炭鉱のカナリヤ
ミーブリズにクラウスが到着した時には
既にエイベルは精鋭達を引き連れて待っていた
一番遠い彼らが一番早くここに到着したのは
まず間違いなく、彼らの所有する
公認されていない騎竜達のおかげだろう
「そのドラゴンは野生を捕まえて来るのかい?」
「いえ、卵を盗ってくるんです」
公認された騎竜というものは主に2品種ある
重種で軍事用の“バーンクラック”
軽種で騎乗用の“スパークランナー”がそれである
この2つの品種は、長い年月をかけ
人間に家畜化され品種改良の末の生き物であり
騎竜は魔法が使えない“動物”である
そして、エイベル達が使っている公認されていない騎竜…
それはつまるところ、魔物や魔獣なのである
「卵から育てると10個に1個は懐きます
それを大事に育てたのがこの子達」
「なるほど卵から…」
「その卵を盗るのが一番難しい
ですが、今孵化させている物が産まれたら
友好の証に一頭差し上げましょうか」
「ああ〜いや…大丈夫かな、ありがと」
ドラゴンは要は翼のある大きな爬虫類
クラウスにとって苦手でしかないのである
そんな他愛もない話をしていると
ソフィの率いる軍勢が到着した
彼女自身も、普段のお洒落なドレスではなく魔術師の装束に身を包んでいる
100名あまりの少人数の隊列は目立たないように陸路を使い
それでも迅速にエルカトルの城下街へ進軍する
この人数だからこそ駿馬や魔獣ばかりを集めて素早い移動を可能にしていた
あっという間に城下街の外壁に辿り着いた一行は、予定通りに山積みとなったエルカトル兵士達の死体を越え東門に襲い掛かった
「敵襲!敵しゅッぐう!!」
「躊躇うな!押し切って門を開くんだ!!」
味方を呼ぶための警笛を鳴らそうとした、反乱軍の兵士の喉笛をソフィの魔力の矢が貫き
クラウスは号令を掛けた
東門を守っていた兵士達をまとめていたのは
社交界でも顔馴染みの
コモンゲラートの貴族、アヌフリエフ卿
エイベル率いる魔獣の騎竜達の噴き出す業火に殆どの兵士達は恐れ慄き戦意を喪失し、部隊は簡単にバラバラになっていった
「ゆ、許して…!助けてくれ!
私はコロゴロフに言われて…
歯向かえば殺すと言われて仕方なく!!」
這いつくばって無様に命乞いをするアヌフリエフ卿を見下ろしたエイベルに
何の感情もなく殺しますか?と問われたクラウスは彼を捕縛するように指示を出した
東門を制圧し、数人の精鋭を守りに置いて城に向けて進軍する
街のあちこちでは市民による暴動が起きており
その鎮圧にも手を割かれた城の騎士や兵士たちの士気は風前の灯だった
もはや、市民にすら敗北する勢いの彼らの横を通り過ぎる
「一体何があったらこんなことになるの…」
ソフィは訝しげに呟く
そして、辿り着いた城門前では
敵も味方も分からない乱闘が起きていた
「邪魔ですね、退かせます」
そう前に出たエイベルは指笛を鳴らす
東門に置いてきた彼の騎竜が上空から隕石の如く現れ城門前に落ちるように降り
けたたましい咆哮を上げた
その場で戦っていた全ての人間がそれに慄き蜘蛛の子を散らしたように逃げ出す
ドラゴンはそのまま城門に体当たりをきめ、粉々に粉砕し
そして、城の扉までも破壊してしまった
「道は開けました、行きましょう」
城門や扉を守る為に何人かの精鋭をその場に残し城に傾れ込む
すると、直ぐに城の中にいた反乱軍側の騎士や兵士達が集まって来た
それらとの応戦は精鋭の騎士達に任せ、領主達は更に奥へと進む
「王は何処にいるのだろう」
それについて来ていたノーブルが問う
「まあ、恐らく地下牢に投獄されてるでしょうね」
