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義務が生んだケダモノ

胸くそ系の話なので注意

(不倫、不同意性交等)

たった5日間のニゲラで出た被害額は

前回の長期に渡るニゲラよりも大きかった

始めから魔物や魔獣が強敵であったため

フルールの窃盗団は現れず

農作物の被害というより、家屋への被害が多く

魔族の出現も併せて犠牲者もでてしまった

これはネフロイトに限った話ではない

世界各国で同じような魔族の出現が報告された


重度な魔素中毒と魔法攻撃により

内臓の損傷と骨を何本も折る重症を負っていたクラウスだが、プルーデンの持ってきた

謎のスープを半ば無理やり飲まされたお陰で

ニゲラが明けた次の日には復帰していた

一見、元気そうに見える彼だが

医者の言うことには、あと少し遅れていたら命はなかったという


毎日深夜遅くまで領内の復興の為に働き続け

疲れ切った身体を引きずるように、自身の邸宅に向かう途中の庭横の道をエドアルドと歩いている時

玄関扉の閉まる音と、カーテンを引く音がして

クラウスは庭の離れにある明かりの漏れる一軒家を見た

「…そういえば、最近よく噂を聞くのだけど」


ホルツマン邸の庭に夜になると美しい男女の幽霊が現れる

そんな噂がここ数ヶ月、実しやかに囁かれていた

「そ、それは…」

「レティシアとその彼氏?そうだろ?

君達は隠そうとしているのだろうけど

流石に知ってる、ボクの家だし」

レティシアとは訳あって家庭内別居をしているクラウスの妻である、なんと2人は10年は会っていない

「まあ、彼女には色々苦労をかけさせたから

大目には見ていたんだが…

最近遠慮が無くなってきたな

噂にもなり始めたし、調子に乗りすぎだ」

思い立ったが吉日などと言いながら

庭の離れに向かう主人に、エドアルドは泡を食いながら着いていく


数年ぶりに訪れたその一軒家は、使用人にいいつけ手入れを怠っていないので

以前の記憶とそんなに変わらない佇まいで建っていた

クラウスは躊躇することなく、その玄関扉のノッカーをドンドンとノックした

ややあって扉が数センチ開き、端正な顔立ちの女性が顔を覗かせる

「…こんな時間になんですか」

使用人が訪ねてきたと思ったのだろう

怪訝そうな彼女は扉の向こうに居るクラウスの顔を見た瞬間

顔を強張らせ、扉を勢いよく閉めようとした

が、一瞬の隙に足先を挟み込んでいたクラウスによって阻止されてしまう

そのまま扉をぐいっと力任せに開き、クラウスは玄関に入る

「酷いなぁ、10年ぶりの夫との再会にそれは無いんじゃないの?」

「ーっ!何が夫よ!!

私はそんな事一度だって認めてない!

好きでもない相手と無理やり結婚させられたの!

あんたの顔なんて見たくない!!

帰って!早く出てってよ!!」

吠える様に叫ぶ彼女の後ろの廊下から

その声に驚いた男が出てきた

「レティシアどうし…」

そして、男はクラウスの姿を見て狼狽え

その場から逃げ出そうと踵を返す

「アスラク、待ちなさい

君の素性はもう割れてる、逃げる意味はない一緒に聞きなさい

さてレティシア、君はボクが憎くて仕方ないだろう

そんな君に朗報だ、離婚しよう」

クラウスの突然の申し出に、当のレティシアもアスラクも、そしてエドアルドすら驚いた

「…な、何を言ってるの?そんなの無理に決まってるじゃない!」

「どうして?君はボクが嫌い

ボクも別に君を愛していない

君はそんなボクから解放されて、その素敵な彼と一つになれるんだ

素晴らしい提案だと思うがね…」

レティシアは綺麗な顔を怒りに歪めて吠える

「あんたと離婚したら私はどうやって生きていけばいいの!?

私はホルツマンに大金で買われたの!

