表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/102

軋轢

起きようと思っていたよりも1時間程早く目が覚めたクラウスは

隣で背中を向けて寝息を立てているディオに視線を落とした

彼のうなじには、昨晩自分が付けた噛み跡がクッキリと残っている

本当に消えないんだなと変に感心しながら

ディオを起こさないようにベッドから降りると

身だしなみを整え、早朝の城の廊下へ出た


つい先日の戦闘の爪跡があちこちの壁に残ったままの廊下を進み

地下牢へ続く階段までやってきた

その入り口では見張りの兵士が2人、雑談に花を咲かせている

「おはよう、お勤めご苦労様」

「ホ、ホルツマン様!?おはようございます!」

2人の兵士はクラウスの姿を見とめると姿勢を正し慌てて敬礼をした

「あぁ、ごめんごめん…いいよ楽にして?

こんな朝早く来るなんて思わないもんねぇ

ちょっと下に降りてもいいかな?」

「あ、はい!」

2人がサッと道を開ける

その間を通り過ぎ、階段を降りて薄暗い地下牢の前を進みコロゴロフの檻の前まで来た


「おはよう、元気?」

王がされていたように、手を壁に貼り付けられた状態で項垂れていたコロゴロフが顔を上げた

「…カマ野郎…何しにきた…」

「何しに来たと思う?」

コロゴロフのこめかみに青筋が浮く

「笑いに来たのか、ああ!?

面白いか!なあ!?カマ野郎!」

「一つ教えてほしいんだけど」

「あ゛あ゛!?」

「どうして君はいつもボクに突っ掛かってくるんだ?」

腕を後ろに組んで彼を見下ろすクラウスに、コロゴロフはペッと唾を吐いた

「テメェみたいな弱い奴が強者の俺と肩を並べてるのが最高にムカつくんだ!

弱ぇ癖してスカした顔しやがって!!」

ガチャガチャと手枷を鳴らし吠えるコロゴロフを檻の前で眺めながら

クラウスは何だかどうでも良くなってしまった

「はあ、くだらない…」

ついっと踵を返し、檻から離れていくクラウスにコロゴロフは罵詈雑言を叫び続けた

その途中でミックの檻の前に立ち止まる

彼はコロゴロフとは違って、俯いたまま泣いているようだった


「死にたくない…死にたくない…」


そう呟くミック

なら何故、コロゴロフと反乱など企てたのか

そう叱責したい気持ちが込み上げたが

もう何を言っても後のまつりである

短絡的な彼の最後にはある意味相応しいのかも知れないと

クラウスは言葉も掛けずに立ち去った


階段を上がって地下牢から出てくると

兵士達がクラウスを心配そうに見てきた

下からは延々、コロゴロフの叫びにも近い罵詈雑言が上がっているで恐らくそのせいだろう

「数日前まで同僚だったでしょ?

