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次世代の芽

使徒が浄化を行ってから約10日

各地の領主に王から登城せよとの通達が入り

クラウスは再びクリスタレイの会議室に来た

今回は一番乗りだったらしく、まだ誰も来ておらず

取り敢えず腰を下ろして、出されたお茶を啜っていた

10分も経たないうちに、ノックをして入って来たのはソフィで

彼女はクラウスの隣に座ると、彼の顔を見て変な顔をした

「やだ…どこの貴婦人かと思ったら

クラウスあなたなの?」

彼女が指摘した通り、今日のクラウスはメイクを施していた、いや、施されていた

「あれ?変かい?」

「いえ…変というか…あなた男よね?

今日は特にドレスが似合いそうよ」

「そういう趣味はないな」

まだ時間もあるので2人でお茶を飲みながら

何故彼がバチバチにメイクをキメているのか、その経緯を話すことになった

今日もいつも通り出勤し、執務室でスケジュールを確認していた時に王から鳩が来た

急な召集にうんざりしつつも、出席しないわけにもいかないので

庁舎の職員に少し自分の仕事を頼みにいった時に言われたのだ

「酷い顔をしてるって、死相が出てるとまで言われてしまってね…」

過労と悪夢による睡眠不足に陥っていたクラウスは、元から色の白い顔を

さらに青白くし、目の下にはくっきりとクマをつくり

誰から見ても不健康な顔をしていたのだという

「そのまま行くのは良くない!私達に任せてって友人が言うもんだから任せたのね」

“友人”とはクラウスの爪にマニュキュアを塗りにくるあの3人の女性達の事だ

彼女達は自分の化粧品をつかい、彼の顔をエレガントに仕上げたという事だった

「…顔色とクマを消すだけにしては派手よ

それにその爪は必要だったの?」

「ついでだって、これを見てテンションぶち上げてって言われたよ」

カラフルなネイルを施された爪を見て

ソフィは思わず笑い声を漏らした

「まさかあなた、自分の顔見てなかったりしないでしょうね」

「渾身の出来って言われたから見てないな」

ソフィはコンパクトミラーを取り出してクラウスの目の前で開いた

「ーほわっ!?」

その瞬間、クラウスは椅子の上で飛び跳ね膝を机に強かに打ちつけた

「大丈夫?」

「あぁびっくりした…鏡に母が映ったかと思った…」

「あなた疲れすぎよ、ちゃんと寝てるの?」

そんな雑談に花を咲かせていると

会議室がノックされ男が1人入ってきた

歳の頃は30半ばくらいだろうか

こんがりと日焼けし、ガタイのいい彼は

ソフィを見つけると人懐っこい笑顔で彼女に挨拶をした

「ソフィ!今日は一段と美しいな!」

「ふふ、お上手ね」

「今夜空いてる?お姉様に是非手取り足取りご指導をお願いしたい」

口説かれるソフィもまんざらでは無さそうで、どうしようかしら?

なんて言いながら唇を舐める

そんな2人の会話を若干引きつつ聞いていたクラウスが男の視界に入った

彼は驚いた様な表情をした後、態とらしく右手を額に当て

ヨロヨロとクラウスの隣まできて跪き、我関せずとしていた彼の手を取った

「なんて美しいんだ…貴女を一目見ただけで

俺の心は恋の炎で燃え上がった!