帰る家なんて無いのよ!?私を養うのがあんたの責任でしょう!?」

クラウスは奥に立つアスラクに視線を向けた

「彼に養ってもらいなさい

それか、君自身が働けばいい

ボクも鬼ではないから、住む場所と2人の門出のお祝いを出してあげよう

ああ、あと出産お祝いね

随分と渡すのが遅くなってしまったけど

もう9つだったか、元気か?君らの息子は」

静かに微笑むクラウスの目は笑っていない

その冷めた視線に、2人は凍りつき

レティシアはもうNOとは言えなかった


明日、離婚に関係する書類を使用人に持って行かせると伝え

クラウスはエドアルドを伴って離れを後にした

「…何もかもご存知だったのですね」

「侮るなよ…ボクこの領のトップだぞ?」

はははとクラウスは笑った

次の日、朝一番に書類等の記入をさせ

処理するために庁舎に提出したクラウスは

エマからのお誘いを受けた

珍しいこともあるなと、今日は残業はせず定時で仕事を終え

彼女と共に彼女の自宅にお邪魔した

「いらっしゃぁ〜い、さぁさぁ入ってぇ〜」

エマの家はまるでレトロなドールハウスのように可愛らしく

どこかノスタルジックな雰囲気を醸し出している

「さあ、座ってねぇ」

よく手入れされたアンティーク調のダイニングチェアに腰を下ろして

クラウスは辺りを見回した

「ああ、落ち着くなぁ…

最後に来た時から変わってない」

「そうかしらぁ?」

小さな観葉植物が乗せられた古めかしい子供用の椅子が壁際に置かれていて、クラウスは思わずふふっと笑う

エマはワイングラスを4つテーブルに並べ

氷を沢山いれたワインクーラーを机の真ん中に置いた

「…あれ?2つ多くない?」

「後2人来るのよぉ」

そう言う矢先に、玄関の扉が叩かれ

エマははぁ〜いと間延びした返事をしながら扉を開けた

「ちょっとしたおつまみ買ってきました!」

「あら素敵ぃ!ありがとぉ」

そういい、カゴ一杯に露店で買ったお惣菜を持ってきたのはベルタである

更に、エドアルドがワインを何本か持って現れた

「これで良かったですか?」

「そうそう、この銘柄よぉありがとぉ」

クラウスが呆気に取られているうちに、どんどんテーブルの上に食べ物や飲み物が並べられ、3人が席についた

そして、エマが全員のワイングラスにワインを注ぎ乾杯の音頭をとる

「ホルホルのぉ〜卒婚を祝してぇ乾杯ぃ〜!」

咄嗟に隣のエドアルドを見たクラウスに

エドアルドはブンブンと首を振る

「うふふ、エドじゃないわよぉ

離婚の書類を何処に出したか忘れたのぉ?

戸籍課の子からタレコミがあったわよぉ」

「え、ホルツマンさん離婚したんですか!?」

ベルタは心底驚いたような顔をしてから

クラウスをジト目で見た

「ちょっと待って、どうしてこの面子なの

というか、ボクも他の人も趣旨を理解していない様だけど!?」

「色んな人に声は掛けたのよぉ?

でも急過ぎて来られたのがこれだけだったのごめんねぇ」

「お祝いって聞いてたんですけど…

ホルツマンさん、遂に不倫したんです?」

「いや、ボクじゃない」

完全に、クラウスが悪くて離婚になったのだと勘違いしているベルタの視線が痛い

「そんな目で見ないの!説明させて!」

クラウスは少し困った様に後頭部を掻いてから元妻レティシアについて話し始めた



クラウスは今も昔も、性的な物事への関心が低い

それでも義務として親の言いつけで夜会には参加し、言われた通り異性をダンスに誘ってはみたが

結局その場しのぎに過ぎなかった

そのまま彼は、誰にもアプローチせずに35歳を迎えてしまう

「え、それって何か問題ですか?」

「血統がどうとかで、貴族の当主は最低でも男女1人ずつ子供を儲けることを

使徒から義務付けられているんだよ

そのせいか知らないが、基本貴族の当主は愛人抱えてるのが普通なんだ

ボクの方が異端なんだよ?」

「ええ…なにそれ気持ち悪い…」

「それ外では言わないでね、狙われるよ」

一向に結婚しそうにない跡取り

更には使徒からの圧力に、困り果てた先代の当主ヴィリバルト・ホルツマンは

その当時、絶世の美女と噂されていた

ある貴族の娘に目をつけた

それがレティシアである

彼女の家は、その頃代々続けていた事業が傾き没落寸前に陥っていた

その家の借金を肩代わりするのを条件に

まだ夜会にも出ていない少女を半ば無理やり自分の息子の嫁にしてしまったのだ

「息子のために大枚叩いて、誰もが狙っていた絶世の美女を娶らせるなんて

なんていい親だろう!…と思ったなら不正解だ

アイツは確実に自分が抱く気で金を出している

ボクとの結婚は口実さ」

「そうねぇ…あのイカれポンチの考えそうな事よねぇ…」

エマの口から汚い言葉が飛び出して

ベルタもエドアルドも驚いた様に顔を見合わせた

クラウスの父親であり、先代のワピチ領主

ヴィリバルト・ホルツマンは

かなりの好色漢で知られる男で

現スノームース王と競うように

当時は手当たり次第に女を抱いていたという


しかし、ヴィリバルトは彼女を手籠にする前に

馬車ごと崖から落ちて亡くなった

こうして、まだ大人になりきらない少女は

大人達の都合で顔も知らないクラウスに嫁ぐ事になったのだ

「クソじゃないですか!」

「本当にね」

「ホルツマンさんも同罪ですよ!

