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魔族の学者ペレファルスト

サモーズからの貿易船により、スケイルメイトへ順調に物資が届けられている旨や

国内の様子、個人的な近況が綴られた数枚に渡る娘からの手紙を読みつつ

次の便に乗せる物の手配書を作成していたクラウスの執務室をノックしてエマが入って来た

「ホルホルぅ〜お客様よぉ?」

「…誰かと約束してたっけ」

急な訪問にしても思い当たる節がない

小首を傾げながら、眼鏡を外し書類を片付ける彼に

エマは同席していいかと問い掛けた

「何で?お客様はまさかエルフの人?」

「残念、その方が良かったわぁ…

ニュクテリスからお越しの“魔族”なのよぉ」


クラウスはその場にある魔力耐性UPの装備を身につけ

緊張した面持ちのエマを伴い、応接室に向かったのだが

その応接室は間抜けの殻だった

「…罠?潜んでる?」

「流石に考え過ぎよぉ」

さっきエマが出した温かいお茶とお菓子があるだけで、誰もいない応接室に

クラウスは警戒を強め腰の剣の柄に手を置いた

エマが先に部屋に入り辺りを見渡す

「魔術的な痕跡はないわぁ…どこに行ったのかしらぁ」

「あっ…窓の外…!」

クラウスが指差す、部屋の窓の外にセミロングの白髪を後ろに流した見知らぬ高齢男性が

庁舎の庭の植木を眺めていた



「ペレファルストと呼ばれている

少々長い名なので好きに呼んでくれて構わない」

「私がワピチ領主、クラウス・ホルツマンです

此方にはどの様なご用件で?」

相手は“魔族”だと聞いているからか

いつもより笑顔の固いクラウス

一体どんな要求をされるのかと身構えていると、ペレファルストは片眉をあげ目を見張った

「…こちらはそちらの要請を受けて来た筈だが」

話が噛み合わず、状況を飲み込めないクラウス達を見て

ペレファルストは何故自分がここへ来たのかを話した

「そちらの国王が、こちらの国王に復興の為に力を貸して欲しいと頼んだと聞いている」

スノームースの王エドリックとニュクテリスの王ルッツは親しい間柄であり

2人は定期的に会っているらしく、その時にどうやら復興が進まないと

エドリックの方が愚痴をこぼしたらしかった

そうしてニュクテリスから、このワピチへ派遣されて来たのが

彼、ペレファルストという事らしい

「そうでしたか、少々時間を頂けます?」

クラウスは応接室を出ると手早く要件を書いた紙を鳩にして飛ばし部屋に戻る

「あ、ホルホルぅこれぇ」

応接室で待っていたエマが戻った彼に差し出したのは

ペレファルストの物と思われる通行証と、見たことのある癖の強い筆跡の手紙

内容は『よろしく!byエドリック・カルネウス』とだけ書いてある

それを見たクラウスは、はぁーと大きな溜め息を吐いた

「…こちらの不手際で申し訳ない」

それで、というクラウスにペレファルストは更に細かく自己紹介を加える


彼は魔族領、魔王フワウデニュルが治めるゴベールという国の出身であり

植物系の新魔族だという

「魔道具の研究、開発が専門分野だ」

魔族の中でも気性が穏やかな者や、単に人間領が好きな者

そして人間領で研究がしたい学者達が国民としてニュクテリスに受け入れられていて

ペレファルストはその中の学者であった

“友好国”からの要請でスノームースの復興に力を貸したい者はいないか?

