異種交流
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獣人とは、単にフルール、メルザーガ、リグマンと言っても
ベースになる種類で性質はかなり異なってくる
獣人と仲良くなりたいのなら
まずはベースの種類を調べ、彼らのことを理解することが大切でしょう
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小さな島が連なるように続くその場所に
蜥蜴のような人々が文明を築く島がある
彼らはリグマンと呼ばれる獣人の一種である
何を考えているのか分からない
表情の少ない彼らを、我々は初め魔物のように思った…
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ホルツマン邸宅自室で、読みかけの本に栞を挟み、クラウスは眼鏡を外した
「トカゲっていっても色々いるんだな…」
目を細くして、出来るだけ遠目に原色爬虫類図鑑をパラパラとめくる
カラフルで多種多様な爬虫類達の写真に、首の後ろにゾワゾワしたものを感じて
クラウスはパタンと本を閉じた
ディオの事は大丈夫でも、やはり爬虫類そのものへの苦手意識がなくなった訳ではない
一息つき、時計に目をやれば
そろそろ就寝しなくてはいけない時間だと気付く
「また明日にしよう
年はとりたくないな、ほんとに」
本を机の端によせ積み上げ
机のデスクライトを消し、ベッドに横になった
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採用を受け、庁舎から出てすぐ魔女狩りに出ていたディオは
今日初めてクラウスから貰い受けた邸宅を見て
その大きな門の目の前で立ちすくんでいた
「あ、ディオ、やっと帰ってきたなお前
見ろよ!これが俺達の家だぜ!中もスゲーぞ」
庭を歩いていたラビッシュが
門の前で動かなくなっていた彼を見つけ近づいて来た
「少し前まで家も無かった俺らがビックリだよなー!
宿屋のファーレスのクソみたいな顔、もう見なくて済むんだぜ!?
あ?どうした、アホヅラして」
「あ…いや…だってこんな豪邸…」
ディオは物心ついた頃には、既に旅芸人の一座の奴隷であった
狭い檻に閉じ込められ、人々の悪意のこもった好奇心に晒され続けてきた
一座が盗賊に襲われた日、彼とラビッシュは決死の脱出を図り
2人はめでたく自由の身となったのだが
市民権を持っていない為に、今日まで小さな部屋一つ借りることすらままならなかった
どこへ行っても付きまとう差別
エルカトルは獣人に対しても寛大だと噂を耳にし淡い期待を抱いて遥々やって来た
確かに、歩いているだけで石を投げられることは無かったが
周りは無関心なだけで、相手にはしてもらえなかった
「…不安なんだ…」
表情を曇らせるディオの顔を、しばらく眺めていたいたらラビッシュだが
彼の手を掴むと無理矢理中に引き込んだ
「なあ、俺たちゃ散々ファーレスに食い物にされてきた
ファーレスなんて大嫌いだぜ!
もし、あの領主が今までの奴らみたいに俺たちを食い物にするなら
俺は今度こそ喉笛を食い違ってやろうと思ってる」
邸宅の大きな扉を開ける
「でもよ、ファーレスが悪い奴ばっかじゃないって言い出したのはお前だぜ?
お前が譲らなかったから、ファーレスは大嫌いだけど、ミーティアは受け入れられた」
メインホールの二階の階段の手すりに座っていた、マントとフードで顔を隠していた小柄な少女が
手すりを滑りながら2人の元に下りて来た
「おかえり、ディオ!」
少女は真っ直ぐディオを見上げ
ディオもそれに応えて彼女の頭を撫でた
「なんてーか、本当の兄弟みたいだよなぁ…お前らって」
「俺には血の繋がった家族が居ないから嬉しいな
ミーティア、書類を書くのを手伝ってくれる?」
「いいよ!」
二つ返事で承諾すると、机と椅子のある近くの部屋へ
ミーティアはディオの手を引っ張って行く
陽が傾いてくる時間帯なので、部屋は薄暗い
「あ、そうだ!あのモジャモジャ
確かにすげぇ家をくれたけどよ、あっちこっちぶっ壊れてて使い物になんねーぜ!?
ちょっと文句言いに行ってくらぁ!」
ラビッシュは部屋の中を見た瞬間
何かを思い出し、そんなことを捲し立てると怒りながら出て行こうとした
「え?モジャモジャって?
壊れてるって?何?」
「だーかーらー!あの頭モジャモジャのおっさんに電気つかねぇって文句を!!」
その瞬間、パッと部屋の明かりがついた
見ればミーティアが部屋の壁に貼り付けてある四角い石材部に手を触れて不思議そうにしていた
「何だよ!俺が触ってもうんともすんともいいやしねぇ!欠陥品だろ!このっ!」
「一先ず電気はついたから、良くない?