別れの挨拶をしたら怒らせちゃったよ

どうせ後数日したら騒ぐことも出来なくなるんだ

思う存分、叫ばせといたげて」

クラウスの黒い笑顔に、兵士達はぶるっと身震いする


クラウスが部屋に戻ると、ディオが起きていて強く抱きしめられた

「いなくなっちゃったと思いました…」

「昨日正式に番ったばかりなのにいなくならないよぉ」

わさわさと頭を撫でてから、そっと彼のうなじに触れた

すると、ディオはビクッと身体を跳ねて困ったような顔で彼を見て頬を赤く染める

「コレね、何だかエッチだから

見えないように隠しておくんだよ?」

「は…はい…///」

ディオと朝食を済ませ、再び会議に出席する


反乱に参加していない、コモンゲラートとサモーズの貴族がリスト化されていて

その中から協議を重ねて候補者を数人まで絞った

更に、現在貴族の血族でありながら

支配する土地を持たない者達を、空いた土地へ選出する議論が行われた

「サモーズの領主だけど…ルクソンポールがあるでしょう?」

「ああ、あの港町?」

「そこの区を治めてるルッベルス卿なんてどうかしら」

「理由を聞こうか」

王に問われたソフィはチラッとノーブルを見て言う

「スケイルメイトと同盟を結ぶなら

海路を使いやすくした方がいいと思うわ

サモーズ領はベアと接している面が多くて不安はあるけど、一番近いでしょ」

大型の飛空艇は空港が無ければ降りることが出来ない

スケイルメイトに一番近い空港となると

他国であるラビフィールドの空港を使うことになってしまう

ラビから受け入れを拒否されれば当然、飛空艇は使えない

それを避ける為にも港町を管理し、航海に詳しいルッベルス卿が相応しいとソフィは言う

「ルッベルスは数年前に代替わりして

今はヘルロフが当主だったか」

30半ばの人当たりのいい陽気な男だと王はいう

「ああ彼ですか、一度夜会で会いました

貴族というより海賊という印象を受けましたが、大丈夫ですか」

「候補として上の方に入れておこう

海路が充実すれば出来ることも増えるしな」


そして、今回の首魁である2人の処刑について

「今回の件の調査が済み次第、広場で公開処刑を行う予定だ

その際は報せを送るが、参加の強制はしない」

公開処刑は即ち見せしめの意味を強く孕むものであるので

参加自由であることに勿論疑問の声があがった

「今回の件は…俺にも責任がある」

王は恐らく魔族の女性の事を言っているのだろう

「シベティでしたっけ?結局なんなんです?」

「…元はアデモスの王、ベスベチュラの“玩具”だ

飽きたので棄てると言うので譲り受けた

別に彼女を貰ったことで魔族に有利な協定を結んだとかそういう訳でもない」

今、そのシベティは城の別棟に隔離されている

彼女は淫魔といわれるサキュバス類を

愛玩用に改良したものらしく、異性に対する強力なチャームを使うが

それ以外は腕力も知性も幼児並みに低く保護下でなければ生きていけない程弱い生き物なのだと王はいう

その淫魔は魔族の間では飽きたら処分されるくらいに軽く扱われており

ベスベチュラとの世間話の中で登場した、まさに処分され掛けている彼女を目の当たりにしたエドリックは可哀想に思い

ベスベチュラのゴミを譲ってもらっただけなのだと強く主張した

「それで骨抜きにされていたのでは、そりゃ言い訳できませんよ」

クラウスの軽蔑の眼差しに、ぐうの音も出ない

「…あの女を飼い続けるつもりですか?」

エイベルに訊ねられ、王は俯く

チャームが無かったとしても、見目麗しく

性技に特化したシベティは手放し難いのだろう


「人間よ安心しろ」


いつか聞いたあの声が降り注ぎ

会議室の机の上にドゴッと音をたて生首が落ちてきた

「…シベティ!?」

王の悲鳴が上がり、彼は震えながらその首を抱きしめ

人目も憚らず声を上げて泣き出した

困惑する一同の中、空間が歪み

そこからレプレイスの時のようにウラノフェンが姿を現した

彼は会議室の中を見渡し、ノーブルを見つけると不気味に笑い

そして、ワンワン泣く王を見下ろした

「ここにも異物が混じっているがまあいい

今回の問題はそれではない

魔族の侵略を阻止する為に和平を結ぶことは承諾した

だが、奴らと肉体関係を持つ程の仲は許していない

が、しかしカルネウスの血統はポロニアのお気に入り

容易に失脚させることも出来ん

なので我々はこれからこの首都を浄化する」

ウラノフェンの近くの空間が広い範囲で歪み、数人の使徒が現れた

その中の中性的でスラリと細長い印象の使徒がクラウスを見て薄く微笑む

クラウスは膝の上に置いていた手をギュッと握り背中を冷たい汗が流れるのを感じた


ウラノフェンはエドリック王からシベティの首を取り上げ窓から外に飛び出した

他の使徒たちもそれに続き

城下街からは悲鳴が上がり…やがて民衆の歓声が城へと届いた

1時間程して窓から戻って来たウラノフェンは

大量の生首を机の上に転がし

ソフィは目の前に転がって来たそれに悲鳴をあげ、クラウスはハンカチで口を覆った

「これほど魔族が紛れていた

王よ、これがお前の招いたことだ…次はないぞ」

エドリック王はただ涙を流したまま震えている

そして、ウラノフェンはノーブルを見た

「…獣人よ」

それまで唖然としながらこの騒動を見ていたが

声を掛けられハッとしたノーブルは椅子から転がるように降り床に額を擦り付けた

「私達は自分の身分を存じております!

私たち獣人は卑しい身分!

人間様…使徒様の慈悲で生かされております!

ここにお招き頂いたのは、ニゲラ等の脅威から人間様をお守りする為!

決して楽園を脅かす目的ではありません!!」

悲鳴のようなノーブルの叫び

ウラノフェンは分かっているのなら良いと

静かにいい王に笑い掛けた


「さあ、魔族の脅威は去った安心して繁栄するがいい」


疲れ切った顔で部屋に戻ったクラウスは

ディオに急ぎ荷物をまとめるように頼むと深くため息を吐いて壁にもたれた

「…クラウスさん…大丈夫ですか?」

「ああ、うん…気にしないで

ただ一刻も早く帰りたい…」

ノーブル達、スケイルメイトの民はエイベルが彼らの国まで送っていくと言ってくれたので

クラウスはエドアルドの待つ飛空艇へ急いだ

城門を出るところでエイベルに声を掛けられる

「ホルツマン様」

「ああ、ヴァラハ卿…彼らを頼みます」

「エイベルで構いません、少し宜しいですか」

そう言った彼はクラウスに近付き耳元で小さく話す

「ノルウォギガスが魔物や魔獣を使役するのに使徒が意を唱えないのは

私達がアレらを“道具”として扱っているから

ホルツマン様…人間でない者にあまり情をかけてはなりません」

それだけ言うとスッとエイベルはクラウスから離れ、軽く会釈して去って行った

そんな彼を見送りながら、渋い顔をしていたクラウスに

不安そうにディオは声を掛ける

「…何か嫌なことを言われました?」

「いや…違うよ…行こうディオ」

血の香りの漂うクリスタルレイから

2人を乗せた飛空艇は颯爽と離れていった

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