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渓谷の狭間に

クラウスは執務室のソファに座り、ブラックコーヒーを啜りながら思考を巡らせていた

使徒が人間を養殖しているという話は、何度考えてもしっくりくる、というか

もうそうとしか思えなくなっていた

彼らがヤケに魔族を嫌う理由も、彼らに人間という資源を盗られないようにという事なのだろう

これまでの歴史の中で人間同士の戦争であっても使徒の介入により終結を迎えた例もあり

使徒は基本的に人間を一定以上減らさないように管理しているように思える

「ならどうして…」

彼らは人間に甚大な被害をもたらす

ニゲラの時に助けに来た例はない

もし、ノーブルやマナの言うように未曾有のニゲラが来たら…


「人間が絶滅しないように救いに来る…か?」


それは何の保証もない淡い期待である

天井を見上げ、うーんと唸りながら

クラウスはそのままソファに倒れた

「仮に助けに来るとして、きっと手を差し伸べられるのはほんの一握りだろうな

それではいけない…」

何としてもメンダラーを手に入れたい

その為には黄金の林檎を手に入れる必要がある


「…ホルツマンさん…調子悪いんです?」

執務室の開けっ放しにしていた扉から入ってきたベルタが眉間に皺を寄せた

クラウスは腕組みしたままソファに倒れているのだからそう思っても仕方ない

「んーん、考えごとしてたの」

「…ふーん」

起き上がった彼を横目に通り過ぎ、ベルタは書類を机へ置いた

「頼まれていたゴーレムに必要な部材の発注書です

出来るだけ早くお願いしますね」

出て行こうとする彼女を、待ってとクラウスは呼び止めた

「日光の全く届かないところで林檎って育つかな?」

「え、無理なんじゃないですか?」

「そういう植物が生えてそうな洞窟とか知らない?」

クラウスの問いにベルタは顎に手を当て暫く黙って考えていたが

ぽんっと手のひらを叩くと座っていたクラウスの腕を引っ張り立たせた

「書庫に行きましょう!ほら早く!」

「あ、ちょっと、腕が抜けちゃうよぉ〜」


書庫の奥に走って行ったベルタは何冊か本を持って戻ってきた

それをいつかの時みたいにクラウスに押し付ける

「…小説?」

「フィクションと侮ることなかれ!

人間は全く知らない事は想像も出来ません」

クラウスに本を持たせたまま、その一番上に載せていた本をその場で開き、とあるページを開いた

「見てください!洞窟の中にあるジャングル!

そして外は極寒…!」

「小説でしょう?」

クラウスの持っている本の真ん中辺りの本を、ベルタは乱暴にぶっこぬき

それをまた彼の持つ本の上に開いた

「これは実録冒険譚です

ここにもそれに似た植物の生い茂る穴の記述が…ほら!!」

「…確かに…でも本当かな?

ボク初めて聞いたよ」

「場所は…ここに書かれてる感じだと…」

ベルタは疑うクラウスの事などどうでも良さそうに本の文字を読む

そして徐に地図をバサっとクラウスの持つ本の上に広げ一点を指差した

「ここです!」

「ねぇ、机でやらない?」



「んでよぉ、俺らワピチの魔女狩り公務員だよな?」

ラビッシュは馬車の荷台で揺られ不服そうに言った

「公務員だからこそ

領主さんがこうって言ったらこうなんだよ」

ミーティアは少し前に止まった休憩所で買ったお菓子を食べながら景色を眺めている

今3人はノロイーストのパントニー区に向かっていた


時は4日前の午後

鳩で急に庁舎に呼ばれたディオは、クラウスからいつもとは違う仕事を頼まれた

それが“黄金の林檎の木”の捜索である

「できるだけ内密に、見つけても口外しない信用できる人にしか託せない案件なんだ」

そう愛しい人に頼りにされた嬉しさに

ディオは二つ返事で快諾し、更に仲間の2人には「追いかけてでも倒さないといけない魔女がいる」なんて嘘までついて

隣の領の指定された場所まで向かっているのである

ミーティアは恐らく、この嘘に気付いていて気付かないフリをしている

彼女はディオから話さない限りこのフリを続けてくれるだろうが

そもそも、ディオが嘘をつく理由になっているラビッシュは色々と面倒な男だった


(黄金の林檎の木を見つけたら

どうにかラビッシュの軽い口を塞がないといけない…)

