気付き
王からの呼び出しを受けたクラウスは
残りの復興業務を一先ず庁舎の者達に任せ
急遽、飛空艇でクリスタルレイ城へと向かった
要件は大体想像がついていたので
対して慌てることもなくエドアルドを伴って城下街に降り立つ
「ああ、これは酷い…」
高く頑丈な壁に囲まれたエルカトルの城下街は
ネフロイトよりもずっと被害は少ないのだろうと思っていたが
全くそんなことは無く、あちこちで建物は倒壊し怪我人が道の端に座っていたりした
「むしろ、ネフロイトがあの程度で済んだのは奇跡とも思えますね…」
けしてネフロイトの被害も軽くない
ワピチ全土でいうのなら、分かっているだけでも死傷者数は5千人を超えてしまっている
家屋の倒壊もかなり深刻で、これを元通りに戻すのにかなりの時間と費用が必要になってくるだろう
「助成金とかその手の諸々の処理をしていると、申請の多さに頭がおかしくなりそうだ
不正受給しようとする輩も少なくないし…」
本当に困っている領民達に、素早く手を差し伸べたいのは山々だが
その中に一定数紛れている詐欺師のせいで
どうしても業務に遅れが生じてしまうとクラウスはボヤいた
「避難所もパンクしかけてますしね」
「まだ本格的に寒くなる前で良かったよ」
クリスタルレイ城内でエドアルドとは別れ会議室に向かう
議題は矢張り先のニゲラについて
そして、スノームースと周囲の国との関係が悪化しているという嬉しくない話であった
結局、何も決まらないまま会議は終わったが、帰ろうとするクラウスだけが王に呼び止められた
「話がある」
「…私だけに?やだな、穏やかじゃない」
「悪い話をしたい訳ではない
別の部屋に準備がしてある、こっちだ」
あからさまに嫌そうな態度を表に出すも
王は全く動じず、着いてこいと歩き出した
そして通されたのは応接室
その豪華な内装や、家具を見るに
ここは一介の領主等をもてなすための接待部屋ではなく
他国の来賓など、重要な客をもてなす為の部屋なのだろうことは直ぐに分かった
座るように促され、渋々席についたクラウスに向かい合うように王も腰を下ろした
そして、王がベルをリンと鳴らすと使用人達が料理を運んでくる
目の前に何皿も並ぶ贅の限りを尽くしたような料理にクラウスはうーんと唸り声をあげた
「さて、早速本題だが
スケイルメイトとはその後どうだ?
上手くいっているか?」
「ええまあ、悪くないんじゃないですか?
今回のニゲラでは手を借りましたし」
ほほう、と王は目を見開き
目の前のラムチョップに齧り付いた
「さっきの会議でも言った通り
なかなかに情勢が不安定だ
スケイルメイトとは本格的に外交を発展させたい」
王の言いたいことは分かるが
人の良いプルーデンやディオ、チュウグ達外交団達を思い出し
人間同士のいざこざに彼らを巻き込むのを躊躇った
「彼らは程のいい傭兵ではありませんよ」
「相手は獣人だぞ?
そもそも、向こうが我が国との交流を求めてきたのだ」
ほら、お前も好きなだけ食えと
目の前の料理を勧められたクラウスは遠慮する
純粋に少食でお腹が減っていないのもあるが、城に来るまでに見た惨状が
彼の食欲を更に減退させていた
「こんな時に食欲なんて湧きませんって」
ふーん、と王はもう一度ベルを鳴らす
すると次は異性を誘うための下着だけを着用した女性が数人入ってきた
そして、彼女達は王やクラウスの隣へ座り身体を密着させ身体を触ってきた
「…こういうの私はあまり好きではないのですが?」
不快感を露わに表情を歪め、クラウスは苦言を漏らす
「レティシアと別れたのだろう?
女遊びを咎める者はいないぞ
この女達はプロだ、ナニしたって構わない
気に入ったら連れて帰ってもいいぞ」
自分が離婚したことが、もう知れているんだなという驚き
放っておくと、服の中に弄ろうとする娼婦達の手を止めさせた
「いや、いやいや…私も確かに男ですけど
貴方みたいに女なら誰でもいいみたいな
図太いメンタル待ち合わせてないんです
繊細なんですよ私は…」
結局、王が求めているのはスケイルメイトとの外交
もっというと軍事的な繋がりだというのは分かっている
「ネフロイトに戻って、使者の方に近々王と謁見できないか確認とりますので
今日はもう勘弁してください」
半ば逃げるように応接間を飛び出した
「今日はかかりましたね」
待っていたエドアルドと合流すると、彼は憔悴した主人の様子を伺った
「うん、スケイルメイトの件で
ご機嫌取りされてたのよ…
ボクには拷問だったけどね」
「ああそれで、そんな臭いをさせているのですか」
ツンと刺さるようなキツイ香水の香りがしていますよと指摘し
更に、失礼しますとエドアルドは
クラウスの着衣の乱れを整えた
「あ、ごめん…そこまで気が回らなかった」
「逃げてこられたんでしょう?
