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外交団の帰還

あっという間に2ヶ月が経とうとしている

クニークルス行きの大型飛空艇が出るのを明日に控え

ディオはヴァリーとネフロイトの市場に来ていた

「スワンプコープには無い物が沢山…

これは興味深い」

「欲しい物があったら教えて下さい

俺買って来ます」

ヴァリーの故郷、スケイルメイトのある

スワンプコープは幾つもの連なった島で構成された湿地帯だ

潮の満ち引きでかなりの面積の土地が海水に沈むので

スケイルメイトは時に水上都市になる

温暖な気候のせいもあり、殆ど毎日雨が降り

霧に覆われることも少なくない


露店で売られている、ドライフルーツを物珍しそうに見る彼女に

ディオはそれを買って渡した

「ワピチのリンゴを干した物です

俺も好きです、美味しいですよ」

「…すごく甘い…旨みがギュッとしてて

本当に美味しい!」

乾物はまず作れない気候なので

初めて食べるそれは、彼女にとっては世紀の大発見くらい衝撃だったらしい

一袋のドライリンゴを大事に少しづつ食べている

そんな風に市場を歩いている途中

アクセサリーを並べる店の前で、ヴァリーは立ち止まった

「金属や石を身に付けるのはなぜ?

貴方も着けてるそれには何の意味が?」

「ここに売ってる物は着飾るためだと思います

人間はリグマンとは違って色とりどりな鱗や角はありません

俺のコレは…大切な人に貰ったんです

魔法のバフもついてるお守りです」

首のエカナの首飾りを握り、ディオは笑う

ヴァリーはふむ、と納得したような声を漏らすとブレスレットを一つ指差した

「これなら、邪魔にならなそう」

「いいですね、記念に俺からプレゼントさせてください」

青い宝石をあしらった、シンプルなシルバーチェーンのブレスレット

ヴァリーは手首ではなく、尻尾に付けた

次の日、ネフロイトの領民達に見送られながら

3人の外交団はクニークルスに向けて飛び立った

船の窓から、小さくなっていく街並みをヴァリーはずっと見つめている

「いやはや、プルーデンの言うように

人間は物語の悪魔ではありませんでしたな」

「彼らの文献には、むしろ我々が恐ろしい怪物として描かれ信じられている

今回のことで少しは互いの溝が埋まっていればいいな」

人間は恐ろしい怪物

少なくとも、チュウグもクイックも初めは

どんな怖い目に遭うのかと不安でいた

だが、実際は子供に物を投げられたり

罵詈雑言を言われる程度で、生きたまま切り刻まれたりはしなかった

「ここが特別なだけ、ディオはそう言っていた

人間の全てが良い人ではないよ

私達だってそうでしょう?」

ヴァリーは窓から離れ、椅子に深く腰を下ろし溜め息混じりに言う

「…そのディオだが、私はてっきり

君が残るか、連れて帰るかするのだと思っていた」

「私が彼と番うと?フッ…無いな」

ヴァリーは鼻で笑う

「彼のベースはイグアナ

話を聞く限り、出身はスケイルメイト

イグアナベースの番は国内に何組いる?

…彼は私の兄弟かも知れないよ」

草食性の強いイグアナベースのリグマンの数は少ない

更に、同種の番ともなると片手で数えられる程しかいない

「確かに…その可能性は大いにあるな」

「それに彼は私に一度もアピールしてこなかった

どうも他に心に決めた人が居るらしい」

外交団を乗せた飛空艇が見えなくなった

既に領民達ははけてディオだけが空を見上げていた

「ディオ、ヴァリーとは何も今生の別れって訳じゃない…その気があればまた会えるよ

…それとも、君も彼らに着いて行きたかった?」

「いえ、俺はワピチの領民です」

クラウスの方を見た彼は寂しそうではなかった

そんな彼を見て、クラウスは少しホッとする

「ハハ、良かった!

ボクは君が行っちゃうんじゃないかって

実は内心ハラハラしてたんだ…

ヴァリーととても仲良くしてたみたいだし」

「そうですね、彼女はなんて言うか

他人とは思えなくて…」

船に乗り込む彼女の尾に、キラリと光るブレスレットを思い出す

クラウスはそうか…と少し間を置いたあと

視線を逸らしたまま聞いた

「それで…君は彼女を…好きなの?」

「え?…好きではあると思います」

「そうだよね!やっぱり同種の女性がいいよね!

近いうちに会えるように手配しようか!?

君と彼女が結ばれるように応援するよ!」

食い気味に若いな青春だないいなと言うクラウスは

言葉に反して表情はあまり嬉しそうではない

それもそうだが、ディオ自身

ヴァリーと番うことなどこれっぽっちも考えていなかった

「あっ、あの!俺そういう意味でヴァリーを好きではないです!

家族みたいで好きって意味で!