という通達に、合法的に他の人間領に行ける絶好のチャンスだと

ニュクテリスの学者は諸手を上げた

当然、全員行かせるわけにも行かないと

宰相の独断と偏見で派遣される学者と場所が決まったらしい


「さあ、どこから取り掛かろうか」

普段は触れることが出来ない他国の事情に、ペレファルストはワクワクしていた

「ああ…うん、そうですね…取り敢えず街を案内しましょうか」


クラウスはエマとペレファルストを連れて庁舎を出た

「家屋の建て直しを進めてはいますが

人口が激減して人手が足りず

庁舎を中心に少しずつ街を戻していってる感じです」

以前は庁舎の近くは様々な店が立ち並び賑わっていたが

今は店は殆ど潰れ、簡易的なアパートが立ち並ぶ

店の類は庁舎から少し離れた街の広場に市場として集まり

以前、市場としてあった区画は

輸送用の飛空艇があるエリアに近いため

街の中心からは距離があり、安全のために今は閉鎖されていた

「人手を補うためのゴーレムか」

半壊状態の家屋を片付ける人々の中に

ベルタのゴーレムが一緒くたになって働いている様子を見て、ペレファルストは目を細くした

「あのゴーレムは非効率だな」

彼はそう言いながらエマを見る

「作ったのは私ではありませんよぉ?」

「エルフの術ではない?」

「私は魔術師ではありませんのぉ

これでも吟遊詩人なのよぉ」

うふふと笑うエマから、クラウスに視線を移し「なら」と彼の手を掴むので

クラウスは「わっ」と驚いて声を上げる

「この者の身体に刻まれた術式は」

「それも私じゃないわよぉ…?」

彼女の回答に、ペレファルストは掴んだままのクラウスの腕を見て訝しげに眉を顰める

「…あー…放して貰っても?

私の身体の術式は、この国の賢者に書いて貰ったものなんですよ」

手を放して貰い、握られていた部分を軽くさすりつつ

どうして分かったんだ?とクラウスは疑問符を浮かべた

というのも、身体に書かれたこの術式は

バイロンが魔力を書き込んだものであり

目に見えるようなものではない

魔力を流している時であれば、魔術師なら魔力の動きが文字や図形のように見えるかも知れないが

魔力を流していなければ真っさらな皮膚に見える筈である

そもそも、クラウスは肌さえ露出していない

「その賢者、まさか魔族ではないな」

「私が知る限り人間ですね」

「何処にいる?」

「…大災の後から消息不明でして

亡くなったと言われてますよ」

バイロンの隠れ家も地震で潰れた

押し潰された彼の研究室から遺体は発見出来ず

使徒に喰われたのだろうと、エドリック王は顔を曇らせた

クラウス的にはバイロンが死んだとは到底思えず、半信半疑ではあるものの

もう半年以上も遺体も出なければ音沙汰もないので何処か諦めていた

「…それは残念だ

後でいい、見せてくれないか」

「はは…今日知り合った人に肌を晒すのは流石に抵抗がありますよ

申し訳ないが、お断りさせて頂きます」

「それもそうか、分かった」

怒るかと思いきや、ペレファルストはすんなりと引き下がった

そんな感じで暫く街の中を巡り、3人は応接室へ戻ってくる

「直ぐに取り掛かれそうな事が幾多かある

先ずはゴーレムの改良」

ゴーレムを作っているのは勿論ベルタだ

彼女はあの日から毎日、魔力が尽きるまでゴーレムを生成し

壊れかけたゴーレムを整備して過ごしている

「えー…そうですね

その件は先ず担当に話をしてからですね」

「ではパラフェトイの駆除薬の開発を手伝うか?」

「それは私の一存で決められる話ではないので

遠路遥々お越しになったんですし

今日のところは一先ず休んでください

えーっと…」

彼の宿泊先を決めなくてはいけないが

魔法耐性が低いクラウスにとって、天敵ともいえる魔族の彼をホルツマン邸に招くのは抵抗があり言い淀んだ

「西側の果樹園に程近い青い家

あの家は解体予定だと言っていただろう

あの家を暫く貸してもらえるか」

「あそこは半壊してて危ないですよ」

「問題ない」

元の家主はニゲラで亡くなった家なので

いつ崩れるか分からない危険性を無視するなら

確かに持ち主のいない空き物件ではある

「まあ…いいですけど…」

「では、明日」

立ち上がり出て行こうとしたペレファルストにあっとクラウスは呼び掛けた

「申し訳ないのだけど“魔族”である事は秘密にしておいて欲しい

言うまでも無いとは思うが、魔族に対する国民感情はあまり良いものではないので…

お互いの為に“人間のフリ”をして頂けると助かります」

「心得ている」



いつもの表情に戻ったエマは

使用済みの茶器や食器を片付ける

「ヒヤヒヤしたわぁ…寿命が縮むわよぉ」

「本当ね、王もこういうのは事前に連絡くれないとさ…」

王には鳩でしっかり苦情を飛ばしておいたクラウスは長い溜め息を吐く

「さて、どうしようか

あの人が本当にニュクテリスの“善良な魔族”だとして

ゴーレムの件をベルタは受け入れるか不安だ

彼女ほら、穏やかなタイプではないし」

「そこはホルホルの腕の見せ所でしょぉ?

グレシャムちゃんはどうするのぉ?」

「そこも保留かなぁ…あの人を信用していいかまだ分からないからね

少なくともボクの知ってる“魔族”って碌なものじゃないから」

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