私も使用人ですよ、何なりとお申し付け下さい」
気は進まなかったが、ネフロイトに戻って直ぐ
ディオ宅に宿泊するプルーデンに会い、王からの国同士の交流の申し入れを伝えた
「それは素晴らしい!今直ぐにでもスケイルメイトに戻ってリーダーに伝えたい!
王とリーダーとの謁見はいつにしましょう!?
ああ!ワクワクする!!」
王の思惑など知らないプルーデンが大喜びするのに胸が痛む
「申し訳ない、実はクニークルス行きの大型飛空艇が暫く飛ばせなくなるかも知れない
君一人なら個人の小型機で送れない事はないのだけど
エドアルドの予定が詰まっていて当分は飛空艇を出せそうにない…」
「おや、そうでしたか…分かりました
急がば回れと言いますものね
予定が決まったら、また連絡を下さい」
プルーデンはぺこりと深く頭を下げた
その奥に、ディオが通りがかりクラウスと目が合った
「あっ…体調、その…大丈夫ですか?」
ディオとは、忙しさもあり
あのニゲラが明けた時以来であった
どこか辿々しくクラウスに話しかけてきた彼の臀部には思った通り尻尾はない
なんとなくそうだろうなとは分かっていたとはいえ
クラウスは何とも言えない気分になり顔を顰めた
「…お陰様で体調は問題ない
今は忙しいのでこれで失礼するよ」
忙しいのは本当であったが、彼の尻尾のことで
少しつれない態度を取ってしまった事に
邸宅を離れながら彼は後悔した
切れた物は仕方ない、それを活用したのも分かる
しかし、あの時に死に掛けていたのは自分だけでは無いはずであり
もしかしたら、それがあれば死ななくて済んだ人がいたかも知れないのだと思うと
やり場のない憤りを感じてしまった
「命に優先順位なんてね…」
自分は領主だから、きっと誰よりも最優先に治療が施されても
誰も文句を言わないし、むしろ周りはそうするだろう
『…貴方が好きなんだ!!
他の誰でもない、貴方を愛してるんだ!!』
ディオの叫びを今になって思い出して
クラウスは、はたと足を止めた
振り返ったディオの邸宅の玄関戸は既に閉じられていて2人は見えない
クラウスは自らの喉を掴むように触り、暫く困ったように立ち尽くしていた
・
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クラウスが帰った後直ぐに、ディオはその場に崩れるように蹲ってしまった
「えっどうしました?体調が悪い?」
そんな彼の急な動きに、プルーデンは慌てふためく
「…俺…俺…もうダメです…」
「…泣いているのですか?」
ディオの目からは大粒の涙がボロボロ溢れ出し
彼は泣き声を必死に殺していた
「何かあったのですか?
私で良ければ聞きますよ」
今は出掛けて家にいないが、この状況を見て無神経なラビッシュが何を言うか分からないと思い
プルーデンはディオを一先ず彼の自室まで何とか誘導した
そこでディオは泣きながらプルーデンに話すのだ
「…ニゲラでクラウスさんが…死んじゃいそうになって…
俺…言っちゃったんです…好きって
愛してるって…死なないでほしくて…言っちゃったんです…」
あれから今日まで会うこともなく
毎日不安に過ごしてはいたけれど、想像した悪いことが起こる事もなかった
ああいう危機的な状況だったので
無かったことになったのかもと思い始めていたのだという
「…きっと、嫌われました…
俺…気持ち悪いって思われました…
男が男を好きになるなんて…しかも獣人で…
俺はやっぱり気持ち悪いです…」
さっき久しぶりに会ったクラウスは
冷たく、話してる最中もずっと目を合わせてはくれなかった
これが答えなのだとディオは絶望してしまったのだ
「ああ…そうでしたか…辛かったですね」
プルーデンは咽び泣く彼の背をさする
まさかここまでクラウスに傾倒しているとは思わなかったので
プルーデン自体も戸惑ってはいたが、あくまで冷静を装いディオに優しく声を掛ける
「領主様にハッキリ面と向かって言われた訳ではないですよね?
それはあなたの中の不安が生み出した言葉です
あの人は今、寝る間も惜しんで仕事に打ち込んでいらっしゃる
あなたの事で機嫌を損ねていた訳ではないと私は思いますが…」
実際、プルーデンと話している間も
クラウスにいつもの笑顔は無く、終始気難しそうな表情で会話をしていたのだ
ディオはプルーデンの言葉に納得したわけではないなさそうだったが
それでも少しは落ち着きを取り戻した
「…ごめんなさい、泣いたりして」
「気にしないで下さい
時には感情を解放するのも必要な事ですよ
またいつでも話して下さい」
耳障りのいい言葉ばかりかけても
その場しのぎにしかならない事はプルーデンも分かっているが
だからといって、打ちのめされた若者に更に鞭打つ必要はないと思った
ディオの部屋を後にしたプルーデンは
人間と獣人が交流を深めて起こる問題として、この事をメモ帳の片隅に書き加えたのだった




