父の思惑、娘の意思
魔女狩りを終え、数日ぶりにネフロイトへ帰還したディオは
いつものように、戦利品の換金と魔女討伐の証の受け渡しをするために
ギルドへと足を運んだ
昼間でも酔っ払った冒険者達で騒がしいギルドの扉を押し開け
カウンターまで行き、背中を向けて作業をしていたダイアンに声を掛ける
「おう!ディオ、会いたかった!
あっいやそういう意味じゃなくて///
お前に客が来てるぞ」
「俺に客?」
モジモジしながら、ダイアンが指を刺す方向に
1人用のテーブルで本を読むプルーデンの姿があった
初めて見るプルーデンに戸惑いながら
証と戦利品をダイアンに渡して、ゆっくりとプルーデンに近付いた
「おや、貴方は…貴方がディオですか?」
それまで本に目を向けていたプルーデンが
急にディオの方を向くので
ディオは驚いてその場に少し飛び上がった
「私はスケイルメイトの使者、プルーデンです」
ギルドは騒がしく、ゆっくりと話すには向かないということで
場所をディオ達の邸宅に移し、2人は少し話をすることになった
案内された彼の自宅の客間をプルーデンは見渡し、うんうんと頷く
「何か…ありましたか…?」
「いいえ、こんな立派な家を与えられて
本当に大事にされているのが確認できて
感動していたところです」
プルーデンは早速、自分がここへやってきた理由と目的を彼に話した
「そう…ですか…俺S型で、その…」
同じリグマンであるプルーデンだが
同じリグマンだからこそ
S型であることに嫌悪感を感じているのではないかと、ディオは身構えた
所が、プルーデンはさして気にした様子もなく普通に接してくる
「それで、領主様やここの人間の貴方への態度などを聞かせて欲しい」
「ま、待って…あなたは!
俺が気持ち悪くないんですか…!?」
「…ああ!平気ですよ
現リーダーも貴方と同じS型のリグマンです
確かに、姿は人間に非常に近いでしょう
しかし、貴方は確実に私達の仲間だ
何も恐れることはありません」
同胞の中には今だにS型を差別視する者もいるのは事実ですが、と付け加えた
「ディオ、無理にとは言いませんが
良かったら質問に答えてくれると嬉しいですね」
「領主様…クラウスさんは…」
優しくて、ひょうきんで
でもちゃんと一つの領をまとめる領主としての威厳もあって
強くてかっこよくて、時々意地っ張りで…
クラウスに対する様々な想いが、ディオの中にブワッと溢れて止まらなくなる
そして、それを聞いていたプルーデンは
ディオの変化におや、と目を見開いた
「あなた…それは…」
プルーデンの様子に、部屋の家具のガラス製の扉に映った自分を見て
ディオは婚姻色が発現しているのに気付いた
「わっ!えっなんで!?
あっあの…これは…!時間が経てば元に戻るので…!」
「婚姻色ですね、年頃の男性なら普通の事ですよ?
はて、S型は安定しないのでしょうか」
プルーデンが言うには、ベースにもよるが
リグマンの男性は性成熟すると婚姻色が発現し
それは、誰かと番うまで消えないものなのなのだと言う
「同族に会って触発された可能性も大いにありますが、とても興味深い事象です」
「そ、そういうものなんですか?
発情してると出るって少し前に言われて…」
プルーデンはあははと笑った
「誰ですかそんな事を言ったのは!
それは“繁殖が出来る身体”だという異性へのアピールではありますが
欲情している訳ではありませんよ!」
よほどおかしかったのか、プルーデンはなかなか笑いが止まらない
「ふっふふふっ!ああごめんなさい…ついおかしくって
ディオ、貴方はあまり自分自身、リグマンのことを知りませんね?」
「あ…はい、俺産まれてすぐに人間に売られたので…」
「私は暫くここに滞在するので、貴方が良ければリグマンのことを教えてあげましょうか?」
プルーデンの申し出にディオは食い気味にお願いしますと頭を下げた
「俺、自分がどんなリグマンなのかも分からなくて…」
分かりますか?と問うディオに対してプルーデンは繁々と彼を見つめた
「S型の判別はかなり難しいです
ベース特有の特徴が出ていれば良いのですが…
牙の様子からヘビではないでしょう
カメや両生類でも無さそう…
トカゲ?或いはドラゴン?…尻尾は生えていたりしますか?」
「あ、尻尾は…生えてはいます
けど…ちょっと今は短いから…」
ディオのその言葉に、プルーデンは怪訝そうに顔を顰めた
「…まさか、切られた?」
「いえ!まさか!違います!
クラウスさんが死ぬかもと思って!