コロゴロフのやる事だ
そんな凝ったことは出来ないだろうとクラウスは言う
道すがら出会う敵の兵士達は問答無用で切り捨て進み
地下牢へと続く扉の前に、騎士トルストイ卿を見て確信に変わった
「やっぱり、王は地下ね」
「ーっ!ホルツマン、デュモン、ヴァラハまで…!?」
走ってくる面子の濃さに、トルストイは悲鳴のような声を上げ剣を構えた
が、躍り出たクラウスが彼の攻撃を三度受け流し
トルストイの顎に強烈な回し蹴りを一撃見舞って気絶させた
「あら、やるじゃない」
「はは、これでも前衛職だからね」
床に倒れたトルストイの持っていた鍵を取り地下への扉を開錠する
果たして王は、湿った薄暗い地下牢獄の一番奥の檻に収監されていた
両手首に付けられた枷で壁に貼り付けにされ、足にも太くて頑丈そうな枷と鉛の球が付けられていた
「…お前達…」
王は檻の前まで来たクラウス達を見て
一言そういうと口をつぐんで地面に視線を落とした
「今開けます、もう少し辛抱して下さいよ」
檻の鍵を開け中へ入ろうとすると
王はやめてくれ!と叫んだ
「俺に構うな!俺はここからは出ないぞ!」
そんな叫びに一同唖然とする
「…私たちはコロゴロフの仲間ではないわ
エドリック王、貴方を助けに来たの」
「違う!俺が出たら…俺がここから出たら
シィべティが… シィべティが…」
聞いた事のない名前に一同困惑していると
王の入っている檻の、少し離れた檻の中から声がした
そこには王の息子、クリスタルレイの王子が似た様な状況で収監されていた
「シベティは我が父の愛人です」
王子が言うことには
シベティという女性は友好国である魔族領ゼブルの王ベスベチュラから贈られた魔族の女性だという
彼女は魔族ではあるが、対して強くもない“愛玩用”なのだという
そんな彼女を王は溺愛しており
コロゴロフはそれを利用し、王が彼に刃向かった瞬間にシベティの頭が吹き飛ぶ様に
魔術師に呪いを掛けさせた
そのせいで、王は自力で脱出出来るにも関わらず反乱軍の言いなりになっていたのである
「かくいう私も…動けません
枷を一個でも外せば、シベティが死んでしまう…」
「…成る程、合点がいきました
だから王は大人しく囚われたのですか」
あの王がどうして?という疑問はエイベルも感じていたらしい
「となると、そのシベティ?を先に助ける必要があるわね」
「よし、今日こそ本気で殴ってやろうか」
地下牢から移動すると聞いたノーブルとシェイドは、反乱軍側に王が殺されてしまわないように残ると言った
三人の領主とプルーデンはコロゴロフを目指す事になる
「何処に居ると思いますか?」
「…王の私室かな」
「ああ、あのお馬鹿さんならそうかも」
王の私室に向けて走り出す
あれ程いた反乱軍の兵士達は王の私室に近づく程減っていき
辿り着いた王の私室を誰も守っていなかったので
目測を誤ったか?と3人は顔を見合わせたが
部屋から獣のような雄叫びと女の嬌声が聞こえて身構えた
「ああ…ヤダヤダ…入りたくないよぉ…」
「何言ってるのよ、前衛でしょう?
シャキッとして!ほら行きなさい!!」
中で何が行われているのかなんて、火を見るよりも明らかであり
渋るクラウスの尻をソフィが叩いた
エイベルも一歩下がり、魔法の詠唱に入る
プルーデンは気配を消し
いつでも飛び掛かれるように壁に張り付く
大きく深呼吸をしたクラウスは扉を蹴破り
そのまま部屋に踏み込んだ
次の瞬間、鼻の奥がツンと傷んだと思った後
頭部にガツンとした衝撃を感じてクラウスは目の前が真っ暗になった…