ああ、貴女の熟れた果実を味わいたい!!」

クラウスの左手を両手で握り、下品な口説き文句を唱える男

そんな彼にクラウスは満面の笑みで答えた

「ボクの熟れた果実っていうと、睾丸のことか?」

クラウスの誰が聞いても低音の男の声に

口説いていた男は目玉が飛び出しそうなほど目をかっぴらき

耐え切れなくなったソフィはお腹を抱えて大爆笑した

召集された全員と王が会議室に入り会議が始まった

「紹介しよう、コロゴロフの後任

コモンゲラート領主アンセルモ・ネバレス卿」

「粉骨砕身、領民の為に働く所存です!」

小麦色の肌に真っ白な歯が光る

パリッとしたスーツに身を包み、背筋をピンと伸ばした筋骨隆々な若者が勢いよく頭を下げた

ネバレス卿といえば、グラウンドベアと接する区を預かる貴族であり

今回の反乱ではコロゴロフに従わず、真っ先にベアを止めようとしていた

その時に彼の父は両足を失う大怪我を負い

親子とも共、反乱が鎮圧されるまで幽閉されていたのだという

そして、父はその怪我を理由に当主を息子に譲ったのだ

「そして、フェルリンデンの後任

サモーズ領主ヘルロフ・ルッベルス卿」

「おう、宜しくな!」

貴族というよりは海賊というエイベルの評価に相応しいような彼は

正装を着崩し、クセの強い髪を適当にまとめた男だった

そして、彼はさっきクラウスを口説いた男でもある

「数日前に各領に通達を送ったと思うが

区の補填はほぼ済んだ

来月の夜会は顔合わせも兼ねるので必ず出席するように」

そこまで言うと、王は途端に表情を曇らせた

「本題だ…昨日、この度の反乱に対する調査が終了した」

調査の結果明らかになった事の顛末は

日頃から王に対して不満を感じていたコロゴロフに対して

何処からシベティの噂を嗅ぎ付けたベアが、スノームースの玉座につかせてやる

という甘い言葉を掛けて起こった事件だった

ミックはベアから、協力すればサモーズ領は侵さず命も狙わない

しかし、これを断れば真っ先にサモーズを滅ぼすと脅され

やむを得ず反乱に参加したということだった

「あの排他的なフェルゴンが他人種を置き続けるなんてあり得ないと

少し考えたら分かりそうなものだけどね」

グラウンドベアの国民は100%フェルゴンという排他的で暴力的な人種である

彼らは他人種を同じ人間とは考えておらず

排除する為にあちこちに戦争をふっかける厄介な国家であった

「目先の暴力に屈してしまうのが何ともミックらしくて残念極まりないわ」

「助けを求めてくれれば、駆けつけました

しかし、その関係性が構築出来ていなかったのは此方の落ち度でありましょう」

3人はミックに同情はしつつも、領主たる者それではいけないと眉を顰めた

「しかし罪は罪だ、今日の正午

広場にて両名の公開処刑を執り行う

事前に伝えた通り、処刑に関しては強制参加ではない

各々の判断に任せる」




そして正午、王の宣言通り

コモンゲラート元領主、マルク・コロゴロフ

サモーズ元領主、ミック・フェルリンデン

の2名は民衆の見守るなかで斬首刑に処された

後に彼らの家族達は国外追放されたという


広場でかつての同僚の死を見届けたクラウスは

気分も良くないので、早々にネフロイトヘ引き上げようと

エドアルドの待つ飛空艇へ向かうために広場を出たところで呼び止められた

彼を呼び止めたのはヘルロフ・ルッベルス

「ホルツマン卿、さっきは悪かった

お詫びに俺の奢りでお茶しよう!頼む!」

それがお詫びをする態度か?なんて思いながら

エイベルの信頼関係の構築うんぬんが頭をよぎる

「…従者を待たせてるから、それほど時間は取れないけどいいかな?」

「勿論!よっしゃ、いい店があるんだ!