明日、領主様に聞いてみるよ」
「領主“様”だぁ?あんなのモジャモジャでいいんだよ!」
ラビッシュはこうなるともう手が付けられない
何を言っても火に油なので、ディオは相手にするのをやめて
ミーティアと書類を書くことにする
彼女が文字を読んでくれるのに答えると、彼女がそれを紙に書いて埋めてくれる
「後一枚だ、えっと……後見人申請書?
ベース種、接種済みワクチン?犯罪歴?
ディオ、もしかしてラビッシュの事かな」
「後見人って何だろう…」
2人は邸宅の何処かで、まだギャンギャン騒いでいるラビッシュの声のする方を向いてから見合わせた
◆
夜が明け、いつものように庁舎へ出勤したクラウスは
昨晩読み掛けた本を持って執務室の席についた
エドアルドが丁度いい温度のコーヒーを置き
エマが今日の仕事を束で持ってきた
コーヒーで一服してから、さあやるぞと眼鏡を掛けたところで
執務室にディオがやって来くる
「あっ、すみません
忙しいですね、後で…」
「ん?いいよ、その辺に掛けて
…何だったかな?」
書類を持ってきた旨を伝え、それを差し出す
「あの、こうけんにんって…」
クラウスは渡された書類を確認し終えると
横に置いて説明を始めた
「フルールの犯罪率が高いのは知ってるね?
そういう事を踏まえて責任を負う者が居なければ彼らは領民にはなれない決まりがある
彼の罪は君の罪にもなるから、しっかり見張っておいてくれよ」
その言葉にディオは手をギュッと握りしめた
「ラビッシュはそんなこと…!」
「君のフルールはそうでも
大多数のフルールがそうでは無い
実際、果樹園や菜園を荒らす窃盗団は基本的にフルールで構成されてるし…
差別だと思うかい?しかし、彼らが初めから法を守ってさえくれてれば
こんな制度は作られなかった」
「お、俺は…?リ、リグマンです…」
「リグマンはフルールじゃないじゃない
同じ獣人でも、リグマンは特に人間に関わろうとしないから
そもそも、法自体ないのよね」
受け取った書類にサインを入れ、ファイルにまとめると確認済みと書いてあるブックスタンドに立てた
「だからこそ君はワピチ領にとって“リグマン代表”みたいな存在だから
身の振り方には気を付けなさいね
君の行動が、“リグマン”全ての評価になってしまうからね
…ああ、ごめん説教みたいなっちゃって
年取るとどうしてもね、他に何か困ってる事とか大丈夫かい?」
この流れで困ってることを話していいのか
ディオは悩んだが、ここで言わないで帰ったりしたら
ラビッシュが確実に怒ると思い
おずおずと昨日のことを相談することにした
「あ…まず、邸宅…あんな立派な家ありがとうございます
それで、その…電気が…壊れてるみたいで」
「え?壊れてた?おかしいな…
確かめた時はちゃんとついたけど
どんな風に壊れてる?」
「えっと、俺とラビッシュだと電気がつかないです」
そう、家の中の殆どの機能がミーティアにしか扱えなかったのだ
彼から症状を聞いて、どこの修理業者に頼もうかと電話帳に手を伸ばして
机の上に置いてある“獣人と交流しよう”の本が目に止まった
「…あ!!君ら魔法使えないんだったねぇ!?」
「え?あ、はい、なんで?」
ディオ達に与えられた邸宅は
娘が結婚してその後に住む邸宅になる筈だった事もあり
魔女狩り公務員応募広告を出してすぐに
かなりの改装が施されていた
新品同様に手の入った邸宅には最新の家具家電も導入されていて
それらが、魔導スイッチで機能するようになっていたのである
「要するに、体の中の“魔力”に反応して動くようになってて…」
執務室のデスクライトが丁度よく魔導スイッチだったので、クラウスはそれに触れる
するとライトはパッと明かりを灯す
「内包魔力を持たない種族に反応してないんじゃないかな…」
試しにディオに触らせてみたが、矢張り明かりはつかなかった
「ああー、これはボクの配慮不足だ
新しくて良いものをと思ったけどまさかね
うーん、そうだな、このままじゃ困るだろ?
魔力伝道…魔素の誘引を…」
何か難しい言葉をブツブツと言い始めたので
ディオは困ってオロオロしていると
クラウスと急に目が合ってビクッと身体を硬直させた
「工房に行こう、歩いて10分ぐらいの所に腕のいい魔道具の工房があるんだ
ちょっと待てよ…今日中にやらなくてはならない仕事が数件あるから…
よし、お昼に庁舎の庭で待っててくれるかい?
ついでに少しネフロイトを案内しようと思う」
どう?と問われディオは反応に困って目を泳がせた
「りょ、領主様がいうなら…!」
「君の主体性はどこにいった?」
「あっあっ…」
「あはは、もう少し力を抜いて良いんだ
仲間も連れてきなさい
ボクの奢りでお昼もご馳走するから」