だって結局はごにょごにょ…子供を4人も産ませたんでしょう!?」

「えぇ…ボクも被害者だと思うけどなぁ」

前述した通り、クラウスは性への関心が低く、意欲も当然乏しい

しかしそんな彼の意思など関係なく

決まった日に致すことを強要され

とにかく子供を作ることに従事させられた

「いやね…ストレスとかプレッシャーとか

とにかくその気が起きなくて

部屋の前で終わるまで母が指示した使用人が聞き耳を立ててるの、ホントどうかしてるよ

どうして他の貴族達はその日あった人達と肌を重ねられるんだろう

今だにボクには分からない感覚だ」

憎悪に満ちた目で睨んでくるレティシアを組み敷いても、気分は萎えるばかり

途方に暮れたクラウスはエマに相談した

「そういえばぁ、情熱的で刺激的な劇ぶ…薬を作ってあげたわねぇ…」

「アレね、効果は絶大だけど

…10円ハゲが出来るの何とかならなかったの?」

エマが作った精力剤で、何とか子供を4人産ませてやっと子作りから解放された時には

レティシアはもうどうやっても払拭出来ない厭悪をクラウスに抱いていた

「純粋に怖いよね?

薬でキマッたよく知らない男に好き勝手されたら…

あの時は、ボク自身追い詰められてて

何でもいいから子供を作らないとと躍起になってたけど

今ならもっとやりようがあったのではと思えるよ」

ベルタがとんでもなく引いている

彼女の過去を思えば当然の反応だろう

「だからまあ…その後の人生は

彼女の好きなようにさせてあげようと思って

別居も許したし、贅沢にだって文句も言わなかったし

男を連れ込んだって目を瞑っていたんだ」

彼女のことは矢張り愛せなかったが

子供は可愛い、その母親としての彼女へ情は湧いていた

だから、帰る場所のない彼女を

死ぬまで養うつもりでいたのだという

「では、なぜ昨晩急に離婚などと…」

エドアルドの問いに、うーんとクラウスは難しい顔をしてワインを一口口に含んだ

「疲れすぎてハイになってたのは認めるよ

でも、積もり積もったものがある

まず、間男との間に子供を儲けたこと

更に男は職を捨てホルツマン家に寄生した

それでも、子供が小さいうちはと思ってずるずるそのままにしてたのね」

大人しくしていればまだ良かったが

2人は人目に触れるほど外に出るようになり

金遣いも荒くなっていった

そうなってくると、ホルツマン家としてクラウスも対処せざるを得なくなる

そして、彼の背中を押したのはニゲラだった

「死にかけて吹っ切れたというのかな

死に直面して、今日先延ばしにして

明日が必ずあるとは限らない現実を痛感した

何だかんだ言って、結局ボクは元妻と向き合うのが怖くて逃げてたんだね」

そして想像よりもずっと呆気なく、その関係は終わった

「…ホルツマンさんもサイテーですけど

奥様はもっとう◯こですね…

けど、最高にクソなのは使徒とご両親」

ベルタに罵倒され、クラウスはアハハと笑う

「まあこれで、ボクも独身貴族だ

変に義理立てしなくちゃいけない相手はもういないし、少し弾けちゃおうかな!」

「いいわねぇ、ホルホルぅ〜

このワイン度数が段違いよぉ〜」

「ああ、旦那様はやはり笑顔が一番です

ささ、このおつまみ如何ですか?

なかなか美味しいですよ」

「えー?エドったらボクを誘ってるのぉ?」

ドッと笑いが巻き起こる

ようやくご機嫌な飲み会が始まった

ガンガンワインを煽るエマの横で、自らが買ってきた惣菜をつまみながら

ベルタは、既婚者だから…と諦めていた

ダメな理由の一つが無くなったクラウスをチラッと盗み見る


誰かのものではなくなった笑顔

それを自分だけのモノにできたら

などと考えて、ワインを一気に飲み干した

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