こっちこっち!」

ガッツポーズを決めるヘルロフに

大丈夫かコイツ…と若干不安を覚えつつついて行く

案内されたのは普段クラウスが近づかない

治安が良くない区画にある店だった

古い店の中には所謂スラムの住人達がひしめき

空気は煙草と酒と不衛生な臭いで澱んでいる

「…本気かい?」

冗談だろ?と隣に立つヘルロフを見ると、彼はニッと笑いサムズアップした

そんな店の一番奥の席に通される

床も机も椅子すら何だか油でベタベタしているのでクラウスは手を膝に置いて

ヘルロフに差し出されたメニューを見た

「ここのエビと野菜の炒め物が最高に美味いんだ!」

「へぇそうなんだ、覚えておくよ」

知り合いの斬首を見た直ぐ後で、何か食べる気も起きないので、初めに聞いていた通り

コーヒーだけ注文して辺りを見渡した

それにしてもつくづく場違いだなと思う

今さっきまで公務をしていた彼は、シワひとつないワピチの制服を着ているのでやたら目立つ


「…へえ、コーヒーそんなに悪くないね」

正直全く期待していなかっただけに

普通程度のコーヒーが出てきてクラウスはホッとした

ヘルロフは自分の前に運ばれてきた料理を頬張りながら話を始める

「いや本当さっきは悪かったな」

食べ物にガッツきながら、口に物を入れた状態で話す彼に引きつつ

クラウスは愛想笑いを浮かべる

「気にしなくていい、メイクしてるんだからそりゃ女性に間違われたっておかしくないさ」

ネフロイトに戻ったら3人に次はもっと大人しいのをお願いしないと

などと見当違いなことを思いながら言うと

ヘルロフが机越しに手を伸ばしてきて、クラウスの顎をクイッと持ち上げた

「なので、今度は男として貴方を口説く

ここの2階は宿になってる

食事が済んだら一戦交えないか?」



「思った通りね、おかえりなさい」

「…グルだったのか?」

誘ってきたヘルロフを適当にあしらい、さっさと店から出てきたクラウスを店の前で待っていたのはソフィだった

「やだ、怒ってるの?」

「いや、怒ってはいないよ呆れてるけど」

そして、今になってクラウスはヘルロフが

エドリック王と遠縁の親戚であることを思い出す

「やれやれ、あの一族は色○チしかいないのか?

それにしたって何でボクとしようと思うのよ」

「貴方は夜会に来ないし来ても輪に入らないから知らないのでしょうけど、よくある事よ

初めて会ったら取り敢えずベッド

親交を深めるために互いの剣を交わらせる殿方は沢山いるわ」

「怖いこと言わないでよぉ…

と言うか、使徒が怒るんじゃない?」

「あくまで親交を深める為の裸の付き合いであって本命はちゃんと異性だもの

優秀な子供を産んで育ててさえいればよっぽど何も言われないわ」

オエっとハッキリと拒絶を露わにするクラウスにソフィは肩をすくめた

「あなたそんな形だし、男の方が好きなのかと思ってた…」

「んなわけ!!冗談じゃない!!

子供だって4人もいる!

男の身体に興奮なんてしないぞ!?」

尤も、女性の身体にも興奮しなかったのだが

彼の遠い記憶の中の初恋の相手は、確かに女の子であったので男が好きな訳ではないのは確かだろう


「まあそうよね、大丈夫だと思うけど

寄り道なんてしないで真っ直ぐ戻りなさい

ここは治安が宜しくなくてよ」

「…君は?」

「私?私はヘルロフを慰めに行くから」

うふふっと微笑むソフィを見て

そういえば彼女もそっち側だったとクラウスは来た道を引き返した

「旦那様、如何なさいました…?」

飛空艇で待っていたエドアルドは、戻ってきたクラウスを見てギョッとした

化粧では隠し切れないほど疲れた顔の彼は、どんよりとした空気を纏っている

「何年経っても貴族の慣習についていけない」

「ああ…成る程」

エンジンがかかり、飛空艇はゆっくりと浮上を始めた

「ボクなんかより、ゲオルクの方がよっぽど領主に向いてるんじゃないかと思う」

「私は旦那様が好きですよ

旦那様だからこそ、どんな攻撃も引き受けようと思えるんです」

エドアルドはそう笑いながらいう

「…いつもありがとね」

「はは!そういう所がとても好ましい

貴方を真っ当に育ててくれたエマに感謝しないと」

「エマ…そうだねぇ

何かお土産でも買ってこれば良かった」

窓から外を眺めながら、クラウスは独り言のように言った

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