
朝晩の冷え込みで体調を崩したのかとエマは心配したが、そうではないとクラウスは断言した
「さっき、ディオに何か欲しい物はあるか聞いたんだけど
そしたら彼“クラウスさんのインナーが欲しいです”っていうのね
じゃあ後日、同じメーカーのインナーを取り寄せるねと言ったら
今着てるのが欲しいんだと言われてしまって…」
「あらまあ!ノーパンなのぉ?」
「いやパンツはあげないよ!?
裏起毛のTシャツの方だからね!?」
頭をぽりぽり掻いてクラウスが困ったような顔をした
「ならカーディガンを貸してあげるわぁ
…あのねぇホルホルぅ?
彼はまだ若い健全な男子よぉ
いつまで我慢させる気なのかしらぁ?」
「えーなに?どういうこと?」
すっとぼけようとするが、相手がエマではそれもなかなか難しい
「あなたが今着てる肌着を欲しがるなんてぇ…彼ちょっと可哀想よぉ」
「そ、そんなこと言われてもさぁ…」
エマに見つめられ、大の大人が叱られた子犬のようになってしまう
「正直いって自信が無い…」
クラウスは54歳、若く無いうえに
そういう事に関しては消極的なタイプだ
「だって、最後にそういう事したのって
もう十年以上前だよ?」
元妻が息子イェルクを妊娠した時が最後だなんていい
更に、もしディオとの時にその気になれなかったら
彼を悲しませてしまうと不安を吐露した
「それだけぇ?」
「…ボクが手を出す事で、彼が使徒に目をつけられてしまうかも知れないし」
「番いとしての関係の事をぉ、彼としっかり話し合わないで逃げてるわねぇ?
じゃなきゃ、彼あんなこと言わないものねぇ…」
「え?何?なんかあったの?」
「彼ぇ、やっぱり男だからとか獣人だからとか悩んでたわぁ…」
「うぅ…いや、勿論全く何の感情も無い訳じゃないよ?
でも、ボクだって不安で不安で…
そうだ!またあの時の薬を作ってくれないかな!?」
「あの時のってぇ元奥様の時のぉ?」
エマは顔を顰めて首を横に振った
あの時彼女が作った薬は確かに効果が保証できる代物だが、同時に重い負担が身体へのしかかる
初老の男に飲ませていい代物ではないのだ
「駄目よぉ…あの時はどうしても子供を作らなきゃいけないから
あんな毒…薬を渡したけどぉ、ディオちゃんとのソレはスキンシップでしょぉ?」
「今ハッキリと毒って言ったね…?
一回だけ…!一回分だけお願い!!
お守りとして持っておくだけで絶対使わないから!!」
このとおり!と頭を下げ、合わせた両手を高く掲げた彼に
エマは頬に右手を添えてふぅとため息を吐いた
「一回分だけよぉ?」




