離反
少し前のニゲラで魔女がまた一気に数を増やしたらしく
ディオ達の魔女狩りも非常に忙しいものになっていた
ネフロイト近郊の水源で魔女の首を斬り落としたディオは、手斧の血液を拭き取り
採れる素材を回収していた
「まだ住み着いたばかりなのかな
住処の中はあまり物がなかった」
家探しを終えたラビッシュとミーティアがディオに合流する
「最近アイテム溜め込んでる奴少ねぇよな
そのくせあっちこっちに出て面倒くせぇ」
「レベルもそこまで高くないから
倒すの自体は楽なんだけどね
ディオの方は何かとれた?」
「…多少の錬金素材は、やっぱりレベルが低いから魔結石とかは持ってないみたい」
魔女の血で手を真っ赤に染めた彼は立ち上がり
手を綺麗にしてから、マジックアイテムで魔女の死体を焼却した
「この近辺に、後2箇所居るから
それが終わったら一度ネフロイトに帰ろう」
ディオに言われ、ミーティアは地図を荷物から出してコンパスで道を示す
ディオは荷物を背負い直し、行こうと先頭を歩き始めた
「…ディオ、調子が元に戻ったよね」
「ん?ああ、何だったんだろうな
まあ戻ったならいい、あんなの2度とごめんだぜ」
様子のおかしいディオが、プルーデンについて行くと言った時は
2人ともどうしたらいいのかと途方に暮れたものだが
やっぱり行くのをやめたと言って帰って来たディオは
数時間前とは別人かと思うくらい、清々しい笑顔で2人に謝ってきた
ミーティアは何となくクラウス関係の話なんだろうなと思っているが
ラビッシュは今が良ければ正直どうでもいいと、気にしてもいない風だった
(…ま、いっか)
ディオが苦しんでいないならよしと
ミーティアも荷物を背負い、2人の後を追った
◆
執務室で仕事に追われていたクラウスの元にエルカトルから早馬がやってきた
竜騎兵は慌てた様子で庁舎の庭に降り立つと、騎士が転がり落ちるように竜から降りて
ネフロイト庁舎建物に入るのと同時に前のめりに転んだ
何事かと驚く職員に向かって騎士は叫ぶ
「ホルツマン様はいらっしゃいますか!?
反乱です!!エルカトルで反乱です!!
エドリック王が捕縛されました!!!」
その悲鳴にも近い声はクラウスの執務室まで届いていた
玄関まで走って出て来た彼は、そこで膝をついて肩で呼吸をする騎士の前にしゃがみ視線を合わせる
「今のはどういう事?」
「ああっ…ホルツマン様…!
サモーズのフェルリンデンと
コモンゲラートのコロゴロフが王を捕らえ投獄し、クリスタルレイを乗っ取りました…!」
騎士はよく見れば全身傷だらけでボロボロになっていて
彼が乗って来た竜も、多数の傷のせいで膝を折り息も絶え絶えの状態である
「エルカトルの騎士団がクリスタルレイや王の奪還を試みていますが…
非常に苦しい戦いを強いられています…ッ」
分かったとクラウスは言うと立ち上がり
周りで不安そうにしている役人達に指示を飛ばした
「君!彼や彼の騎竜の治療を、彼らを休ませてやってくれ!
エマ、急いでコモンゲラートに繋がる門を閉めるように指示を出して!
