鱗合わせ
屋台で美味しいと紹介された魚の串焼きや貝を焼いた物などを堪能しつつ
スケイルメイトの特殊な工芸品に触れながら街を歩いた
街の際まで歩いて来た4人はその景色を見る
今は干潮、昨日来た時は水上都市だった街が
今は海面よりずっと高い位置にあり空中都市として佇んでいた
「落ちると危ないので、柵から身を乗り出さないで下さいね」
「これはすごい、まるで要塞だな」
テーブル状の都市が幾つもの柱の上に立っている
満潮時でなければ、空から来る以外の方法ではここへ辿り着く術はない
「書物によると、初めは水に浮いていただけの小規模の家々が
そのうち柱の上に家を建てるようになり
次第にくっ付いていき、今の大きな一つの都市になったそうです」
面白いですねとプルーデンは微笑む
「旦那様、もうそろそろお昼になりますが
例のイベントには参加されますか?」
「あー…」
「おや、参加しますか?楽しいですよ
鱗は記念に持って帰っても構いませんし」
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せっかくだから参加しようという話になり4人は中央広場へ移動した
中央広場には直径10センチ程の大量の鱗が既に撒かれていた
それらは一枚一枚が色とりどりで美しい
「これは美しいね…因みにこの鱗って」
「リグマンの鱗ではないので安心して下さい
この辺の海域で獲れる魚の鱗ですよ」
この魚は2メートルを超える巨大な魚で、その巨体ゆえに鱗一枚もこの大きさである
更にこの魚は一尾からおよそ4000枚の鱗がとれるのだが
この鱗は、同じ魚から同じ色の鱗を2枚見つけることは出来ないと言われる程カラフルなのである
「なるほど、だから同じ色の鱗を見つけられたら運命的という訳ですか」
エドアルドは感心したように言った
次第に沢山のリグマン達がイベントに参加する為に集まって来る
そして、ノーブルが国民の前でイベントの前の演説をはじめた
「今年もみんなのお陰で無事にこの日を迎えることが出来た!
二度のニゲラや人間の国との関係の改善…
我々は様々な問題に直面しながらも尚
手を取り合い、ここまで歩いてこられた
種族の繁栄と栄光を讃えて
鱗の同士達よ、永遠に!!」
ワー!と歓声が湧き起こる
そして、ノーブルは見学をしていたクラウス達を見た
「この素晴らしい日に、人間でありながら
同胞を愛してくれたディアナの父上であり
ワピチの領主様がおいで下さった
我々の新しい親友に拍手を!」
何千人ものリグマン達の拍手が巻き起こる
「さあ、皆の幸福を祈って鱗を合わせよう!」
その号令と共に、リグマン達は広場に敷き詰められた鱗を求めて殺到した
その勢いに圧倒され、動けないクラウス達の背中をプルーデンがトンと軽く押す
「きっと素敵な鱗が見つけられますよ」
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クラウスが持って来た鱗はベージュの鱗
もっと目立つ色が沢山ある中から、何となくこれが目について彼はそれを拾って来た
「ああ旦那様、良かったご無事で…」
自分の気にいる鱗を拾おうと、誰もが必死なのでエドアルドはその中で揉みくちゃになったらしく
いつも整っている髪が乱れ、着衣もよれてしまっていた
「君はどんなの拾えた?」
「私は黒です」
「…黒?微妙に青っぽくない?