番いたいとか全く考えてないです!!」

「そうなの?…そうか…えっと

なら、この後おじさんとお茶でもどう?」

自宅に戻ったディオは

外交団の3人が居なくなり、ただでさえ広い邸宅が更に広く感じていた

ラビッシュもシピもまだ帰っておらず

久しぶりに完全な1人の時間を寂しく思う

「もう少し、一緒に居たかったな」

ヴァリー達が悪い訳ではないが

この2ヶ月、クラウスにあまり会えていない

手持ち無沙汰な彼は自室に入り、愛用している手斧の手入れを始める


『ねぇ、ディオ』

優しい目で自分の名前を呼ぶクラウスを思い出す

その声、仕草、香りすら何から何まで愛おしい

「イテッ…ああ…」

斧の刃を磨いていて誤って指先を切ってしまい

指先から赤い血が、一本の筋になって手首へと流れていく

「ダメだ…全然集中できない…」

手斧を置いて、ディオはベッドに寝転んだ

2日後、飛空艇が戻り

ワピチ側の外交団が帰ってきた

「ディオ!ただいま!」

ミーティアが真っ先に飛空艇を飛び出し、彼に走り寄って飛びついて来るのを受け止める

「おかえりミーティア、元気そうで良かった」

「おう、ミーティア俺に挨拶は無しかよ?」

「ラビッシュ、ちゃんとお利口にしてたか?」

「何だよそれ!?」

ハハハと3人は笑い合う

「シピは?」

ミーティアが聞くと、ラビッシュが指差す方

クラウスの腕に絡みつくシピがいた

「ケッ、モジャモジャの野郎…見境ねぇよ

フルールの女にまで手出しやがって」

ラビッシュはそう唸ると、明らかにイラついた様子で腕組みをした

クラウスはまた知らないところで、不本意な恨みを買う

そんな彼は次に降りてきたサンダリオに声を掛けている

「楽しかった?」

「はい!初めはリグマンだらけで正直後悔しましたが、彼らの毒のサンプルを山ほど手に入れられ…

これから家に帰って分析するのが待ちきれません!」

「すごいねそれ、後で日誌を提出するのも忘れないでね」

帰っていくサンダリオを見送り

次に降りてくるはずのディアナを待つ

…ところが、降りてきたのは彼の娘ではなくプルーデンただ1人であった

「あれ?ディアナは?」

「ああ、領主様…誠に申し訳ありません」

プルーデンが狼狽えた風に話すことには

現リーダー、ノーブルの右手と言われている

ドラゴンベースC型のシェイドという男性に惚れてしまい

更に、シェイドの方もそれを受け入れてしまった事で「私はこの人と番います!」

などと言ってスケイルメイトに残ってしまったのだと言う

「ははっ…またまたぁ…」

冗談だろ?とクラウスは笑うが、プルーデンは首をうなだれ

申し訳ありませんと謝るばかり

「あー…んー…そうだな…

ハハ…まさかそんな事にね」

「旦那さん、そんな落ち込まなくてもいいよ〜

あなたにはシピがいるよぉ?

それに、トカゲちゃん達と太いパイプが出来たと思えばよくない?」

シピが横からそんなことを言う

ディオは慌てて彼女を引き剥がすと

クラウスに頭を下げた

「シピがすみません!

その、俺のせいでお嬢様が…俺が断ったから…すみません!!」

「いや、君は悪くない…はぁ…

うん、誰も悪くない…ちょっと1人にしてもらっていい?ごめんね」

そう、クラウスはトボトボと自宅に向けて歩いて行ってしまった



はぁ…と大きなため息を吐く

「そういえば、小さい頃はあの子よくカエルとかトカゲとか捕まえて来たなぁ…

その度に怖い思いしたっけ」

娘との日々を振り返る


貴族の婚姻はどうしても政治的な要素が絡み

自由恋愛など夢の話だ

子供が大人に近付く度に

自身の子供達もその道は避けられないと領主としての諦めた気持ちと

何処かで我が子の想いを叶えてやれたらという親としての気持ちがせめぎ合ってきた


ディアナは3人の娘の中で、一番大人しい娘だ

本当はただ一番自分を殺しているだけなのを彼も分かっていた

そして、彼女が他の貴族階級の異性を嫌っているのも知っていた

だからこそ、貴族ではない男との未来を用意し手元に置いておこうとさえ考えていたのに

まさかこんな形で、家を出て行かれるとは思っても居なかったのだ

「…しかし、キツイな

ドラゴンって?要はトカゲだろう!

はぁ…爬虫類は苦手なんだってば」



プルーデンを連れて、3人がディオの邸宅に戻って行ったが

シピはそれにはついて行かずに

ネフロイトの歓楽街に向けて歩いていた

飛空艇の発着所は建物のある中心部から離れた場所にあるため

果樹園や林の間の鬱蒼とした道を通ることになる

「旦那さんに夜ご飯食べさせて貰おうと思ってたのになー

あの蛇余計なことしてさー」

ブツブツと愚痴をこぼす

不意に、下生えがガサリと音を立て

シピはそっちを振り返った

「…誰あんた」

そこには見知らぬ犬型のフルールが立っている

彼は林の中から出てきてシピの前まで来た

敵かも知れないと身構えた彼女に対し

男は両手をあげ、攻撃の意思がないことを伝えた

「お前、ファーレスの飼い猫か?」

「は?飼われてないね

遊んでやってるだけだよ」

「はは、なら話が早い

ここを真っ直ぐ行った街に、裏切り者が飼われている

“ラビッシュ”知ってるだろう?

お前の手でケジメを付けてくれないか」

「それ、私に何の得があるわけ?」

「報酬を払う、ここに12000エルクある」

「マジ?そんな大金払えるわけ?」

犬男は彼女に袋を差し出した

「前金で半額だす、やるか?」

男から金の入った袋をひったくって中を確認したシピは、それをポケットにしまう

「領主を誑かしてこの領地を自分の物にしようと思ってたけど

あいつ、トカゲが好きみたいだし

いいよ、潰してあげるよソイツ」

邪悪な笑顔を浮かべ、笑った

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