それで俺びっくりして切れちゃったんです!」
本当です!とディオは慌てて説明する
「それで、嫌がるクラウスさんに
俺が無理矢理食べさせました…」
「それはいけませんね…
それから尻尾を強要されたりは?」
「しません!むしろ、もうやらないでと怒られました…」
そうですか、とプルーデンはため息を吐く
「貴方の領主様が良識のある人間でよかった、では尻尾を拝見しても?」
プルーデンにまだ短い尻尾を見せる
色々な彼の身体的特徴を加味した結果
プルーデンが出した答え…
「おそらく、ベースはイグアナではないでしょうか
完全草食や草食よりの雑食性の獣人の数は少ないんですよ
だとすると、貴方は本当に稀な存在というわけだ
ああ、そうだ私は専門家ではないので絶対とは言えないということを理解してくださいね」
一頻り喋った後、ディオの仲間たちが家に戻ってきたので
プルーデンはホルツマン邸に戻ることにした
「それでは、また…今度は人間のことを私に教えて下さい
私は領主様のお宅に泊めていただいてます
楽しみにしていますね」
帰っていくプルーデンを見送るディオに
2階の窓からシピが意地悪な声をかける
「何あれー、シピ達が居ない間に変なの家にあげて
アレにシピ達を食べさせる気じゃないよねー?
てか、あのヘビ領主様の家にいるの?
あの人ああいうのが好きなのかな?
だとしたらライバルじゃん!大変だね先輩!キャハハ!」
「シピ、デタラメ言うなよ…」
ディオが睨み上げると、彼女は笑いながら部屋に顔を引っ込めた
建物の中に戻ろうかとディオが玄関に手をかけた時
何か言い争うような人の声がして、もう一度道の方を見る
「止まりなさい!ディアナ…!!」
「お嬢様!お待ち下さい!!」
耳に届くのはよく知った声
そして、走ってくる人がちゃんと見える距離まできてディオはえっと声を上げた
スカートをたくし上げ、ディアナが全速力で向かってくるのだ
その後ろを、チョップ走りで追いかけるエドアルドと
かなり遅れてへろへろになったクラウスが追いかけている
この謎の状況に困惑しているディオの前に走り込んできたディアナは彼の両手を握った
「ディオ様!お願いです!
今すぐに私と結婚して下さい!」
「はい!?」
あまりに唐突で予想だにしていないお願いに素っ頓狂な声が上がる
「で、ででで、でも俺っ俺はっおれれっ」
「魔女狩り公務員の募集要項に書いてあったはずです
貴方は私と結婚する義務があります!」
「そっ!それについては初めにお断りして…!」
「貴方を魔女狩り公務員に選んだのは私ですよ!
…ディオ様、どうかお願いです
私、このままだとただ子供を産むだけのお人形にされてしまう…」
ディアナの目から、ぽろりと涙が一筋流れ落ちた
「お嬢様!いけません!
ディオ様も困っていますよ!」
追いついたエドアルドがディアナに離れるよう説得するも
キッと睨まれ、怯んでしまう
はぁはぁと呼吸を乱したクラウスがやっとディアナに追いついて足を止めた
「…ディアナ…はぁ…別にボクは
すぐに…はぁ…結婚しなさいとは…はぁ
先方が大変はぁ…君を気に入ってくれたから…お付き合いからでもと…はぁはぁ
提案しただけじゃないの…」
「嫌です、あの方は私の外側だけを見て
自分を飾るのに相応しいかどうかで決めたのです
ああ、思い出しただけでも身の毛がよだつ
鼻の下を伸ばしたあのイヤらしい顔…」
夜会の次の朝、帰る時にノロイースト領主ソフィの息子が3人の元を訪れた
彼は如何にディアナに惹かれたかを語り、猛烈なアピールをした
クラウスとしても、ソフィの息子なら家柄的にも対等なのと
ノロイーストと親交が深まるので断る理由がない
しかし、ディアナは違った
帰りの飛空艇の中で、クラウスに説得されたのが本当に嫌だったらしく
こうして強行に及んでしまったのだ
「ディオ様…!」
涙ぐむディアナに見つめられ、ディオは困惑しながらも一言強くごめんなさいと言った
「…何故?私は社交界でも美しいと言われる女です
身分だって、ワピチ領主の娘で…」
納得がいかないディアナが食い下がると
ディオは悲しそうな顔をして頭を下げた
「俺…好きな人がいるんです」
ディアナは絶望したようなそんな顔でディオを見つめる
「…嘘…そんな…私よりもその人は美しいのですか?」
「…はい、俺にはその人しか輝いて見えません」
ディアナはディオの手を放し、来た道を戻り始めた
慌ててその後をエドアルドがついて行くが
クラウスはまだ、膝に手をついたままぜぇぜぇと呼吸をしていた
「…ちょっ…待っ…んもう…
ディオ…ごめん変なことになって…
また後日、お詫びに来るから…」
「いえ、気にしないで下さい」
ふらふらしながら、クラウスはやっと2人の後を追い始める
「面白いもの見ちゃったー」
2階の窓に肘をついて、シピが楽しそうに笑う