あ、なんかラメが入ったみたいにキラキラしてていいね」
「旦那様は?」
「ボクのはこれ」
一見ただのベージュ色の鱗だと思っていたそれは、光のあたり方でメタリックな光沢を放つことに気が付いた
「控えめなのに存在感がある感じが、まさに旦那様って感じですね」
そこへプルーデンも戻って来た
「お二人とも気に入るものは拾えました?」
プルーデンは透き通る青い鱗を持っていた
そして、最後にディオがヨレヨレになって帰って来た
「ディオ、大丈夫?」
「あ、は、はい…」
彼が持って来た鱗はシルバーの鱗
「…あ…同じじゃないですね」
クラウスと自分が持っている物を比べ、ディオはしょんぼりとした
「因みにどうしてこれにしたんです?」
プルーデンの質問に、ディオはチラッとクラウスを見てはにかみながら答えた
「えっ…と…クラウスさんみたいだと思って」
「んもぉ、そんな事言われたらさぁ…」
クラウスも恥ずかしそうに頭を掻く
人々がそれぞれ自分のお気に入りの鱗を選び
少しずつ広場から人が減って来た頃に
ノーブルが4人の元へやって来た
プルーデンから“注告”を受けていたクラウスは少し身構える
「満足のいく鱗は拾えましたか?」
「ええ、楽しませて貰いましたよ
素晴らしい体験をありがとうございます」
それは良かった!とノーブルは満足そうにいう
「お祭りのメインイベントはこれで終わりですが、屋台や露店は夜中まで営業している筈です
引き続き楽しんでいってください」
特にどうという事なく、よくある対応をしてノーブルはそれではと離れて行ったので
クラウスは少しホッとした
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18時頃までプルーデンの案内で街を回った後
館に戻ったクラウスはヘトヘトに疲れていた
「シャワー先に浴びますね」
「うん、ボクは少し休んでからにするよ」
部屋に備え付けてある浴室にディオを見送り、椅子で一息ついていた時に
部屋がノックされ、出てみるとノーブルが立って居た
「話があるんだ、少し時間が欲しい」
「あっと、今ディオが出られないので
また後で伺っても…」
「2人で話したい」
これはマズイと思ったが、上手く断る文句も見つからず
ノーブルが政治的な話なのでと付け加えたので行かざるをえなくなった
ノーブルが見せたい物があるとクラウスを連れて来たのは館の書庫
彼は机の上に数冊置いてある本を開く
「これはスケイルメイトの古い本です
完璧な状況で現存している物はこの一冊だけで大変貴重な本だ
これは書かれた当時の事を記録したものと言われています」
リグマンの言語で書かれているのでクラウスには読めないが
彼のいうことが本当だろうと思うくらいには本の装丁は古めかしかった
「ここにはこう書かれています
“明けない夜が何度も繰り返し訪れ
もう数ヶ月は夜が明けない
世界は魔物に溢れ、民は飢えている”」
「…明けない夜、ニゲラか」
「今のは本の一文ですが、この本の内容は最近の世界の異変とかなり似通っているところがある」
魔物や魔獣、魔女が増え
ニゲラの長期化、頻発に加えて異常気象
そして大震災が起きた後に…
「最後に一年にも及ぶ夜の到来」
「…そんなバカな、あくまで本でしょう?
フィクションか話を盛ってる可能性は?」
「私も初めはそう考えました
ですが、最近の世界は…この本が史実と思わざるをえないような事象が多すぎる」
これをクラウスは否定できなかった
「…一年、ニゲラが続いたら…人間は」
たった5日のこの前のニゲラですら莫大な被害を出した
一年も続いてしまったら、それこそ絶滅するのではないかと思う程である
「この本には人間は登場しないので、何とも言えませんが
私は人間と協力することで、この終わりの夜の夜明けを
犠牲者を最小限にして迎えることが出来るのではないかと考えたのです」
「…ああ!スノームースと外交を結ぼうとしたのはそういう事か!」
「人間の持つ高い知能と技術
我々の魔素を無効化する耐性
ワピチ領主、クラウス・ホルツマン様
これから訪れる永い夜を、どうか共に超えていただけないだろうか」
ノーブルはクラウスの目の前で跪き、手を差し出した
それはまるで愛の告白のようで…
「…いや待って、ニゲラを超えるための協力関係は結びたい
けどこれは何の手だい?」
「ふふ、ホルツマン様
この両国の関係をより確かなものにする為にどうですか?
私と…番いましょう」
顔の良い男がとびきりの甘い笑顔を向けてくる
それはもうクドイくらいに甘い顔だ
並の女性なら、これでイチコロだろうが…
「申し訳ないが、私は既に心に決めた相手がいるので…」
「大丈夫だ、私は2番目でも気にしない!」
「いやいやいや、ボクが気にするの!!」
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部屋に戻るとディオがクラウス見てホッとしたような顔をしてから
すぐにムッと顔を顰めた
「…クラウスさん、誰と一緒に居たんですか?」
「え、ああ…ノーブルに呼ばれて
今後の外交について話をしてたんだ」
「…それだけですか?」
「それだけだよ!?」
しつこく食い下がるノーブルにNOをいい続け、何とか帰って来たので
話をしただけで何も起きてはいない
しかし、ディオは訝しそうにクラウスのその顔見て、舌をぺろっと何度か出し入れした
「…発情した雄の臭いがする」
「いや本当何もないし嫌なんだが!?」
隠しても仕方ないので、訳を全て説明するとディオは次第に落ち着きを取り戻し
クラウスをギュッと抱きしめた
「クラウスさんは俺の番です」
「うん」
「俺以外にあまり優しくしないでください…」
「うん」
してるつもりは無いんだけどなぁと思いながら
ディオの大きな背中をトントンと優しく叩いて宥めた