手が空いてる職員は街中にこれを報せて、状況の詳細が分かるまではネフロイトから領民が出ないようにして!」
その上で彼は領内の区を預かる貴族達と
隣領、ノロイーストとノルウォギガスに鳩を飛ばした
それと同時に、クラウスに向かってくる鳥がいた
鳥は彼の目の前で紙へと変貌し、目の前に舞う
クラウスはそれを掴み広げ、その表情は一瞬で嫌悪の色に染まった
「…コロゴロフめ…」
それはコロゴロフからの書状
クラウスに対して、反乱に加わらなければ
ワピチも攻めるという脅しの文章であった
恐らく、他の2つの領に対しても同じような書状を飛ばしているに違いないと深く溜め息を吐く
「南西門は閉めさせたわよぉ
北東門はそのままでいいのぉ?」
エマがクラウスに聞く
山脈にぐるりと360°囲まれた天然の要塞であるワピチは
南西と北東に山をぶち抜いた長いトンネルが陸路として開いている
このうちのコモンゲラート側のみの閉鎖を命じた訳だが
「まず間違いなく、ソフィは反乱には加わらない
場合によっては彼女自らがこっちに向かってる可能性もあるから北東門は開けておいて
あ、でも直ぐに閉められる準備はお願い」
ワピチにも騎士団はある
これは区を任された貴族達を中心にした組織であり
有事の際には彼らは軍隊と化す
更に、普段農業に従事している者の中には
自身の畑がシーズンではない時に限り
騎士としての訓練を受けたり、他領と繋がる門の守衛に従事している者もいる
普段は庁舎の職員として勤めている
ロベルトも元はエルカトルの騎士団に居た男であり
もしもの時は騎士ロベルトとして働く
「領主様、ネフロイトの騎士は庁舎の庭に集まりました
如何いたしましょう」
鎧を着込み、ランスを持ったロベルトがクラウスの前で跪く
この男、ロベルトは普段は結構いい加減なおじさんなのだが
一度鎧を身に纏うとスイッチが入るのか、かなり好戦的な男になってしまう
「わあ、気が早い…」
一番危険な南西門の守りは、門のある区ビスウッドのシュティルケ卿に任せてある
ネフロイトはワピチのほぼ中心に位置しているので今すぐどうという話ではない
「あ、ホルツマンさん!
戦争が始まるって本当ですか!?」
騒ぎが書庫にいたベルタにも届いていたらしい
「いや…内戦かな…?
コモンゲラートが攻めてくるかも知れない」
「…ならここ、地形的に山を越えてくるなら
ここから来ると思います」
バサっとベルタは等高線の引かれた地図を広げ、クラウスに見えるように指を刺した
「騎士団を配置するならこの山の麓
私ならそうします
というか、ゴーレムを向かわせようと思ってます」
彼女のアドバイスをうけ、ロベルト率いる
ネフロイトの騎士団はそこへ向けて出発した
そうこうしている間に一機の飛空艇がネフロイト上空に飛んでくるのが見え
冒険者の魔術師や遠距離攻撃型の者達に緊張が走った
そして、それは庁舎の真上まで来てゆっくりと降りてくる
魔術師は詠唱を、アーチャーなどは弓を引き攻撃に備えた
「みんなストップ!あの飛空艇にはソフィ…デュモンの紋章が入ってる!
敵じゃない!多分…」
やがて完全に降りたった飛空艇から、ノロイーストの領主ソフィ・デュモンが降りてきた
「クラウス!あなたの所にも届いた!?」
「コロゴロフの書状の事かな?」
想像していた通り、ソフィの所にも文面は少し違っていたが
反乱に加わるようにという文章が届いていた
「んで、君は加わるのかい?」
「まさか冗談でしょう?加わる気がないからあなたの所へ来たの
あなたは絶対コロゴロフなんかと手は組まない、そうでしょう?」
「ははは、まあその通りだ
…後は、ヴァラハがどう動くかだな」
最近当主が代替わりしたばかりのヴァラハとは、交流らしい交流も取れておらず
若い当主エイベルがどういう人物なのか殆ど分からない状態である
「会議での発言から見るに、非合理な行いは避けるでしょうね
私は此方側につくと信じているわ」
クラウスの飛ばした鳩が到着するのに数時間は掛かる
ソフィは反乱の報せを受けてすぐに
彼の鳩とは関係なくここへ来たようで、行き違いになっていた
「もし、ヴァラハにその意思があるなら
明日にはここへ来てくれると思う
明日中に現れなければ、ボクらだけでどうするか考えなければならないね」
ソフィは不安そうにうなづいた