ディオの頭の中はそんな事ばかりで一杯である


ガタッと馬車が大きく揺れ、止まったかと思うと馬車の御者が荷台乗る3人に声を掛けた

「…さあ着いた、モンペールだ」

「アイルツさん、いつもありがとうございます」

「こっちこそありがとよ」

馬車の御者アイルツは、獣人であるディオの利用を嫌がらない数少ない御者である

魔女狩りで遠くへ遠征する時は彼に協力を求めるのは日常茶飯事で

何ならもう1人のパーティーメンバーと言ってもいい程欠かせない存在である

「領主様から遠征費をそれなりに貰ってるし気にするな

俺達はこの街で待機してるからな」

そうアイルツは愛馬達の鼻筋を撫で

モンペールの街の中心へと消えて行った


ディオ達はここから徒歩で目的のものを探すことになる

「地図でいうと、この街から西に進んだ所にある渓谷が怪しいんだったよね」

ミーティアは早速、コンパスを取り出しあっちだと指刺した

そして、不意に周りを通り過ぎる人々の視線に気がつく


人々の疎むような視線


それはミーティアにではなく、ディオとラビッシュに向けられているものだった

今のワピチでは、この3人の活躍が広く知れ渡っているため

こんなに明からさまな軽蔑の眼差しを向けられることはない

だが、ここは隣領ノロイースト

3人が忘れてかけていた“怖い人間象”が蘇ってきた

ミーティアは荷物からフード付きのケープをラビッシュに被せ

ディオには帽子を深く被せる

「…街から早く出よう」

ディオの声が僅かに震えていた

モンペールからだいぶ離れて、やっと3人は落ち着く事が出来た

「クソファーレスども…」

ラビッシュはチッと舌打ちし、道の石ころを蹴る

「俺、ネフロイトが特別なの忘れてた」

「私もだ…2人とも大丈夫?」

「なんともねーよ!」

今までにもっと酷いことは沢山あったのだからと気を取り直し

ディオとミーティアは地図を確認した


そのまま目当ての渓谷に向かう

途中、何度も魔物による襲撃を受けたが

ノロイーストの推奨レベルはスノームースでは低いので

鬱陶しいが特に手こずることもない


「すごい深いね」

コモンゲラートとノロイーストの境目に横たわる渓谷は思った以上に深く

下の川まで降りるのには骨が折れそうだ

だが、目的の為には降りていくしかない

「ロープ足りないかも」

ミーティアはそう言いながらも

近くの太くて丈夫な木の幹にロープを括り付けた

先ずはラビッシュが行くという

彼はロープを使って器用に渓谷の底へ降りていく

最後10メートル程ロープが足りなかったが

そこから先は慎重に降り、何とか底まで到達した

「おーい!次ミーティア降りてこいよ!」

「先行くね」


ミーティア、ディオの順に下まで無事に降りる事に成功し

3人は渓谷の底から上を見上げた

上空には二つの領を結ぶ吊り橋が見える

「で、魔女はどこだ?」

「洞窟があるんじゃないかって聞いてる」

「何だよそのあるんじゃないかって…

確定じゃねえのかよ」

イラつくラビッシュ

取り敢えず、降りてきた場所から右側の探索を始める

右に行く程に川はどんどんと幅が広がり水嵩が増して行った

そして、海に到着する

「…何もなかったね」

「なら左側かな」

3人は引き返し、次は左側に進む

左側はどんどんと川が狭まり、岩だらけになり小規模な滝を伴う

幾つかの崖を登る必要があった

そして、最後は断崖絶壁にぶち当たる

「行き止まりだ…」

「これは登れねぇぞ、てか洞窟なんてあったか?

あのモジャモジャ…適当ぬかしてねぇか?」

苛立つラビッシュの言葉に、ディオはあからさまにムッと顔を顰めた

「…あ、ねえ!アレなんだろ」

ミーティアが声を上げて指を刺す方向

崖の中腹に横穴が空いているのが見えた

上側が迫り出しているので、上からでは見つけられないだろうソレは

3人が探していた洞窟に違いなかった

「あれ、登るのはキツくねぇか?」

ほぼ垂直な崖をクライムするのは危険だとラビッシュは主張するが、行かない訳にもいかない


先にディオが崖を登りロープを設置し、何とか2人も上がって来る

「よっしゃ、さっさと魔女を狩って帰ろうぜ」

急にやる気が出たラビッシュは

2人を置いていく勢いで奥へと進み始めたので、慌てて彼の後を追うのだった

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